**Brandish3リプレイ創作ストーリー**



その3 星の導き

  

 「おじいさん、大魔導師様なんでしょ?あたしを弟子にしてよ。」
(生意気なガキだと思ったでしょうね・・・・)
ドーラはバルカンの元へ弟子入りした時のことを思い出していた。
 

ドーラ7才


それはドーラが7才の時のこと。天涯孤独だったドーラは、ある隊商に混ざって旅をしていた。
小国フィベリアの片田舎の街、タントールもその隊商が立ち寄った街の一つだった。
偶然出会った老人が、えらい大魔導師様だと聞いたドーラは、幼いながら考えた。物心ついた頃にはもう両親も肉親もいなかったドーラ。隊商の一員が旅の途中、飢えで倒れていたドーラを拾ったとしか自分のことは分からなかった。その隊商に混ざって旅を続けていれば、そのうちどこかで自分を知っている人と出会うかもしれない、そう思ってドーラは幼いながらも出来る限りの仕事をしながら旅を続けていたのだが、その老人との出会いが彼女の考えを変えた。
老人は惑星神官の流れをくみ、星からの啓示を人々に伝えることを生業としており、人々から尊敬の対象とされていた。
「そんな偉い人なのかしら?」
ごく普通の気のいい老人にしかドーラの目には写らなかった。が、隊商がタントールを出立するその朝、ドーラの中で、どういうわけかその老人の顔が鮮明に浮かんだ。
「あたし・・・・あの人の弟子になる!」
不意に言ったドーラの言葉に、一緒に旅をしていた商人は驚いたが、引き留めるつもりはなかった。いれば細かい仕事など任せられるが、それ以外ドーラを必要とする理由もさしてなかったからである。
「元気でな。」
商人に見送られ、ドーラはタントールの町外れの森にあるというバルカンの小屋を目指した。
何かに引き寄せられるように、バルカンの元へと走った。


「ふむ。お嬢ちゃん、いくつじゃな?」
「7つ。」
「7つか・・・・お父さんやお母さんは?」
「いないわ。家族も身内も一人もいないわ。あたしはあたしだけよ。」
挑戦的な口調とも言えるような口調。そして天涯孤独の身の上も他人ごとのようにたんたんと話すドーラ。が、その瞳には確固たる決意の光りが宿っていた。
「一人か・・」
そういえば街へ立ち寄った隊商の中を元気良く走り回って用を足している少女がいた、とバルカンは思い出す。
「名はなんというんじゃ?」
「ドーラ。」
「ドーラか・・・良い名じゃ。」

しばらくドーラのその真剣な瞳を見つめていたバルカンは星の導きを悟っていた。
「これも何かの巡り合わせ。いや、星の導きじゃろう。」
「え?弟子にしてくれるの?」
「ああ。」
にっこりとやさしげな微笑みをみせ、バルカンはドーラの頭をなでた。
「その代わり、自分の事は自分できちんとするんだぞ。子供だからといって甘やかすつもりはないぞ。」
「うん!だって弟子入りするんだもん。それは当然の事よ。」
目を輝かせドーラはきっぱりと言い放った。それまでの旅でそういった雑務には慣れている。そして、隊商の中でも、甘やかせてはもらえなかった。自分のことは自分で、そして、働かざるもの食うべからず、小さいながらもドーラの出来る仕事はなんでもやってきた。

そして、その日から、バルカンの元での生活が始まった。
家事と修行。修行は確かに厳しかったが、それ以外の時はまるで本当の祖父のように、バルカンはやさしかった。くるくるとよく働くドーラの姿を、目を細めてバルカンは温かく見つめていた。そこには師匠と弟子だけでない、確かな家族の愛が育まれていった。

「ドーラ、今日から家族が増えたぞ。」
「え?」
ドーラがバルカンの元で生活をするようになって半年ほどが過ぎたころ、国都フィベリアへ一人出かけていたバルカンが、一人の少女を伴って帰ってきた。
「ミレイユと言うんじゃ。仲良くしてやってくれ。」
「ミレイユ・・・」
はずかしいのか、3つドーラより年下だと聞かされたその少女は、バルカンの後ろに隠れてドーラを見ていた。
が、お互い子供同士。数分もしないうちに2人は打ち解けていた。
「いい子じゃ。ドーラも、ミレイユも。」
まさか独り身であり、この歳になって子育てをするとは思わなかったと思いつつ、バルカンは目を細めて2人を見つめていた。
といっても、まったく手はかからなかった。隊商の中で鍛えられたサバイバル精神は、ドーラをその年齢よりぐっと成長させていたし、そして、そのドーラに任せておけば、4才とはいえ、ミレイユを引き取っても何ら支障はないだろうと、バルカンは判断したのである。

「お師匠さま〜〜!」
「おお、迎えに来てくれたのか?」
「はい。」
「留守中変わったことはなかったか?」
「はい。」
「あ、あのね、お師匠様・・ドーラお姉さまったらね・・」
「ミレイユ!余計な事は言わなくていいの!」
「ほう・・何かあったんじゃな?、ミレイユ?」
「お姉さまったら、ボレアの洞窟でねー・・」
「ミレイユ!」
し〜〜っと黙るようにミレイユの口を押さえると、ドーラは早口でバルカンに言う。
「・・あ!お師匠さま、ホントになんでもないの。大したことじゃないから・・・」
「大したことじゃないのなら、話してもどうってことないじゃろ?」
「あ・・で、でもね・・」
「こっちの荷物を持ってくれんか?」
「あ、はい、お師匠様。」
「あのね、あのね、ドーラお姉さまったらねー・・・」
「ミレイユ!」
口を塞いだドーラの手が離れ、ミレイユはさっそくバルカンに報告し始める。
「薬草探しに行ってね、穴に落っこちゃったのよ。もうミレイユ、大変だったんだから。」
「なによー、ミレイユなんて、助けを呼んでくるって言って、道に迷って泣いてたところを、薬草探しに来たおじさんに見つけてもらっただけじゃない?」
「でも、見つけてくれたから、おじさんが持っていた縄で、ドーラお姉さまは出られたんじゃない?」
「だからー、その事じゃなくって、無事だったんだから、お師匠様に言うことないって事よ。」
「だって、変わったことには違いないわよ。」
「もうミレイユのばかーー!」
「はははは・・分かった分かった。無事だったからよしとしよう。修行はさぼらなかったじゃろうな?」
「それは勿論よ!毎日のカリキュラムはきちんとしてるわ。」
「ミレイユも!」

時々国都フィベリアへ出かけるバルカン。その間2人で留守番をしているドーラとミレイユ。
特に土産があるわけでもなかったが、その2人にとって親代わりとも言えるバルカンの帰宅はこの上なく嬉しいものだった。
タントールに着く日時を告げる手紙がくると、その日はその数時間前から、街の入口にはバルカンの帰りを待つ姉妹の姿があった。
食料と必需品を買って森の小屋までの道、それは、実の祖父と姉妹以外の何ものでもなかった。そこには確かな心の交流による穏やかで楽しげな語らいが満ちていた。


「お師匠様・・・・・・」
気持ちのいい酔いだった。いつしか、ドーラは幸せな思い出と共にカウンターにうつ伏せになって眠っていた。


−ハッ!−
翌朝、目覚めたドーラは勢い良く顔をあげる。
「ここは・・・・酒場・・タントールの酒場よね?」
そして、きょろきょろと周囲を見渡す。
「あ、あれは!!」
窓のガラス越しみ見えた去っていくその影が、アレスのものに見え、ドーラは思わずガタッ!とイスを蹴って立ち上がる。
「痛っ・・・・・」
その途端ズキン!激しい痛みが頭を駆け抜けた。
「大丈夫ですか、お嬢さん。夕べはずいぶん飲まれましたからねー。」
「え、ええ・・・・・今出ていったらしいさっきの男は?」
痛みを堪えつつ、カウンターの中の主人に聞いてみるドーラ。
「あれ?やっぱりお知り合いだったんですか?」
「やっぱりって?」
意味が分からずドーラは、店主が差し出してくれた水の入ったグラスを受け取りながら聞く。
「お嬢さんが酔いつぶれたんでどうしようかと心配してたんですよ。道が寸断されてしまったおかげで街の宿屋はいっぱいですしね。うちがオールナイト営業だから、宿にあぶれた旅人はここで飲んで一晩明かすなんてこともざらなんですが・・。」
目配せした店主の視線を追うドーラは、その事実に今更だが、気づく。
どれも胡散臭い冒険者くずれの男達である。
「あたしはここで何があっても干渉しないことにしてますしね。」
少し申し訳なさそうな笑みをみせた店主のその言葉は、寝てしまったドーラがどうなろうと一切関係ないということを意味していた。
「あたしが寝てる間、何があったの?」
「つ、つまりですねー・・・・・」



−ガタタン−
酔いつぶれて寝てしまったドーラ。その気性の強さに蹴落とされ、ドーラに言い寄る男はいなくなっていたが、酔いつぶれたその姿ににまりとし、店内にいた男たちが目をぎらつかせて立ち上がる。
カウンターの中にいた店主は、触らぬ神に祟りナシという風情で奥へ引っ込んでしまう。
−ガタガタ−
男達は、無言でお互いを牽制し、その腕を測りあう。そして、その中のいかにも腕っ節の良さそうな大柄の男が勝利宣言よろしく薄ら笑いをうかべつつ、ドーラに近づいていった。
「い、痛ぇっ!」
ドーラの肩を抱こうと差し伸べた男のその太い腕をぐいっと後ろにねじりあげた男がいた。
「な、なにしやがる?」
ねじりあげた男の体躯が、自分のそれより劣っていると判断したその男は、怒りに任せて罵声を浴びせたときだった。
−ズダダン!−
次の瞬間、大柄の男の身体は空を飛び、勢い良く店の石壁に打ち付けられていた。
「こ、この〜〜・・・・」
が、そのくらいで気絶するような柔ではない。男は全身で投げつけた男に怒りを飛ばす。

「あれ?アレスのだんなじゃないか?」
(なに?!アレス?)
ちょうどその場面にフレッドが店に入ってきた。そして、顔見知りのアレスに声をかけたのである。そのアレスという名を聞いて、飛びかかろうとしていた男も、そして店内の男たちも、慌てて店の奥にあったすりきれて半分読めなくなっているお尋ね者の張り紙に目を飛ばす。
「ア、アレス・トラーノス・・・や、奴が?」
無敵の賞金首・・・人間であれ、魔物であれ、そして魔王であろうとも、その前に立ちはだかる者は情け無用で一掃する最強の剣士。
一瞬にして全員の顔から血の気が引く。中肉中背、歳も20代半ばか後半といったところ、そう大したことはないと判断してたっぷりお返しをしようとしていた大男は愕然とする。
「久しぶりだな、だんな。ブンデビアの地下で会って以来だろ?・・おっと・・お邪魔だったかな?じゃ、じゃーな。」
カウンターでつぶれているドーラをめざとく見つけたフレッドは、勝手に解釈して店の外へと出ていった。ドーラとアレスが知り合いだということは、一応知っているから気を利かせたつもりなのである。

−ガタン−
「ど、どうぞ・・」
眠り続けているドーラの横に座り、黙って棚のワインを指さしたアレスに、店主は上擦った声で、注文されたワインをグラスに注ぎ差し出す。



「で?あたしが目覚める気配がしたから出ていったっていうの?・・・起きる前に?」
「は、はー・・・まー、そういうことで。」
(なによ、護衛してやったっていうの?一晩?一睡もせず?・・・あたしの横で?何もしないで?)
何もされなかったのはいいとして、ドーラの中で怒りがこみあげてきていた。
「どこか行くって言ってなかった?」
「あ、別に・・・そ、そういえば、ボレアの洞窟への道を聞かれましたが・・」
「ボレアの洞窟ね、間違いないのね?」
「え、ええ。」
ドーラのきつい視線に店主は愛想笑いで答える。
「分かったわ。じゃ、お勘定して。」
「あ・・はい。」
「な・・なによ、これ?」
差し出された勘定書をみて、ドーラの目は大きく見開かれる。
「いくら酔いつぶれるほど飲んだからって、これは高すぎるんじゃない?それとも、宿泊代も入ってるの?」
「あ、いえ、宿ではありませんので、宿代は入っておりません。それは、お嬢さんとさっきの方の・・」
「な、なんであたしがアレスの分も払わなきゃいけないのよ!?」
「で、ですが、お嬢さん・・・お知り合いなんでしょ?でなきゃ一晩お嬢さんほどの美女が横にいるのに何もせず座ってるだけだなんて・・・」
一瞬だったが、ドーラの全身にその視線を這わせた店主の様子から、彼女には店主が何を言いたいのか即わかった。
「そ、それに、うちは冒険者や旅人が多いですからね。つけはお断りしてるんですよ。ですから、あの方が払っていかなかった分は・・・」
「わかったよっ!・・痛っ・・・」
「あ、あの・・・街の東に親切な医者がおりますので、そこで治してもらったらいかがですか?」
「二日酔いも治るの?」
「ええ、サービスで治してくれますよ。」
「そ。・・・じゃ・・しょうがないわね・・・今回だけだから、わかってるでしょうね?」
「は、はい・・肝に命じて。ま、まいどどうも〜。」
今にも噴火しそうなドーラの剣幕に、店主はたじたじだった。


−バッターーン!−
「ア・レ・スゥ〜〜・・・・あの・・卑怯ものぉ!!おかげであたしはすっからかんよ!これじゃ、必要なポーションも買えないじゃない?!これから魔物のいる洞窟へ行くっていうのに!」
勢い良く酒場のドアを閉めると、ドーラはアレスの後を追い、ボレアの洞窟へ・・・・・と、思ったが・・・。
「痛っ・・・こ、こんなんじゃ呪文を唱えるのに集中もできないじゃない?」
目的地が目的地。せっかくアレスに追いつきそうなのにといまいましく思いつつ、街の東にあるという医師の家へドーラはその足を向けた。

「覚えてらっしゃい、アレス!このあたしに酒代を回すなんて・・・このお礼は倍にして返してあげるわっ!」
ことアレスに関して、ドーラが感謝の念を抱くと言うことはありえなかった。一晩荒くれ者どもから守ってくれていたことなどすでに記憶からは完全に排除されていた。
ドーラの感情は、つけが回ってきていたことにのみ、その怒りを燃え立たせていた。
「首を洗って待ってることね、アレス!今度会ったがあんたの最後よ!その首、お師匠様の墓前に供えてあげるわ!」              




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