ブランディッシュのドーラがあのザムハンに立ち寄ってた?!



● ダイナソア表裏合体パーティー+ブランディッシュ・ドーラ ●

 その1 囚われのドーラ 

 「え?アッシュ?・・・アレスじゃなくて?」
「はい、そうでございますよ、お嬢さん。それがどうか致しましたかの?」
奥深い森の中で散々迷ったあげく、なんとかついたそのザムハンという町の長老は、穏やかな笑みでドーラを迎えてくれた。が・・・その結果、占い師である老婆の言った『ア』で始まる名前は、ドーラが期待していたアレスではなかった。
「凄腕の剣士だって聞いたけど・・確かにその男の名前はアッシュなの?」
「はい、そうでございますよ、お嬢さん。どんな激戦でもそのお方だけは生き残るという凄腕の剣士なのだそうで、ここまで申し上げてしまっていいものかどうかは分からないのですが・・・傭兵の間では、仲間殺しの異名も持つ『死神』として恐れられていると申しましょうか・・・そういったわけで『灰を蒔く者』という意味でアッシュと呼ばれているそうです。」
「じゃ、本名じゃないのね?」
「それはどうなのか・・・偶然本名もそうだったのかもしれませんし、その名前のみが広がって忘れ去られてしまったのかもしれません。」
「そう。」
アレスではないと100%言い切れない部分があった。
「あたしの探している人物かどうか、ともかく会ってみるわ。で、その剣士は今どこに?」
「お嬢さんのようにここで出会ってお仲間になられた方々と一緒に、あの城にいるはずです。長い間その門は閉ざされておりましたが、こちらが期待してたとおり、アッシュ殿はその門を開けてくださったようです。先ほど空気を伝わって長き封印が解かれたことが、周囲一帯に広がりました。」
長老は、窓から見える小高い丘の上に建つ城を指さした。
「アーケディア城とか言ったわよね・・・封印されていたということは・・・魔物の住処となってるってわけ?」
軽い笑みで応えた長老に、ドーラはため息をついていた。

「こういうのって、本当にワンパターンっていうか・・・」
ため息をつきながら、ドーラは、そろそろ一度町へ戻ってくるだろうという長老の進言を受け、宿屋へ来ていた。


−ガヤガヤワイワイ−
客はドーラ一人。しーんと静まり返った宿の1Fにある酒場兼食堂。そこへにぎやかな話し声が近づいてきた。
−バタン!−
「おやじ、また世話になるぜ。」
「へい、毎度ありがとうございます。さーさ、どうぞ、どうぞ。お疲れでございましょう。」
中に入るなり、一人の長身の男が奥にいた宿の主人に声をかけた。
「ん?」
そして、次にテーブルに座っているドーラに気づく。
「これはこれはまたこのようなしなびた田舎に似合わない美しいお嬢さんが・・」
(こ、こいつは・・・・)
第六感がぴん!と働く。ドーラは近づいてくるその男を警戒しつつ、後ろに続いて入ってくるパーティーメンバーらしい人影に注目する。
「アッシュという人はあなたたちの中にいるの?」
「・・な、なんだ・・また旦那か?・・・・おいおい、近頃の女は見る目がないってか?」
落胆したように両手を広げ、ドーラに近づいてきていた男は後ろを振り向く。
「オレがアッシュだが・・・どこかで会ったか?」
ずいっと歩み寄ってきたその大柄な男は、ドーラが探していたアレスより年上であり、そして、中肉中背のアレスと違って、筋肉隆々なスーパーマッチョマン。
明らかに別人だった。
「人違いなんじゃねーの?いくら頭の弱い旦那でもさー・・こ〜〜んな美人と出会ったんなら忘れやしねーだろ?」
ドーラのお目当てが自分ではなかったことに腹をたて、ランディはアッシュをからかう。
「そうね。残念だけどその通り、人違いだったわ。ごめんなさい。」
人違いならここにはもう用はない。さっさと宿を出ようとしたドーラの肩を最初に声をかけてきた少し軽そうな男が手をかける。
「訳ありだろ?どうだ、オレに話してみちゃ?この世界一の大魔導師、ランディ様が一肌ぬいであげようじゃないか?」
肩に置かれた手をちらっと見ると、ドーラはきっとその男を睨む。
「世界一の大魔導師というのは、あたしの師匠、バルカンの事よ。あんたなんて知らないわ。」
すっと肩を振ってランディと名乗った男の手をそこから外すドーラ。
「へ?・・・じゃ、あんたも魔導師か?」
「見てわからない?」
マントをひるがえしてすっと杖を構えるドーラ。杖の先にはめ込まれた紅球が一瞬その光を放つ。
「あ・・いや・・・・」
が、ランディの視線は、その杖より、ドーラのそのきわどい格好に釘付けになっていた。
(す、すげ〜ダイナミックボディー・・・)
−ガコ!−
「いっ?!」
不意に頭に走った激痛でランディははっとする。
「同じ魔術を生業とする者として情けないわ。魔導師の風上にもおけないわね。あんたの手なんか借りる必要はこれっぽっちもないわ。」
術を使うのも汚らわしいとでもいうような視線を残し、ドーラはスタスタと外へと出ていった。


「あ〜〜もう〜〜!なんなのよ、ここわっ?!」
その数時間後、ドーラは再び宿屋に来ていた。
そう、この地を離れようとして森へと出たのだが、行き着く先はいつも同じ、町の大門なのである。
『呪われた町、ザムハン』・・大いなる力と宝が眠る幻の地。・・・ここへ来るまで、そんな噂をドーラは耳にしていた。
「つまりこれって・・・この地に囚われたってわけ?何か目的を果たさないとここから出られない?」
「そうらしいですな、お嬢さん。」
「え?」
一人テーブルに座って呟いていたドーラに話しかけた男がいた。
「失礼、私は旅の修道僧オリルックと申します。」
「あたしはドーラ。・・・確かさっきのパーティーにいた?」
隣に腰掛けていいか、というようなオルリックの態度に、ドーラはこくんと頷く。
「私もそして、仲間のみんなもどうやらそうらしいんですよ。」
「え?みなさん知り合いだったんじゃないんですか?」
「いいえ、全員この地で出会い、共に探索するようになったのです。いかがですかな、お嬢さん、お嬢さんも私たちと一緒に行動されては?この地は一人で探索するには危険ですよ。あ、いえ、あなたの力を軽んじてるわけではないのですが、一人より二人、二人より三人・・・多い方が探索もスムーズにいくというものではないでしょうか?何より、もしも何かあった時、仲間がいた方が何かと都合がいい場合があると思いますよ。」
「ありがとう、でも、あたしはこういったところには慣れてるのよ。それに、一人の方が気楽なのよ。」
「しかし・・・」
「あ、あの・・・」
遠慮がちな女性の声がし、ドーラはそっちを見る。
「私、精霊使いのエリスと申します。ドーラさん・・・あ、あの・・・私、平気な振りはしてたのですが・・・あの・・・」
言いにくそうなエリスの様子に、オルリックは気を利かせて場を外した。
「あの・・・私はドーラさんのように強くないんです。それでみなさんとご一緒させていただいてるんですけど・・・・できれば・・私、同性のドーラさんにご一緒していただきたくて。」
「もう一人いたじゃない?」
「あ、ええ・・・ヒルダさんは・・・・あの人は気が強いっていうか・・・わ、私とは気が合わないというんでしょうか・・・あまり・・」

頼まれると嫌とは言えないドーラ。ともするとその気もないのに押されてしまいそうなランディから守って欲しいとそっとエリスから耳打ちされた彼女は、つい妹のミレイユと重ねてしまい、承知してしまった。
(どっちみちここから出られないし・・・)

そして、ドーラは改めて仲間に紹介された。
アレスほどではないにしろ無口で無愛想な剣士アッシュ、女好きの自称世界一の大魔導師ランディ、落ち着いた年齢の誠実な修道僧オルリック、盗賊家業と思われる少し目つきの悪いワッツ、ドーラよりまだ年若い少年、吟遊詩人ヒース、宝探しが生き甲斐だという威勢のいいヒルダ、物静かな精霊使いエリス、どこか闇の臭いがする初老の旅の僧侶ルオン、その8人がドーラが共に行動するメンバーだった。
(筋肉だけ見ると、アレスより強そうだけど・・・・あいつの場合、体躯は関係ないから・・・)
そう、いかに己より強大な体躯と力を持っている敵だろうと、アレスはそれをモノともしない。
(アレスとアッシュ、どっちが強いのかしら?)
片や無敵なる極悪非道の賞金首、その前に立ちはだかるものは、何人であれ生きてはいない。そしてもう片方は仲間殺しの異名を持つ灰を蒔く者、死神、いかに強敵犇めく壮絶な激戦であろうと、己だけは戦い抜き生き残る。
アッシュの全身から漲るその気から、剣の腕はアレスに匹敵?同格か?と思われた。
そんなことも頭に浮かび、無意識にドーラの注意はアッシュに向けられていた。
もしも、自分にこの男を倒せられるほどの力があるとしたら、もしくは、力をつけたとしたら、アレスをも確実に倒すことができるのか?
「ドーラ、男前が横にいるってのに、それはないだろ?」
「え?」
ランディに声をかけられ、はっと我にかえるドーラ。
「あんな無愛想な旦那よりオレの方が・・・・うわっ!ちっちっちっ!!!」
ランディの方向に向けたドーラの顔のすぐ前にランディの顔があった。そしていつのまにか両肩が抱かれていることにも同時に気づいたドーラは、驚きもあって無意識に放ってしまった炎がランディの服を焦がしていた。
「あほランディ!」
さばーっと部屋の片隅に置かれていた水桶の中の水をランディの頭からヒルダがかけていた。
「ったく、自業自得だよ!」
ヒルダに言われ、ちぇっと舌打ちするランディに、ドーラもまた軽い蔑視を送っていた。
「その気じゃなかったから小さな炎でよかったっていうか・・・その気だった方がよかったような気もするわね・・・」
「そ、それはないだろ、ドーラ?」
「あんたも魔導師なら、しかも世界一っていうんなら、いくら咄嗟だったとはいえ、そのくらいの炎、軽く消せれるはずでしょ?」
「あ・・い、いや・・だってよー、まさか仲間から・・」
すっと目の前に突き出された杖に、ランディの言葉は途切れる。
「あたしはさっさとここから出たいのよ。出て・・・お師匠様の仇を追わなくちゃいけないのよ!だから一緒に行動する!それだけよ!あんたのような男が仲間だなんてこれっぽっちも思ってないわ。だから、いい?傍に寄るときはせいぜい気を付けるのね。」
−バタン!−
多少焦りもあった、とドーラは自室へ戻って反省していた。本心ではあったが、少し言い過ぎたかな、と思っていた。それでも、あのくらい言っても大丈夫だという声も心の中にはあったが。

この地に囚われてしまったドーラ。できることなら今すぐにでもこの地を発ち、アレスを追いたかった。



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