遙かなる旅路
〜[クレール in Brandish1ワールド] Brandishストーリー〜

 


(1)[RUINS1]金槌は重いわ・・・。

 

 「気がついたかの?」
目が覚めたとき、一人の老女がクレールを覗き混んでいた。
「え?あたし・・・?ここは?・・・」
しばらくじっと考えてみる。

魔の潜む地下都市、宝と神の力が眠るという廃墟。
あたしはそこで修行をするために来たということを思い出した。
そして・・・・その地下への入り口である奈落の底へ繋がっているかのような穴の淵。
突然飛来してきた流れ弾であろう火炎球を避けようと、身をひねった瞬間、 その穴へ落ちたことを。

「おばあさんが助けてくださったのですか?」
「ああ、そうじゃよ。」
「それで、ここは、穴の底にあるという街でしょうか?」
「ああ、そうじゃ。死を恐れぬものたちのための街。・・・あるいは、死者の街とも言われておる。ひっひっひ。」
「死者の街?」
「ああ・・そうじゃ。あんたのようによく上から落っこちてくる。よく命があったもんじゃ。」
「おばあさんもですか?」
「さ〜〜て・・どうかの?ひっひっひ・・。」
気味の悪い笑い方をしながら、が、それでも、決して悪い人にはみえないその老女にクレールは少しとまどった。
「飲むかね?スープ?。」
「え、ええ・・ありがとうございます。」
差し出されたお椀を受け取る。
「あんたでちょうど42人目じゃよ。死人目とは、あんまり聞こえがよくないのぉー。ひっひっひ。」
「し、死人目なんですか?」
単なる語呂合わせだとしても、あまりいい気分がしない。不安顔で思わず聞いてみる。
「何言ってんのさ?ばーちゃんはいつもそのせりふで脅すんだから。」
と、そのときドアが開き、少女が1人入りざま大笑いする。
「気にしなくていいよ。このばーちゃんはいつもそう言って楽しんでるのさ。あたふたするのが おもしろくて。」
「ふん!縁起に押しつぶされるようじゃ、地上に戻る、いや、ここで生活するなんてことさえも無理って ことを知ってほしくて言ったまでさ。」
「ふ〜〜ん・・そりゃ初耳だね。」
「あ・・あの・・お孫さんなんですか?」
「ええ〜〜?冗談じゃないよ。こんな何歳だか分からないような怪しげなばあちゃんとだなんて!」
その少女は、少し口をとがらせて文句を言った。
「何言ってんだい?それを言やお互いさまだろ?あんただって、いつまで少女の姿でいるんだい?もう かれこれ何十年とその容姿だろ?」
「あ?・・あはははは!やぶへびだ、こりゃ。」
そう言って彼女は笑いながら出ていった。老婆は。どぎまぎしているクレールに笑いかける。
「ま、1つ分かってることは・・・敵じゃないってことさ。どうだい、起きれるかい?」
「は、はい。大丈夫です。」
変わった味のスープだったが、空腹と喉の渇きですんなり胃に収まった。クレールはお礼を言うと、寝ていた部屋から 出て、その老婆がやっているという店へ足を運んだ。
と言っても、店のすぐ奥がその部屋なのだが。

「おばあさんはここでお店を開いてみえるんですね。おひとりで?」
「そうじゃよ。じゃが、近所にさっきのあの子が魔法屋を、そして、もう1人、いつの間にか住みついた 戦士くずれが武器屋をやっておるよ。」
「戦士くずれ?」
「そうじゃ、仲間と共にこの地底に宝探し、あるいは、名をあげるために探索に来たのじゃろうが・・ 魔物にやられて、1人生き残ったのが始めたんじゃよ。」
「そうですか。お気の毒に。でも、こんなところで生活していけれるのですか?」
「ああ・・あんたのようなお人が結構お客になってくれるし、それに、このすぐ先に奇跡の泉があっての。 どんな怪我もたちどころに治るんじゃ。食料は豊富だし。このあたりの魔物はまだまだ弱いからの。」
「食料?」
「そうじゃよ。」
老婆は、ほっほっほ、と意味深な笑いをする。
「ま・・まさか・・それって・・・」
「ああ、そうじゃよ。結構いけるじゃろ?」
さっきのスープもそうだった?と思い、思わずクレールは吐きそうになり、口を押さえる。
「吐くんじゃないよ。結構栄養価が高いんだ。そして、それが今あんたのおかれてる現状なんだからね。」
それくらいで弱音を吐くんじゃない!と老婆の目は語っていた。
「は・・はい。」
ぐっと吐き気をこらえ、クレールは老婆の目を見つめ返す。
「ふん・・見かけによらずちっとは根性ありそうだね。ひっひっひ。」
老婆はにたっと笑い、カウンターの中へ入る。
「さーて、商売、商売。ここから先に行きたけりゃ、買ってっておくれよ。」
「でも、あたしお金が・・・」
そう、クレールは、この国に来る途中で使い切ってしまっていた。
「ここら辺じゃ、いろいろお宝があるんじゃよ。ちょいと探してこればいいんじゃよ。」
「宝物ですか?」
「そうじゃ。上にいくほど上物があるっていうことさ。もっとも魔物も強くなってくるがの。ひっひっひ。」


 とにかく地上を目指して進もう。これも修行なのだから。もしかして、今度こそ、自分自身が変われるかもしれない。
クレールは店を出ると、大きく深呼吸し、まずは、そのエリアの廃墟を調べることにした。
どこかに上への道もあるはず。


 「こんにちは、おばあさん。」
数時間後、クレールはまた道具屋に来ていた。
「おや、無事だったようだね?」
老婆は、意外そうな顔をしてクレールをじっと見る。
「ええ、おかげさまで。でも、行き止まりばかりで・・。上に行く道って、ご存じありません?」
「・・・・」
自分で探すべきなのに、と恐縮した面もちでクレールは聞いた。
「崩れかけたところを見かけなかったかの?」
「崩れかけた?・・ああ、そういえば、今にも崩れてきそうで危ないので、柵を作っておきました。」
「さ・・・柵?」
思いもかけないクレールの返事に、老婆はずっこける。
「ええ、怪我をしてもいけないでしょ?それに穴も結構あちこちにあって、危ないと思い、その辺りでぷよぷよしてた 青いクッションのようなのを詰めておいたのですけど。」
「は?」
「あ・・もしかしていけませんでした?」
「い、いや・・そんなことは・・・ないんじゃが・・・」
ここに来て、老婆は大笑いした。
「いろんな人に逢ってきたが・・おまえさんのような子は初めてじゃよ。世間知らずなのか なんなのか・・・・。」
わけがわからん・・と老婆は思っていた。1本ネジが跳んでるのか、あるいは、何か、こう、功徳な人物なのか。
「と、とにかくじゃ・・」
老婆は奥からごそごそと金槌を出す。
「その崩れかけたところを、この金槌で叩くんじゃ。そうすれば、もしかしたら、その先に道があるかもしれん。」
「あ!そうですね!崩しておけば、もう崩れることもないでしょうし。」
手を叩いてクレールは納得する。
「・・・・・ま、まー、そうとも言えるのぉ・・・」
ため息をつく老婆。
「で、お金は少しは手に入ったかの?」
「え・・ええ・・・金の粒と剣数本。剣はその先の武器屋さんで売ってきました。」
「ふむふむ・・・」

「ええーー?!こんな重いのを持って歩かなくちゃいけないの?」
金槌を手にしたクレールはその重さに驚く。
「木槌とかは・・ないのでしょうか?」
「・・・・・・残念じゃがないんじゃよ。」
申し訳なさそうに言う老婆に、クレールは一大決心をする。
「いいです!これも修行のうちです!あたし、頑張って金槌を運びます。 崩してみせます!」
「あ・・そ、そうかい?」
真剣な眼差しのクレールに、老婆は、つい・・お金も取らず金槌を渡してしまった。


「あの非力さで・・・果たして壁を崩すことができるんじゃろか?」
重そうに金槌を肩に担いで歩いていくクレールの後ろ姿を見送りながら、老婆は ため息をついた。
「平和な風景じゃのぉ・・・確かここは・・魔の地下迷宮じゃったはずじゃが・・・・分かって おるのか、あのお嬢は?」




** to be continued **



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