**Brandish3リプレイ創作ストーリー**



その26 ツルツル通路とマッチョマンモンスター

 

 スライムにすっかり筋肉痛や凝りをほぐしてもらったドーラは、颯爽とその奥への探検を開始する。が、それはさすが氷穴ならではのトラップで阻まれてしまった。
「困ったわ・・・・これじゃ先に進めないじゃないの。他に道はなさそうだし。」
T字になっているその通路の横道。それは一面分厚い氷で覆われ、しかもツルツル。いくらつけれる限りの助走をつけても、手前に滑って戻ってきてしまうのである。
(どうしよう?・・・・)
とそこに頭なしのモリモリマッチョマンモンスターが遠くからドシドシと足音高くやってくるのを見たドーラは、ぴん!とひらめく。
そう、火精にモンスター退治を命じてはおいたが、そこは魔の迷宮に属する氷穴内。いくらでもわいてくる。火精は氷穴内の他の場所で、たぶん、魔物と闘ってくれているだろう。
「確かあの手のモンスターって、ちょっと頭が足らなかったわね(頭がないから当然かもしれないけど?)・・・でも、馬鹿力なのよね・・・・パンチをお見舞いされるとかなりダメージくらうけど・・・・・それしか方法なさそうだし・・・まー・・顔がないから当然目もないってことで、上手に交わせばなんとかなるわ・・よね?」
ドーラは2,3発はその鋭いパンチを受けることを覚悟し、でも、防御魔法を身の回りに張り(/^^;)、そのモンスターを踏み台にすることにした。

「ハ〜〜イ♪そこのイカスマッチョマンさ〜〜ん♪」
びくっと顔のないマッチョモンスターは、ドーラのその声に反応する。
(よしっ!注意を引きつけることができたわ!)
ドスドスドスっ!とスピードを上げ、そして、いかにも嬉しそうに腕をぶんぶん振り回して、それは近づいてくる。
(オッケー♪いいわよ〜〜〜♪)
「ほら♪こっちよ、こっち♪」
横道に入る角に立ち、ドーラはギリギリまで引きつける。
−ブン!−
(っとっと・・・・)
おそらく近距離まで近づけば、相手の体温などで感じるのだろう。筋肉モンスターは勢いよくその筋肉モリモリ腕&拳をドーラの頭部めがけて振り上げた。
−トン!−
(出でよ!火精!)
と、それと同時にその拳を上手に交わし、自分が立っていた背後、横道の奥に向けて火精を放ち、自分は筋肉モンスターを跳び箱代わりにして飛び越える。
「うが?」
一瞬、ドーラを追いかけようとしたかに見えたそれは、横道の奥で火精が放つ熱に引かれ、奥へと入っていった。
「やったわ!後はタイミングね?」
筋肉モンスターは、ドーラが睨んだ通り、どういうわけかツルツルの氷の上でも平気で歩く。
そのことを確認し、ドーラは再びにんまりする。
後は、ドーラが氷の手前からジャンプできる範囲内で、一番遠い地点に歩いていったその瞬間を見計らって、空中大回転ジャンプをするのである。
幸い天井は高い。筋肉モンスターを瞬間的な着地点としてジャンプすれば、ツルツルエリアは抜けられる。
(もし、もっと奥まで続いていたら・・・・・まー、考えるのはやめましょ。いちかばちか、これにかける!)
もしもそれでもツルツル氷の向こうに行けなかったら、ドーラは筋肉モンスターのところまで滑って戻ることになる。その時はその時。そうなったら対処しよう。やってみないうちから案じても仕方がない。
ドーラは割り切ると、思いっきり大ジャンプしようと・・した。

「あ?あら?・・・・筋肉兄さんがいないじゃないの?あれ?」
横道の奥に歩いていったはずの筋肉モンスターの姿がない。
「ひょっとしてひょっとしたら・・・・・・」
そこへ近づいてくる火精。それはどこか誇らしげにメラメラと炎を燃え立たせている。
「あ、あんたが・・倒しちゃったの?燃やしちゃったってわけ?」
しゅぼぼっ!と炎を大きくゆらめかし、そうだと答える火精。
「あ、あんたねー・・・・・・」
文句を言おうとして、ドーラは大きくため息をつく。
それもそうだ。ドーラが召喚したときは、敵を倒すときなのである。火精は忠実に己の仕事を成しただけ。
「まー、いいわ、あっちの方の魔物でも倒してきてくれる?」
−しゅぼぼっ!ー
火精は、了解♪とでも言うように、炎を再度ゆらめかし、ドーラが指さした方向へと去った。
「それにしても、魔物を焼き尽くすほどの高温のはずなのに、氷は少しも溶けていないわね・・・・ツルツルさも相変わらずだし・・・」
ドーラはため息をつく。
「いいアイデアだと思ったんだけど・・・・じゃー、火精に行かせた方向と別方向にでも行って、もう一体筋肉お兄ちゃんを誘い出してきましょうか・・・・」

そして、2度目の試み。火精の攻撃を考え、(彼らに攻撃しなくてもいいと言っても理解しない)2体引き連れてきたドーラは、首尾良くツルツルエリアの向こう側へと着地した。

もっとも、ジャンプ2度目の着地点が、ツルツルエリアを越えた地点でなかった為、筋肉モンスターが立っている地点まで滑り戻されはしたが、そこは、彼によって、思いっきり殴られた勢いで吹き飛ばされ、当初の目的であるエリア脱出ができたのである。

加えて、筋肉モンスターを敵としてとらえた火精とそれとの間にいたドーラは、味方であるべき火精攻撃もその時受けたというのも他ならない事実である。

「ふん!火精の火炎くらいどうってことないわよ!」
自分の身体とぴったり肌についている服は結界魔法でなんとか防げたが、ひらひら舞うマントは、そうもいかなかった。
慌てて消したが黒こげになったマントを恨めしそうに見つめるドーラ。
「仕方ないわね・・・これ気に入ってたんだけど。」
そして、異次元箱からごそごそと着替えを取り出す。
「・・にしても・・・・・壁に打ち付けたせいで身体のあちこちが・・・あたたたた・・・・あいつ、横っ腹殴ったわね・・・・・・・」
全身を走る痛みで、マントを羽織ることもできない。

「え?」
特に痛むお腹部分を抑え、うずくまっているドーラの目の前に、ぶらんと何かがぶら下がり、その先に・・・見知った顔があった。

「ア、アレス!・・・痛っ!」
ぽすん!とアレスは、ドーラにぶら下げて見せたブーツのようなものを投げ渡すと、さっさとそこから立ち去っていく。
「ま、待ちなさい!アレス!待っ・・痛っ!」
慌てて起きあがり追いかけようとしたが、痛みが酷く立ち上がることもできない。

「え?」
そのドーラを振り返り、遠くからぽーんと小瓶をアレスは投げてきた。
「な、何よ・・・・これ?」
ドーラの顔が怒りに染まる。
「回復ポーションと・・・これって・・・・スパイクびっしりのブーツ・・・・あ、あたしに情けをかけたっていうの?て、敵に塩を送られて、あたしが喜ぶとでも?」
投げ返してやろうと思った。・・・・・が、やはり痛みで動けなかった。


「し、仕方ないわね・・・・」
後ろ姿が消えかかっているアレスを追う為に、ドーラは回復ポーションを一気に喉へ流し込む。

「アレーース!待ちなさいっ!いつあたしがこんなもの欲しいって言ったっていうのよ!?」

思いっきり顔にぶつけて返してやろう、ドーラはそう思いつつ、それでもちゃっかりスパイク付きのブーツを履いて、アレスの後を追いかけ始めた。

もちろん、身体の痛みは、回復ポーションのおかげで治っている。というより、アレスへの怒りで、すっとんでいるのかもしれないが。

ドーラは走る。狭い氷穴の通路を猛スピードで。スパイク付きのブーツで、もう滑ることもない。
今まで一方的に戻されたところへも行ける。

「ちょっと待って!確かここへ来るまでに、滑る氷の道に邪魔されて手が届かなかったけど、これ見よがしに通路からちょっと離れたところに異次元ボックスがあったわよね?」
アレスを追いかけている途中で、ドーラはそんなことを思い出す。
「今持ってる異次元ボックスもそろそろ一杯よね。・・・次の異次元ボックスがほしかったところだわ。」
腰ベルトにくくりつけた小型ボックスに視線を落とし、ドーラは考える。
「アレスは奥に行ったんだから、大丈夫。異次元ボックスのあったところは街に帰る通り道だから、アレスを逃すことはないわ。」

ドーラはくるっと向きを変えると、来た方向へと走り始めた。

   
※25とゲーム上の探索とは前後逆になっててごめんなさい。
※ここでのアレスとの遭遇は、ゲーム上ではありません。
※スパイク付きブーツ=石の靴です。


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