夢つむぎ

その2・封印解除


 

 「待ちかねておったぞ。城の封印を解いたのであろう。ここにおっても山のほうから波動を感じた。して、城の中の様子はどうであった?」
泥臭い沼の中から顔を出したグリムはあたし達の顔を見るなりそう言った。
「封印を解いた途端、面白い物を見たぜ。馬にまたがった騎士のような男だったがな。鬼神とでも言うのかな?まるで何かに取りつかれてでもいるような恐ろしい形相をした男だった。あんた知ってるかい?」
ランディは面白くもないといった感じでぶすっと答える。
「・・・あの方が・・・やはりあの方が動きだしたのか。ならば奴らが呼ばれるのもそう遅くはない。おぬしらが何を求めてあの城へ行く気かは知らぬ。だが、城の奥へ進むというのなら、覚悟する事じゃ。城の内は王とその側近とで守られておる。特に契約の元に王と城を守る四の守護者は、必ずやおぬしらの行く手を阻んでこよう。奴らは各々優れた才を持つ。気をつけることじゃ。さて、我等もこうしてはおれぬ。おぬしらが道を開いてくれたおかげで、一族の悲願が達成される日が来るやも知れぬ。」
グリムはそれだけ言うと再び沼のなかへ姿を消した。
「どうも面白くねぇなぁ・・・。」
グリムの消えた湖面を見つめながらランディが呟く。
「何となくチェスの駒みてえに動かされているような気がする。」
「でも、他に行くところはないんだよ。」
「そうです。ですが、例え行く場所は限られていても、そこでそれからどうするか、その先の道を選択するのは、私たち自身なのですよ。」
「俺たちの考えねぇ、、、。まぁいいか、行こうぜ。」
「行くぞ。」
あたしたちの不満など関係ないとでもいうように、アッシュは短く言うとその足を町へ運んだ。てっきりお城へ戻るとばかり思ったあたし達だけど、仕方なく彼の後をついて行った。
アッシュは本当に無口で、何を言っても相手にしてくれない。でもそこがまたいいんだけどね。

 「ついに、城の封印を完全に解かれたようですな。ならば、そろそろお話してもよいでしょう。あなた方をこの地に招いた者の事を。」
町につくと、律儀にもアッシュは真っ直ぐ長老の家へ行った。
この長老もな〜んかうさんくさい。にこやかな顔の下に何が隠されてるんだか・・何かある・・あの城だけじゃなく、この町も・・・
「あの城の奥には古より伝わる力が封印されており、それを解き放つ者を求めておりましてな。そうあなた方のような者をですじゃ。」
「気に入らねーな。確かにあの城に興味はある。だが、強制されて何かするってのは、どうも俺の趣味にあわねぇんだ。」
ランディがそっぽを向いたまま長老に不満気に言った。
「お腹立ちもございましょうが、元々あれは力を欲している者をこの地に招くと聞いております。ならば、あなた方にとってよき話ではないですかな?しかし、城には異形の者どもが住み着き、あまつさえ王はご乱心めされている様子。覚悟していただかねばなりませんぞ。そう言えば、先程、お二人の戦士がこの地へとおいでになりました。一人は若く、一人はアッシュ殿、あなたに似ておられた。あなた様と同じ臭いがするとでも申しましょうか、今頃は、宿で休まれていることでしょう。お会いになってみてはいかがでしょうかな?」
「あのなぁ・・あんたはいつも自分の言いたい事ばっか・・・」
ランディが長老に文句を言いかけるのも無視して、アッシュはさっさと家を出ていった。
「あっ、おい、アッシュ!!」
ランディはそう叫び、あたしたちは、また慌てて後を追う。

アッシュは長老に言われた通り、宿屋に来ていた。あたしは案外と素直なんだなぁと感心してしまった。だって、『死神アッシュ』なんだから、誰の言うことも聞かないと思ってたんだ。結構かわいいところもあるじゃん!
あたしたちと入れ違いに宿から二人の男が出てきた。
一人は長老の言ったとおりアッシュと同じ臭いがする感じのがっしりした戦士だ。
でも、あたしはアッシュの方がいいね。こいつもなかなかの腕前って雰囲気だけど顔がごつすぎる。
それに比べてもう一人の若い方は・・・一応戦士風の格好はしてるけど・・まだまだひよっこって感じだね。顔はごっついのとくらべりゃ雲泥の差。なかなかの美少年ってとこ・・かな?
「っと、ウォーレン、こいつらじゃないのか?町の奴らがしきりに言ってた先客ってのは?あんたたちも伝説を聞きつけてきたのかい?」
「止めておけ。行くぞ、キリー。」
若いほうの男が話しかけてきたのに、もう一人のごつい男が彼を制してさっさと歩いていってしまった。
「ご機嫌ななめだな。変だぜ、ウォーレン。じゃーな、縁があったらまた会おうぜ。」
若い男も彼の後を追って走っていってしまった。
「ちっ、せっかくあたし好みの男の子だったのに。」
「お前って案外気が多いんだな。」
ランディが呆れたような顔をしてあたしにそう言った。
「あんたのような事はないさ。」
ランディなど無視して、あたしは宿屋に入っていったアッシュの後を追っ掛けた。

「どうも気に入らねーな、あの二人。うさんくさい奴らだぜ。」
「あんたにとっちゃ、男はみんなうさんくさいんじゃないのかい?」
宿屋の食堂であたしたちは夕食をとっていた。アッシュは無口だけど、結構気配りはしているみたいだ。あたしたちの事なんか無視してるかと思ったんだけど、きちんと部屋や食事も頼んであったんだ。噂と違うアッシュに少なからず戸惑いも覚えていた。だってそうだろ?噂じゃ、地獄の鬼も怖がる血に飢えた狂戦士なんだよ、でもあたしが実際に会ったアッシュは、約束もきちんと守り、無口なんだけど、仲間の事も考えてくれている、好青年なんだよね。見た目は怖そうで近寄り難いけど。噂は当てにならないっていうけど、ホントだね。でも、腕っぷしの方は噂通りだよ。リンクスなんかが団体で襲ってきても、あたしたちの出る幕なんてまるっきし無しだもんね。『雷鳴の刃』とか言って、剣を抜くと同時にもうおわっちまってるんだ。そのすごいのなんのって!!!
でも、も少し無口なのと、このぶっちょうずら、なんとかなんないかなぁ、顔自体は悪くないんだよね。苦虫を噛みつぶしてるって言う感じの顔つきがいけないんだ。最も今までの事があるからね、分かんないでもないけどさ。話しかけたくっても、何となくそんな雰囲気じゃなくって・・まだ一度も話した事ないんだ。どうでもいいランディはひっきりなしに話しかけてくるけどね。あたし、男のおしゃべりは好きじゃないのさ。それに、こいつは女好きみたいだし、おしゃれだしね。そこらにいる女より綺麗じゃないかと思うくらいだ。あっ、でも別におかまじゃないよ。んー、言わばナルシストって言おうか・・・自信過剰ってんのかな?自分に惚れない女はいないって思い込んじまってるアブない奴だよ。嫌いだね、こういうタイプは!!

んでもって、今も何だかんだと言ってあたしを口説こうとしてるんだ。あたしはそこらの尻の軽い女とはわけが違うんだからね、そう思いどおりにはいかないよっ!て事で、食事が済むと、早々と部屋に引き上げてきた。勿論ドアの鍵はしっかりかけた。盗賊のあたしがかけたんだ、開けれる奴などひとりもいないよ。アッシュは相手にしてくれそうもないから、明日の探索の為にゆっくり休養を取ろうと決めたあたしは、疲れがまだ残っていたのか、ベッドに入るとすぐ眠ってしまっていた。
 翌日の朝食の後、魔法の道具屋で『糸巻』と『ランプ』を買うと、あたしたちは早速お城へと向かった。『糸巻』は、ワープ魔法のアイテムだ。『ランプ』は、魔法の道具と言うだけあって、ただ明るくするだけじゃない。壁も見通して、周囲の様子を写す道具なのさ。そう、確か魔法にもそんな呪文があったはずだ。
「ちょいと、世界一の魔導士、ランディ!」
「なんだよ、ヒルダ?」
「あんた、もしかして、空間感知の魔法、使えないのかい?」
「う、うるさいなぁ!!俺は攻撃魔法専門なんだよ!文句あんのか?」
ランディはひらき直ったみたいに、言い返してきた。面白くなったあたしは、行く道、彼をからかい続けてやった。
「ふ〜ん・・・・世界一の魔導士が・・・。世界一ねぇ・・・・。」
「う、うるせぇ!!ち、ちょっと波長が合わねぇから、感知できねぇだけだ。ここは、普通じゃねーんだからな。魔導士ってのはデリケートなんだよ。ここの城の波長と合いさえすりゃー、どうってことねぇよ。そのうち慣れりゃできるようになるさ。」
赤くなって怒っているランディを見て、あたしはこいつもそう悪い奴じゃないな、と思った。
「ふ〜ん、デリケートねぇ・・。まっ、期待してるよ、世界一の魔導士さんっ!」
「ったく・・・女はもうちょっと可愛げがなくっちゃ・・・。」
「えっ、何?何か言った?」
「べ、べつに・・・。」
そんなあたしたちにお構い無しに、アッシュとルオンは歩いていた。
その日は、あたしとランディの漫才に呆気にとられたのか、リンクスもホーネットもシェリーカーも襲って来なかった。

そして、城門。その大きな扉を開け、城に入る。
一歩入った途端、にわかに笑い声のようなものが辺りに共鳴するかのように響きわたった。そして、低い声が辺りに響き渡る。
「獲物だ、獲物だ。どうやら我等の出番。歓迎してやらねばなるまい。誰が先に行くのだ?」
その声は天井からとも四方の壁からとも、そして、地下からとも聞こえた。その不気味な響き声は、城と共鳴しているようにも思えた。
「俺だ!俺にやらせろ!城の守りは俺一人で十分だ。お前たちは、再び眠りにつき、待っているがいい!」
地下から別の声が聞こえ、足元で何かが響くような音がした。
あたしたちが何事かと辺りを見回しているうちに、城は再び静まり返った。
「おい、絵が消えちまってるぜ。」
ランディのその声にはっとし、あたしたちは周りをみた。すると今までに壁や天井に不気味に浮かび上がっていた壁画が闇にとけるかのように見えなくなってしまっている。
「な・・なんなんだろうね、これは。」
「おもしれーじゃねーか!待ってろよ、後で俺がゆっくりデートしてやるからよ。」
ランディは腕がなるってんで、えらく張り切っているようだけど・・そう簡単にいくんだろうか、あたしは城の不気味さに寒気を感じていた。




**続く**


Thank you for your reading!(^-^)

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