**Brandishサイドストーリー・番外編?**

泥酔美人とむっつり・・・(8) 春のまどろみ

***ある日ある時ある場所で・・・アレスとドーラのお話です***
  



*使い回し加工でごめんなさい。
   
         

 「見つけたわよっ、アレスっ!!あたしの目を盗んで、今までどこをほっつき歩いてたのよっ?!」
ひなびた田舎町の外れにある森。そこで、めざとく見つけたアレスに駆け寄りざま、ドーラは叫んだ。
(おっと・・・これはまた久しぶりというか・・・どういうわけかまた一段とご機嫌斜めみたいだが?)
思わず1歩、後ずさるアレス。(笑)
(オレの首は諦めたというわけでもなかったんだな。)
やはりアレスもその久しぶりの対面に、そんなことを思っていた。
(ん?・・なんだ?怒ってる割にはうれしそうというか・・・いや、オレの思い過ごしか?)
ふとアレスはそんなことをドーラのその瞳から感じた。
事実、ドーラの心の奥底には、久しぶりのこのアレスとの対面を喜んでいる感情があった。・・・もっとも、ドーラ本人は否定するだろうが。

それは、ここ数ヶ月、アレスの情報を頼りに探し続けても、いつも空振りばかりだったということから来ていた。その間、病気知らずだったドーラが旅の疲れか、倒れてしまったという事も一因となっていた。そう、倒れたその宿で見た悪夢がドーラの心を引きずっていたのである。それは、その夢が、ともすると現実と混同してしまうような悪夢だったからである。(参:番外編の番外編?・夢魔の吐息)


「ちょっとアレス!聞いてるの?!」
ドーラの顔を見たなり、にやっとしただけで何も行動を起こそうとしないアレスに、ドーラはくってかかる。
「あんたこそ、どうしてたんだ?オレはてっきり、もう諦めたのかとばかり思ってたんだが?」
「え?」
そして、思いもしなかったこと、つまり、アレスが口を聞いたことに、ドーラは面食らい、しばし、言葉を失う。
「あ、諦めるなんて・・こ、このあたしがすると思ってんの?!」
「そうか。」
ふっと軽く笑い向きを変えたアレスにまたしてもドーラの声が飛ぶ。
「待ちなさいっ!覚えてるでしょうね?この前のこと?」
ドーラに背を向け、歩き始めようとしたアレスの動きがその言葉で止まる。
「あ、あの時・・・青の巫女の間で、あたしをいいように手駒にして、自分だけさっさと逃げていったこと、まさか忘れたなんて言わせないわよっ?!」
「青の巫女の間・・・」
小さく呟き、アレスは数ヶ月前の事を思い出していた。
「アレス、それでも男?!」
「あのくらいの雑魚、あんたなら軽いと思って任せたんだが?」
「な・・・・そ、それにしても・・任せるっていっても、時と場合・・・じゃなくって・・・任せ方があるでしょ?何よ、生け贄よろしく放っておいただけじゃないのっ?」
アレスが自分の力を認めている、それは納得できたことだったが、それでも、やはり、あの場面は納得できない。

「あの時はああするのがベストだった。おかげでお目当てのものも無事手に入ったしな。」
「あっ、そう。」
ごあっ!と勢い良くドーラの手のひらから炎が踊り出る。
「じゃ、あたしがあそこで目的のものを手に入れたということも・・・当然予想してるわね?」
ちらっとドーラの手の上で踊る炎にアレスは視線を流した。
それは・・いつもの火炎と違っていた。そこには、アレスを敵とみなして睨み付けている何者かの確たる意思があった。
「サラマンダーか・・・」
世界を焼き尽くすとも言われる究極のサラマンダーの術書。3つあった扉の1つにあるはずだったそれ。アレスは他の扉から入った部屋にあった神剣と盾を持ってきたのだが、まさか1つしか開かないという扉が開いたとは思わなかった。
たとえ門番のミノタウロスを倒したとしても。
(青の巫女(の姿)だから開いた・・・のか?)
ふとアレスはそう思った。そうならドーラを置いて引き上げるべきじゃなかったと。
「覚悟なさいっ!あたしを置いていったことを後悔するのね!・・そして、あたしの師匠を殺したことを・・・・あの世で後悔するといいわっ!」

−ごあーーっ!−
「おおっと・・・」
「ふん!今のは小手調べよ!今度は本気でいくわよっ!」
ドーラの手から放れ、勢い良く飛んできた炎を、アレスはぎりぎりで避けた。
−シューーーーーー−
その炎は、大きく弧を描くと、ドーラの手の中へ戻る。
「このサラマンダーからは逃げられないわ。今はあたしがそう命じなかったからよ。」
(う・・・・)
ドーラの今までにない静かな怒りと闘気に、アレスは焦りを感じていた。いや、決して負ける気はしないが、今度こそ確実に対峙しなくてはならないかもしれないという予感に、アレスは一瞬だが平静を失った。
「あたしを置いていったことを後悔するのね。そして、この子をここまでなつかせられるほど、あたしに無頓着だったことにね。その間、あたしもあなたの居場所を見失ったけど、結果として、損をしたのは、あたしじゃなく、あなたのはずよ、アレス!」
それは、いつもの罵声と違っていた。静かな口調、その中の静かに燃える怒り、そして闘気。そのドーラを見て、アレスは無頓着だったことを後悔する。
どんな小さな芽でも、己自身に害があるとみなせば、例えそれが将来的であったとしても、それを全力で排除するのがアレスだった。が・・・ことドーラに関しては、その意識が薄れていたことを、アレスは後悔する。ここで勝負して負けるとは限ってはいないが、今目の前のドーラは、それまで対峙してきた魔王ともいえる強敵に匹敵する、いや、それ以上のものがある、と感じずにはいられなかった。


「覚悟なさいっ!」
−シュゴゴゴゴォォォ〜〜〜!!!−
先回より勢い良く炎がドーラの手から踊り出る。それは、火球と称してすむようなものでは、決してなかった。
天までも届かんとするほど高く勢い良く、それは燃えさかる。
(こ、これが、究極のサラマンダー術・・・か?)
巨大サラマンダーが躍り出たその瞬間、本能的にザッと身を引きアレスは剣を抜いて構えていた。もちろん、もう片方の手には盾がある。それらは、ドーラを置いてきたところ、そこでみつけた宝である。それは、遥かな昔サラマンダーを捕らえたとき神が持っていたとされる剣と盾、3つの扉のうちアレスが開けた1つの部屋にあったものなのである。

「行くわよっ!」
−ゴゴゴゴゴォォォォー!−
ドーラの手から離れ、真っ赤に燃えるサラマンダーが彼女の上空で弧を描いていた。アレスに狙いを定め。
(来るっ!)
迫り来る熱風を感じ、アレスは身を固くし、が、隙あれば、サラマンダーの背後にいるドーラに近づこうと気を集中する。
−ゴアッ!−
が、その視野全域にサラマンダーの守備範囲は広がっている。ドーラに近づける隙間などそこにはないし、その灼熱の炎は確実にアレスを標的として迫ってきていた。
(くそ!)
思わずアレスは呟いた。まさかこんな場面が来るとは思ってもいなかった。
と同時に、知る限りの技や術を放つ。剣での風圧、氷の魔法、もちろん防御魔法は張ってある。
が、禁断の、そして究極のサラマンダーと言われるだけはある、とアレスはその短い攻防で感じていた。そして、ドーラのその魔力をも改めて感じる。
(いいかもしれん・・)
そして、次にそんなことをアレスは思った。
それは強敵に会えた喜び。思う存分自分の力を試すことができる喜び。
そこに勝敗など関係ない。ただ純粋に戦えることに喜びを感じていた。
−ぐっ!−
アレスの剣を握る手に力が入る。
(ひょっとしたら、オレはこの時を待っていたのかもしれん。・・だから、不思議と今までドーラに対しては無頓着だったのかもしれん。)
そんな思いがわき上がった。ドーラのこの成長を待っていた、だから、それまで自分でも不思議に思っていたこと、つまり、どういわけかドーラに剣を向ける気にならなかったことに納得ができた、とアレスは結論をはじきだしていた。
そして、全闘争心を燃え立たせ、アレスはサラマンダーに真っ向から向かっていった。



が・・・・・・
(うわ・・・とっとっと・・・・・・)
焼き尽くされそうなほどの熱風は確かにアレスに直進してきていた。その身を焦がされるような灼熱の炎に、もう1つの扉、残りの扉の中にあっただろう防具もなんとかして持ってくるべきだったな、という考えがアレスの脳裏の片隅に浮かんだ、その時、炎は消え、不意に目標が消滅したことによりアレスはバランスを崩す。


(どうしたんだ?)
周囲には何もなかった。ただ、前方に呆然としたように立っているドーラの姿が見えた。
(なぜだ、ドーラ?!)
普通ならこのときとばかりに攻撃に移るのがアレスだった。が、目の前のドーラの様子に、激しく燃え上がっていた闘気も一気に萎え、アレスの両手はだらりと下がる。

「アレスのばかっ!なぜ降参しないのよ!どうしてあんたは悪党じゃないのよ!・・・どうして・・・・どうして、あんたが、・・・あんたがお師匠様を殺したのよ!?」
思いがけない展開に釈然としないといった風情で、ただドーラを見つめていたアレスの耳に、ドーラの悲鳴のような叫びが飛び込む。
「・・どうしてお師匠様を殺した・・のが・・・・あんた・・なのよ・・・」
そして、最後には涙声に聞こえた言葉を残し、ドーラはアレスに背を向け、ゆっくりとふらつくように歩き始めた。

そのドーラの悲しげな背中に、思わずアレスは駆け寄っていた。もちろん、その隙に攻撃するつもりなどではない。

「ドーラ!」
簡単に追いついたアレスはドーラの腕を捕らえる。
「何よ、そんなにあたしに倒されたいの?」
腕をアレスの手から引き、キッと睨んだドーラの瞳には、涙の跡のようなものがあった。
「いや・・」
「じゃ、何よ?」
「いや、そうだな・・・あんたになら倒されてもいいかもな。」
「な、何よ、それ?」
「ん・・・・なんとなく・・・」
「ばっかじゃないの、アレス?あなた、今自分が何言ったか分かってないんじゃない?」
「そうだな。・・かもしれん。」

言い合いながら、ふとアレスとドーラの注意が、2人の視野の片隅にあった小枝に流れた。

   

「桜・・・・」
−さーーーーー・・・・−
それに気づき、小さくドーラが呟いたその瞬間、そこを小さな風が駆け抜けていった。
「きれい・・・・・・」
その風に乗り、周囲にあった桜の木から、花びらがまるで舞い降りるように離れ、2人を包み込んだ。
「いつのまにか、・・春だったのね。」
アレスの姿だけを追っていたドーラには、その時まで周囲の桜も目に入っていなかった。
「春・・か・・・・」
−さわさわ−
思わず2人ともその花びらの舞を見上げる。
−さーーーーー・・・・−
やさしいそよ風にのって花びらが舞う中、しばらく2人はその美しさに心を奪われて佇んでいた。


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※「むっつり・・・」の「・・・」には、剣士という言葉が入るんだぞ? /^^;

  


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