Brandish4・外伝2 
[クレールの修行はつづく・・・] 
UeSyuさん投稿のBrandish4サイドストーリー・その2

 

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「・・・サフィーユ・・・私・・・どうすればいいの・・・」

クレールがこの森に潜むようになって、半年ほどが経った。ここは、トゥルカイア小国にある、通称「ブレイクマウンテン」と呼ばれる山の麓にある森である。

今からおよそ30年前、この「ブレイクマウンテン」は今の1.5倍ほどの高さがあった。それが、ある日突然一晩のうちに3分の1ほどが消滅していた。最初のうちは地震か地滑りが原因であろうと考えられていた。しかし、政府の派遣した調査隊の報告によると、崩れ落ちた土砂などが全くなかったそうだ。まるで、魔法で山の一部を吹き飛ばしたような状態であったらしい。

その報告が伝えられて以来、この現象は「神のたたり」と恐れられるようになり、ただでさえ人里離れた位置にあるこの山には誰も近づかなくなった。

そのため、クレールは身を隠すのに適していると考え、山の麓に住み着くこととなった。とりあえず今のところ、たたりのようなことは起こっていない。

しかし、クレールはまだ勝手に変身するのを押さえられないでいた。周りに人が誰もいないのでけが人などは出ないのだが、山や森が次々と破壊されていった。その破壊の様子は今までよりも激しさを増していた。さらに、その変身の間隔はすでに5日に1度と、かなり短くなっていた。
もちろん、クレールは修行を続けていた。そのおかげで、今やサフィーユをも遙かにしのぐ実力を身につけていた。しかし、自分の中に流れる「神の血」だけはどうしても押さえきることができなかった。

少し前には、クレールは「死」という方法すら考え始めていた。どうしてもこの「神の血」を押さえることができないのならばいっそ・・・。

しかし、それもクレールには実行できなかった。幼い頃に経験した「母の死」によって、クレールは人一倍「死」に対する恐怖心が強かった。いざとなるとどうしてもそれに踏み切ることができない。
たとえ意を決しで実行に移しても、どれも失敗に終わる。水に飛び込んでも魚に変身してしまう。溶岩に飛び込めば熱に強い形態になって勝手に上に上がってきてしまうのだ。
断食をして飢え死にしようともしてみた。しかし、変身している間に勝手に物を食べて栄養をとってしまうので、それもできなかった。

今のクレールはただただ絶望に打ちひしがれるしかなかった。いくら修行しても押さえられない、だからといって「死」を選ぶことすらできない・・・。やり場のない思いが鬱積してくる。

「もしこのままだと・・・私・・・あの破壊神になってしまう・・・」

その思いのせいか、常に頭にはこのことが浮かんでくる。クレールは恐怖した。全てを破壊し尽くす破壊神・・・自分がそれになろうとしているのかもしれないのだ。

「お願い・・・サフィーユ・・・助けて・・・!」

頭を抱えて大声で叫ぶクレール。しかし、その悲痛な叫びは誰にも届かなかった。肉体的にも精神的にもかなりまいってきたその時・・・

「どうしたの?何をとまどっているの?」

どこからともなく、女性の声が聞こえてきた。周囲を見回しても誰もいない。もっとも、今のクレールは生物の気配を敏感に感じ取れるようになっていたので、いちいち周囲を見回さなくてもそれは分かっていた。

「何もとまどう必要なんかないのよ。あなたの思うがままにすればいいの」

謎の声はさらに続いた。どことなく、甘い誘惑の念を感じるその声の主は、依然として姿を現さなかった。

「・・・誰!どこにいるの!?」

その問いには答えず、声は続いた。

「気に入らないやつはぶち倒し、壊したい物は皆壊す・・・それが、今のあなたの一番やりたいことでしょ?」
「・・・誰・・・?誰なのよぉ!」
「あなたにはその力がある。思う存分ふるいなさい・・・」

まるで、親が子供をあやすような感じで、その声はクレールに話しかけてきた。得体の知れないその声に、クレールは恐ろしさを感じていた。

「どこ・・・?どこにいるの・・・!」
「・・・いつでもあなたのそばにいるわ。いつだって、ね・・・」
「いやああああぁぁぁ!」

思わず耳をふさぎ、その場にうずくまるクレール。恐ろしさのあまり、激しくふるえだした。その時、クレールは、ふと目の前に人の気配を感じたような気がした。

「・・・・!ひぃ!」

目の前には自分がもう一人いた。しかし、その姿は変身しているときのものであった。思わず後ろに倒れ込んでしまうクレール。

「そんなに驚かなくてもいいでしょ?」
「・・・どうして・・・どうして・・・」
「そんなことはどうでもいいじゃない。早く、どこか街に行きましょうよ」
「・・・なぜ・・・!」
「わかってるんでしょ?自分の本当の気持ち」
「な・・・何のこと!?」
「・・・さっき、教えてあげたじゃない・・・?」

目の前のクレールは先ほどから笑顔でこちらを見つめていた。正体がわからないので、それが一層不気味であった。そのもう一人のクレールはさらに語り続けた。

「闘いたいんでしょ?思う存分。何にもとらわれることなく、自分の力を発揮してみたいんでしょ?」
「・・・いや・・・そんな事・・・」
「したくないって言うの?そんなはずはないでしょ?せっかくこんなすばらしい力を持っているのよ?」
「こんな力・・・こんな力、私は欲しくなかった・・・!」
「そんなこと言っても、生まれつき持っていた力なんだから仕方ないじゃない。だったら、いっそ思う存分楽しんだ方が得だと思わない?」

クレールは恐怖した。もう一人の自分の言うことが、自分の心の奥に潜む怪物に語りかけ、目覚めさせようとしている・・・。

「いやあああぁぁぁ・・・・!私は・・・!私はただ普通に、静かに平穏に暮らしたいだけなのよ!どうして、どうしてみんなわかってくれないのよぉ!」
「悔しいでしょ?自分だけ特別扱いを受けて、仲間はずれにされるのは」
「・・・!」
「修道院では無能呼ばわりされて、実力を付けたあとは『化け物』と呼ばれ恐れられ・・・。悔しいでしょ?」

クレールの心に何かがぐさりと突き刺さっていく。痛いところを的確に突かれている気分だ。

・・・もう一人の自分が、自分の心にしまっている思いを引きずり出している・・・もしかすると、このもう一人の私は自分の代弁者ではないのか・・・?

クレールはすぐにそれを否定しようと試みた。しかし、それはなかなかできなかった。確かに、自分の心にはそういう思いもあったからだ。

「その悔しさを、今まで仲間はずれにしてきた連中に、返してやろうとは思わない?」
「・・・」
「なにも恐れる必要はないわ。あなたは、『神の血』を持つ者・・・選ばれし者なのだから」
「いや・・・そんなのいや・・・!」
「あなたは何でもできる・・・今まで自分をのけ者にしてきた、全ての人間に対して復讐することだってね」
「これ以上、誰も傷つけたくない・・・!」
「その他人が、あなたに何をしてくれたって言うの?いじめられこそはすれ、誰も助けてくれなかったんでしょう?」
「・・・!それは・・・」
「そんな連中に遠慮する必要はないわ。思う存分力を発揮させて痛めつけてやればいいのよ」
「うわああああぁぁぁぁ・・・!」

クレールは半狂乱になっていた。頭を抱え、体中をふるわせ、涙を流しながら絶叫していた。これ以上、もう一人の自分の声を聞いていたら、頭がおかしくなってしまう・・・。その思いが浮かび上がった瞬間・・・

「ああああぁぁぁぁ・・・・!消え去れぇ!」

クレールは魔力を高め、全力で魔法弾をもう一人の自分に撃ち込んだ。辺り一面の木々がなぎ倒され、地面にはクレーターが口を開けた。クレールは変身してはいなかった。しかし、その状態でもすでに並はずれた魔力を手に入れていた。今までの修行の成果だ。

「フフフフ・・・それでいいのよ・・・」
「・・・!!!」
「どう・・・楽しいでしょ?物を壊すのって」
「はあ・・・はあ・・・」
「何も遠慮することはないのよ。思う存分、破壊の限りを尽くせばいいの。それが、今までのけ者にしてきた人々への復讐になるんだから・・・」
「い・・・言うなあああぁぁぁ・・・!」

クレールは次々と魔法を撃ち込んだ。しかし、どれも森の一部を消し飛ばすだけで、もう一人の自分には何ら影響を及ぼしていなかった。

「アハハハ・・・楽しそうね!あなた、今、すっごく楽しそうよ!」
「う・・・うるさい!」
「無理しなくていいのよ。もっと素直に楽しみましょう!アハハハ・・・」
「け・・・消してやる!私の心から、あなたを消してやる!」
「そんな事できないわよ。私は、あなたの本当の姿なのだから・・・」

その言葉を聞いた瞬間、クレールの中で何かがはじけて切れた。

「うわああああぁぁぁぁ!」

クレールはさらに魔法を撃ち続けた。次々と森が破壊されていった。

「どこ!どこにいるの!出てきなさい!卑怯者!」

すでにもう一人の自分の姿はクレールの視界から消え去っていた。しかし、クレールは何かに取り憑かれたようにその幻影を追いかけ、ひたすら魔法をうち続けた。

その時・・・

「おお、何じゃこれは!?雷でも落ちたのか!?」

その声を聞いて、クレールは我に返った。すると、森の中から一人の老人が現れた。

「何じゃ、おまえさんは?こんな所にいて、よく平気じゃったなあ。巻き込まれなかったのか?」

そう言われ、改めて周囲を見回した。その光景を見て、真っ青になるクレール・・・

「・・・私が・・・こんな事を・・・」

その破壊の光景を目にし、クレールはその場に泣き崩れた。それを見て、おろおろする謎の老人であった。

 

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