夢つむぎ

その17・選んだ道



あたしたちが来た道を急いで戻ろうとした時、あの仔龍が再び舞い下りてきた。目をくりくりさせあたしたちを見た仔龍は、あたしたちの前に背を差し出した。
「・・・この仔龍、乗れって言ってくれてるんですよ!アッシュさん、とにかく乗りましょう!」
ヒースが叫ぶ。
「ああ。」
あたしたちが背に乗ると、仔龍は崩れてくる岩を避けながら飛んでくれた。ひたすら出口を目指して。

そして、出口にあたしたちを下ろすと、再び元来た洞窟の方へと飛んでいった。
その時、すさまじい音と共に、岩が崩れ落ち、洞窟の入り口は完全に塞がれてしまった。しばらくの揺れの後、再び静寂が辺りを包む。
「そ、そんなあ・・・・」
ヒースがその岩壁に駆け寄る。
「もう・・・いやですよ・・・あの龍たちは何も悪くなかったんだ。心のやさしい龍だったんだ。なのに・・・」
ヒースの瞳に涙が光る。
「何言ってんだい、今更。・・もう止まれないのさ。・・あたしたちはね、振り向いた瞬間に奈落へ落ちちまうのさ。」
あたしは自分に言い聞かせるように言った。

あたしたちはみんな引き寄せられるようにして、ここに来た。それは単なる偶然じゃない・・それが、あたしたちの担った運命・・。呼んだのは、軍神なのか・・それとも・・・もっと違う何かなのか?・・・分かっていることは、決して逃れられないって事・・・。進むしかないのさ、あたしたちは・・どんなに空しくても、どんなに悲しくても・・・・・・・逃げ出したくても・・・さ・・・。


そして、今度こそ、という思いで、ヤール王の部屋へと向かった。
「あ、あんた・・・?」
「お前、こんなところで一体何を・・・?」
ヤール王の私室の一歩手前、そこには、あのじいさんがいた。まるで、あたしたちがここへ来るのが分かっていたように。
老人は不気味な笑顔でアッシュに近づいてきた。
「ほおほお、テスタロッサを取り戻したか。・・・だが、お前たちの役目はここで終わりじゃ。あのうつけ者の始末は、この私がつけよう。」
「ふふん、勝手なことほざきやがって!その前にその化けの皮をはがしな!」
ランディは何か確信があるらしい。その老人を睨みつけながら、あたしたちに注意を促している。
すると、醜い老人の姿は、まるで殻を破るように変化し、みるみるうちに、筋骨たくましい、戦士の身体となった。
「げげぇぇーーー、あたしの一番嫌いな、マッチョマンタイプ・・・!」
そりゃ、アッシュも筋肉隆々だよ!それは、いいんだ。すっごく魅力的!だけど、こいつは・・・ごつい・・ごつすぎる!!それにすっごくいやな性格だよ、きっと!あたしの第六感が言ってる!!
「我は四剣士の一人、アリエル。いや、一人であったと言ったほうがよかろう。私の魂は、古えの力により昇華されるのだ。しかし、聖剣と生命の火あふれるお前のような者の両方を手に入れられるとは、私もついている。お前のようなにえを捧げれば、あれも大いに喜ばろう。」
アリエルはその剣を抜くと、いきなりアッシュに斬りかかってきた。
「アッシュ!」
さすが四剣士の一人、あの筋肉は伊達じゃなかった。アッシュと対等に戦ってるんだ。あたしたちが入る隙なんて全くない!
−−キン!カキンッ!!−−
−−ガキン!−−
二人ともそれぞれの剣が、まるで腕の延長のような感じで、振り回している。周りには、激しく剣を交える音が飛ぶ。
だけど、徐々に、アッシュの方が優勢になってきた。余裕たっぷりだったアリエルの顔が焦りのそれになってきた。

そして、アリエルは倒れた。・・・その後には、一本の剣が残っていた。
アッシュがそれを拾おうとした時だった、誰も触れないのにそれは浮かび上がり、アッシュにその切っ先を向けて、空を切り突進してくる。
「アッシュ!」
あっと言う間の出来事だった。剣はアッシュの腕に大きな傷をつけると、宙を舞い、いずこへともなく消えていった。
「大丈夫かい、アッシュ?」
あたしは、腕を押さえ、剣の飛んでいった方をじっと見ているアッシュに駆け寄った。
「ああ・・大丈夫だ。大したことない。」
「よかった・・でも、薬を・・」
あたしは急いで傷薬を出すと、アッシュの傷の血を拭き取ってから丁寧にぬる。薬は染み込むように傷口に溶け込み、すうっと傷を消していき、数秒後には跡形もなくなった。
「全く!往生際が悪い奴だったね?!」
「ああ・・」
「だけど・・・王を守るべき四剣士がなぜ?・・主君をうつけ者呼ばわりだなんて、・・・」
「謀反という事でしょうな?・・いや、しかし・・本当に退屈させてくれませんな、この城は。」
「おそらく、あの剣に奴の怨霊が宿ったんだろう?またいつか歓迎してくれるぜ、きっと。楽しみだな。今度は俺様がぐうの音も出ねえようにのしてやるぜ!」
「・・ど、どうしたら、そう楽観的になれるんですか?」
「このお兄さん方は普通じゃないんだって!」
「それを言うなら、頼もしいって言ってもらいたいもんだな、ヒルダ?」
ランディが自信ありげにウインクした。

余計なアトラクション(?)も済み、いよいよヤール王との戦い。あたしは、緊張して、アッシュが扉を開くのを見ていた。

玉座に座ったヤール王は、悪鬼もあれほどじゃないだろうと思えるほどの激しい形相で、以前と同様、こっちを睨みつけていた。
「まだいたか、愚かな旅人よ。この間に再び来たのは覚悟あってのことであろう。よかろう・・望み通り、お前の息の根を止めてやろう。」

アッシュのテスタロッサがほのかに光る。アリエルとの戦闘など比べ物にならないほどの気が二人から放たれている。一瞬のそのまた一瞬の隙が、致命傷となる。見ているだけで、身震いがきちまうほどの斬り合いが始まっていた。前回と同じく、あたしたちの術や技は全く効かない。ヒースは『BRAVE』の歌を唄い、ランディが『我は与う暗黒の剣』を唱え、アッシュの攻撃力を上げる。ルオンは回復の役。あたしは、あたしは・・ああ〜ん・・・できる事がない〜!・・・ぐすん・・・

アッシュの正確な攻撃とテスタロッサの切っ先は、確実にヤールに傷をおわせていき・・そして、激しい戦いの後、ヤールは倒れた。
地に伏したヤールはまだ息があった。その顔には、苦痛より幸福に似た表情が浮かんでいる。ヤールは、喘ぎながら、ゆっくりと話し始めた。
「思えば、ずいぶんと長い間、底のない沼の中を救い手を求め、もがいていたような気がする。後悔と怒りとが、波になり押し寄せてくる水面で。・・・だが、それもこれで終わる。テスタロッサの光が、私の汚れた魂に救いを与えてくれた。」
王の目がアッシュの目を捕らえる。
「お前は何を必要としているのだ?あれの・・軍神の力を欲しているのか?私もお前と同じ瞳で戦場を駆け抜けてきた。無敗の将と呼ばれた私は、勝ち続ける為に。だが、お前たちはすでに見てきたはずだ。勝利の代償として、私が失ってきた者たちの姿を・・・。お前が本当に戦わねばならぬ相手を、違えぬことだ。さもなくば、お前も私と同じ鐵を踏むこととなるだろう。」
と、ヤールは突然テスタロッサに己の身体を突き刺した。
「な・・・・?!」
あたしたちが驚いてるうちに、ヤールの身体は塵となり、そして、消えた。
「ヤール・・・」
テスタロッサの先を見たままアッシュが呟く。
ヒースが静かに鎮魂の旋律をかきならし始める。

ヤール王が気の毒に思えちまって・・・軍神を目覚めさせてしまった後悔と怒り・・・・このまま進んで、あたしたちは、どうなるんだろ?・・何をすべきなんだろう?・・・何が待ってるんだろう?・・・
・・・今までの事を合わせて考えると・・・ヤール王は、軍神をこの地に降り立たせた事を後悔し、その力を阻止しようと城を守らせたって事になるよね?最も城を封印したのは、王がその間違いに気づく前、ニーラ神殿の祭司のラスムスらしいけど。この城のどこかに封印されているその軍神が、あたしたちを呼んでいる・・・
何の為に・・・?封印を破る為に、だ。じゃ、ひょっとして、あたしたちの方が悪者ってことかい?!・・・本当に戦わねばならぬ相手を違えぬ事だ、か・・戦う相手・・・ちょ、ちょっと・・ひょっとしてそれって・・・軍神の事かい?・・勝利の戦神と戦えって・・・?そんなバカな・・・神に勝てるなんて、いくらアッシュでも・・・あのヤール王でもそれが出来なかったんだろ?・・・じゃ、封印が解かれる前に消してしまえって事?でもそれすらできなかったから、このザムハンは呪われてしまったんだろ?・・・・あたしたちは、このまま進むしかないけど、運命の神は、あたしたちに何をさせる気なんだろう?何を期待してるんだろう?このまま進んでいいんだろうか?と言う疑問もわく・・けど、仕方がないさ、乗り掛かった船だ、こうなったら行くところまで行くしかないさね!運命の神の手の中で踊らされてようが、操られていようが、そんな事知ったこっちゃない!あたしたちは、目の前で起こることをしっかりと己の心に焼き付け、つき進むだけさ。自分のいいと思った方向に!最も、それすら、敷かれたレールかもしれないけどさ。

その部屋の奥の宝箱から『ダリウスが間に通ずるカギ』と書かれたプレートのついたカギと、『竪琴が間に通ずるカギ』と書かれたプレートのついた水色カギを手にいれたあたしたちは、さっそく城の中の開かなかった扉の所へ行った。

扉は開いたんだけど、中にセイレーンが待ってて・・歌声に押し返されちまった・・・あの歌を聞くと戦えないんだよ。なんていっていいか分からないほどの甘美な歌声でさ・・・力が抜けちまうんだ。最初、美人が山のようにいたもんで、ランディったらまた鼻の下を伸ばしちゃってさ・・全く、だらしないったら、ありゃしないよ!
ランディによると、セイレーンは自分より上手い歌に弱いんだってさ。だけど、セイレーンより上手いなんて・・いるんだろうか?思わず、ヒースを見ちまったよ。ヒースったら慌てちまって・・風の竪琴なら太刀打ちできるかも、なんて言ったんだ。で、中庭にある塔へ来たわけさ。風に守られし塔、つまり、風の塔ってとこだね。扉は、思った通り、水色のカギで簡単に開いた。さて、中には何が?ヒースの探してる風の竪琴はあるんだろうか?

 


**続く**


Thank  you  for  your  reading!(^-^)

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