**Brandish3リプレイ創作ストーリー**



その23 救世主ドーラ

 

 カチャリ、と何かが外れる軽く小さな音がした。
そこは城地下3階にある牢獄。魔術で封じられた鉄格子の奥。
そう、小さなその音を聞き逃すことなく気付いたのは、フィベリア国国王、ギゼールII世の腹心の部下であり忠実なる臣下、近衛隊長ガンテスである。
(まさか・・・・・)
ガンテスは、それがそれまでどうしても開かなかった牢の鉄格子の解錠の音だと感じると、即刻それに近づいていった。
ギー・・・
重く、さび付いていたため、力を要したが、それは、確かに動いた。
(開いた!・・・・あの魔法使いがゾールを倒したのか?・・・彼女が?鍛えに鍛えぬいた我ら屈強な兵士でも歯が立たなかったというのにか?・・やはり魔術には魔術ということか・・・。)
そう思いつつ、ガンテスは、ドーラから聞いた国王ギゼールが捕らえられている牢獄の方向へと走った。長期にわたる幽閉のため、力の入らない身体に気力で力を入れ、ガンテスは、襲いかかってくる魔物をなぎ倒し、その武器を取り上げ、薄暗い通路を駈ける。


「そこを駈けてくるのは、もしやガンテスか?魔物の類ではなさそうじゃが?」
「陛下!よくぞご無事で!」
行く手にぼんやりと見えてきた人影の声に弾かれるように、ガンテスは駆け寄っていた。
「うむ。これも神の思し召し。我がフィベリアは暗黒神に魅入られたかもしれぬが、神もまたまだ見放されなかったようじゃ。」
「御意。」
すっとギゼールII世の前に膝をつき、ガンテスは頭を垂れる。
「しかるに、この事態は、やはりあの女性(にょしょう)がゾールを倒したのであろうか?大魔導師バルカンの弟子だと申した女魔法使いが。」
「御意。そうに違いありません。」
「ふむ。」
「ともかく上へ参りましょう。ゾールを失い魔物どもの力も弱まっております。兵士共も奴の呪縛からはもう脱したかと思われます。おそらく1階まで戻れば魔物は出ますまい。それまでこの私がお守り致します。」
「うむ。私とて、魔物に立ち向かうくらいはできるぞ。そちだけ苦労せずともよい。」
「陛下・・」
そして、ギゼールII世は、ガンテスと共に力を合わせ、無事呪われた地下から生還した。


「む・・・陛下、お下がり下さい。」
城1階まで戻ってきたその通路で、ガンテスは前方に見えた人影にただならぬ気配を感じ、国王を自分の背後に隠す。
「・・・貴殿は・・・・・・」
しかし、2人に気付いたらしいその人物が、自分自身の気を抑えたことと、その風貌が確認できる近距離まで歩みよってきたことにより、ガンテスはその警戒を解く。
その人物は、誰あろう、アレスであり、地下牢で、ドーラと会ったと同様、2人共、アレスとも会っていた。ドーラと違い、その真意は分からないが、それでも、敵ではないことだけはガンテスもギゼールII世も感じ取っていた。
「そ、それは・・・」
そして、アレスがその腕に抱いている女性に気付き、ガンテスはゆっくりとアレスに近づきながら問う。
「あ・・・お待ちあれ!詳細を話してくれまいか?」
近づいてきたガンテスに、ほいっとまるで荷物を手渡すかのように、ドーラを渡し、そのまま無言でくるっと向きを変え、すたすたと歩き始めたアレスを、思わずガンテスは声をあげて止める。
「ゾールは・・・このドーラ殿が倒したのか、それともご貴殿なのか?」
立ち止まりそうもないと判断したガンテスの声がアレスの背中を追った。
「アレス・・殿?」
その声でふと足を止めたアレスは、軽く振り返ると、倒したのはドーラだと言わんばかりに彼女を指さしてガンテスの問いに答え、前をむき直すと足早に立ち去っていった。
「陛下!隊長殿!」
そこへ駆け寄ってきた正気に戻った兵士たちからから玉座の間で大爆発が起きた事を聞き、彼らは、気絶したドーラの手当と介抱の為、そして、国政の指揮を正すため、同じ敷地内にある離宮へと移った。



「お目覚めですか?」
「え?」
窓から差し込んでくる柔らかく暖かい陽射しの中でドーラは目覚めた。
傍についていた女官らしい女性が、にっこりと笑うと、急いでドアを開けて出て行き、入れ替わりにガンテスが入ってきた。
「ようやくお目覚めですか、ドーラ殿。お身体の方はどうでしょう?痛みやご気分が悪いなどありませんか?」
「あ・・大丈夫よ・・・」
見知ったガンテスの姿を認め、ほっとしたドーラは、部屋をぐるっと見渡す。
「ここは王宮の敷地内にある離宮です。王が息抜きに時折過ごされる小さな宮ですが、何でも揃ってます。」
「そ、そう・・・・・。」
ゾールの自爆に巻き込まれたときのことをドーラは思い出していた。あの爆発でよく助かったものだ。そう思いつつ、どこも怪我らしきものがない自分の身体を見る。
「しかし・・・本当に良くやってくれた。あのゾールを倒すとは、やはり大魔導師バルカンのお弟子殿だけはある。」
「ま、まーね。」
「国王陛下も私と共に無事あの地下迷宮から脱出し、兵たちも、奴の呪縛から完全に解放され、都も徐々に秩序が回復してきています。」
「良かったわね。」
「国を救ってくださったドーラ殿には、完全に回復されるまで、ゆっくりご逗留していたきたい、と陛下も申しております。今少し回復されたら、お会いしたいと。」
「あら、あたしならもう大丈夫よ。ぴんぴんしてるわよ♪」
「まー、そう急がずともよろしいではありませんか。食事の支度もしておりますから、ゆっくりと。おおそうだ。湯浴みなどもいいのではないですか?迷宮でのご苦労の後、大丈夫だと思われても、たまには、ご自分の身体をいたわるべきなのではないですかな?」
「・・・そうね・・・・・・たまには、いいかもね・・・。」


ドーラにとって、そういった時間は本当に久しぶりだった。
宮殿での特別待遇とまではいかないにしろ(当たり前だが)、亡きバルカンがいて、妹のミレイユがいて・・・それは、それで、あれこれあったが、それでも、質素だが、本当にのんびりとした、心にゆとりがあった時を過ごしていた、とドーラは改めて感じていた。


「ドーラ殿、いかがですかな、お身体の方は?」
「あ・・これは・・国王陛下。」
数時間後、ガンテスに案内され、中庭の東屋で回りに咲き誇る花を愛でながらティータイムをとっていたドーラは、国王ギゼールII世の姿を認めると、すっと立ち上がり軽くお辞儀をする。
「すっかりお世話になっております。」
「いや、礼を述べるべきは余のほうじゃ。」
ギゼールII世は、上座のイスに座ると、ドーラに座るよう目配せする。
本来平民であるドーラが国王の前でイスに座るなどもってのほか。ちらっとガンテスを見たドーラは、彼が王の言葉に甘えるようにと言うように頷いたのを確認してから、にっこり笑って再びイスに腰掛けた。
「では、失礼致します。」

そして、国王とガンテス、そしてドーラ3人でゆったりとした時をそこで過ごすこととなった。

「そなたに掛けられた懸賞金は取り消しておいた。」
「ありがとうございます。」
「それとじゃ・・」
ギゼールII世は、女官に目配せし、小箱をテーブルの上に置かせた。
「これは少ないが報奨金じゃ。受け取るがよい。本来ならば国を救ってくれた英雄、そのような額では到底十分とは言えぬのじゃが、破壊された王宮の修復や、魔物対策の警備などに、結構資金が必要でな・・」
「あ、いえ、国王様、お気遣いなく。」
が、予想外というか、小箱の中には5万Gもの大金が入っていた。

「それにしてもゾールめ、いつの間にあれほどの魔力を身につけたのか・・・。」
「以前からでは考えられないほどの力でした。ここ数年のうちに、ゾールの身辺に何か変化はなかったでしょうか?」
「ふむ・・・・」
「王、もしや、あの闇の誓約書に関係があるのでは?」
「う、うむ・・・」
「闇の誓約書とは?」
顔を見合わせ確証があるようなギゼールII世とガンテスに、ドーラはすかさず問う。
「先代の国王陛下、ギゼールI世陛下がお調べになられていた書物です。」
「内容に至っては、余も多くは知らないが、カロナ神殿から見つかった書物で、この土地に残る神話が書かれているとのことだ。闇の力や邪神の表記が多く、人身を惑わす恐れがあるので公表はしていない。」
「そう・・ですか・・・・。闇の・・力・・・・。確かそんな事をゾールも言っていたわ。そのゾールがいなくなったから、もう心配はいらないかしら?」
「いや、そうとも限らぬ。あのゾールが独りで企てたとはどうも思えぬのじゃ。この一連の出来事には、まだ裏があるように思えてならぬ。」
「陛下、そろそろ、公務のお時間ですが。」
「おお、そうじゃった。ドーラ殿、そなたとゆっくり話ができて楽しかった。しばらくはゆうるりと城で過ごされるが良い。宿では十分な世話ができぬし、何かと入り用になろう。なに城への出入りは自由故、気楽にあちこち出歩かれるがよい。では、公務があるので失礼する。」


そして、国を救った英雄、ドーラは宮殿で手厚くもてなされる日々を送ることになった。




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