夢つむぎ

その11・試練の塔



3階は宝の宝庫だった・・と言っても宝石類はなかったんだけどね。
でも、嬉しかったよ、宝箱ん中にサンダーブレードを見つけた時は!
えっ?何でかって・・それはね、サンダーブレードは、幻の剣なのさ。それをかかげると、雷を呼べるんだ。アッシュの剣技の雷鳴の刃と同じ落雷の攻撃だよ。アッシュの剣技ほど威力はないけどさ。でも、これだと精神力は減らないから、一本あって悪いもんじゃない。それどころか、ずっと探索が楽になるはずさ。これならあたしやヒースも使えるしね!アンデッド系やボスモンスターにも効き目があるし・・・いいもん手にいれちゃったよ、全く!!プレートメイルも手に入れたし、これも町では売ってない品物なのさ。これは、アッシュしか装備できないけど、でも、ホント、嬉しいったらないね!

それはいいんだけどさ、モンスターは本当に手をやいちまうよ。だって、アンデッド系のモンスターとそうでない奴とがよく一緒に襲ってきたんだ。だから、アッシュの雷鳴の刃で、いつものように一掃できなくってさ・・でも、中庭なんかで修業した成果、(目的はお宝だったけどさ)ルオンは最高の術、『美しの門』を修得したし、ランディも『我は示す冥府の門』を、最もこれは精神力の消耗が激しいんで、もっぱら『力場創造』の方を繰り出してたけどね。これらは、アンデッド系もそうでないやつにも効き目があるし、複数の敵にOKという優れた技なんだ。ヒースも攻撃系の歌をマスターしたし、あたしもようやく雷鳴の刃まで出せるようになったんだ!そうそう、特記しておかなくっちゃいけないことが一つ。あの引っ込み思案のヒースが町に戻ったとき、なんとアッシュに頼んだんだ、剣技を教えてくれってさ。それこそ、もう冷や汗だらだらで・・夕食の時だったよ。あたしたちは、アッシュがどうするだろうって興味津々で見てたんだ。そしたら、短く一言、「来い。」今じゃ、ヒースもすっかり剣の使い手さ。でも、剣は非常用さね。普段は歌を歌いまくってるよ。ランディはちょっと頭にきてたみたいだけどさ、俺には断って、よりによってアッシュだとぉ?とか言ってさ。でも、ま、歌は魔法のみたいなもんだからね。剣は、近距離戦用にってとこだろ?いつも守ってもらってばかりじゃいけないって、あの子なりに考えた末なんだろうさ。
後は・・空中庭園で、やはり、普通では手に入らない、メンタリング、ユーリアスタッフといったすぐれ物が手に入った。メンタリングは精神力の消耗を半分に押さえてくれる物だし、ユーリアスタッフは回復魔法の効果があるのさ。だから、メンタリングは全員分集めたんだ。ちょっと苦労したけどね、中庭や空中庭園には、蛇のお化けのナーガや、蔦のモンスターのアイビィや猿のモンスターのアンバウンドがよく襲ってきたからね。アンバウンドなんて最初、あんまり可愛いもんだから、うっかり近寄ってしまって、噛み付かれてしまったよ。・・あんな可愛い猿も狂わせているんだね、この城は!催眠波を出してきたり、精神の技を使って、弱みに付け込むのさ。・・それにかかると、昔の悲しいことを思い出しちまってさ・・・そうして、悲しみに沈んでる時に、がしっとくるんだ。そんな調子だから、ある程度強くなる前は、結構てこずっちまったさ。

その他では・・・空中庭園でいきなりバラの花が襲ってきた。まるであたしたちに恨みでもあるみたいな感じだった。で、やっつけたら、黄金色の実になっちまった。こんな小さなもの、何の役にたつのか?と思ったけど、何が役に立つか分からないってんで、一応とってある。ランディは「植物なのに、いっちょまえに血なんか流しやがって・・生意気だ!俺様の一張羅が汚れちまった!」なんて、ぶつくさ文句言ってた。

それと、書庫で、城の内部に関する本だとか、歴史の本だとかを見つけた。その本のおかげでヒースの探している『風の竪琴』がどれかの塔にあることもわかったし、地下に洞窟があることも。塔の宝としては、まだ剣もあるとか書いてあったけどね。ヒースの喜びようったらなかったね。なんでも聞く人の心を魅了せずにはいられない竪琴らしい。「見るだけで満足です。」なんてヒースは言うもんだから、あたしがしかってやったよ。ホントに欲がないんだからね、ぼうやは。も少し欲を出さないと世の中渡っていけやしないよ。

それから、歴史の本には、書庫の近くの部屋で見つけた『赤い石』の事が書いてあった。なんでも、ザムハンを守る龍との契約の石だとかで、一つは龍の元に、もう一つは王家の元に置くとか、両の目がそろうとき、深き地の扉が開く、とかなんとか・・それと、その龍との契約の地には、なんでも治す奇跡の泉がある、なんてことも書いてあった。城の地図からいって2階の開かなかった龍の紋章のついた扉からだろうと思うのさ。だけど、カギを見つけなきゃどうしようもない。えっ?あたしに開けろって?そりゃー開けれるもんならとっくにしてるさね!だけど、どうやっても開かないんだよ。相当頑丈にできてるってんだかね?宝箱にかかってるカギのようなわけには、いかないのさ。

そうそう、宝箱のカギには結構罠がしかけてあってね、毒針や短剣が飛び出す物ならまだしも、ここにきて失敗しちゃったよ。何がしかけてあったかと言うとだね、『死の灰』だったんだ!そう!それで、一回町に戻らなくちゃなんなかったんだ。それで、今度は、きちんと蘇生剤や復活剤を買ってきたんだけど・・・。もし、一人だったら・・・もうそこで、ジ・エンドだね。仲間がいてよかったよ!もっとも一人で回れるような所じゃないけどさ、この城は。

祭室もあったけど、きんきらきんなんてもんじゃなかった!全財力を投じて飾り付けしたって感じだね。それだけ祭ってある神を信仰してたんだろうけど・・でも、あれは、普通のものじゃないね、絶対!暗黒神、悪魔、悪神の類を祭るものだと思う。何とも言えない、いや〜な空気が漂ってた。その部屋の壁に隠し通路があった。モチ!そんなもん、あたしが簡単に見破ってやったさ!
そこから行った所の部屋にあったメモにこんな事が書いてあった、『にえは揃った。儀式は地下祭室において執り行う。短剣を宝物庫より持ちだし、古き儀礼に従え』どうやら、地下にも祭室があるらしいんだけど、今の所どこか分かっていない。その通路を奥へ行った宝物庫で、メモにあった短剣らしい(ルオンが言ってた)ルーン文字の刻まれた短剣があった。ルオンは血の匂いがするなんて、いつものごとく嬉しそうに目を細めてたよ。ホントに危ない坊主だよ!

外壁を突き当たりまで進むと塔があった。でも、何かの呪縛がかかっているのか、びくともしなかった。何か曰くありげに剣の道に生きるものがどうの、聖剣がどうのって書いてあったけどね。
中庭にあるもう一つの塔は、カギがかかってて入れなかった。『風に守られし聖なる塔』なんて書いてあったからね、ヒースが風の竪琴はここにあるのかも?って目を輝かせたんだけどさ・・・。

城の中にも開かない扉があった。一か所カギがかかってて入れないんだ。多分ヤール王のいる部屋、玉座の間の奥にでもあるんじゃないか、とあたしは睨んでいる。ヤール王を倒さないとこれ以上どこへもいけないみたいなんだけど・・全然歯が立たないのさ。そう、アッシュでさえも・・・
それに、そこまで行く途中もいっぱい兵士たちが出てきてさ・・・ま、普通の兵士なんか、アッシュ一人で十分さ。だけど、レジエンスは手強かったね。アンデッドなんだけどさ、ヴァルキリーか、はたまたワルキューレか、ってなもんで、強いのなんのって・・そいつが何人もかかってきた日にゃ、あんた・・・まぁ、なんとか倒した事は倒したけど・・・ランディはそいつらがピンクの鎧甲なもんだから、ピンクのねえちゃん、と呼んでたよ。ピンクと言ってもお色気の意味じゃないさ、もちろん!でも、ピンクよりもうちょっと紫っぽいけどさ。

そして、ヤール王とのお目見え。
扉を開けると、死人のような青ざめた顔をしたヤール王が玉座に座っているのが、見えたんだ。体中から気迫のようなもんを発してたね。奴は、あたしたちを睨むと言った。
「お前たちか、あれが呼んだ旅人は。なるほど、封印すら解くことのできなかった今までの愚か者とは、様子が違うようだ。しかし、所詮はあれの噂に浮かされ、野獣のごとき戦いを経て、ここまで来たのであろう。どす黒い野心に満ちた者たちとなんら変わらぬわ。だが、これ以上、この城で、勝手を許すわけにはいかぬ。この城を侵した咎を知るがよい。ザムハンの王、ヤールの名において成敗してくれる!」
そして、王の攻撃、まるで、アッシュのように、いや、それ以上の腕だ!すごい気を発して斬り掛かって来たんだ。あたしたちの技や術なんかものともしない。全然効かないんだ!・・・あたしたちは、這々の体で逃げ出した。
で、困っちまって、今、その部屋の前の片隅にいるのさ・・他には行くところもないし・・・ランディなんか自分の魔法が効かないってことで、かなりプライドを傷つけられたらしい・・ぶすっとした顔で座り込んでる。勿論、ランディの『守護方陣』の魔法で、結界を張ってからね。そうでなきゃ、次から次へと兵士たちが来るからさ。
「あの男は、すさまじい怨念のようなエネルギーに支えられているようですな。さて、アッシュ、どうなさる気ですか?」
自分の術も全然効かなかったのに、ルオンは少しも気にしてないようだ。
「お困りの様子じゃな、旅の方。」
その声と生臭い臭いに私たちは、振り返った。そこには、森の沼にいた半魚人(?)のグリムが立っていた。
「だが、ごもっとも。王は無敵の将と唄われ、まして今では、すさまじい怨念の固まり。一筋縄では勝てぬ。だが、この城には、テスタロッサと言う剣がある。いかなる呪いをも浄化させるという聖剣じゃ。あの聖剣なら、王の魂を無に帰すことも叶おう。」
「わざわざそんな事を言いに、あの沼地からのこのこやって来たのかよ?どうも、あやしいな・・・。」
ランディが立ち上がると睨み付けながら言った。そう感じない方が不思議さね。
「疑うのもいいであろう。だが、今のおぬしらは、わしの助力が必要なはず。時を動かす号令がな。」
グリムはアッシュの額に手を差し延べる。すると、アッシュの額に何か紋が現れ、そして、消えた。
「戦士の血を持つ者。お前なら、あの試練を乗り越えられよう。塔へ行くがよい。試練の塔へ。」
グリムは言うだけ言うと、立ち去った。
「どうも気に入らないな。あの蛇頭。おい、あいつの言うことを間に受けるのか?」
ランディがアッシュに言う。
「・・・・」
何も言わず、外に向かって歩き出すアッシュ。当然、あたしたちもついていく。
だけど、蛇頭か・・・ランディもなかなか言うじゃないかい?ピッタシだ!

そして、あたしたちは、試練の塔に来た。前来たときは何げなしに読み過ごした文句が目に止まった。
「『剣の道に生きる者、己が一人で勇気を示せ。試練に耐えし者のみ、聖剣は与えられよう。』・・・か・・・どうやら、ここは、お前しか入れないって事だな。」
ランディが声に出してそれを読んでから、アッシュを見た。
アッシュは黙って扉に寄る。
「おい、ちょっと待てって!そう、急くんじゃないぜ、アッシュ。」
ランディがアッシュを止める。
「ランプ持ってっか?」
「・・・確かもうないと思ったが・・・」
しばらく考えてから答えるアッシュ。
魔法のランプは、数回使うと魔法力がなくなり、空間感知の力はなくなる。ランディが空間感知の魔法を身につけてから、使う機会もないので、ここんところ買わなかったんだ。
「じゃ、一旦町に戻ろうぜ。急がば回れ。急いては事をしそんじるってな。」
「そっか・・そうだね!それがいいね!試練の塔ってんだから、仕掛けもいろいろあるはずだよ。一方通行の扉だとか、隠しドア、もしくは、2階にあったような床がぐるぐる回っちまって、方向が分かんなくなっちまう奴とか・・いろいろね!」
「そうだな・・・」
アッシュも賛成のようだ。石橋を叩いて渡る感じでいかないと・・何があるか分かりゃしないからね。

ランディの魔法で町に戻る。でももう夜遅いってんで、店は閉まってた。仕方なく宿に泊まることにした。
「やっぱり、宿の食事はいいね。風呂にも入れてさっぱりするし。」
あたしたちは遅い夕食を取っていた。
「ヒルダも女だな、やっぱし。」
ランディがじっと私を見ている。
「な、何よ?」
「いいや、別に・・・」
「そうだ、アッシュ・・」
ランディはあたしからアッシュに視線を移す。
「天才魔法使いがそばにいるおかげで、そろそろ石頭が柔らかくなったんじゃねえか?ここらで一発魔法を覚えてみねえか?多少バカでもお前みたいに図太けりゃ、使いものになるかもしれねえぜ。特別に俺様が教えてやるからよ!」
アッシュは一旦ランディを見たものの、何も言わず、再び食べ始める。
「おい、聞いてんのか?そうすりゃ、ランプなんてかさばるもんをいくつも持って歩く必要もなくなるぜ。最もすこ〜し修業しなくちゃなんねえがよ。」
「そんな時間ないだろ?」
アッシュの代わりにあたしが答える。
「だけどよ、いくついるか分かんねえぜ?だから、俺はその方がいいと思うんだけどな・・ま、俺に任せておきゃあ、すぐ使えるようになるさ。なんて言っても世界一の天才だからな。」
「なかなか使えるようにならなかったじゃないのさ?空間感知の魔法?」
「う・・うるせえな!あの時と今と違うんだ!心配いらねえって!」
「すおーかねぇ・・・?」
「だーいじょおぶだって!世界一の魔導士のこのランディ様に任せておけば、間違いないって!なっ、アッシュ?」
「・・・・・」
「なんだよ?俺様の好意を無にするってのか?さすがだな・・いい度胸してるじゃないか?」
「はん!アッシュはね、どこかの賞金首と違うんだよ!剣一筋さ!魔法なんかに浮気するもんかね!」
「なんだよ?その賞金首って?」
「盗賊仲間から聞いたんだけど・・なんでもすご腕の剣士だってんだけどさ、どこかの曰くありげの穴に落っこちて、出てきた時にゃ、魔法も使うようになってたんだってさ。」
「ほお・・魔法剣士ってわけか・・なかなかやるじゃないか?」
「へん!剣に生きる者なら剣一本でいくべきだよ!魔法に頼るなんて邪道だね!」
「だけどよ、その穴から出るにゃ、そうしなきゃ仕方なかったのかもしれないぜ。」
「まぁ、そりゃそうかもしれないけどさ。あたしは、嫌いだね!」
「・・・何もお前に教えるって言っちゃいねえよ。おい、アッシュ、いるのか、いらねえのか、はっきり言えよ!」
結局、アッシュは教えてもらわなかった。そりゃそうだ、一緒に行動してるとはいえ、どっちかと言うとあんまり快く思ってないみたいだもんね。お互い。だから、ランディなんかに頭を下げるのは願い下げってとこなんだろうさ。

で、次の日、ランプを3つほど買って、試練の塔にアッシュは一人で入って行った。
あたしたちも、どさくさに紛れて入っちゃおうと思ったんだけどさ、吹き飛ばされちまったよ。

でも、本当に大丈夫なのかねえ・・・?アッシュの事だから、大丈夫だと思うけどさ。いったい中で、何が起こってるんだろ?
「どうか、一分でも、一秒でも早く、アッシュが聖剣テスタロッサを手に入れて、無事帰って来ますように!」
あたしは、そう呟きながら塔を見上げてた。


**続く**


Thank  you  for  your  reading!(^-^)

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