青空に乾杯♪


☆★ その107 異世界のハネムーン?(1) ★☆
-- 塔の中にある扉の一つを開けて入った世界で・・・/^-^; --


 「なんだ、この霧は?」
聖魔の塔の適当な扉を開け、ミルフィーを抱えるようにして入ったそこは、一面霧で覆われていた。
一端戻ろうと思い、閉めた扉を開けようとするカルロス。が、押せども引けども扉はびくともしない。
「先へ進むしかないらしいな。」
カルロスは2人が一緒なら大丈夫さ、とミルフィーと笑みを交わすと、彼女とはぐれないよう、しっかりと肩を抱いたまま歩を進めた。


「きゃあああああ!!!」
と、突然絹を引き裂くかのような若い女性の叫び声が聞こえ、2人は声をした方へ駆けつける。
「だ、だれか・・・・・」
恐怖に染まった少女が一人、とそのお付きらしい女性が、魔物の集団に襲われ、悲鳴を上げていた。
「ミルフィー!」
視線を交わすと、さっと剣を抜き、魔物に向かっていくカルロスとミルフィー。
いつの間にか霧は晴れていた。その森の中、2人の剣が舞う。

「ぎゃああああ・・・・・・・」
あっという間にその魔物らを倒し、2人は座り込んでいた少女と女の元へ近寄る。
「大丈夫か?」
「あ・・え、ええ・・・・。」
「どこのどなた様か存じませんが、危ないところをありがとうございました。」
手を差し伸べ、そっと引き起こすカルロスに頬を染める少女。そして、助かったことに安堵して、女は2人に丁寧にお礼を言った。

近くの領主の娘と傍仕えだったらしい女は、遠慮する2人を半ば無理矢理に屋敷へ連れていった。
そして、当然のごとく、湯浴みをし用意された衣に着替えた後、歓迎の宴となる。

「いやいや、まことに助かり申した。なんと言ってお礼を申し上げて良いやら。」
領主デジノバは、上機嫌で2人を歓待した。

「ミルフィー・・・」
「こんな格好にさせられてしまったわ。」
上質の布を身体に巻き付け、片方の肩に大きめのブローチで止めただけというような衣装だが、品の良い光沢を放つ布地と、腰から下はぴったりと巻き付けてあり、身体の線があらわになっている事、そして、上半身はゆったりと巻き付けてあるせいで、肩半分と胸が少し見えているそのミルフィーの姿に、カルロスは思わず胸をときめかす。
「カルロス様。」
そして、これもまた当然と言っていいのか・・・助けた少女、セシリアは、カルロスの傍に寄り添うようにして席を取る。
「え?」
そして、どういうわけかミルフィーの傍には、領主の嫡子であり、少女の兄であるネルギスが座る。
それにはカルロスもそしてミルフィーも驚く。
「めでたい!我が世の春とはこのことを言うのでござるな、ご領主殿。」
「はっはっはっはっ!そうでござるの〜。」
「は?」
祝いに来ていた町の商人の言葉と、単に娘を助けただけにしては上機嫌すぎる領主の様子に、2人はますますもって事の事態が掌握できず不思議に思う。
「しかし、このように男らしい御仁とこのようにお美しい姫君とは・・・いやはや・・・神話通りとはいえ、まっこと喜ばしいことですな、ご領主殿。」
「は?」
「え?」
そして、ここにきて彼らの話を統合することによって、2人はようやく理解することができた。
それは、この地に伝わる神話。その昔この地を徘徊し、人々を苦しめていた魔物を封印し、神は人が安心して住めるようにしてくれた。そして、再び魔物の封印が解け、この地を徘徊するようになったとき、神は、我が子である兄妹神を人間として生まれ変わらせ、この地を守ってくれるという神話。・・・おまけとして、領主の子供とその兄妹神は結ばれ、末永く地は栄えるという話。
「ということは・・・・・」
2人は考える。
森の中にあるその神をまつった祠。そこへ参拝した帰りだった領主の娘を救った2人の剣士。いとも簡単に凶暴な魔物を倒した腕。そして、その落ち着いた態度と、ともすれば、威厳をも感じさせられる2人に、周囲は完全にそう思いこんでしまったということである。
「つまり・・そういうことなんだよな・・・」
カルロスとミルフィーは視線を合わせて苦笑いする。
「いや、我々は本当にただの通りすがりに過ぎないのだ、ご領主殿。」
慌てたようにカルロスは釈明する。ここでもしその誤解が通ってしまったら、大変なことになる。
「いや、そのようにお隠しになられずとも、我々は重々承知しておりますれば・・。」
が、誰一人として真に受けてくれなかった。

そして、その夜、兄妹ではなく夫婦だといくら言っても耳にしてもらえず、カルロスとミルフィーは別々の寝室へ案内されていた。
「なんて事だ・・・・せっかくミルフィーと2人きりでゆっくりと甘い時を過ごそうと思ったのに・・・・」
目論見が大きく食い違い、カルロスは焦る。
が、そんな焦りは必要ないんだ、と次の瞬間カルロスは気づく。
−ガチャリ−
気にする必要も遠慮する必要もない。さっさとミルフィーの部屋に行ってしまえばいいんだ。
そう思いつつドアを開けたカルロスは、ドアの外に立っていたセシリアに驚く。
「ひ、姫君?」
「あ、あの・・・・・カルロス様・・・私・・・・」
行動が早過ぎるぞ?!と思いつつ、カルロスは汗をかく。
「ひ、姫君・・・先ほども申し上げましたように、私と彼女は夫婦なのです。ですから・・・」
「カ、カルロス・・さ・・・・ま・・・」
勇気を出してここまで来たのに、と語るセシリアの涙を溜めた大粒の瞳に、カルロスはますますもって焦る。
「私・・・ご夫婦でもかまいません・・・」
「何?!」
カルロスの焦りが増す。
「このままでは、私、お部屋へ戻れません。お願いです、カルロス様・・・今宵だけでも・・・・」
セシリアはそう言うと、とっ、とカルロスの胸に抱きつく。
「ひ、姫・・・・」


そして、同じ頃、離れた棟にあるミルフィーが案内された部屋では。
−コンコン−
「はい?」
カルロスが来たのかと思ったミルフィーは、すっとドアを開ける。
「さきほどはどうも。」
そこにいたのは、ネルギスだった。
「あまりにも星空が綺麗ですので、散歩でもどうかと思いまして。」
「え?・・で、でも・・・・」
「私が不躾なことをする輩だとでもお思いなのでしょうか?」
控えめだが、さりげなく的を射た事を言うネルギスに、ミルフィーは押される。
「あ、いえ、そのようなことは。」
「それでは散歩くらい、よろしいでしょう?」
「でも・・・」
「兄君のことが気がかりですか?」
「いえ、ですから、先ほども申し上げましたように、彼は兄ではなく夫です。」
「本当なのですか?」
「え、ええ・・」
寂しげに見つめるネルギスの瞳に、ミルフィーは思わずどきっとする。何か自分が彼に対して悪いことでもしているような気がした。
「では・・・夫であるということにしましょう。」
その言葉にミルフィーはほっとする。
「ですが、時には夫でない男もいいものでございましょう?」
「え?」
さーっとミルフィーの顔から血の気が引いた。
やさしい物腰と言葉の裏には、とんでもない野望と思いこみがあった。
(な、なによ・・十分『不躾なことをする輩』じゃないの?)
ミルフィーは焦りと怒りを覚えていた。
「ミルフィー殿・・・私は一目見たときからあなたが・・・」
「風精撃破!」
−しゅご〜〜〜!・・グワッシャ〜〜ンっ!−

もう少しで身体に触れられる所だったミルフィーは、咄嗟の風術で、壁を突き破ってネルギスを飛ばした後、カルロスを捜して屋敷内の廊下を走った。

そして・・・
「カ、カルロス?」
半開きになっていた部屋の中で、ベッドの中のセシリアを横から覆い被さるように抱いているカルロスを発見する。
「ミルフィー・・」
心配していたミルフィーの無事な姿を見てほっとしたのもつかの間、ミルフィーの青ざめ、そして次に怒ったような表情に、誤解された事をカルロスは悟る。
「あ、いや、ミルフィー・・・誤解だ・・これは・・・」
「し、知らないっ!カルロスなんて・・・カルロスなんて・・・・勝手にすればいいのよっ!」
彼女はくるっと向きを変えると走り去っていく。
「ミルフィーっ!」
セシリアの積極的な態度に困ったカルロスは、ミルフィーから取り上げたペンダントの放つ聖龍の法力で彼女を眠らせた。が、そのまま放置しておくこともできず、ベッドへ運んだところだった。ちょうど彼女をベッドに横たわらせ、そっと手をその身体から引くところだった。そして、運悪く、その場面を目にしたミルフィーは、それを誤解して取った。普通なら誰しもそう取るだろうと考えられるその事に、カルロスはひたすら焦る。
「ミルフィー?!どこだ?」
屋敷内を探してカルロスは走る。
し〜〜んと寝静まった屋敷内は、誰も起きてくる気配はなく、ミルフィーの部屋がどこなのか聞くに聞けない。


「門をお開けなさい!」
「は?あ、こ、これは剣士様。・・・で、でも・・・ご領主様の命令が・・・」
篝火の横で居眠りをしていた門番は、不意にかけられたきつい声に驚いて目をあける。
「開けなさいと言っているのです!」
「は、ははっ!」
元の剣士姿に着替え、静かな怒りで睨むミルフィーの青い瞳に、全身冷や水を浴びせられた感じを受けながら、門番は慌てて閂を外して門を開ける。
そんなことはミルフィーがするはずもないが、言うことを聞かねば、その場で腰の剣で息を止められる、そんな感じを受けた彼は全身を恐怖で震わせていた。
そして、すっとその傍を通り、ゆっくりと歩いて夜の闇の中にその姿を溶け込ませていくミルフィーの後ろ姿を、門番はほっと胸をなで下ろしながら、そのまま見つめ続けていた。

そして、壁をぶち抜いて気絶しているネルギスの姿に、何があったのか悟ったカルロスは、ミルフィーはもはや屋敷内にはいないだろうと判断し、同じくそこを後にした。


「道は二つ・・・・・」
夜明け近く、林道を歩いていたミルフィーは、道が二手に分かれているところで立ち止まった。
片方は森の中に、そして、もう片方の下り坂は家々の屋根が見える村に続いていた。
−キン!−
コインを腰につけた小袋から1つ取り出し、空に向かってはじく。
「表なら村、裏なら森へ。」
呟きながら受けたコインは、表だった。
黄金龍の世界を旅した時もよくそうしていた。一晩歩きながら考え続けた結果、彼女は今純粋にあの頃の冒険家に戻っていた。元の世界へ帰れないのなら冒険を楽しもう。ちょうど魔物が徘徊している時。どこかにその総元締めである魔王でもいるのかもしれない。
(フィア・・フィー・・・あなたたちなら大丈夫よね?)
ミルフィーは、2人の笑顔を脳裏に浮かべ、にっこり微笑むと村への道を下っていった。


そして、その数分後・・・
「どっちだ?」
同じく二手に分かれている道の手前で屋敷から失敬してきた馬に乗ったカルロスが迷っていた。
「ミルフィーはどっちへ行った?」
数分迷ったあげく、カルロスは森への道を馬で疾走して行った。



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