夢つむぎ

その22・白き助力



 あたしたちは城の4階、以前ルオンがダリウスになった部屋の前に来ていた。果してダリウスのみを倒し、ルオンを無事元に戻せれるだろうか?
口にはしないけど、みんなだって心配してるに違いないさ。アッシュでさえ、ノブに手もかけずじっと見つめている。

えっ?あれからどうなったかって?心配ご無用!二日酔いは回復剤で治ったし、ランディは・・・結構素っ気ない素振りだし・・いつもと変わらないさ。ま、1回寝たくらいじゃどうってことないしさ・・・情夫面されるよりいいってもんさ。1人に縛られるってのもランディの美学(?)には反するだろうし・・あたしもいやだしね。だけど・・・アッシュは・・・・芽がでそうもないね・・・ふう・・・・・
ま・・いいや・・・・あたしも、今は、この城だけに集中するとするよ。
・・・・は?昨夜は本当にアッシュと間違えてたのかって?・・そりゃ、酔っぱらってたからねぇ・・多分・・・そうだと思うけどさ。もしかしたら・・・・・・・分かってたのかもしれない・・かな・・?酔っぱらって見間違えちまってても、鼻は確かだよね?ランディの香水の匂いに気づかないはずはないんだけど・・・・・
ちょ、ちょいと待っておくれ・・じゃ、なにかい?ランディに惚れてるとでも?!
・・・じ、冗談じゃない!だ〜れがあんな女ったらし!

思い切ったようにアッシュは勢いよく扉を開ける・・・だけど、あたしたちの出鼻を挫くかのように、そこには誰もいなかった。・・・ただ、開かなかった奥の通路への扉のカギは外れていた。もしかしたらルオンと戦わなくてもいいのかもしれない・・なんて考えがあたしの頭を過ぎった。
「よぉ、アッシュ・・もし魔導士に乗り移られたあのくそ坊主が元に戻らず、襲いかかってきたら、お前ならどうする気だ?」
その通路を急ぎながら、ランディが自分自身にも聞くかのように言った。
「・・・・」
さすがのアッシュも困惑顔で答えに窮している。
「そういうあんたはどうなんだい、ランディ?」
「俺か?・・・・さあな・・俺なら、あいつに積み重なる恨みもあるし・・案外とばっさりやっちまうかもしれねえぜ。」
「ラスムスさんは呼びかければいいって言ってましたけど・・でも、もしルオンさんが呼びかけに応えてくれなかったら・・・アッシュさん・・・・本当に・・・?」
ランディがヒースの肩をぽんと叩いた。
「あのくそ坊主がそう簡単にくたばるわけねえよ。」

そしてその先、再び三階に下りると外壁に出る。その行き止まりがダリウスの塔だった。
『大魔導士の塔 立ち入りを固く禁ずる』
「へん!何が大魔導士だ!大魔導士ってのは俺様の事を言うんだぜ。このランディ様が分相応という言葉を、とくと教えてやろうじゃないか!」
塔の扉には書かれたあった文句を見て、ランディが息巻く。
−−バタン!−−
扉を勢いよく開け、中に入る。
と同時に、聞き覚えのある声が通路に響き渡る。
「あの迷宮を逃げ出したというのか?だが、今はお前たちの相手をしている暇はない。しばしの間、我がしもべたちと戯れているがいい。」
いきなり数十人の闇の魔導士が姿を現し攻撃をしかけてきた。
「へん!こんな下っぱに殺られるランディ様だと思ってんのか?馬鹿にするんじゃねえぜ!」
魔導士が放ってきた『魔法封じ』をさっと避けると、冥府の王を唱える。あっという間に奴らは塵となった。
「さっきの声、間違いなくあのくそ坊主のだったな。へん!もう少しましな奴をよこしなってんだ!」

内部は風の塔とは比べ物にならないほど入り組んでいた。まるで迷宮さ。ようやく二階への階段を見つけたんだけど・・その先の扉がどうしても開かない・・・。
あたしたちはラスムスから聞いた城東館の知識の間にいるというマイスターなる人物を先に探すことにした。

「な・・なんだ?このはげ親父は?」
ランディがその部屋に入ると同時に叫んだ。あたしも思わず息を飲む。それもそのはず、あたしたちを迎えてくれたのは、台座の上に乗った首だった。
「ようこそ、旅人たちよ。」
その丸い眼鏡をかけた、いかにも博学者風の長い白髭の老人の首はゆっくりと目を開け、あたしたちをじっと見つめて話し始めた。
「お前たちのことは、よく知っておる。」
「生首に知り合いはいないはずだがな。なんだ、お前は?」
ランディが睨みつける。
「わしの名はマイスター。知識の間の管理人。そして、わしの頭の中にはあらゆる知識がつまっておるのじゃ。ダリウス相手にてこずっておるようじゃな。あの男、サークレットに自らの魂を入れ、あの厄災を逃れたとみえる・・・」
「マイスターって言いましたよね?僕、ヒースと言います。ラスムスさんから聞いたんです。知識の間のマイスターさんに会えって。」
「ラスムス・・・あの男無事であったか・・?わしの知識の届かぬ次元へ行き、その後の身を案じておったが・・・」
マイスターはしばし目を閉じ、再びその目を開ける。
「ラスムスとダリウス・・・あの2人はわしの弟子じゃった。2人で力を合わせまつりごとを行えば、ザムハンの栄えは続いたであろう。だが、ダリウス、あの男はそれができなんだ。あの男は己の力におぼれ、己の為に力を使った。そして、わしの書庫より魔導書を持ち出し、多くの民の犠牲の上に禁断の召喚を・・・」
マイスターはそこまで話すと、深くため息をついた。そして、気を取り直したように再び顔を上げた。
「ラスムスの信用を得たものであれば知識の間の扉を開いてもよかろう。言っておくが知識の間に形あるものはない。だが、求めるものは得られるじゃろう。それは、これよりの道に必要となるはずじゃ。行ってみるがよい。何か困った事があれば、また寄るがよい。元はと言えば、我が弟子の不祥事が事の起こり。助力は惜しまぬぞ。」
「そんなら最初からてめえが止めりゃよかっただろ?」
「・・・」
マイスターはランディの言葉に何も答えず、悲しげに目を閉じた。

「ったく!くえないじいさんだぜ!」
知識の間に向かう途中、誰しも思ってた事をランディは吐くように言った。

知識の間はいくつかの小部屋がならんでいた。

1つめの部屋に入ると、その真ん中で、アッシュが呆然としたように突っ立ったまましばらく動かない。
「何をぼんやりしてるんだい、アッシュ?昼寝には早すぎるんじゃないのかい?」
「あ?ああ、すまん。」
アッシュはまるで白昼夢でもみているようだった。

次の部屋では、ランディがどこか遠く一点を睨みつけるように凝視している。
「なんだい、ランディ?恐い顔しちまってさ?」
「あ・・・ん?そうか?・・思わず見とれちまっただろ、ヒルダ?」
横に立つあたしの方を見たランディはいつもの顔に戻ってた。
「はん!どうせまた女の事でも考えてたんだろ?」
「ばれたか・・・ははっ・・」
でも、心なしか・・そう笑ったランディがいつもと違った雰囲気だと思ったのは、あたしの思い過ごしなんだろうか?

「・・・そんなこと・・・僕にできるんでしょうか?・・本当に・・・?」
次の小部屋でしばらくじっとしていたと思ったら、ヒースが小さく呟いた。
「どうしたんだい、ヒース?」
「あ・・い、いえ・・なんでもないんです・・・」
なんだろうね?みんななんかおかしいけどさ・・・。

次の部屋に入った時、あたしの頭の中に語りかける声があった。
「私は力を授ける者。マイスターの許しを得てここに来た者なら助力が必要なのでしょう。但し、その力を手に入れたくば、条件があります。1つは、この契約を決して他人に口外しないこと。そして、あなたの命のエネルギーが源となるその力はかなりのエネルギーの消耗を要します。命には限度があります。それが、いつなのかは分かりません。一度で消耗しきるかそれとも何度でも可能なのか。それを受け入れるかが、もう1つの条件です。」
中性的なその声は、一方的に言葉を続けた。
「なんだよ?どういう意味なんだい、それ?」
「うわっ、びっくりしたなあ、もう・・どうしたんですか、ヒルダさん?いきなり大きな声出して?」
思わず怒鳴ってしまったあたしにヒースが驚いて目を丸くする。
「・・・あ・・いや・・・なんでもないんだ。気にしないどくれ。」
・・・今までの部屋でみんなの態度がおかしかったのは・・ひょっとして、これと同じような事があったんだろうか?・・・あたしの欲しい力は、どんな仕掛けでも簡単に見抜き、開けちまう力・・・いつ終わるか分からない?命が源?ってことは・・・・・何度目かは分からないけど・・つまり・・おだぶつってこと・・かい?・・だよね・・・せめて・・何回できるかくらい教えてほしいさね。ま、仕方ないか・・・条件をのめないなら与えないときちゃ、どうしようもないってもんさ。やることが汚いってもんだよ・・全く!

あと、一番奥の部屋は開かなかったので、ダリウスの塔へ行く前に、マイスターに会っていくことにした。
マイスターはやさしげな瞳で再び入ってきたあたしたちを見ていた。
「あの、聞いてもいいですか?1つだけ入れない部屋があったんですけど、あの部屋にも何かあるんですか?」
遠慮がちに聞くヒースに微笑みながらマイスターは言った。
「あの部屋には1冊の本が納められておる。この世の全てを知り、そして、常に書き替えられている本じゃ。」
「常に書き替えられて?」
「あの部屋に人が入るとき・・・いや、時がくればお前たちにもあの部屋の意味をおのずと知るじゃろう。」
「時がくれば・・・?」
マイスターはそう呟くヒースからあたしたちの方に目を移す。
「おかしな話だと思わぬか?わしは生前に得た知識をそのまま後世に残すため、死にぎわにこのような身体となった。それが今となっては口惜しい。身体があれば、今よりもお前たちの役にたつことが出来たかも知れぬ、と思うとな。」
・・・誰よりもこの人が後悔しているのかもしれない・・・あたしは、ううん、他のみんなもそれ以上何も言わなかった。

そして、再びダリウスの塔。あたしが前来たときにはどうしても開かなかった2階の扉を簡単に開けると、ヒースが感心してた。ノブに触った様子もないのにってね。
実際そうだったのさ。知識の間であたしが授かった力はどんな扉も開ける力。ノブに手を差し出した途端、全身が燃えるように熱くなり、あたしの手からぽおっと淡い白い光が出たんだ。それが契約の力なんだろうね。すっと扉は開いた。かなりの疲労感があったけど。ま、1回目は無事通過ってとこだね。この調子ならまだまだいけるさ。

そして、2つ目の扉の前。大丈夫だと思ってもやっぱり緊張はするね。アッシュやランディが引っ張っても押しても開かない扉。あたしの出番。奇跡よ、もう一度!って気分で、レッツゴーッ!
「ほらほら、あたしに貸してみなって!今のあたしは最高にさえているんだから!」
「じゃ、頼まあ。」
場所を空けたランディと入れ替わってノブに手を差し出す。
前と同じように全身が燃えるように熱くなってきた。
白い光があたしの手から出る。あたしはノブに手をかけた。
「えっ・・・な、何?・・ち、ちょいと・・・」
その熱さは止まることをしない・・体温の上昇の暴走ってとこかい・・・?なんて呑気なこと思ってる暇は・・・・・・
(あ・・・・あ・・・・・・・・・)
硬直したあたしの全身を電光が走り抜ける。髪は逆立ち、身体からは蒸気が発してる気がする・・・・燃え尽きそうな熱さと激痛・・・・・死を悟り、あたしは、最後の力を振り絞って、笑顔を作った。
「ちぇっ・・・まいったよ。・・・初めに言ってほしかったよ。運は、一度きりだって・・・・・・・」
薄れていく意識の中・・ランディの驚きと悲しみに満ちた顔だけがあたしの目に写ってた・・・・・・・

真っ暗な闇に吸い込まれるように、消えかけているあたしの意識にランディの声が聞こえた。
「・・・ふざけやがって・・・ちくしょうめ・・・ちくしょうめ・・・・」
・・・ラ・・ン・・・・ディ・・・?


**続く**


Thank  you  for  your  reading!(^-^)

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