**Brandish3リプレイ創作ストーリー**



その24 やっぱりこうでなくっちゃ♪

 

 宮廷での生活は、至れり尽くせり、まるでお姫様か貴婦人になったようだった。
かといえ、退屈しないよう、行動は自由だった。
時にガンテスに頼まれ、城の地下の迷宮へ、魔物の一掃の手伝いもした。
何かにつけドーラに頼み事を持ってくるガンテスのその態度に、ドーラはどこかくすぐったいようなはじらいのような気持ちも感じはじめていた。
(・・・近衛隊長で宮廷一の騎士なのよね・・でも、ゾールには簡単に幽閉されちゃったけど)
明らかに好意を持っているようなガンテスの態度を、ドーラも特に迷惑しているようでもなかった。
(騎士といえば、剣士よね・・・宮廷一の剣の達人でも、やっぱりアレスには適わないんでしょうね。あいつなら・・ゾールにしてやられるようなことはないわ。)
アレスと師匠バルカンの件については、ガンテスやギゼールII世からの説明で、もはや彼をバルカンの仇として追う必要はなく、無視していてもいいとドーラの中では処理されていた。
もっとも、直接息の根を止めたのは、アレスだが、それは悪霊(邪霊?)に取り憑かれた前国王ギゼールI世を正気に戻すため、その悪霊を自分の中に呼び込み、が、その強大さ故、封じ込むことができず、アレスに頼んで悪霊と共にこの世から隔離した、ということだった。

「ところで、陛下と共に迷宮を脱出し、城の1階に戻ったときに出会った剣士を、ドーラ殿はご存じでしょうか?おそらく爆風を受け気絶したあなたを助けたと思われるのですが?」
「え?」
ある日、ガンテスと庭を散歩しつつ談笑していたドーラは、その言葉に彼女の思考は止まる。
「あたしを・・助けた?」
「あ、はい、気絶したあなたを私に託すと、そのままどこかへ行ってしまわれたのですが。あれは、確かにあなたが何者か、そして、私たちが何者かも知っていたようすです。」
「ア・・アレスぅ・・・・」
「アレスと申されるのですか?」
小声で呟くドーラの拳はぎゅっとにぎられ小刻みに震える。
「ま、またしても、あたしが気絶しているのをいいことに、恩を売って・・そのままとんずら?」
思い起こされるのは、幽霊屋敷でのこと。あのときも爆風を自分に受け、ドーラを守って、立ち去った。
「そいつの行き先は?」
「おおっと・・・」
きっとガンテスを見つめるドーラの視線は、最近にないきつかった。
「あ、いえ・・それきり私はドーラ殿を離宮へ運び、陛下は混沌となった秩序を治められるのに多忙で・・・」
「何か情報は入ってないの?」
「情報ですか・・・・」
「いくらあたしを助けたとはいえ、仮にも王宮内に許可のない者が入っていたのよ?調べないってことはないでしょ?」
「そういえば・・・ああ、確か、その剣士と思われる背格好の男が、アカシックギルド本部の建物に入っていくのを見かけたという報告を受けました。それで私もギルドのメンバーなら、それ以上追求することもないと思いそのままに・・・・あ、ドーラ殿っ?!」
「甘いわよ、ガンテス!だから、ゾールなんかにつけこまれるのよ!そういうことはね、徹底的に追求するべきなのよ!」
「ということは、ドーラ殿、も、もしや、その男は悪人?」
「さー・・・・それは一概には言えないけど、でも、あいつを放っておくと、また何か事件が起こるに決まってるのよ!」
「ドーラ殿?では・・」
「ああ、もういいわ!あんたたち城の兵士でどうにかできるような男じゃないのよ!あたしが行くわ!」
「ドーラ殿?」
「短かったけど、久しぶりにゆっくりできたわ。ありがとう。陛下にも、それから身の回りの世話をしてくれた女官さんたちにもよろしくね。」
「あ!ドーラ殿っ?!」


慌てて引き留めようとするガンテスなど無視し、ドーラは足早に庭を出、そして、そのまま城から出た。

「アレス・・・ミレイユのいるギルドに何の用があるというの?」
まだゾールの一件は片づいてはいない。
ドーラの中で本能がそう語っていた。



「ミレイユ!」
「あら、お姉様?」
「ほ〜う、これはこれは、国を救いし英雄魔導師のお出ましだぜ?」
「なによ、あんた?」
「メイソン!言葉がすぎます!仮にもお姉様は、亡きお師匠様が本来なら跡継ぎにされようとしていたのですよ!いわば、ギルドの長巫女になるべき人なのですよ?」
「はん!しかし実際にはそうじゃない。あんたはただの魔導師で、オレたちの頭は、ミレイユ様だ。」
「何よ、あんた、あたしにケチつけようってんの?」
「いや、事実を言ってるまでさ?」
「ミレイユの前だから、甘くしてりゃつけあがって・・何様だっていうの?」
「いいーかげんにしてちょうだい!お姉様も、メイソンも!」
尋ねたアカシックギルドの本部で、早々にドーラはいけすかない視線を自分に向けるメイソンと火花を散らしていた。

「お姉様、本当にお疲れ様、あのゾールを倒されたのですってね。」
「バルカンの名を汚す奴は、このあたしが許さないわ!」
そして、どうにかその怒りを収め、ドーラはミレイユが薦めたテーブルに着き、話を始める。
「砂岩板の1つは、私たちが大切に保管しています。実を言うと、砂岩板は2つあり、もう1つの砂岩板を探しているところなのです。砂岩板が2つ揃えば、女神ギアの加護により、国の平安は保たれるといいます。」
「でも、ゾールが死んだ今、もう平和になったんじゃないの?」
ミレイユは悲しげに首を振った。
「いえ・・・・直接的な闇の気は、ゾールの死と同時に消滅しました。でも・・・・それよりもっと濃い闇の気が、地底の奥底から窺っているような気がして・・・・」
ミレイユはドーラの手を取ると、ぎゅっと握りしめ、真剣なまなざしで見つめた。
「お願いです、お姉様。どうかもう1つ、月の砂岩板を探してはいただけませんか。私の占いによると、月の砂岩板は、この町の東、イヴェールの氷穴にあるらしいのです。」
「イヴェールの氷穴は、とんでもねー所だぜ?生半可な奴じゃ、生きて還れやしねぇ。だから、オレたちも探しに行きたくてもいけずにいるのさ。あんな氷穴地獄にミレイユ様を行かせられねーからな。」
「じゃ、あんたたちだけでいけばいいでしょ?こうしている間にも、地下からいつ闇の気があがてくるかわからないんでしょ?何もたもたしてんのよ!?」
行けるものなら行って見事見つけてきてみな!とでも言うようなメイソンに、ドーラは思わず食って掛かる。
「そういうのは、ミレイユ様はお好きじゃないのさ。」
「いけしゃーしゃーと・・・・」
「お姉様・・・お姉様なら、きっと・・・・お願いです、お姉様!」
「腕の立ちそうな流れの剣士に頼んでみたものの、やっぱ心許ないからな。今頃、やっこさん、凍り付いておっ死んぢまってるかもしれんからな。そこへ行くと、やっぱり魔導師の方がまし・・かな?術で暖を取ることもできるだろ?あのゾールを倒したんだ。相当な魔力保持者であることは間違いないからな。」
「当たり前です!お師匠様が選んだ後継者ですよ!」
「へいへい、そうでしたねー。」
ミレイユに言われメイソンは大げさに両手を広げて返事をした。
「腕の立ちそうな流れの剣士って・・・まさか・・・・アレス?」
とげのあるメイソンの言葉は無視することに決め、ドーラは、ミレイユに聞く。
「さー、無口な方で、お名前もおっしゃらなかったから・・・・でも、なぜかお師匠様の声がきこえて、その方に行かせてみろと。」
「そう・・・・2番手になったのは気に入らないけど・・・・・まー、いいわ。あたしがその月の砂岩板とやらを必ず見つけてみせるわ。」
「お姉様!」
ミレイユは安堵したような表情で目を輝かせる。
「だから、こんなうさんくさい奴、メンバーから外しなさい!」
「あ・・でも、メイソンはお師匠様が生きてらっしゃる頃からのギルドメンバーで・・・」
「けっ!勝手にしろ!首にされようがされまいが、オレはアカシックギルドメンバーさ。他人から指図されるいわれはないね。ギルドはそれぞれの自由意志で成り立ってるんだぜ?誰も強制されて入ったわけじゃーない。」
「あ、そう。分かったわ。勝手にしなさい!でも、いい?ミレイユには少しでも危険な真似なんてさせるんじゃないわよ!」
「言われるまでもないさ。巫女あってのオレたちだからな。」
「お姉様っ!メイソンっ!」


そんないがみ合いがあった後、ドーラは独り、イヴェールの氷穴へと足を踏み入れた。
−ヒューー〜〜〜〜・・・・−
入口になっている洞窟を進むこと数Km、そこは、皮膚に痛みを感じるほどの冷気が支配する氷穴だった。
洞窟の四方は完全なまでに氷結し、その凍てついた地面は侵入者の足をいとも簡単にすくいあげてみせよう、と言わんばかりに、冷たい氷の輝きを放っている。
奥にたどり着くことが容易ではないことは、一目瞭然だった。

「でも、アレスは先に進んだのよね。」
凍てつく寒さをその身に感じながら、ドーラは呟いた。
「アレスに行けて、このあたしに行けないところなんてないわ!」

アレスの後を追う・・・なぜか嬉しさも覚えつつ(本人は否定するだろうが)、ドーラは、慎重に足を進めた。




Back ・ INDEX ・ Next