**Brandish3リプレイ創作ストーリー**



その4 星の導き(2)

  

 (星の導き・・あたしを弟子にしてくれるときもそして、アレスと出会った時も、お師匠様は呟いてたわ。)
医師に二日酔いを治してもらいボレアの洞窟へ続く山道を急いでいたドーラの胸中には、未だ過ぎ去りし日の思い出がわき出ていた。

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「客人が来たようだ。腹を空かしているはずだから何か用意してやれ、ドーラ。」
夜も更けていた。そろそろ休もうと居間の暖炉を離れようと立ち上がったドーラに、バルカンが言った。
「え?今頃?・・・・」
星の流れを読み、そして、気の流れを感じとる大魔導師バルカン。バルカンの言葉に間違いはないと知っていたが、夜更けということと、滅多に人が立ち寄らない奥深いところにあるということが、その言葉をドーラに出させていた。

−トントン−
そして、それが間違いでなかった証拠に、数分後、まだドーラが台所に向かわないうちに戸口を叩く音がする。
「お入りなされ。」
−キー・・・−
少し軋む音を立て開いた戸口に立っていたのは一人の男。剣士の格好をしているその男は、長旅でもしてきたのか、マントはあちこちはあちこちほころび、そして、疲れ切っているようにみられた。

「ドーラお姉さま・・」
その男を一目見た瞬間、ドーラのそしてその横に座っていたミレイユの脳裏を、悪い予感が過ぎる。
ドーラは、彼女の服の裾をきゅっと握りしめたミレイユの手を、やさしく握り、大丈夫だと微笑む。

「疲れているようじゃの。まずは腹ごしらえして、それからゆっくりと旅の疲れを取るがいいじゃろう。」
「世話になる。」
短くそう答えると、その男は窓際に荷物を降ろすと、バルカンの薦めたイスに座った。
「ドーラ。」
「あ、はい。」
気は進まなかったが、いやだとも言えず、ドーラはどことなく落ち着かない気持ちで台所へ立った。
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「そうよ!思い出してみれば、あの時アレスに給仕したのよ!!あんな物騒な奴だとは知らずに・・・・まさかお師匠様を殺すなんて思いもせず・・・・」
怒りで燃えたドーラの声が、小さく消える。
「何か悪い予感はしたけど・・まさか・・・見ず知らずの赤の他人なのに、それを暖かく迎えて宿と食事を提供した恩人を・・・・世話になったお師匠様を殺すなんて・・・思いも・・・ううん・・・それが悪い予感だったのかもしれないけど・・・・」


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不安げな表情で見上げるドーラとミレイユに視線を移すわけでもなく、バルカンは男を見ながら呟くように言った。
「これも星の導きか・・・・・」
「え?」
小さく聞き直したドーラににっこりと微笑むと、バルカンは男に話しかける。
「傭兵の口でも探しておるのなら、紹介してやらんでもないが。」
バルカンの言葉に、忙しく口を動かす合間、男は軽く頷いた。


「お師匠様?・・・・お師匠様?」
「どうしたの、ドーラお姉さま?」
「あ!ミレイユ、お師匠様がいないの。あの男もいないのよ。」
「こんな朝早く?」
「そう。傭兵の口利きにいくにしても、いつもなら朝食をとってからいくのに・・・今日はどうしてあたしたちが寝ている間に行っちゃったのかしら?」
「お姉さま・・」
その悪い予感からなのか、いつもより少し早く目覚めたドーラだったが、家にはバルカンの姿も男の姿もなかった。
ミレイユも同じ不安を感じていると判断したドーラは、素早く身支度をする。
「ミレイユ、あたし国都へ行ってくるわ。」
「お姉さま。」
「あんたは・・大丈夫よね。」
「え、ええ。」
ミレイユ一人を残していくのも気がかりだったが、今はそれよりバルカンの事の方が気がかりだった。このままもう会えないような不安がドーラを覆っていた。
不吉な胸騒ぎが国都フィベリアへと急ぐドーラをより急がせた。
もし、出立の時に目覚めていたら、何がなんでも止めた。根拠のない不安だとバルカンに一笑されても、ドーラは持ち前の気性でなんとしても止めた。そんな思いがドーラを一層急き立てていた。

「よくがんばったな、ドーラ。お前はわしの自慢の弟子じゃ。・・・あとはお前だけで極められるじゃろう。」
修行には厳しかったバルカン。そのバルカンが前日やさしく微笑みながら、ドーラの頭をなでたのである。まるで幼子にするように、そして、愛しそうに。
(あれは・・・・まさか・・・)
死を悟って・・という言葉をドーラは飲み込んでいた。


「ゾール!」
「これはこれは・・・めずらしい。我が妹弟子ではないか。」
国都フィベリア。その王宮へやってきたドーラを迎えたのは、不穏な空気を澱んだ激しい雷雨。
まるでこの先に起こるいや、すでに起こっている事を表しているかのように、不気味に周囲にとどろく雷鳴と稲妻。
ずぶぬれのまま、ドーラは王宮内に住んでいる一応兄弟子である宮廷占星術師となっているゾールを呼んでもらう。
口から出た言葉とは裏腹に、冷たい表情と口調で迎えたゾールの顔をみて、ドーラは思わずぞっとする。
「お師匠様は?アレスという男を連れて来なかった?」
「ああ、少し前、謁見の間に行かれたはずだが?」
「謁見の間ね?少し前ならまだ間に合うわよね?」
−タタッ!−
「ドーラ!許可のない者は入っては・・・」
ゾールの引き留める言葉など無視し、ドーラは謁見の間へ宮廷内を走る。
「あ!こら!そこの娘!その先は国王の・・」
「どいて!じゃまよ!」
「狼藉ものだ!その娘を止めよ!・・出あえ!出あえ〜〜!!」
「どいて!じゃましないでよ!別に悪いことするんじゃないから!」
止めようとする衛兵を振り切り、ドーラは走った。何事もなくバルカンの笑顔に会えるのを祈りつつ。
が・・・・・・・・・・・・・・


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(あの時の血の凍りそうな恐怖は忘れないわ。・・・・・息絶えたお師匠様と、鮮血に濡れた剣を持ってその横にいたアレス・・・・でも、あたしでも察知したその不吉な予感をお師匠様が感じられないなんてことあるはずないのに・・・。それに、あんな流れものの剣士にお師匠様が倒されるなんて・・・・。)
「はっ!」
思い出に浸り、そして、怒り新たに敵討ちに燃えていたドーラは、ぽっかりと口を開けている目の前の洞窟にはっとする。
「ボレアの洞窟・・・・異様なこの空気は・・・・確かに前はなかったわ。」



一瞬、不気味なその雰囲気の飲まれたかのように足を止めたドーラは、きっとその奥に広がっている闇を見つめ足を進める。

「砂岩版・・・アレスもそれが目的なのかしら?」
今はアレスの首より砂岩版だとドーラは思う。が、目的が同じだとしたら、アレスは一帯何をするつもりなのか?
(ゾールの使いだというシャグベルの言っていた言葉、お師匠様の死に関わる本当の原因がそれで分かる・・・・じゃ、アレスは砂岩版を見つけだして自分の潔白を証明しようとしてるとでもいうの?・・あの、アレスが?・・・自分が他人にどう呼ばれていようが全く気にも留めない奴なのよ、あいつは?濡れ衣だろうがなんだろうが、わざわざ身の潔白を証明して誤解をはらすような面倒な事するような奴じゃないはずよ。・・じゃ、なぜ?・・・・砂岩版を手に入れて、またこの国でひと騒動起こそうとでもいうの?・・・・・この国を、お師匠様が愛したこの国に、ビトールやブンデビアのような結末を迎えさせようというの?・・そんなの許さない!だれが許してもこのあたしが許さないわっ!)
様々な仮定がドーラの脳裏に浮かぶ。

「いいわ、アレスが何を考えていたとしても、要は両方手に入れればいいのよ!砂岩版も、アレスの首も!」

怒り、そして、決意新たに、うす暗い洞窟をドーラは進む。             




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