Brandish4・外伝2 
[クレールの修行はつづく・・・] 
UeSyuさん投稿のBrandish4サイドストーリー・その2

 

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あれ以降も、クレールはたびたび変身した。そして、その間隔はどんどんと短くなっていった。今では1ヶ月半に1回の割合ぐらいだ。

「もっと・・・もっと修行しなくては・・・!」

クレールはひたすら修行に打ち込んでいった。

そんなある日、クレールはまたもや変身してしまった。街からは結構離れた場所であったが、変身した後のクレールなら、少しの時間で街までたどり着いてしまうぐらいの距離でしかなかった。
その変身中、クレールは何か夢を見ているような感覚を味わった。真っ白な霧の中をさまよっているような、何とも言えない感覚だった。

「何か音が聞こえる・・・。人の声・・・!?」

それがどういうことか、その時ははっきりとはわからなかった。そして、しばらくして気がつくと、やはり破壊された街の中であった。その時、クレールはあることに気がついた。

・・・今、自分は妙に興奮している・・・なにか、満足感を満たされた感じでもある・・・

それも、今のクレールにははっきりと何であるか把握できなかった。

その時は変身を解いたところを見られなかったので、町の人に責められることはなかった。破壊した街の後かたづけを手伝い、けが人の手当をし、何事もななかったかのように修行の旅へと旅立っていった。そんなクレールに疑問が生じた。

・・・あの、真っ白な霧・・・そして、あの興奮・・・満足感・・・一体、あれは何だったんだろうか・・・

しばらくすると、その答えがはっきりしてきた。ある時のこと・・・

「今度は何だろう・・・ぼやけた感じがするけど、森の中をすごいスピードで走っている感じだわ・・・」

しばらくすると、霧の中に小さな村が見えてきた。森の中にある、静かな山村のようだ。そして、目の前の建物が音を立てて崩れ去った・・・。逃げまどう人々の悲鳴も聞こえる・・・。
自分に向かって、魔法弾を打ち込んできた者もいた。しかし、それは体に命中しても、まるで油が水をはじくようにかき消してしまった。

・・・クレールは目を覚ました。一体、今の夢は・・・そう思った瞬間、クレールは息が詰まりそうになった。

「い・・・今のは夢じゃない・・・!だ・・・だとすると・・・」

クレールは変身して暴れているときの意識がはっきりしてきていた。今見た破壊の光景は夢でも幻でもない。全て事実。まだうすらぼんやりとしか見えないが、その光景はクレールにとってショッキングなものであった。

「・・・どうして私があんなひどいことを・・・!」

またもや妙な興奮と満足感を味わいつつ、クレールは後悔と自責の念にとらわれていった・・・。


・・・それからしばらくして・・・

「待てよ、姉ちゃん!」

クレールは盗賊達に追われていた。

修行の成果もあってか、クレールは修道院でもかなりの上位ランクに入るほどの呪術の腕を身につけていた。修道院で今のクレールにかなう者など、サフィーユを含めて少数の者だけだろう。このような盗賊、闘えば簡単に勝てるのだが、ここ1年の変身しての破壊活動に恐怖しているクレールは、ただひたすら戦いをさけるようになっていた。

ひたすら森の中を逃げるクレール。エルフである彼女にとって、森の中は少し有利な場所ではあったが、相手は色々と鍛えてある盗賊達だ。徐々に追っ手との距離は縮まっていった。

「あ・・・!そんな!」

クレールの目の前に大きな崖が現れた。とても登っていけるような角度・高さではない。横に回ってもかなりの距離を進まないと先には進めそうもない。それに、盗賊達はクレールを中心とした円を描くように近づいてきた。横に逃げることはできなかった。追いつめられるクレール。

「もう逃げられないぜ。おとなしくしな。そうすれば、命だけは助けてやる」

崖を背に、ひどくおびえるクレール。そんなクレールに、盗賊団のボスらしき男が近づいてきた。

「さあ、かわいがってやるぜ・・・」

その時であった。クレールは、体中が熱くなり、頭の中が真っ白になるあの感覚を味わった。クレールにとって、もっとも恐ろしい恐怖の始まりを表す、あの感覚・・・。

「・・・く・・・」
「何だ、こいつ?」

その場にうずくまるクレール。盗賊達は不思議に思った。

「早く・・・早くみんな逃げてぇ!」
「何言ってんだこいつ?追いつめられて、頭がおかしくなったのか?」

クレールは心の底から叫んだが、盗賊達はそれを笑い飛ばした。ボスらしき男は徐々にクレールとの間合いを詰めていく。その時、クレールの瞳が黄金色に輝き始めた事に気づく者は誰もいなかった・・・。

「・・・お願い・・・早く・・・速く逃げて・・・私が・・・私じゃなくな・・・」

一瞬、クレールは鋭い目つきになった。そして・・・

「うわあああああぁぁぁぁ・・・・・!」

まばゆい光が辺りを包んだ。まぶしさのあまり、思わず目を伏せる盗賊達。

「うわっ・・・何だこりゃ!」

しばらくして目が元に戻ると、目の前に先ほどのクレールはいなかった。代わりに、銀色の髪に日焼けをしたような黒い肌をした、目つきの鋭い女性が立っていた。

「おい、さっきの女の子はどこだ?」
「見あたらねえぜ・・・?あれ、誰だこいつは?」
「おい、誰だ、おまえは!?」

その女性は静かに答えた。

「・・・さっきはよくも追いかけ回してくれたわね・・・覚悟はいい?」
「まさか、おまえはさっきの・・・!」

変身したクレールは一言そう言うと、盗賊団の一人にすさまじいスピードで駆け寄り、一撃で叩きのめした。

「うわ、何だこいつは!ば・・・化けも・・・うぐ!」
「うふふふ・・・」

笑顔を浮かべながら、クレールは次の相手も、腹に一撃を加えて気を失わせた。

「く・・・くそう、化け物め!」

盗賊団の一人が剣を振りかざしてクレールに襲いかかった。しかし、その剣はクレールにふれることはなかった。そして、またも肘で後ろから一撃を加えた。また気絶する盗賊。

盗賊達も本気になってクレールに襲いかかった。手加減して動けなくする、といった程度ではなく、もはやクレールを本気で殺そうとしていた。しかし、クレールは盗賊達の攻撃をひらりとかわし、次々と盗賊達を倒していった。
拳をたたき込むこともあった。腹に蹴りを入れることもあった。魔法弾を撃ったこともあった。鎧ごと爪で相手を引き裂いたりもした。

・・・そんな・・・どうしてこんな事を・・・!お・・・押さえられない・・・!!

変身中でも意識だけははっきりしていたクレールであったが、自分の行動を止めることはできなかった。何か心の底からわき上がってくる強い力に突き動かされているようであった。

・・・闘いたい・・・闘いたくてしょうがない・・・

そんな感情がどんどんわき出てくる、クレールはそんな感じがした。

「こ・・・この感じは・・・あのときの・・・!!」

クレールは、「神の塔」での修行の時のことを思い出した。


最初のうちは、魔物達との戦いがイヤでイヤでしょうがなかった。とにかく恐ろしくてしょうがなかった。何度も何度も塔から逃げ出そうと思った。しかし、先代の巫女やサフィーユ、さらには国の人々みんなからの期待を一身に背負っている、という意識から、それも実行できなかった。

そんなある時、クレールは戦いが終わった後、ほっとするような心地よい感覚を味わっていることに気がついた。それは、死の危険から解放されたことに対する安心感だった。

その一方、その安心感を味わい始めるのよりは少し後になるのだが、戦いそのものも楽しく思えるようになっていった。「死ぬかもしれない」というぎりぎりの緊張感、相手の攻撃を上手く防いだときの満足感、こちらの攻撃が成功したときの快感・・・クレールは、連日の戦いの中で、そういったものを感じるようになっていった。

もっとも、これらのことをはっきりと意識していたわけではない。戦いの最中や戦いの終わった後に、「なんか気分いいな」と思う程度の意識の仕方でしかなかった。

しかし、クレールはこのとき、確実に闘争本能・生存本能をギンギン刺激されていた。そして、本人も気がつかない間に、それらの本能を満たす事に対して快感を感じるようになっていったのだ。そして、塔を登り戦いが熾烈になっていくうちに、これらの刺激もかなり強くなっていった。そして、味わう快感も強くなっていった・・・。

そして、ギリアスを倒した後でも、心の中にはその強烈な刺激を味わいたいという気持ちだけ残っていた。平穏な暮らしを続ける中、クレールの気がつかないうちに、その思いはどんどん強くなっていった。そして、その思いがある一線を越えたその時・・・。

そう、その時クレールは自分を押さえられなくなるのだ。普段隠している「神の血」を解放し、本能の赴くままに破壊活動を行う。そして、人々に戦いをけしかけて、それらの人々をうち倒すことで快感を得ていた。そうしてその本能がある程度満たされると元に戻るのだ。


盗賊達を次々と倒していく中、クレールはそういうことを何となく意識し始めた。自分の中に、戦いを求めるもう一人の自分がいる・・・。

「うわあああぁぁぁ・・・!逃げろ!」
「・・・!逃がさないわよ!」

あまりのクレールの強さにおびえ逃げ出した盗賊さえ、クレールは容赦なく叩きのめした。最後の一人を倒した瞬間、クレールはいつもの姿に戻った。

「・・・な・・・なんて事を・・・私・・・私・・・!」

激しい興奮と何とも言えない満足感を味わいつつ、クレールは自分の異常に伸びた血塗れの長い爪を見て、先ほどまでの自分自身に今までにないほどの恐怖を感じていた・・・。

 

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