**Brandish3リプレイ創作ストーリー**



その6 真実は?

  

タントールの墓地風景とは違いますが・・・
イメージ画ということで。(またしても/^^;)
  
  

 「あの人影は・・・」
ボレアの洞窟の最下層、といっても4層しかないが、そこで分裂するスライムの親玉との戦いで勝利を収め、目的の砂岩板を手に入れたドーラは、兄弟子ゾールにそれと引き替えに、バルカンの死の背後にある事実を聞き出そうと会いに、指定された墓地の西の館へと向かっていた。
必ず仇の首を取って帰るとバルカンの墓前に誓ってこの地を出たドーラ。その目的こそ果たしてないが、この地へ戻ったのである、バルカンの墓には参りたかったが、その目的を果たしていないことがドーラに二の足を踏ませていた。が、館へ向かう途中ちらっと流したその視野の中に、墓碑の前に佇む男の姿が入ったのである。
時は夕刻・・そろそろ夜の帳が周囲を包み込もうとしている時だった。その薄闇の中、それでもドーラはめざとくその人影が、誰あろう、あのアレスだと直感して、足早に近づいていった。

(やっぱりアレス・・)
近づくに連れ、それは確信に変わっていった。というより、最初から間違いないとは思っていたが。


−カー、カー・・ギャーッ・・ギャーッ!−
墓地のあちこちにたむろしているカラスが、突然の訪問者に驚き、威嚇しながら舞い上がる。

「そこを離れなさい!お師匠様の墓に近寄らないで!」
別に忍び寄ったわけではない、カラスの鳴き声と羽ばたきの中、ドーラはずんずんとその歩行に勢いをつけてアレスの背後に近づいていったのだが、当の本人はまるで気づいていないかのように振り向きもしない。
ドーラは2,3歩後ろで足を止め、そんなアレスの背中を睨む。
「何のつもり?バルカンの眠るこの墓に懺悔でもしに来たの?」
が、当然のごとくアレスからの返事はない。
ふっと自嘲的な笑いをこぼし、ドーラは続けた。
「こんな所で会うとはお笑いね。またまかれたと思ったら今度は待ち伏せだったとはね?」
(・・待ち伏せは・・違うかもしれないわね・・)
ドーラは言葉を変えた。
「そう・・逃げるのに疲れて観念してあたしに殺されに来たのかしら?」
そう言いながら、目の前のアレスの背中がそれを否定しているようにふと感じたドーラは、まるで自分に言い聞かせるかのように話し始める。8年前の事実を再確認するかのように。
「あたしは、あんたがお師匠様を斬ったのをこの目で見たのよ。ちょうど8年前、嵐の中をフィベリアの城に駆けつけたとき、あたしは血溜まりに横たわるギゼール王とお師匠様を見たわ。そして、そこにはあんたが立っていた。」
まるでつい昨日の悪夢のようにその時の様子がドーラの脳裏に浮かんでいた。
「違うというのなら、あたしが納得できるように説明しなさい!それでなかったら、ここで会ったのが時の運・・決着をつけようじゃないの?」
ザッとドーラは杖を構え、アレスの背中を一層強く睨んだ。
「今度こそ来るっ?」
ようやく向きを変え、ドーラの方を向いたアレスの姿に、一瞬緊張感が走る。
が・・・・
−スッ−
アレスは、まるで木のそばを通り過ぎるかのように、ドーラにはまったく無頓着で通り過ぎていく。
「ちょっと!待ちなさい!どういうことよ!勝負を挑まれたのに、しっぽを巻いて逃げる気?あんたは目の前に立ちはだかる敵に背中を見せるような奴じゃないでしょ?・・・ちょっと!どこに行くのよ!?」
が、ドーラもまた分かっていた。口ではそう言ってるものの、彼女自身の中に戦闘意欲はまるっきりなかった事も。勢い良く飛び出るセリフとは裏腹に、彼女の闘争心は静かだった。相手は師を殺した憎っくき仇。その気なら背中をみせていようがいまいが、襲いかかればいい。たとえ無視しようと、いくらアレスでも戦いを仕掛けられれば、応戦してくるはずである。が・・ドーラの身体は動かなかった。
「まったく・・・何よ、アイツ・・・・。」
背中を見せ、まるっきりの無防備状態の相手に、例え仇であろうとも、挑みかかるような卑怯な事はしたくない、そう言えば、ドーラのその行動にも一応の説明はついた。
が、彼女の心の底には、それだけとは言いきれないものも沸いてきていた。


ゆっくりと去っていくアレスを追いかけることもなく、ドーラはその姿に背中を見せ、バルカンの墓前に立つ。
『大魔導師バルカン。 数他の名声とその偉大なる魔力とともに永遠の眠りに就く。』
その墓標に視線を這わせながら、ドーラは考え込んでいた。

「教えて、お師匠様・・・本当は8年前、謁見の間で何があったの?ゾールの使いが言ってたように、真実は他にあるの?アレスは・・・あいつはお師匠様を殺した張本人じゃないの?」
シャグベルの言葉、そして、悪徳非道の賞金首という噂のアレスの本当の姿。ドーラがそれまで実際に自分の目で見たアレスは・・・非情なまでの無口さは噂通りだったが、それ以外の行動は・・・人助けはする、頼み事は引き受ける、争いは自分から起こすようなことはない。そこからは、悪党というイメージは全くなかった。ただ、降りかかってくる火の粉は徹底して払い退けるが・・・そう、アレスにかかっていって無事ですんだものはいない。
(そうよね・・・かかっていかなければ、アレスの方から手を出すこともないし、盗みとか殺人とか、アレスが自分から行動に出るようなことはないわ。)
ドーラの中で、悪党というイメージは薄れかかっていたことはたしかだった。が、自分の目でみた8年前の事実が、その事を認識するのを躊躇わせていた。例え噂通りの悪人でないにしても、バルカンを殺した仇であることには違いない。
が、その事も、今回の帰省で疑わしくなってきていた。
(あの場面・・・表面上では、アレスが王とお師匠様を殺したとしか見えないけど・・でも・・・)
8年前は、まだ世間を知らないほんの少女だった。魔導の修行はしていたものの、贅沢こそないが、バルカンの庇護の元、何不自由なく暮らしていたのである。世間の汚れなど知りもせず。が、アレスを追う旅の途中で、そして、特にビトールやブンデビアでの経験と見聞により、今のドーラには、見た目だけが事実ではないことも、はっきりと分かっていた。
「ゾールに問いただせばはっきりするはずよね?」
取り出した砂岩板を見つめながら、ドーラは呟いていた。
相当古いものだろうと思われるその円形の岩盤には、太陽神の顔が描かれていた。裏側には古代文字らしき判読不可能の字が刻まれている。

「それに・・・フィベリアを覆うこの闇の気・・・・・じわじわとどこかからか滲み出ているようなこの闇の気・・・そう、これは、8年前にも感じたわ。その時はお師匠様の死の事で頭がいっぱいで、さほど気にもしなかったけど・・・。」
(ひょっとしたら、ビトールやブンデビアと同様、闇の力に陶酔した国王を止めようとしたものの、その闇の気に囚われ・・・最終的にアレスに・・・ちょっと待って・・じゃ、あいつを城へ伴ったのは、単に傭兵の口利きではなく、闇に覆われ始めたフィベリアの狂気を止めるため・・・だったというの?・・アレスの腕を見抜いたお師匠様が、念のため最後の手段としてアレスを連れていった?・・・・・・・)

「それにしてもゾールは・・・信用おけるのかしら?・・・8年前、亡くなる数日前にお師匠様の元を訪ねてきていたけど・・・・あまりいい空気は感じなかったわ。」

ドーラの胸の中に、ビトールやブンデビアと同様の道をフィベリアも辿っているのかもしれない、という考えがわき始めていた。

ひょっとしてアレスは、バルカンにもしものときは、と頼まれたのかもしれない・・・・ドーラはふと沸いたその考えを、慌ててうち消していた。             




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