**Brandish3リプレイ創作ストーリー**



その29 地底湖・ブルーレイク

 

 「あら?どうしたの?2人とも暗い顔しちゃって。・・・フレッド、ミレイユに砂岩板、渡してくれたんじゃないの?」
街へ戻ったドーラは、さっそくギルド本部を訪れた。
窓越しにフレッドとミレイユの姿を見つけ、腰抜け冒険者なりにお使いはできたみたいだと、ほっとして中に入ったドーラは、2人の暗い表情に気づいて、フレッドに聞く。
「い、いや・・・・」
次に答える自分の言葉のあとに当然浴びせられるであろうドーラの怒りが恐く、彼は焦り笑いをしつつ、そして少し震えているような声で答えた。
「め、面目ねぇ・・・あの、砂岩板なぁ・・・・」
と、そのフレッドをかばうようにミレイユがドーラを見つめ、口を挟んだ。
「せっかく手に入れてくださったのに・・・お姉様・・ごめんなさい・・・」
「え?ちょっと、待ってよ!何がなんだかさっぱりわかんないわよ。順番に説明してくれない?」
「メイソン・・・・信頼していたのに・・・・」
「メイソン?ああ、あのいけすかない奴?奴がどうかしたの・・って、ひょっとして?」
悪い予感がし、ミレイユを見つめるドーラの視線が少しきつくなった。
「ごめんなさい、お姉様。私の不注意です。メイソンが・・・この方から砂岩板を受け取り、このテーブルに2つ並べてみたその瞬間に・・・・2つとも持って行ってしまったの。」
「ふう・・・・」
そんな気もしないわけじゃなかった、とドーラは心の中で呟いた。
「メイソンの裏切りに気づかなかった私の責任です。決してフレッドさんのせいではありません。」
「決して・・ねー・・・?」
ちろっとフレッドを見るドーラ。フレッドはミレイユの横ですっかり恐縮してしまっていた。
「取り返すくらいの機転もなかったの?仮にも魔境探索者でしょ?剣士でしょ?」
「あ・・・す、すまん・・・あっという間のことで・・・オレは・・・・ミレイユに害が飛びはしないかと・・・」
「そうなの。私を守ってくれてたの。」
「そう。で?奴の行き先は?分かってるの?」
起きてしまったことは仕方ない。ここでいくらフレッドを責めてみたところで、事態は変わらない。
「メイソンの行き先は砂漠の廃虚だと思うんですけど。」
「砂漠の廃虚?・・・・タントールへ戻るわけね。」
「あいつは、ミレイユさんも連れて行こうとしたんだ。だからオレは、オレは、意地でもミレイユさんだけは渡すまいと思って・・・・その時アレスの旦那の姿が窓から見えて、奴は慌てて逃げていったんだ。」
「ふ〜ん・・・あのすかぽんたんも役にたったってことね?じゃ、当然アレスはメイソンを追って?」
「いえ、今回は特にお頼みしたわけではありませんが・・そのままここへは入らず、どこかへ立ち去ってしまわれました。」
「そう・・・・(アレスの第六感が次の目標を見定めたってところね?)」
「ああ、それから・・メイソンの奴、去り際にあんたのことも言ってたぜ。」
「あたしの?」
「ああ。」
「消さなきゃならない奴がまたしても増えたってな。」
「あら、それはあたしのセリフよ。待ってなさい、砂岩板は必ずあたしが取り戻してきてあげるから。」
「お姉様!」
くるっと向きを変え、出て行こうとしたドーラをミレイユの声が止める。
「今大河は氾濫期で渡れないの。お姉様がここへ来るとき飛び石代わりにして渡ってらしたそれも今は水没してしまってるわ。」
「え?・・・じゃー、メイソンはどうやって渡ったの?」
「メイソンは・・きっと砂岩板の力を発動させて渡ったのだと思うわ。」
「ふ〜〜ん・・・やっぱり単なるお飾りじゃなかったわけね。とすると・・他に道はあるのかしら?確か、見張りの兵士がいて通行止めになってた道があったけど。」
「あっ!そうよ!その道があったわ。タントールに行くには、その先にある洞窟から地底湖を通れば行けないことはないのよ。・・でも、魔物がいて危険だから、先王の御代からの王命でその道はずっと閉鎖されているということよ。地底湖を通って行こうなんていう命知らずの人なんていないもの。みんな大河の氾濫期が終わるのを待って渡ってるから。」
「地底湖?」
ミレイユはそうだと頷く。
「ともかく、許可が必要なのね。分かったわ。」
「でも・・・」
「大丈夫、ミレイユは大船に乗ったつもりで待ってなさい。」
「はい。」
心配げにみつめるミレイユに、ドーラはにっこりと微笑むと、フレッドを睨む。
「いいわね?ミレイユに手を出したら、その身だけじゃなく魂まで焼き尽くしてやるから!」
「あ。あはははは・・・い、いやだなー、姐さん・・・オ、オレは、そんな事しませんて。アカシックギルドの巫女様に手をだしたら、信者によってたかってぼこぼこにされちまいますよ。」
「その言葉、よく覚えておくのね。」
ドーラはキツイ睨みをフレッドにぶつけると、城へと向かった。



「おお、ドーラ殿。しばらくお姿を見受けなかったが、どこかへ?」
「ちょっとね。で、いきなりで悪いんだけど、ガンテス。」
「何か?」
「地底湖を通りたいんだけど、許可証くれない?」
「は?地底湖をですと?あそこはとても危険な場所です。タントールへお帰りとあらば、大河の増水が収まるまで、今少しこちらでゆっくりと・・・」
「気遣いは嬉しいんだけど、そうもしてられないのよ。ちょっとギルドの事で急ぎの用事があってね。」
「ギルド・・・そうですか、では、いたしかたありません。あなたをあのような危険な場所には行かせたくないが・・・・城の地下迷宮でも無事脱出されたあなたのことだ。その力を信じ、許可しよう。」
「物わかりが良くて助かるわ。」
「気を付けて行かれよ、ドーラ殿。」



封鎖されたところから数kmほどその荒れ果てた小道を進むと、蔦がからみつき、外からではすっかり忘れられた存在になっている小さな洞窟があった。

からみついている蔦を払いのけ、狭い洞窟へとドーラは足を踏み入れ、その暗くて狭い道を慎重に下っていった。
大河を渡る時に通った地下水路が、そこに、大きな湖を形成していた。

「水温は・・・この洞窟の温度からしてかなり低そうね。寒さに凍えないうちに湖から出られるといいけど・・・・こういう場合、そう簡単にはいかないのよね。深さは・・どうなのかしら?あんまり透明すぎて、いまいち正確に把握できそうもないわね。」

水深を測る為にも、ドーラはゆっくりと注意深く、そのしびれるような冷たさの湖水に足を踏み入れた。



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