**Brandish3リプレイ創作ストーリー**



その14 賞金首・ドーラ

 


  

 「ちょっとあんたたち誰っ?!目つきが危ないわよ!」
海岸から廃墟へと入り、砂漠に戻って、ミレイユからもらったカギで開けた通路は、あの幽霊屋敷の地下へと続いていた。再び鼻が曲がりそうな腐臭に顔をしかめながら、ドーラはその地下の一角にあった縦穴をよじ登って墓場へと出た。
不意に動いた墓石にカラスが驚いたようだが、ちょうど人はいなかった。
そして、街へと戻ったドーラは、彼女の顔を見るやいなや、一瞬驚いたものの、続いてにやっと薄ら笑いを浮かべ、バラバラと取り囲んだ男達に啖呵を切っていた。

「お前が賞金首のドーラだな。」
(え?)取り囲んだ人相の悪い男達の中の一人の言葉に、ドーラは驚く。
「お前の首にゃ、た〜〜んまりと賞金がかけられたんだよ。」
酒場で見かけた覚えがあるような男が続けた。
「へへへ・・・100万もの賞金が手に入りゃ、当分遊んでくらせるぜ。」
「100万?・・・結構いい値をつけてくれたじゃないの。」
ゾールのしわざだとドーラはぴんとくる。
「お前にゃ悪いが死んでもらう!」
「危ないじゃないっ!何すんのよっ!」
勢い良く斬りかかってきた男の剣を、ドーラは咄嗟に避ける。
「悪く思うなよ。だが、なんだな・・・即殺してしまうには惜しいな。おとなしく言うことを聞いてくれるってんなら、その首跳ねないでいてやろう。」
下品な笑いを浮かべ、男達はじりじりとドーラに詰め寄る。
「はん!それはこっちのセリフよっ!どうあってもやろうってんなら、手加減しないわよっ!」
「そうか。それは残念だ。」
杖をかまえ、きっと男達を見据えたドーラに恐怖の色は全くない。
「あんたたちにこのあたしを捕まえられるとでも思ってんの?!」
言うが早いか、飛びかかってきた男達をドーラの杖の先から躍り出た火炎が襲う。
「わっっちっちっちっち!!」
「ぎゃーーー、た、助けてくれーー!」
「み、水ッ!水〜〜〜!!」

「ふん!口ほどにもない!」
口々に叫びながら走り去っていった男達に蔑視を投げかけると、ドーラは手持ちの品を整理しようと店屋に向かった。
が、街の街道は、もはやドーラにとって安全とは言い難い状態となっていた。
それでなくても、胡散臭い冒険者くずれの旅人が多かった。彼らにとってドーラは格好の獲物なのである。
(城の兵士まで来てるじゃないの。)
例え兵士であってもドーラの相手ではない。が、あまり騒動は起こしたくなかったドーラは、裏道を隠れるようにして進む。

「あ、な、なによ、アレス?あんた、まだこんなところをうろうろしてたの?」
身を潜めながら歩いていたドーラは、兵士の一団の目を避けるため飛び込んだ物置小屋で、アレスを見つけて目を丸くする。
「相変わらず黙りなのね。まー、いいわ。ちょうどいいから、外の連中なんとかしてくれない?街のあちこちにあたしの手配書が貼ってあったけど、もちろん、あんたのもあったから、兵士たちの気を引くにはちょうどいいわ。そのくらいあんたならどうってことないでしょ?」
自分勝手なドーラのその命令とも言える依頼に承知したのか、しないのか、ともかくアレスは、ちらりともドーラに視線を向けることなく、そのまま物置小屋を出ていった。


「アレスだっ!賞金首のアレスだぞ〜〜!」
兵士らしい声と鎧がこすれ合う音、そして、時に剣を交える音とが、少しずつ遠くに去っていった。

「どうやらアレスは敵を引きつけてくれたようね。それにしても、ゾール・・・このままじゃすまさないわよっ!」
なんとしても国都フィベリアへ行き、王宮にいるゾールに会わなければ!と気負ってみたが、ようやく通行可能となった街道への出入口は兵士たちによって強固に守られていた。そこを突破
するには、彼らとの戦闘を余儀なくされる。
もちろん、そのくらいドーラの相手ではないが、魔物ならまだしも、あまり人間と争いたくはなかった。


「へへへ・・お困りの様子でゲスなぁ。」
「あんた、誰?」
どうしようかと建物の影で街の門の様子を見ていたドーラに、声をかける一人の胡散臭そうな男がいた。
「耳寄りな話があるんでゲスが。どうでゲス?1000Gで。」
「1000G?」
その小汚い男のつま先から頭の先まで流し見たドーラは、信用おけないと判断する。
「どうせ1000Gもらったら、はい、さよならするんでしょ?」
「そ、そんなことしやしませんでゲスよ。つれないでゲスな。」
ふぇっふぇっふぇと下品な作り笑いを見せる。
「それに、1000Gの価値があるかどうかも分からないわよ。」
「しかしお嬢さん、蛇の道は蛇と言いやすよ。街から出る方法ないんでゲショ?」

しばらくドーラは男を見て考えていた。あれからアレスにも会ってない。どこかに潜んでいるのか、あるいは、アレスはアレスで街からの脱出路を見つけたのか。
「じゃー、いいわ。でも、分かってるんでしょうね?ろくな情報じゃなかったら、ただじゃおかないわよ?」
「へへへ、毎度〜〜。」
男はドーラから1000Gを受け取ると、素早く内ポケットにしまい込む。
「街の南側にどうしても開かない門があったでゲしょ?」
「ええ、あったわ。確かジャングルへの道とか聞いたけど。猛獣が多い上に、魔獣まで出始めたから締め切ってあるって聞いたけど。」
「そこから出るんでゲスよ。ここからの近道だと、そこの建物と建物と間の狭い通路を進むんでゲスよ。」
「出るって・・・あの門、ちっとやそっとじゃ開きそうもなかったわよ・・・って、ちょっと待ちなさいっ!」
男が指さした通路とは言えないような隙間にドーラが気を取られていたその瞬間、男は目にも止まらない速さでその路地から走りでて大声をあげた。
「お役人様〜〜!賞金首の女がこっちにいやすぜ〜〜。」
「な、何よ、あいつっ!」
慌てて追いかけようとしたドーラだが、役人を呼ばれては煩い。ドーラは仕方なく男とは反対方向に走ろうとして、目に入ったものを虎視した。
「あら?・・・ひょっとして・・・」
男が立っていた場所にカギが一つ落ちていた。
「抜けてるわね。落としていくなんて。ひょっとして、これがその門のカギ?・・・ふん、どうせ、最初はもっと値を釣り上げてこれを売りつけるつもりだったのが、あたしにかけられた賞金に目がくらんで、気が変わったってところね。」
違っているかもしれなかった。が、ドーラはともかくそのカギを拾い上げると、男が兵士たちを引き連れてこないうちに、そこから姿を消した。
   




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