夢つむぎ

その6・アッシュ2人


 

 「聞いてもいいかい?気になってたんだけど、この町では子供を見ないね。ここには子供はいないのかい?」
町に戻るとまず長老を訪ねた。タルシスの事は知らないみたいだけど、あたしは気になってた事を聞いたんだ。
「ほっほっほっ、子供ですかな?この地は時の流れの中に浮かぶ町。どうして新しい生命が必要となりましょうか?かつてはこの町にも子供はおりましたとも。今となっては過去の記憶ですじゃ。あなたがたの知らぬ遠い遠い昔の・・・・」
そう言った長老の顔からはいつもの笑みが消え、悲しげに目を伏せた。
「時の流れに浮かぶ・・・?」
そう呟いたあたしには何も答えず、悲しそうに首を振ると長老は奥へと入って行った。

必要なものを取り揃えると宿で一泊し、翌朝あたしたちはさっそくニーグ神殿へと向かった。あたしはまだその神殿へは行ったことがなかったので、道々ランディに聞いたんだ。
ランディたちは城の封印を解く為にそこへは既に行ったって事だった。鏡がいっぱいあって、ラスムスとかいう偉い人がその仕掛けを作ったんだそうだ。やはりそこの一室で見つけたという水晶の柱をかざすと鏡を通り抜ける事が出来るんだって。面白そうじゃないか?そのラスムスは王に意見しに行ってそのまま帰らなかったってことだけど・・地下墓地にいた男も言ってたし・・まぁ、相手が気の狂っちまった王じゃどうにもならなかったんだろうね。

風雨の侵食にまかせっぱなしで廃墟と化したその神殿は、それでも地下にある祭僧の間はそれほどでもなかった。もっともモンスター共の住みかになってはいたけどね。狂った門番から託されたとかいう指輪、キーリングを使ってそこへ下りた。その地下、回廊を塞ぐように立っている一体の巨像、あたしたちはその像の手前に立った。ここから先以外は全て調べたという事だった。
「もう一歩進むと巨像が動き出して奥へ行けないんだろ?どうすりゃいいんだい?」「あ・・あの・・アッシュさん、地下室の亡霊の言っていたのはこの像のことじゃないでしょうか?試しにあの笛を吹いてみましょうか?」
珍しくヒースが遠慮しならがも自分の意見を言った。
「そっか、試してみる価値はあるね?」
アッシュはいつものごとく何も言わないけど、反論する様子もなさそうだ。
ヒースは土笛を取り出すと静かにメロディーを奏でた。
すると、その音に触発されたかのように地鳴りのような低い声が回廊に響いた。
「主よ、我は汝の命に従う。しかるべきときに我が力を使いたまえ。」
目の前の巨像は、みるみる間に小さくなりちょうど手に乗るくらいの土人形と化した。
「うわぁっ!かっわいいっ!」
あたしはそれを拾い上げるとしばらく見ていた。
「これがさっきまでの巨像と同じだなんて信じられないよ・・・」
「ホントですね。」
ヒースも土笛をしまうとあたしの手の上の人形を見ながら言った。
「んじゃ、これでタルシスを倒せれるってことかな?そうとなったら早速行こうぜ。」「ちょっと待っとくれよ、ランディ。この奥は入った事ないんだろ?巨像が守っていたんだ、どんなにすごいお宝があることか・・・」
「んじゃ一応行こうか?」
その回廊の奥の小部屋の祭壇にはニーグの奇跡の玉とかいう銀色の玉があった。台座は2つあったんだけど、もう片方は誰かが持って行ったのか。それとも使ったのか知らないけど、空だった。で、とにかく、あたしたちは、その銀の玉を持ってきた。

そして、再び地下へ、タルシスがいる部屋へとやってきた。その土人形をタルシスのサークルの上に置くと辺りに激しい地響きが起こり、その振動がサークルにひびを入れた。するとうめき声に似たような音と共に光が失われた。
「あっ!人形が!」
その土人形もまたその中へと吸い込まれていき、宙に浮いた心臓だけがその赤みをいっそう増した。
その心臓に手を延ばそうとした時だった。影がその周りにぼんやりと集まり、やがてそれはタルシスの姿を形作って行った。奴はすさまじい形相であたしたちを睨みつけ、そして、大剣を持ち直すと、ものすごい勢いで襲いかかってきた。

だけど、再生の輪のなくなったタルシスなんてアッシュの相手じゃなかったね。全く、惚れ直しちまいそうな程いい腕っぷしだよ、アッシュは。ルオンやランディの術なんて全然効き目がなかったんだ。まぁ、勿論あたしの剣なんて簡単に交わされちまったからそう馬鹿にはできないけどね。とにかくアッシュ一人でやっつけたってわけさ。
これで地下墓地の開かなかった扉の封印も解けただろうしね。多分あの部屋に城の大扉の仕掛けがあるんだと思うわけさ。これでいよいよ本格的にお宝の探索ができるってもんさね。ううう・・腕がなるぅ〜・・・

って事で、簡単にその仕掛けの罠も見破り、そう、もし失敗したら胴と首とはおさらばしてただろうね。そしていよいよ城の中へ・・・・。
・・・はよかったんだよね〜・・・・・ふう・・・
えっ?何ため息ついてんのかって?・・そりゃ〜あんた・・・あれだよ、あれ・・もうっ!じれったいね!察してくれてもいいじゃないのさ?・・
「な〜にを一人でぶつくさ言ってんだ、ヒルダ?」
声のした方を見るとほほ笑みながら近づいてくるランディの姿があった。
「えっ?・・な〜んだ、ランディかぁ・・・」
そう、ここは城の中じゃなくって宿屋の1階、食堂兼バーになってるとこの隅。ランディはイスをひくと勝手にあたしの横に腰掛けた。
「ランディかぁ・・はないぜ、ヒルダ。町までそっと抱いてきてやったナイトに向かって言う言葉か?」
「はん!あんたに頼んだ覚えはないよ!」
「俺もこいつと同じやつな。」
ランディはにこにこして近寄ってきた宿の親父にそう頼むと、あたしの方に向き直った。
「ふん、アッシュってか?よせよせ、あんな無口で物騒な奴。俺様にしておけって!大事にしてやるぜ。」
「な〜にが大事にだよ!女なら誰でもいいんだろ?」
「馬鹿言っちゃいけないぜ。俺様の審美眼に適う奴なんておいそれといやしねぇよ。そこへ行くとヒルダ、お前は・・りっぱに、合格さ・・」
いきなりランディはあたしのあごに手をかけそっぽを向いてるあたしの顔を自分の方へ向けた。
−−バシッ!!−−
あたしはその手を思いっきり叩いてやった。
「ってぇ〜・・・・」
「あんたは女なら誰でもいいんだよ。大広間へ入った時だってそうじゃないか?セラクの幻影術とも気づかないでさ、綺麗な女官に囲まれて鼻の下をだら〜っと伸ばしてちゃって、だらしないったらありゃしないよ!町に戻れば戻ったで魔法屋の女主人のところに入り浸りだろ?」
「・・ってヒルダ、それってもしかしたら、やきもち・・・」
にんまりとランディは少しからかうように言う。
−−ドンッ!−−
あたしは呑みかけていたビールを勢いよくテーブルに置くとがたっと立ち上がった。「勝手に言ってな、うぬぼれ野郎!」
「あっ、おい、ヒルダ!」
あたしは呼び止めるランディを無視し、2階に上がると部屋に入った。

「ったく、あのお調子男!虫酸が走るよ!」
とにかく、あの大扉を開けて中へ入ったんだ。そこは大広間になってて、食事の支度ができてたってわけさ。もっともさっきも言ったけど、セラクの術。ゾンビが給仕に化けてたんだ。あたしは最初から怪しいと睨んでたのに、あの馬鹿ランディったら・・・・あっ・・あんな奴の事はどうでもいいけどさ。で、奴らを倒してその奥に入ったんだ。奥は謁見の間だった。そこを真ん中として、まずあたしたちは左側を調べに行ったんだけど、行き止まりだった。なんか神殿みたいに鏡が並べて飾ってあったけど、水晶柱を使っても通り抜けれなかったし・・ランディの空間感知の魔法によると(そう、ようやく感知できるようになったってわけさ。)部屋があるんだけどね。で、仕方なく反対の方に行ったんだ。そしたら・・そこで・・・

「ア、アッシュさんって双子だったんですか?」
その扉を開け中に入ると同時にヒースが叫んだ。あたしも目を見張っていた。アッシュと瓜二つの男が前方のもやの中に立っている。あたしは思わず斜め前にいるアッシュとそいつとをしげしげと比べちまった。みんなが戸惑っている間にそいつは攻撃を仕掛けてきた。そのすごいのなんのって。まるっきりアッシュと一緒だ。その剣の使い方といい、剣技にといい・・・その上、こっちの攻撃はものともしない。それどころかどういうわけか、あたしたちの攻撃は全てこっちのアッシュ本人を傷つけるんだ。勿論、アッシュ本人の攻撃も。自分で自分を攻撃なんて、なんともへんてこな事になっちゃって・・・アッシュを魔法で回復させるとそいつも回復してるって状態で、もう戦闘にならなかった。ランディも珍しくアッシュに悪口言ってたね・・「あんたは仲間殺しだけじゃなく自分も殺すのか?」って・・そりゃもう、きつかったなんて言うもんじゃなかったからね、奴の攻撃は!でも、それに懲りて仲間から抜けるって事もないみたいだけどさ。ランディもあれじゃないかい?機会があったらアッシュと手合わせしてみたいんじゃ?・・・どのみちアッシュを信用してはいないってことだね・・・ルオンの時と一緒で言い返すわけでもなし・・あの御人も何を考えてるんだか・・・・・?

まぁ、それはそれとして、お陰で命からがら逃げてきたっていうのがランディの言い分。えっ?どう言う事だって?・・だからぁ・・さっきも言いかけただろ?・・つまり・・あたしは最後まで(と言っても相手を倒したわけじゃないけど)もたずに倒れちまったってわけだよ。あたしとした事があんな女ったらしに抱えられてきたなんて・・・一生の不覚だよ、ったく!

だけど・・・どうしたもんかねぇ・・・・・・困っちまったよ。どうやったらあいつを倒せれるのか・・・今までの事から考えてみて、あれは幻影の術に長けたセラクの仕業に違いないと思うんだけど・・・解決策が・・・う〜ん・・・・・


**続く**


Thank  you  for  your  reading!(^-^)

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