**Brandish3リプレイ創作ストーリー**



その12 廃墟の人魚像

 


  

 「ここは?」
足をとられないよう細心の注意を払って流砂のエリアを越えてたどり着いたところ、そこは、あちこち瓦礫が積み重なっていた。
古代の遺跡と呼ぶには新しい感じがするが、崩れ落ち長年の歳月により自然に侵食されるままとなっていたらしいそこは、壁に刻み込まれた模様や石組みの具合から、特別な場所、何か神聖な場所だったのだろうと想像できた。
「そういえば、お師匠様が、砂漠のどこかに古の女神を祭った神殿があるとか言ってたことがあったわ。」
ふとそんなことを思い出しドーラはつぶやく。
「ここがそうなのかどうかは断定できないけど・・・。」
ともかくドーラは瓦礫の山の間に足を踏み入れた。


確かに昔は神聖な区域だったかもしれない・・が、そこは、砂漠同様、魔物の住処となっていた。
「うるさいわね、ちょこまかちょこまかと!」
−キャアッ!−
不意に電撃を受け、ドーラは驚く。
「まったく・・・・こいつが攻撃が効かない電気うなぎもどき?」
砂の中をはい回り、絶えず放電しているデザートモニターとかいう魔物。こいつは一切の攻撃をものともしない。
「えっと、確か何か固い物をぶつければいいんだったわよね?」
廃墟内で出会った魔族の闇屋に教えてもらった事を思い出しながら、ドーラは周囲を見渡す。

「まー・・このくらいの岩ならいいかも?」
そして、思いっきりさっきの仕返しに、それを投げつける。
−グシャッ!−
「ふん!ざまーみなさい!」
パンパン!と勢い良く手に着いた砂を払い、ドーラは先を進む。


「これって・・・」
そして、ワープのトラップが至る所に仕掛けてあったエリアを抜けたところ、そこに、ひっそりと寂しそうに佇む人魚の彫像があった。

気分が気分なら微笑んでいるようにも見えるのだろうか?が、周囲の寂しげな雰囲気が、彫像の表情を暗く見させていた。
両手を広げ、もの悲しいような表情で天を仰いでいる人魚像。
それは祈りを捧げているようにも見えた。

「あら?」
ふとドーラはその彫像の両の手のひらに丸い溝があるのを見つける。
「ちょうどこのくらいかしら?」
ごそごそと腰袋から砂岩版を取り出して、右手の溝に合わせてみた。

−ガコン!−
「え?」
砂岩版をはめると同時に背後で何か重いドアの開くような鈍い音が聞こえて、思わず振り返るドーラ。
「もしかして、さっきみつけた開かなかったドアが開いた?」
そう思いながら、ドーラは彫像に視線を戻し、あちこち観察する。
「別に像に変化は・・ないわね。ここだけで・・・。」
ドーラが見つめているのは、彫像の手。砂岩版の淵にあった切れ込みと手の切れ込みとがぴったり組み合わさっていた。
そして、組み合わさることにより、そては何かの文字を形成していた。
「う〜〜ん・・・この文字、どこかで見たことが・・・あるんだけどなぁ・・・・」
しばらくじっと見つめていたが、どうにも思い出せない。
ドーラは、外したらまたドアが閉まってしまわないか、と思いつつ、そっと外してみた。

「よかった!ドアはそのままだわ。」
−ザザーーン・・・−
「え?潮騒の・・音?」
ドアの先に続いている岩窟。真っ暗で先は見えないものの、その奥からかすかだったが、波の音が聞こえてくる。
「とすると・・位置的には・・・・」
タントール周辺の地理を思い出しながら、ドーラはせまいごつごつとした岩窟を足早に進んだ。
 

−ザザーーン・・ザザーー・・・・−
「きれ・・い・・・・・・」
岩窟を抜けたドーラの目に飛び込んできたのは、朝日が昇ろうとしている浜辺だった。
周囲の森が、そして海面が、一日の始まりの新しい陽の光を浴び始め、光り輝く時。

「ああ・・・だから人魚なんだわ。」
穏やかにきらめく波、静かな入り江。そこはまさに人魚の海と呼ぶに相応しい雰囲気で満ちていた。

−シビビビビ!−
「きゃっ!」
その雰囲気にうっとりと心を奪われ、自分が危険地帯への彷徨い人だということを、一瞬だが忘れてしまっていたドーラは、不意に全身に走った痺れを伴った痛みで、我に返った。
(こんなところにも電気うなぎがいるの?)
振り返ったドーラの目に入ったものは、予想したものではなく、くらげだった。
「ふ〜〜・・・・電気うなぎの次は電気くらげ?って、なによ、こいつ?!」
今度も何も効き目ない?とも思いつつ、試しに放った火炎が、勢い良く跳ね返されて、ドーラは驚く。
「あつつつつっ!・・・自分の魔法でやられてちゃ、笑い話にもなんないわよっ!」
ビシッっと持っていた鞭で1発。クラゲは敢えなく昇天した。

「あら・・案外柔いのね?!」
それを見たドーラの頭にはぴん!とひらめくものがあった。


「転んでもただでは起きないドーラ様ってね?・・・これから魔物もどんどん強くなってきそうだから、この辺で、魔法力や耐性度をあげておいても悪くはないわよね?」

やばくなったら鞭一発で仕留められることをいいことに、ドーラは電気くらげを相手に、自分の火炎魔法で、魔力と耐性、一石二鳥のパワーアップを狙って、しばし、そこで修行することにした。


「急がば回れよ!」
それまでの経験がドーラに囁いていた。
今ここで力と防御力をつけておいた方が無難だ、と。
 




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