Brandish4・外伝2 
[クレールの修行はつづく・・・] 
UeSyuさん投稿のBrandish4サイドストーリー・その2

 

<<< 第1部・恐れていた事 >>>

 

 


・・・ここは、トゥルカイア小国。とある山の麓にある森の中・・・

森の一部に、嵐が通り過ぎたような破壊の跡があった。木々は引き裂かれ、地面には何カ所も不自然なくぼみがあった。その一帯にある石の上に、一人の少女がちょこんと座っていた。その少女は、周囲の激しい破壊の跡には似つかわしくないような雰囲気を漂わせていた。

その少女、クレールは、時々周囲の破壊の様子を見ては身を震わせていた。その瞳には常に涙と絶望の色が見え隠れしていた。

クレールはペンダントを握りしめながらつぶやいた。

「・・・サフィーユ・・・私・・・どうすればいいの・・・」

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「神の塔」を登り終え、再び修行の旅に出たクレール。旅に出てしばらくして、クレールは一人の修行僧と出会った。その僧は、クレールを探してトゥルカイアの修道院から派遣された者であった。

「クレール殿、サフィーユ殿からお話は伺いました。とりあえず、一度修道院にお戻りください」
「どうしてですか?」
「いや、代理の者をたてるにも、何かと手続きが必要なので・・・」

その手続きとやらを済ませるために、クレールは一時帰国を果たした。1ヶ月ほど色々な手続きを行い、再び旅に出る日がやってきた。

「クレール・・・本当に行ってしまうの・・・」
「ええ、私はまだ未熟だからね」
「・・・そう・・・どうしても行ってしまうのね。じゃあ、これを持っていって」

そう言ってサフィーユはクレールにペンダントを渡した。

「・・・これは?」
「お守りよ。旅の無事を祈っているわ。必ず帰ってきてね」
「うん、約束するわ。必ず、『暁の巫女』の名に恥じないようになってくるから」

そしてクレールは旅立った。その後ろ姿が見えなくなるまで、サフィーユは寂しそうな表情で見送り続けた。

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再び修行の旅に出発してから1ヶ月ほど経ったある日のこと、クレールは人通りの少ない町はずれの夜道を歩いていた。そのとき、クレールは突然体中が熱くなり、頭の中が真っ白になった。

「うぅ!ま・・・まさか・・・!」

クレールが気がつくと、街の一部が見るも無惨に破壊されていた。建物や街路樹が、何か鋭い物で引き裂かれたような状態になっていた。けが人もいるようだ。おそるおそる自分の手を見るクレール。

「ひっ・・・!」

自分の手を見て、クレールは思わず卒倒しそうになった。その指先には、異常に長く鋭く伸びた銀色の爪があった。血も付いていた。

「あ・・・あの時と・・・同じ・・・」

幼い頃の、忌まわしき記憶が鮮明によみがえってきた。

・・・血まみれの爪、瀕死の母、血の海、それらを冷たく照らす月の光・・・。

忘れたくても忘れられない幼い頃の記憶が、クレールに強烈な恐怖を与えた。

「いやああああぁぁぁ・・・・!」

今、クレールが最も恐れていたことが起こってしまった。自分の意志とは関係なく変身し、破壊の限りを尽くす・・・。自分の母を殺してしまった、あのときと同じ事が・・・

「こっちだ!こっちの方で、ものすごく強いやつが暴れ回ってたんだ!」

街の誰かがやってきた。おそらく自警団の隊員だろう。その声で、クレールは我に返った。

・・・この爪と血はまずい!そう思った瞬間、爪は短くなりいつも通りになった。そして、手に付いた血を近くの井戸で素早く洗い流した。

「お〜い、そこのエルフの女の子、大丈夫か〜!」

・・・落ち着きを取り戻してから聞いてみたところによると、被害は街のおよそ5分の1ほどに及んだ。大勢のケガ人が出たが、幸運にも死者は出なかったそうだ。

暴れ回った者の特徴をけが人から聞いてみると、日焼けしたような肌、銀色の長い髪、異様に長い爪、そして頬のあざ・・・。それは、まさに変身したクレールの姿そのものであった。

・・・私だ・・・やっぱり私が・・・

クレールはそれを聞いて呆然とした。自分のせいで、多くの人をケガさせてしまったのだ。どうやってその償いをすればいいのだろうか・・・。

「君は魔法が使えるんだってね。けが人の手当を手伝ってもらえないか?」

そう言われてクレールは我に返った。そして、けが人の手当を行った。そうすることで、少しでも罪滅ぼしができると信じて。

その日以来、クレールはさらに厳しい修行を行うようになった。「神の血」を完全に押さえられるほどの実力を目指して、様々な修行を試みた。

しかし、それも彼女の中に流れる「神の血」の力を押さえきることはできなかった。また町中で変身してしまったのだ。幸運にも今度も死者は出なかったが、建物などの被害はかなりのものであった。
しかも、運悪く変身したところを住民に見られてしまったのだ。無事だった住民の怒りの矛先は、変身が解けた後のクレールに集中した。

「この悪魔め!なんて事をしてくれたんだ!」
「あたし達に何の恨みがあるっていうんだい!」
「すいません、本当にすいません・・・」

クレールはただただ謝ることしかできなかった。常識を逸脱している「神の血」の事を説明しても、誰一人理解してくれないだろう。目の前で変身すれば一発で理解されるだろうが、それではさらに恐怖を与える結果となり、パニックになりかねない。

そのとき、どこからともなく石が飛んできた。それはクレールの額に命中した。それほど大きな石ではなかったが、それはクレールの額に傷を付け血を流させた。一瞬その場は凍り付いたように静かになった。

・・・ヤバイ、やりすぎたか・・・怒ってまた変身して暴れ出さないだろうか・・・

そういう思いが、クレール以外の、その場にいた全ての人の頭をよぎった。しかし、クレールは変身する様子もなく、額を押さえながらまた謝り始めた。
その様子を見て、街の人々は少し安心し、またクレールをののしり始めた。ひどい罵声を浴びせる者もいた。中には、普段の鬱憤をここぞとばかりに発散させているとしか思えない者もいた。しかし、クレールはそんな者に対してでも、ただひたすらけなげに謝り続けた。

そんな中、一人の少年が飛び出してきた。

「くそう!父ちゃんのかたきだ!」

その少年は、手に持っていた棒で、クレールを思いっきり殴った。クレールはその場に倒れ込んだ。そして、しばらく地面に倒れたままで細かくふるえていた。軽い脳しんとうを起こしたのだろう。
それを見た街の人々はさすがに危険を感じた。いくら何でも、あんな事をされて怒らないやつはいないだろう。また変身してしまうかも・・・。その少年はあっという間に取り押さえられた。

「このバカッ!なんて事をするんだ!」
「はなせ〜!あいつのせいで、父ちゃんは大ケガしたんだ!」

少年はそのままどこかへと連れて行かれた。残った人々は少し後ずさりし、静かにクレールを見守っていた。
そして、クレールはゆっくりと立ち上がった。一瞬であるが、クレールの魔力が急上昇した。人々は恐怖した。

「ひっ・・・!」

思わず叫び声をあげた者もいた。しかし、クレールは変身しなかった。殴られたところの傷を治療するために魔力を高めただけだった。またまたほっとする街の人々。

「・・・出ていけば・・・いいんでしょ・・・・」

クレールは街の人々の方を向いて、そっとつぶやいた。その悲しそうな目に涙をにじませて、町の人の方をにらみつけた。その表情には、怒りとかいう感情はこもっていなかった。ただただ悲しそうな表情であった。

「出ていけばいいんでしょ!」

そう叫んでクレールは駆けだし、街の外の闇へと消えていった・・・。

「誰も・・・誰も私のことなんか・・・私の苦しみなんか、理解してくれないんだ・・・!」


・・・それからもクレールはたびたび変身した。町中で変身する事もあれば、森の中のひっそりとした道、砂漠のど真ん中など、ありとあらゆる場所で変身した。そのたびに、周囲の建物などを破壊し、人々を傷つけていった。

「どうして・・・どうして自分を押さえられないの・・・!」

そんな思いが常にクレールの心に浮かび上がってくる。しかし、修行して実力を付け、完全に押さえきれるようになる、という事以外に何とかする方法が見つからないため、クレールはひたすら修行に打ち込んだ。

そんなある日、街で食料の買い込みをした後、クレールはあることに気がついた。

「変身する間隔が・・・どんどん短くなっている・・・!?」

最初のうちは大体3ヶ月ほどの間隔だったのだが、最近は2ヶ月半に1度は変身するようになっているみたいなのだ。手持ちのカレンダーをチェックしてみると、それは事実であった。見る見る青ざめるクレール。

「そんな・・・そんな・・・!ああああぁぁぁ・・・・!」

買い込んだ食料を地面に落とし、その場にへたり込むクレール。その音に近くを歩いていた人が振り向いた。そこには、何かにおびえるような様子で座り込むクレールがいた。

「お嬢ちゃん、どうかしたのかい?」

親切なおばさんがクレールに語りかけたが、クレールは相変わらずただひたすらふるえているだけだった。

「何か、病気なのかい?医者を呼んでこようか?」

しかし、クレールは何も答えなかった。困り果てるおばさん。

「いやあああぁぁぁぁ・・・・!」

絶叫とともに、クレールは落とした荷物を素早く拾い上げ、ものすごい勢いで街の外へとかけ出した。

「なんなんだい、あの子は・・・」

そして、街には再び、いつもと同じ平穏な時が流れていった・・・。

 

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