青空に乾杯♪


☆★ その102 ハーレム・・女の戦場 ★☆


 翌日、カルロスは王の呼び出しを受け、ミルフィーを心配しつつも仕方なく、1人で出かけていった。
「私なら大丈夫よ、カルロス。」
笑顔のミルフィーにカルロスも笑顔で応えた。

「でも、ホント・・・冷たい空気ね、ここ。」
一人になったミルフィーは、宮殿もそして使用人にも冷たさを感じていた。カルロスがいたから気づかなかったよそよそしくひんやりした空気。それを肌で感じていた。
そして、その日の午後。
ガラガラ、ざわざわと宮殿の外が騒がしく、ミルフィーは傍を通りかかった使用人に聞いてみる。
「何の騒ぎなの?」
「はい。旦那様のお妃候補の姫様方が次々とご到着されまして。しばらくは耳障りかと存じますが、ご辛抱くださいませ。」
召使いはちらっと上目でミルフィーを見て、口早にそう答え、忙しそうに立ち去った。
「な、なにあれ・・・気に入らないわ。」
その態度にミルフィーは思わず呟く。そして、・・
「お妃候補?」
ミルフィーはざわついている中庭へと後宮に続く道のある庭に出た。

−ガラガラガラ・・わいわいがやがや・・・−
そこは数十人の荷運びの人足や女官らしい女性や召使い、そして、そこを通る立派な馬車には、美しく着飾った女性が乗っていた。
「つまり・・・・・ハーレム?」
ミルフィーの心臓が踊った。
(・・・だからカルロスは私を連れてきたくなかったのね。こうなることがわかってて・・私が気分を害することがわかってて・・・。)
ミルフィーはそう思っていた。
(でも、大丈夫よ、カルロス。私たちには歴史があるから。)
歴史と言うには短いが、それでもそれまでの様々な体験、共に苦しんだ事、心を合わせて戦ってきた事。そして、何よりもミルフィーにはカルロスの心がよく分かっていた。とても・・。

が・・・・・・・

「旦那様は、今宵、王宮で泊まられるそうでございます。」

そして、その翌日。
−コンコン−
「はい。」
「失礼いたします。・・・お荷物はこれだけでしょうか?」
いきなり部屋に入ってきた使用人は、ミルフィーの荷物を指す。
「え、ええ・・そうですが。」
ちらっと見下したような視線をミルフィーに向けるとその使用人は言った。
「お部屋を移っていただくことになりましたので、こちらへ。」
「え?でも・・・」
「ここはアシューバル当主の部屋でございます。」
「でも・・・」
是も非もなく、さっさと荷物を持っていく使用人の後を、ミルフィーは仕方なくついていった。

「こちらがあなた様の部屋になります。」
ミルフィーを案内し、投げ捨てるように荷物をおいていったその部屋は、後宮の奥にある狭い1室。
「・・・・・これって・・・冷遇っていうやつよね・・・。」
なんとなく怒りがわいてきていた。

狭い部屋では息がつまるし、することもない。外へ出たミルフィーを待っていたのは、前日後宮に入った各国の王女や貴族の姫、そして彼女たちに付き従ってきた女官や召使いらのうわさ話。

「先ほど通って行かれた方がご当主様が異世界から連れてこられたという姫君?」
「あら、姫君なの?それにしては道具もなにもないわね。」
「手ぶらで来たって聞いたわ。」
「え?アシューバル家に来たというのに・・・何もなしなの?持参金も?」
「王女なんていうのも怪しいわね。」
「後宮の奥に入れられるようじゃ、しれてるんでしょ?」
「そうよね、単に慰み者だったんじゃないの?そっちの世界に手近にいたっていう?」
「お歳だって結構いってるんじゃなくて?」
「そうよね・・・姫様方より10歳位は上なんじゃない?」
「じゃー・・・比べるまでもないじゃない?」
妃候補の姫君らは、どの姫も15、6歳。ミルフィーは、カルロスと歴史があるだけ・・・歳である。しかも、一時期異世界へ行っていた事により本来より5歳カルロスに近づいてしまっている。
「ほほほほほ♪」
召使いたちの楽しげなうわさ話があちこちで聞こえていた。
「アシューバル家当主の正妃は、やはりそれなりの身分でなくては務まらなくてよ。」
「それと、しっかりしたご実家。」
「あら・・正妃でなくても、それなりのご実家でなくては!」
「そうよね、後ろ盾があってこそ、ご当主様の目にも留まるというもの。それで後は、お世継ぎに恵まれれば・・・。」
「そうそう!ああ、どちらの姫様にお声がかかるのかしら?」
「そうね〜・・・今のところ、テサモール国の姫様かしら?」
「そうなの?」
「だって、持参金もさることながら、小国規模の領地をつけてきたっていう話よ?」
「ええ〜〜?そうなの?」
「それに諸外国の間でも美しいと評判の姫君らしいわ。」
「すっご〜〜い!じゃー、ほぼ正妃はその方に決まりなんじゃないの?」
「そうよねーーー。」
「とすると・・・次は第2妃ね。」
「そうね。」
「あの方は?」
「ぷっ!・・冗談でしょう?召使いの1人もいないのよ。そのうちのたれ死によ。」
「かわいそうに。」
「いい気になってついてくるから悪いのよ。」
「でも、その気持ち分かるわ。」
「そうねー・・それは分かるわよね。」
「そうよ。だって昨日王宮でちらっと横顔を拝見しただけなんだけど・・精悍で、とっても男らしくて・・・ああ・・あんな方見たことないわ。本当に噂通りの素敵な方だったのよ・・・。」
夢見るようにその女官は言う。
「ええ〜?!あなたご当主様にお会いになられたの?」
「そんなんじゃないの。姫様について国王ご夫妻の元へご挨拶にうかがった時、ちらっとお姿をおみかけしただけで・・・」
「ええ〜〜?!ねー、もっと詳しく教えて!」
きゃ〜きゃ〜、わいわい、と笑い声を交え、彼女たちのうわさ話は続く。


「・・・・女の戦争っていうのよね、これって。それもかなり醜いというか低次元・・・」
庭を一回りして部屋に戻ったミルフィーは、うんざりしていた。
まさか自分がこんな目にあうとは思ってもいなかった。
「あんな考えしかないから、女は馬鹿にされるのよ!」
ミルフィーの中の怒りの炎が、また少し大きくなっていた。


「ミルフィー様・・・。」
「え?・・あら、あなた?」
一人考え込んでいたミルフィーに声をかけた女性がいた。それは迎えに来た女性。
「申し訳ございません。このようなところへ・・。」
心からすまなそうに謝る彼女に、ミルフィーは微笑む。
「別にかまわないわ。雨はしのげるでしょ?」
「で、ですが・・・」
「言っても仕方ないし。」
ため息をつきながら笑うミルフィーに、彼女も悲しそうに微笑んだ。
「知恵の賢者様が一目おかれるような巫女様だというのに・・・カルロス様が心から愛してらっしゃるお方だというのに・・・・。」
「カルロスが戻れば何もかもうまくいくでしょ?」
「・・・でも・・・」
「でも?」
「申し訳ございません、王命により、ご婚儀の日まで王宮に留まることになられまして・・・・。」
「え?・・・カルロスは、今日も帰って来ないの?」
「はい・・・今日も明日も・・・ご婚儀を終えるまでは・・・」
ため息が出た・・・・カルロスさえ帰って来れば、こんなばかばかしい事も終わると思っていた。全ては解決し落ち着くとばかり。
「申し訳ございません。その代わり、ご不自由はおかけいたしません。私が精一杯お世話をさせていただきますから・・ですから、ミルフィー様・・・」
涙を溜め懇願する彼女に、ミルフィーはやさしく微笑む。
「大丈夫。私なら・・・大丈夫よ。」
が、確かに不安が押し寄せてきていたのは確かだった。カルロスが傍にいない・・ミルフィーは心細さを感じていた。

「でも・・あなた、どうしてそんなに親身になって下さるの?」
他の使用人などはみんな冷たい視線でさげすむように見るのに、とミルフィーは笑う。
「私は・・・・」
「そういえば名前はなんとおっしゃるの?」
「は、はい・・・私は、ジルと申します。」
「ジル・・・・カルロスとは?」
気になっていたことをミルフィーは聞いた。
「カルロス様は・・・私の命の恩人なのでございます。」
「命の・・恩人?」
「はい。」
「そう・・・・」
おそらくこの女性はカルロスの事が好きなんだろうとミルフィーは思っていた。口にこそ出さないが、いつもカルロスにその視線は向けられていた。命の恩人ならば・・なおさら納得できる。

「あ・・・・ち、違うんです、誤解されないで下さい。」
「え?」
ミルフィーの笑顔の中にその意味を見たジルは、慌てて弁解する。
「いいのよ、隠さなくても。・・・私こそ・・」
ひょっとしてカルロスを取ったことになる?とミルフィーは思った。
「いえ、そうじゃないんです。そうじゃ・・・」
ますます慌てたようにジルは言った。
そして・・・
−ボン!−
「え?」
ミルフィーは目を丸くして驚いていた。つい今し方まで女性だったジルの姿は・・・1匹の火トカゲに姿を変えていた。
「あ、あなた・・・・?」
「カルロス様がまだ子供だった頃の事です。森でいじめられていた私を助けてくださり、親からはぐれ、帰るところが分からなくなってしまった私は、その時からここでお仕えしておりました。」
「そ、そうだったの・・・。でも、たとえ火トカゲでも人を愛することは・・・」
ミルフィーはミリアを思い出してそう呟いていた。
「あ・・・じ、実は私は・・・」
−ボン!−
そう言って再び人型になったジルは、男の姿だった。
「え?」
「実は私は男なのです。でも、ここではどうしても男だと波風が立ちやすく・・それで女の形をとっております。」
「そ、そうだったの・・・」
やさしげな微笑みを持つその姿はレオンを思い起こさせた。・・・ミルフィーは思わず直感的に、ミリアのタイプだと感じた。
「よく分かったわ。でも、あなたはサラマンダーの国へは?」
「サラマンダーの国をご存じなのですか?」
「ええ、縁があって。」
ミルフィーはにっこり笑う。
「そうですか・・・私は、親にはぐれ、道を失ってしまい・・・・どこにあるのか分からないのです。」
「え?本能的に分かるんじゃないの?」
「そうなのですか?」
「ええ、そう。私の知り合いの子はそうだったと思ったけど。」
「・・・・そうですか・・・いじめられた時、酷く怪我を受けましたので・・そのせいかもしれませんね。」
「ジル・・・・」
「あ・・・こ、これは・・・つまらない話を。」
沈んだ表情のミルフィーに、ジルは照れ笑いする。
「ともかく、ご婚儀には必ずミルフィー様を神殿へお連れ致します。それまでご辛抱くださいますか?」
「ええ。」
不安はあった・・・そして周りに対する不満も・・が、ともかくミルフィーは、ジルを信じ、その日を待つことにした。



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