夢つむぎ

その12・聖剣テスタロッサ


 

あたしたちは、試練の塔の入口の手前、外壁で、アッシュの出てくるのを待っていた。外壁は、塔の聖剣テスタロッサの影響なのか、何なのか、モンスターは、全然出ない。この城の中で、唯一の安全圏ってわけらしい。
でも、何もしないで待つということが、こんなに苦痛だとは思わなかったよ。化け物共と戦っていた方が、よほど楽ってもんさ。それも、中でアッシュがどんな試練を受けているか分からないというんだから・・落ちつかないってもんさね!
な〜んて・・いろいろ考えてるうちに夜になっちまった。仕方ないから、そこで野営することにした。建物の中はモンスターがいっぱいだからね、ここの方がよほど安全さ。だけど・・・アッシュは・・・・?

「アッシュの旦那、塔の中で迷ってやしないか?」
次の日になってもまだ出てこないアッシュに、ランディが少し心配そうな顔で言った。
「ふ〜ん・・いいとこあるじゃない?アッシュを心配するなんてさ・・」
あたしは、半分からかうようにランディを見た。
「そ、そりゃそうだろ?アッシュがその・・なんて言ったかな?・・聖剣・・テタス・・・?」
「聖剣テスタロッサ!」
「そうそう、そのテスタロッサ!それを持って来ないことにゃ、ここの探索は続けれないんだからな!べ、別にアッシュを心配してるってわけじゃあ・・」
「ふ〜ん・・・・」
照れちまってあたしから目を反らしたランディの顔をあたしは覗き込む。
「な、なんだよ、ヒルダ?」
「べ〜つにっ・・・」
再びあたしから視線を反らすランディ。
「でも、本当にアッシュさん、遅いですね。大丈夫でしょうか?」
ヒースが心配そうに口を挟む。
「・・・どうだろね?大丈夫だとは思うけどさ・・・」
あたしたちは、無意識に塔を見上げていた。
「あまり高くも広くもなさそうなんだけどねえ・・・」
「だから、余計いろんな仕掛けがあるんじゃないのか、中は?」
「うん・・そうだね・・多分、迷路になってるんだろうね・・。」
「・・と、思うぜ。」
「ああ、あたしが行けたら、どんな仕掛けも、チョチョイと・・・」
「無理だって、仮に行けたとしても、剣士の試練の場なんだぜ。お前の腕じゃ、足手まといになっちまうだけさ。きっと凄腕の兵士やアンデッド共がうじゃうじゃ出てくるんだぜ?」
「仮に塔の中の様子が見れるとしたら、さぞかし見応えがあるでしょうね。死神アッシュの華麗なる剣さばきを十分堪能できるのでは、ないでしょうか?」
「あんたは心配じゃないのかい、ルオン?」
「いいえ、少しも。アッシュ殿は必ず出てきますよ。聖剣テスタロッサを携えて。必ずね。・・・それでなくては、面白くありませんよ。」
にやっと口許をほころばせ、ルオンはいつもの無表情的な笑顔で答えた。
「あ、あんたは、いつもそう・・・」
あたしがルオンに食ってかかろうとした時だった。
−−バタン!−−
塔の入口が開き、その音であたしたちは、一斉に戸口を見た。
「おい、見ろよ、英雄のご帰還だぜ。」
そこには、アッシュが立っていた。背にテスタロッサらしい剣を背負い、片手にはまだ血が滴る剣を持ち、眩しそうに、もう片方の手で、陽の光を遮っている。

「よおっ!遅かったじゃないか、アッシュ?!」
「ああ・・・」
あたしたちは、急いでアッシュに駆け寄った。
「お帰り、アッシュ、大変だったろ?」
「お帰りなさい、アッシュさん!心配してたんですよ、あんまり遅いから。」
「ああ・・」
そう短く答えたアッシュは、すこし微笑んだように見えた。
「おっ!それがテスタロッサってやつか?」
「ああ。」
アッシュは手に持っていた剣をしまうと、背中のテスタロッサを手に持った。
それは、見事な大剣だった。鋭利に研ぎ澄まされた刃と彫刻を施された銀の柄が、陽の光を反射して、一層美しく見える。それに加え、それからは、静かに放たれる聖なる気を感じた。
「剣から血が滴っていたということは、やはり試練とは、人斬りだったのでしょうね?ならば、あなたにとって、うってつけでしょう。いったい、どれほどの屍の上を歩いてきたんでしょうね?」
ルオンがアッシュに言う。
「ちょいと口がすぎるじゃないのかい、ルオン?何にせよ、この人はよくやったよ。
本当に大した男さ、アッシュは!・・・アッシュ、塔の中で何があったんだい?やっぱり中は仕掛けがたくさんあったのかい?化け物はうじゃうじゃいたんだろうね?
宝は?」
あたしは、アッシュの目の前に立つと、矢継ぎ早に聞いた。だって、せっかく、ほんの少しでも笑みを見せてるっていうのに、それを消したくなかったからね。全く、ルオンのくそ坊主ったら!」
「あ、ああ・・・」
一人、塔の中へ入り孤独感に陥ってたのか、それから解放されたのが、よほど嬉しかったらしく、珍しくアッシュは口が軽かった。

「ああ、仕掛けはいろいろあった。床が回るのは勿論、一方通行なんかがな。ランプを持っていかなかったら、まだ彷徨ってるだろうな。とっておきの仕掛けは、なんと言っても最後の聖剣の間に続いている小部屋だろう。いくつかあって、その中の一つだけがそこに繋がってるんだ。後の部屋は・・・まっすぐ奈落行き、だそうだ。」
「ふ〜ん・・・よく間違わなかったね。」
「お前の声が聞こえたような気がしたんだ・・・」
アッシュは少しほほ笑んで、あたしを見た。
「えっ?・・・そ、そ、そ、そうかい?」
あたしは顔が緩むのが自分でも分かるようだった。
「はん!よく言うぜ!このむっつりすけべ!」
面白くもない、という顔をしたランディが口をはさんだ。
「モンスターは、ポゼッションやリベンジャーといったのアンデッドが多かった。あいつらは一発で仕留めないと、増殖するし仲間は呼ぶしで、結構てこずったな。・・・それと、キリーに会った。」
「えっ、あのキリー?」
「ああ・・そうだ。奴は・・塔の試練を乗り越えることができなかった・・。」
「試練?」
「ああ・・」
短く答えると、アッシュは空を見上げた。
あたしたちがその返事を待っているというのに、じっと見つめたまま。
多分、キリーの事や、塔の中でのことに思いを馳せてるんだろう。なんとなく急かしちゃ悪いような気がして、あたしたちはしばらく黙って空を見つめていた。
真っ青な空・・城の中での事が信じられないくらい気持ちのいい晴天だ。


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左右に分かれた通路、アッシュは、ひとまず入り口から右側の壁にそって進む事にした。無闇に進めば迷うのは分かりきっていた。
どのくらい進んだだろう、両側にいくつか扉はあったが、すべて無視し、真っ直ぐに進んできた行き止まりにキリーがいた。
傷だらけになり、膝をかかえてガタガタ震えている。
声をかけようとするアッシュにめざとく気づいたキリーは、突然絶叫し、剣を振り回してアッシュに向かっていく。その表情は恐怖で真っ青だった。
−−パシッ!−−
キリーの剣はいとも簡単にアッシュの手によって押さえられた。
穏やかなアッシュの目に見つめられ、恐怖で染まり、狂人のそれをみせていた彼の目が、次第に落ち着きを取り戻していった。
もう大丈夫だと判断したアッシュが剣を放すと、キリーはのろのろとその場に座り込んだ。が、硬直したように剣を握る手は小刻みに震えている。
「ウォーレンが俺に襲いかかってきたんだ。ウォーレンだけじゃない、国の仲間や父上もだ。俺には殺せない・・殺せるわけない。」
ほかってはおけないと判断したのか、アッシュも壁にもたれてその横に座る。
しばらくすると、キリーの手は剣をほどけるほど震えが止まってきた。それから、落ち着いたように、何かを思い出すかのように話し始めた。
「あんたは・・何を求めて旅をしてるんだ?俺の生まれた国は小さな王国さ。だが、西方の民族が王国を弾圧するようになった。古い神は排他され、部族の誇りは汚された。だが、親父が西方の民に虫けらのように殺された時、俺は決心したのさ、部族の復興をな。そして、ザムハンという土地の伝説を聞いた。ザムハンには勝利の神が住み、永遠の勝利を約束してくれるという・・・」
キリーは傷が痛むのか、押さえながら話を続ける。
「実は俺、人を切った事は一度もないんだ。化け物相手の戦いはウォーレンに教わったがな・・俺はきっと、この試練には失格なんだろうな。俺に構わず行ってくれ。・・・それと・・あんたたちには謝らないといけないな。確かに、この城では何でも起こり得る気がするよ。」
そう言ったキリーは、ふっきれたような顔つきだった。

もう大丈夫だと判断したアッシュが立ち上がる。そして、奥の扉を開ける。
「あんたも死ぬなよ。」
意外な言葉にふと振り返ったアッシュに照れ笑いをみせ、キリーは反対方向に駈けて行った。
その後ろ姿がちらっと確認すると、アッシュはゆっくりと扉を開け、その部屋に入る。

そこは、戦場の風が吹いていた。
そして、累々たる死体の山々。足の踏み場もない。その死体の一つがアッシュの足首を掴み、にやりと笑うと言った。
『思い出したか?自分が過去にしてきたことを。この死体の山はお前が作り上げたものだ。敵には死を、味方には敗北を与える死神め・・・なぜ、お前は一人でその世にいる?もはやお前が腕を振るう荒野はなかろうに。冥府に来い!お前に殺された者たちが呼んでいるぞ!』
そして、その声に触発されたかのように、足元の死体が起き出し、一斉にアッシュを襲う。」
憤怒と憎悪に満ちた戦場の風が血と腐臭を吹きあげていた。
(これが、試練・・キリーの言ってたやつか?)
アッシュは迷うことなく剣を抜くと、彼らの一掃に取りかかった。

同じところを彷徨っているのか、それとも進んでいるのか全く見当がつかなかった。
ふとアッシュは、魔法のランプを持っていたことを思いだし、位置を確認しながら進む。特に扉の前では。一方通行の扉、中に入ると同じ扉が4つあり、床が回って方向が分からなくなる部屋もあった。
そして、おそらく次の試練であろう部屋ではティナがアッシュを待っていた。
「ティナ?・・」
ここにいるはずがない、と思いながらもアッシュは思わず彼女の名前を口にした。明らかにティナの瞳はアッシュを責めていた。
『あなた、なぜあの人を殺したの?あの人は、あなたと同じ魂の持ち主だったはず。同じ苦しみを持ち、同じものを求めていたのよ。あの人を殺した時に、あなたは、自分自身を殺したのよ。あなたは死人よ、生きていてはいけないの。』
そう叫ぶが早いか、細身の剣を抜き出し、アッシュに切りかかる。
(まさか、この部屋に召還されたわけでは?ここは剣士しか入れないはずだ。)
本物か偽物か、彼女の攻撃を軽く交わしながらそんな考えがアッシュの脳裏をよぎる。
(なんにせよ・・与えられた試練は、克服しなくてはならないんだ。他に道は・・ない。)
迷いを断ち切り、アッシュは剣を振るう。
『ぎゃああああ・・・』
そして、消滅したティナを見て、改めて確信する。幻影だということを。
「・・・・・試練・・・か・・己の心の弱さとの戦いだな。」
ふと真っ青になって震えていたキリーの面影を思い出していた。
(あいつは、大丈夫だろうか?)
かと言って探している時間も余裕もない。アッシュはひたすら塔の中を進んだ。

そして、次の試練・・そこで待っていた者は・・アッシュ自身だった。
部屋に入ると、ぼんやりとした黒い影のうなものが目に入る。
その影は聞き慣れた声で、アッシュに話しかけた。
『お前は、何を求め、ここにいる?求めて得られなかった真の勝利か?そんなものが得られると思っているのか?考えてもみろ、世から戦乱が去ってから久しい。お前一人がもがいたところで、何にもなるまい。眠れ、アッシュ。お前の時代は終わったのだ。』
それだけ言うが早いか、その影は目にも止まらない早さでアッシュに襲いかかった。
が、剣技の方は本物のレベルには達していなかったらしく、難なく倒すことができた。倒れた瞬間、何かがアッシュの足元に転がって来た。それは、首・・まぎれもなくアッシュのそれだった。その首はアッシュを見ると、不気味に笑い・・闇に溶ける。
「・・・・・」
無言のまま突き進むアッシュ。試練はいくつあるのか?少しいらだちも感じながら。
そして次はアッシュの今の仲間。ヒルダたち4人が待ち受けていた。
口々に仲間殺しと罵り襲いかかってくる。が、一瞬ひるんだものの、アッシュは難なく倒す。もっとも心の片隅では、もし彼らが本物だったら・・という心配もあったが・・。ここまで来ては、もはや引くに引けれない状態でもあった。
そして、最後の試練。聖剣テスタロッサとの戦い。
いや、その前にアッシュはキリーを倒さなくてはならなかった。試練を放棄した者、その者は、もはや生きて塔からでること叶わない。何者かによって操られたキリーはアッシュの手によって死ぬことを望んだのかもしれない。
が、それを悔やむ暇もなくテスタロッサとの戦いが待っていた。
今までの塔での出来事ことを振り返る間もなく、アッシュはテスタロッサが待っているという部屋を探して塔を駆け回った。
そこへ通じる道への扉は、塔の中のどこかに4つある。3つは奈落への道。扉は1つしか開かない。アッシュは、それら4つの扉を確認すると、どれを選ぶか、しばらく考え込んだ。(勿論、そうしているうちも魔物の攻撃はある。)
「アッシュ、この部屋だよ!」
ふとヒルダの声と共に4つのうちの1つの扉とその周囲の地図が頭に浮かんだ。はっとしてあたりを見渡す。が、もちろんそこにヒルダがいるはずはない。
「よし・・・。」
アッシュは、すっと腰を上げると、群がる魔物をなぎ倒しながら、その扉へと急いだ。

『この場へと納められてより、遥かな時の中、多くの戦士が私を望んだが、ここまで辿り着けた者は、汝のみ。汝の力は私を手にするに相応しいに違いない。だが、力だけの者に聖剣は使いこなせぬ。私自身が試そう、お前がふさわしい者かどうか。』

無事その部屋に着いたのはよかったが、さすがのアッシュもこれには苦戦した。次々に分身して襲ってくるテスタロッサ。永遠に続くかと思ったほどの過酷な戦いだった。が、もう駄目かと思ったその時、倒れたのはアッシュではなくテスタロッサの方だった。
『お前は強い。今まで試練を受けた者の中には、少なからず悲しみが、後悔があったものだ。だが、お前の心は、すでにそれを越えている。私は永き眠りを止め、お前の手に渡ることにしよう。』
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空を見上げていた顔をゆっくりとおろすとアッシュはぽつりと言ったんだ。
「キリーは・・死んだ。試練を放棄し、塔に飲み込まれて・・いや、俺が殺したんだ。」
「ア、アッシュ・・?」
あたしは、アッシュの言葉に驚き、アッシュを見た。
「どのみち試練を放棄した者はこの塔から出ることはできん。」
アッシュは悲しげに塔を見上げた。
「中でころがっていた無数の白骨がそれを物語っていた。キリーは、塔の主にとりつかれてた・・・いや、塔で死んだ剣士たちの霊かもしれん・・そいつが言った、『これが最後の試練だ。情けをかける者にテスタロッサを得る資格はない。』と。倒れたキリーの身体からそいつが去ると、奴が苦しげな息の下で言ったんだ。『へっ・・神に近づくなんて、俺には役不足だったな。もっと強くなりたかったよ、ウォーレンのように。・・そして、あんたのように・・・。』そして、奴の身体は奴の剣と一緒に、地に吸い込まれるように消えてしまった。」
「そう・・・」
これからの、まだ若い子だったのに・・あたしは悲しくなっちまった。仕方ない事なんだけどさ。

「ヒルダ、お前の喜びそうなものがあるぞ。」
アッシュが、ガラガラと大袋から荷物を出した。
「塔の中で見つけたやつだ。」
「こ・・これって・・幻の、バスタ−ドソ−ド!?・・よ、4本も?」
すんなり延びた赤い刀身、長剣を感じさせない軽さ、切れ味は・・・怖いくらいよさそう・・確かにバスタ−ドソ−ドだった。サンダーブレードのような威力はないけど、その扱いやすさと切れ味の良さは、伝説になってるくらいだ。
「すごおーい!」
あたしは目を丸くして驚いた。一本はヒースに持たせても、後のは高値で売れるよ。あたしは思わずにんまりしてしまった。
「現金なやつだぜ・・でも、そこがヒルダのいいところだけどな。」
ランディが笑っている。
「いつまでも落ち込んでて、たまるっかってんだ!」
「そうそう・・それでこそ、ヒルダだ!俺の惚れた女だぜ。」
「あんたに惚れられたくないねっ!」
あたしはランディにあっかんべーしてやった。
「ったく・・その口の悪いのさえ、も少しなんとかなりゃあな・・・」
「悪かったね!これは、生まれつきだから、治んないのさ!」
「だけど、俺、知ってんだぜ・・」
「何を?」
「お前が口ほど、悪い女じゃないってことをな。」
「何バカ言ってんだい・・ったく!」
ランディに思ってもみないことを言われ、あたしは頬が火照るのを感じてた。目を合わせれなくて、見てもいないのに、剣をひっくり返しては見る振りをしてた。

「それが、聖剣テスタロッサか?どれ、私にも見せてはくれまいか?」
はっとして振り返ると、いつの間に来たのか、グリムが立っていた。
アッシュが差し出して、グリムにテスタロッサを見せる。
「見事な・・・なんと、見事な・・・そして、なんという高貴な光。」
そう言ったと思った瞬間、グリムは、一瞬にして巨大な龍に変身した。
「ええーーーーーっ?!」
「悪く思わんでもらいたい。我が一族にはこの聖剣が必要なのだ。」
あたしたちが驚いているその一瞬に、グリムはその首でアッシュをなぎ倒し、テスタロッサを口にくわえると、空高く舞い上がった。
「なんだと?人の苦労を横取りしやがって!大体、てめえみたいな醜い奴が、なんで龍になれるんだ?」
頭に来たランディが消えていくグリムに罵倒を浴びせる。
「あんたが苦労したんじゃないだろ?」
「そりゃまぁ、そうだけどな・・・おい、アッシュ、どうするつもりだ?あれがないとヤ−ルは倒せないんだぜ?」
「・・・・・」
あたしたちは、顔を見合わせていた。
「いるとは思わないが、一応、沼地へ行ってみるか・・。何か情報があるかもしれん。」
アッシュのその一言と共にあたしたちは、歩き始めた。
だけど・・感情ってもんがないのかい?せっかく苦労して手に入れたってんのにさ。けろっとした顔してるんだよ、アッシュって。あたしの方が頭にきて真っ赤になってた。

外壁から空中庭園に出ると、何やらざわめきが聞こえた。それは、木々の間から聞こえてくるものだった。
『あいつがいる・・アリエル・・姿を変えている』
『恐ろしい男・・あいつに違いない・・・』
「?・・・・」
あたしは空耳かな?と思い、仲間にも聞かなかった。みんなも聞こえたんだろうか?

庭園の道を城の本館に向かって歩いて行くと、2階であった老人に会ったんだ。
「あの試練を乗り越えておきながら、まんまと老龍にたばかれおったか・・情けないことだ。」
「またお前か。他人の後をつけまわしやがって!」
ランディが睨みつける。
「だが、塔の試練を無に帰すのは、口惜しかろう。あれは、お前の剣。取り返すのが筋というもの。これをお前にくれてやろう。」
睨みつけるランディなど気にも止めず、老人はアッシュに龍の絵の刻まれたカギを差し出した。
「この城の地下には古き契約の元、龍が棲んでおった。これはその契約の間に通じるカギ。使うがよい。奴は、おそらくそこにおろう。」
なぜあたしたちの力になるのか理解できない。何とも怪しいじいさんだ。もちろんアッシュもそう感じてる。差し出されたカギを見たままじっとしている。
「おぬし、力を手に入れたいのだろう?ならば、テスタロッサを取り戻すが肝心。あの王を倒さぬ限り、力など得ることはできぬ。」
「アッシュ、こんな得体の知れないじいさんの言いなりになるのはしゃくだけど、そのカギはもらっておいた方がいいんじゃないかい?多分2階の開かなかった扉のだよ。龍の紋章が彫ってあったからね。」
アッシュがカギを受け取ると、その老人は笑い声を残し、あたしたちが見ている中、いずこへともなく消え去った。
「何だ、あのじいさんはよ?俺は得体の知れない、あんなしわくちゃじじいの言う事は信用しねえ方がいいような気がするがな・・・」
「そんな事言っても、他にどうするってんだよ?」
「そうだな・・・・」
ランディは少し考えてから言った。
「沼地だな・・やっぱし・・・飛びつくように言いなりになっちゃ、少ししゃくにさわるってもんだぜ?」
「・・まっ、そう言う考えもあるさね・・・」



**続く**


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