**Brandish3リプレイ創作ストーリー**



その27 氷柱は人柱

 

 「あっ!アレス!」
それは確かにアレスだった。一旦氷穴の出口付近まで戻り、そこにあった異次元箱をちゃっかり手にしてから再び奥への道を進み始めたドーラは、ちょうどアレスが、通路を塞いでいる引き戸を閉めるところを目にして叫ぶ。
が、「待ちなさい!」と続ける前に、引き戸は閉まり、アレスは扉の向こう側に姿を消した。
(全くっ!)
急いで扉のところまで進み、開けようとしたドーラは、ふとその横に書いてあるプレートに気づき、その手を止め、プレートの文字に目を走らせた。
「え〜っと・・『これを読んだ者の立ち入りを禁ず。』・・ですって?ふん!そう言われて、はい、そうですか、と素直に立ち去るおばかさんがどこにいるっていうのよ?」
ドーラは構わず扉に手をかける。が・・・・うんともすんとも言わない。カタっとも動きそうな気配がない。
「な、なによ・・これ?アレスなんて軽く動かしてたじゃない?」
押しても引いても、右へ引っ張っても左へ引っ張ってもぴくりともしない。
「どうしろっていうのよ?他に道を探せとでも?」
ここまで来る間に、他に横道があっただろうか?と考えながら扉に背を向け振り向いたドーラの目に、壁に刻み込まれた文字が飛び込む。
『諦めて別の方向を探せ。』
「うるさいわね!言われなくてもそうするわよっ!こんなところでいつまでも扉と遊んでるわけにはいかないんだから!」
アレスはプレートに気付かず扉を開けたのだろうか・・・そうだ、きっとそうに違いない。あのあほぽんたんは、注意散漫なのよ。探索者ならどんな小さな事でも気付かなけりゃいけないのに・・・・と怒りと回り道を余儀なくされた落胆感をアレスにぶつけながらドーラは来た道を戻る。

そして、少し戻った横壁に崩れかかった部分を見つけ、異次元箱から金槌を取り出してそれを崩して進むドーラ。
(まったく!あたしがこんな力のいる作業をしなくちゃいけないのも、アレスが注意散漫で、あの扉を開けて行っちゃったせいよ!あのすかぽんたん!)
怒りにまかせて振り上げた金槌は、いつもより破壊力があったとかなかったとか?

「で、あの開かなかった扉の反対側までようやく来たってわけ?・・全く別の道があるわけじゃなかったのね。・・ホントに回り道だったっていうか・・・腹の立つ!誰よ、こんな仕掛けをこんな氷穴にしかけたのは?」
ブルブツ文句を言いながら、ドーラは先を急ぐ。


「ここ・・は・・・・?」
狭い通路から、そのエリアに脚を踏み入れた瞬間、ドーラは回りの空気がそれまでより一段と冷たくそして重く周囲を覆っている事を、その肌で感じる。
「すごい寒さだわ。冷気の圧迫感っていうのかしら?炎の防御結界を張っていなかったら、足先から順に凍りついていくところだ・・わ・・・・って・・・・その見本が・・・あっちにもこっちにも・・・・?」
そう、氷の柱か今まで通り分厚い氷に覆われた洞窟の壁だと思っていたそれは、その殆どが中に人間を閉じこめていた。
「氷付けの人柱ってところ?・・・」
周囲はし〜〜んと静まりかえっている。アレスはどうしたのだろう?同じように、どこかで氷漬けになっているのだろうか?それとも、それを回避できる魔法書かアイテムでも持っているのだろうか?そんなことを考え、ドーラは一つ一つ丹念に調べながら、先へと進んだ。
ミレイユが、すでに何度となく複数の冒険者に砂岩板の探索の為、この氷穴行きを頼んだと言っていたことを思い出し、氷漬けになっているのは、その人たちだろうと思わず手を合わせた。

「あら?・・・まだ完全に凍りついてないのが一つ?・・まさか・・アレス?」
遠くにまだ完全に全身が凍りついておらず、下半分は氷漬けだが、上はまだ胸から上くらいは生身の剣士の姿を見つけ、ドーラはアレスかと思いつつ、慌てて駆け寄った。
「なんだ・・あんたなの?」
「へ?」
もがくことも疲れ、観念して目を閉じていたその男はドーラの声にはっとして目を開けた。
それは、タントールの酒場で、ドーラに声をかけてきた男だった。
「まぎらわしいわね、剣士のカッコなんかしてないでちょうだい!」
「そんなこと言われても、オレ、剣士だから・・・」
「あ、そう・・・へっぽこ剣士ってところ?」
「相変わらずきついなー、ねぇちゃん。ま・・しゃーねーわな。こんなカッコしてたんじゃ。しかし・・みっともない所を見られちまったな・・・。情けねー・・・。」
「ほんと情けないわね?どうやったらこんなカッコになるのよ?」
「どうやったらって・・・・あんたよく平気でいられるな?ひょっとして雪女?」
「バカな事言うんじゃなわよ!炎の防御結界張ってるだけよ!」
「なるほど。でなけりゃ、いくらマントがあるからって、そんな超ビキニスタイルでなんかいられりゃしないよな?」
真正面に立っているドーラの全身に視線を這わせ、男は思わずにまりと笑みをこぼす。
「どこ見てんのよ!全く!あんたのようなすけべ人間なんか、全身氷漬けになって頭を冷やせばいいのよ!」
「そんな殺生なぁ〜・・・だいたい、あんたがそんなカッコしてるのがいけないんだろぉ?」
「じゃ、炎で氷を溶かしてあげましょうか?」
「い、いや・・・」
男はドーラの手の先に勢いよく出現した炎と、一層険しくなった彼女の表情を見て慌てて遠慮する。
「溶けるのはいいが、ついでにおこげになっちまいそうだ。」
「ふん!意気地がないったら!」
「どうとでも言ってくれ!ここに転がっている奴らみんなそうなんだから仕方ないだろ?みんなこの先の部屋の奴にやられたんだ。こ、これで・・オレもおしまい・・な・・のか・・・」
「この先の奴って、やっぱり氷系モンスターなの?」
「ああ、スノーエレメンタルだ。氷の精霊ってやつ?何もかも凍ってしまう・・・武器でもなんでもかんでも・・・・でもって次にはぼろぼろさ。」
「ふ〜〜ん・・・アレスは・・・もう行ったのかしら?」
独り言のようにつぶやいたドーラの言葉を男は耳ざとく聞いていた。
「ああ、アレスの旦那か?・・・・・途中の道がまた複雑に枝分かれしてるからな・・・はは・・・あんたが来るちょいと前、オレの横を素通りして行ったからな、今頃やりやってるかもしれんし、まだ道に迷っているのかもしれん。」
「そう、ありがと。」
「あ!おい!なんとかしてくれんじゃないのか?」
「そのスノーエレメンタルという敵にやられたんなら、たぶん、そいつを倒さないとその氷は溶けないわ!もう少し待ってんのね!」
「もう少しって、どのくらい待ってりゃいいんだ?これ以上氷ついたら、凍死は確実だよぉ・・いや、今でも十分寒くって凍死しそうだけどさぁ・・・」
「無駄口叩けられるんだからまだ大丈夫よ。芯まで凍らないよう気合いを入れて待ってなさい!」


ドーラは走りながら、追いかけてきた男の声にそう答えると先を急いだ。

 氷穴の奥のそのまた奥にあると聞いた砂岩板。当然そのスノーエレメンタルを倒す必要があると思えた。そして、もしもアレスがスノーエレメンタルを倒し、砂岩板を手にしたら、素直にミレイユに渡してくれるかどうか保証はできない。砂岩板はどうあってもドーラ自身が手にすることが必要だった。

もしも戦闘中だったとしたら・・・2人がやりやってる間に、奥へ行って砂岩板を拝借して、さっさと脱出すればいい・・そんなことを考えつつ、ドーラは入り組んだ迷路を疾走する。
運良く行けば楽に砂岩板を手に入れられるかもしれない。
そう、その可能性は大いにある。そして、そのタイミングを逃したらそれこそ大損である。(笑
なんの為にアレスに先を譲ったのか分からない。(え?そうだったの?

「アレス!踏ん張んのよ!あたしが行くまで、氷漬けにされちゃだめよ!それから、エレメンタルも頑張んのよ!そう簡単にアレスに倒されちゃだめよ!」

いかにもドーラらしい言葉を心の奥で叫びながら、彼女はひたすら駆けていた。



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