夢つむぎ

その3・地の守護者


 

−−ギィィィィィィ−−
前来たときには開かなかった地下への扉が、まるであたしたちを待っていたかのように何もしないのにそこまで行くと、重い音をたてて開いた。
扉が開くと同時にかび臭い風が吹き上がる。
「気持ち悪い風だねぇ・・・・こりゃーかびだけじゃないね。死臭ってんのかね、そんなのも混ざってるような気がするよ。」
「多分、地下墓地なんじゃないでしょうか、そういう類が結構多いんですよ。こういう造りは。」
顔色一つ、表情一つ変えず、ルオンはさらっと言った。やっぱり、この坊主はパスだ。こいつの方が、余程うさんくさい。一体、何を考えてんのかさっぱりわかりゃしない!
そこへいくとランディは、いいね、単純で。アッシュも・・・・何を考えてるかわからないけど、でもこのおっさんほどじゃない。さっぱりしてるってもんさね。

どうやら本当に地下墓地らしい、かびと死臭、階段を下りるとむせかえるくらい匂ってきた。目の前に扉があった。あたしは念入りにそれを調べた。だって、もし、入って出れないなんて事になったら・・・あんた・・・。あたしは、まだ死人の仲間にゃなりたくないんだ!

「アッシュ、こいつは一方通行の扉だよ。どうする?」
「・・・・・・・・。」
あたしの質問なんか気にとめてないかのようにアッシュは前方を見つめている。まるで行くのが当たり前だと言うように。
「ったく、こんな時もだんまりかい!分かったよ、入りゃいいんだろ、入りゃ!」あたしは勢い良く扉を開けた。
「もうどうにでもなれってんだ。どっかに出口くらいあるだろう!!」
扉を開けた途端、一層冷たい空気が肌をさした。だけどそれよりもあたしたちは、目の前の青白いもやのような者に釘付けになっていた。異様な気配を感じていたのさ。
それは、ゆっくりとあたしたちの方に近づいてきた。近づくにつれ、そのもやの中に男がいるのが分かった。そうして、あたしたちの目の前には鎧を身にまとい、手には巨大な剣を持った男が立ちはだかった。その男の鎧からは、腐肉がはみでており、死臭を放っていた。
あたしの一番嫌いなマッチョマンタイプのタコ入道。顔に入れ墨なんかしちゃってさ・・思わず後ろに下がっちまったよ。
「待っておったぞ、俺の獲物。俺の名はタルシス。ヤール様に使える地の守護者だ。ねずみ共、ここがどこか知っているか?ここは、ザムハンと王の栄光のために戦い名誉の死を遂げた戦士たちの墓場だ。聞こえよう、亡霊戦士達がお前たちの来訪を歓迎して闇の中より蘇ってきたのが。」
タルシスが叫び声を上げると、壁の中で眠っていた死体が目を開き、手を延ばしながら一斉にこっちに向かってきた。
「げげぇっっ!ゾンビなんか嫌いだよ!!」
「あんたは、俺の後ろに隠れてな。いくぞ・・『我は放つ光の白刃!』」
「ぎぇぇぇぇぇぇ・・・・」
「すっごい、ランディ、全員に効くんだね、その呪文!」
「まあな、今までアッシュにまかせてきたがな。これくらいチョロイもんよ。」
「でも・・・まだこっちに向かって来るよ?」
「げっ・・・・んじゃ、もう一発!」
「『雷鳴の刃!』」
剣を抜いたアッシュが一振りする。
「ぎぃええええええええええ!!!」
「やっりぃ!!やっぱりアッシュだね!いちころだ。」
「でもまだタルシスが残ってますよ。奴に雷鳴の刃は効かないようです。」
「あんたはホントにすましてるんだね、ルオン。」
「冷静と言ってもらいたいものですね、レディ。では・・・『業火!』」
見物人のように後ろに立っていたルオンが静かに呟く。多少は効いてるみたいだけど・・・あまり効き目がないみたいだ。ルオンはそれを知ってか知らずか他の人にまかせておけばいいとでもいった感じ。沈着冷静と言えば聞こえがいいけど、非協力的だよ。仲間意識なんてこれっぽっちもないみたいだ。なんの為に一緒に行動してるのか疑いたくなるね。
「先に俺の攻撃が効いてたおかげだぜ。じゃ、もう一発『我は放つ光の白刃!』」
「んじゃ、あたしは・・・・この火薬玉でも・・・せ−のぉ!」
アッシュは剣技が効かないと判断すると、その剣を持ち直し、タルシスに突進していった。そしてあたしは火薬玉を奴に投げつけた・・・・・でもよけられちゃったけど。
でも、まぁ・・・アッシュの直接攻撃が一番効いたんだろうね。
最初に大きなことを言ったわりには、奴は、あっけなく倒れてしまった・・んだけど・・。

「ふふふふふ・・・・」
やっぱりそう簡単には死んではくれなかった。地に伏し、息絶えたかのように見えたタルシスの身体が再びゆっくりと動きだし、首をもたげた。その不気味な笑顔にあたしは氷つくような寒けを覚えた。
「そこの男、気に入ったぞ。お前の剣は血の臭いがする。お前の後ろには大勢の死人の臭いがする。お前には、我が手でお前に相応しい死を与えてやらねばな。ふふふふふ、はーっはっはっはぁ!」
タルシスはゆっくりとその身体を闇に溶かしていった。
「やはり死人は死神を好むというわけですか。破滅を呼ぶ戦士と死せる者、さぞやいい勝負となることでしょうね。」
ルオンがその顔に少し微笑みを浮かべながらアッシュに言う。
「そういうあんたはどうなのさ?坊主の端くれなら浄化ってので、死に損ないを一層したらどうだい?」
あたしはルオンのいやみったらしい言い方に頭にきていた。
「あいにくと浄化は私の教義ではありませんのでね。むしろ死せるものは私の味方なのですよ、レディ。それに私の力はあなたのような方の為にあるのですよ、レディ。」
「ったく、レディって言うのはよしとくれって言っただろ?あたしにはヒルダって名前があるんだから。」
「わかりました、レディ・ヒルダ。」
「よしなって、そんなくそ坊主相手にするこたぁないぜ。」
頭にきてルオンにくってかかろうとしたあたしをランディが制した。
「そいつはきっと俺たちの仲間ってより、ここの城の仲間って言った方がいいぜ。あんたも気をつけな、アッシュ。寝首をかかれないようにな!」
「ふふふ、そうお思いになられるのなら、それはそれで勝手ですがね。」
「こ・・・このくそぼうず!!」
あたしはもう我慢の限界だった。そのなんとも言えないルオンの厭味ったらしい笑みが、ただでさえ滅入っていたあたしの気分を逆撫でした。もうこれ以上こんなおっさんと一緒にいたくない。
「おいてくぞ。」
「あっ、待ってよぉ、アッシュ。」
「おい、ちょっと待てよ!」
結局、どんどん先に進むアッシュの後を追いかけるようにして、ついていったのさ。勿論あのくそぼうずも!

地下墓地というだけあって、モンスターはいっぱいでた。勿論、ゾンビやスケルトンが多かったけど。でも、なめくじやムカデの親分のような奴とかスライムも出た。だけど何が出てもアッシュの『雷鳴の刃』でいちころだったね。さすがだ!でもその技が効かない奴が出ると・・・・手こずっちまったよ。『ベックコン』とかいう奴なんだけど、青白い手がいっぱいでてくるんだ。多分死人の手なんだろうけど。なんとも言えない気もちの悪さだよ。あいつらは、催眠波を出して来るんだ。アッシュは『紅蓮の刃』とかいう技で2匹ずつやっつけては、くれるんだけど。あたしの攻撃なんてものともしないし、ルオンの呪文もあまり効き目がない。ランディの『焦炎烈火』は、結構効き目あるんだよね。でも催眠波でよく眠らされちゃうわけさ。ランディーだけじゃなくて、あたしもだけどアッシュやルオンもね。まぁ、一度に全員って事がなかったからよかったけどさ。それに案外すぐ効き目が切れるんだよ。かかりやすいけど、切れやすいんだねきっと。でも奴らの攻撃は結構きついんだ。その冷たい手でら触られただけでもぞぞっときて動けなくなってしまうのに、その爪がまたすごく尖ってて、刃物みたいなんだ。だからもうたまんなかった。グスっと身体に刺してきて、ぐぐぐぐぐ、とそのまま引っ掻くんだから・・・。思い出しただけでの身震いがする・・・。と言うわけで、ルオンのくそ坊主が死んじまったんで、今は町にいる。あたしやランディは、そんな奴ほかっておけばいいと思ったんだけど、アッシュがさっさと『EXIT』のスクロールを使って戻ってきちまったんだよ。EXITを持ってるんなら持ってるって言ってくれればいいのにさ。地下からの出口を心配したあたしが馬鹿みたいじゃないのさ!ったく!せめて必要性のある事くらいは話してほしいもんだね、ホントに。でも、あの御仁は大したもんだね、ルオンに散々厭味を言われてるのに、全然気にしてないみたいなんだ。やっぱり、『仲間殺し』ってのは、嘘だね。すっごく仲間想いだ。態度はそっけないけどね。う〜ん・・やっぱり、あまりにも強すぎて生き残ったのが、そう取られちゃったのかな?で、運悪くアッシュのいた軍が敗北した・・・と。まぁ、そんな所かな?今日も今日とて、あたしたちの分まで宿代は、払ってくれちゃったし、おかげで、無一文に近かったあたしは、こうして宿でゆっくり休めて、大助かりだけどさ。

ルオンは町に着くとすぐ施術師のところに連れていき、術師の蘇生術で生き返らせてもらった。あんな嫌味な奴ほかっとけばいいのにさ。・・でも、僧魔法の使い手だから、やっぱりあの城の探索には必要かな?他に癒しの術を使える者がいないからねぇ・・・

窓の外を見ていたあたしは、部屋の下、つまり宿の中庭にアッシュが一人でいるのを見つけた。石のベンチに座ってじっと考え事でもしているみたいだ。あたしは、早速下りて行った。

でも・・どうも近寄りがたい雰囲気なんだよね・・・・アッシュに頼みたい事があるんだけど。
「誰だ?」
後ろの茂みにいたあたしの気配を感じたのか、アッシュはこっちを振り向いた。
「ご・・ごめん。邪魔しちゃったかい?」
あたしは、おずおずと茂みから出ていった。アッシュは、そんなあたしを気にも止めないで、また前を向きなおした。あたしは、どうしようか迷ったんだけど、勇気を出してアッシュの前に行くと頼んでみた。
「アッシュ・・頼みがあるんだけど・・・。あ、あのさ・・・・あたしに、剣の手ほどきをしてくれないかい?独学じゃ、うまくなりゃしないからね。」

気分良く、とは言えないと思うけど、でも一応アッシュはその晩あたしに剣の手ほどきをしてくれた。基本動作って言うんだろうね、あとは、自分次第という事だったけど。
でも、それとは別にあたしが期待してた進展は、全然なかった。あれでも男なんだろうか。生真面目なんだろうか、アッシュって。女嫌いとか・・・?結構、わざと寄り掛かったりして挑発したんだけどさ、全然のってこないんだよね。あたし、ちょっと自信なくしちゃったよ。あげくの果てには『やる気がないなら止めるぞ』なんて言われてしまって・・生真面目な師匠を持つと弟子も大変だ。はははっ!こりゃ反対か・・・まさか、女として見てないとか・・?なんて事も考えちゃって、すっかり落ちこんじまったあたしだった。
でも、立ち直りの早いのもあたしの特技さ。今アッシュは、城の事しか頭にないのかもしれないし、まぁ、気長にいくとして、あたしも今は、お城の地下の探索に専念するとしようかね。そのうちチャンスを見てじっくり、迫ってやろうっと!



**続く**


Thank you for your reading!(^-^)

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