◆第三十話・振り出しに戻る?◆
  

 (ん?・・・オレは気を失っていたのか?)
ゆっくりとアレスは身体を起こす。そこは見覚えのある場所。そう、アレスがカールによって投獄された監獄島最下層の独房。
(オレは夢でも見ていたのか?)
そう思いつつ、腰にある物を確認する。
(いや、違う・・・プラネット・バスターはある・・・そして、この装備は・・・)
そう、それこそが夢でなかった証。
(そうだ・・・この防具を手に入れた後・・・)
そして、思い出していた。力を解放されたプラネット・バスターを制御するために必要な防具。それを手に入れた直後、アレスに話しかける声があった。
そのどす黒い邪悪を孕んだ想念がアレスを一瞬にしてここへ送り込んだのである。

それらのことを思い出しているアレスの脳裏に再び声が響く。
「どうだ、我が力を思い知ったか。お前が命がけで彷徨ったこれまでの全てを・・・。一瞬にして振り出しに戻すことも容易いこと。」

(振り出しか?・・いや、確かに場所的には振り出しだが・・あの時と今とでは装備が違うぞ。)
アレスはふと心の奥で言い返していた。

ふっと笑ったようなアレスに、何か閃いたのか声は続けた。
「だが、この力を得られてのも元はと言えば、お前がビトールよりプラネットバスターを持ち帰ってくれたからこそ・・・。そうだ。面白いことを思いついた。その剣より、大いなる力の源を引き出した我が肉体とプラネットバスター自身。禍根を残さぬ為に雌雄を決しておくのも一興。仔鼠と言えども、あのベネディクトが予言したほどの剣士だ。よもやたいくつはさせぬであろう。」

−ズゴゴゴゴ・・・・−
(おおっと・・・・)
不意に大きく周囲が揺れ、アレスは足下に口を開いた地の裂け目に落ちていった。

(雌雄を決するというのは、こういうことか?・・・・本人と戦うんじゃなかったのか?)
スタッと着地したアレスは、自分の周りを取り囲んでいる山のようなラクサーシャV2を苦笑いしながら見ていた。
−ウガー!−
一斉にアレスに襲いかかってくるラクサーシャV2。が、所詮アレスの敵ではなかった。そこまで来る途中で出会った炎の魔人フレイガの方がよほど強敵だったと感じながら、アレスは確実に1体ずつ倒していった。

(強酸が滲み出る地面か・・・・ビトールの地下洞窟も同じようなところがあったな。)
そんなことをのんきに考えながらもアレスは進む。巨大な斧で襲いかかってくるミノタウロスを倒しながら。

(お!ヒールの魔法の次はワープの魔法か?)
苦戦した炎の魔人フレイガのいた場所でアレスは念願?のヒールの魔術書をてにしていた。そして、ここでは再び欲しいと思っていた魔術書を見つけ、アレスはほくそえむ。これで移動がそれまでと比べてずいぶん楽になることは間違いなかった。と、同時に、最終目的地が近いとアレスは感じていた。

−び〜〜〜〜〜!び〜〜〜〜〜!−
(しかし・・・こいつのおまけ付きとは思いもしなかったな。しかも5匹だと?・・・まったく、これが一番面倒なんだ。こいつらは壁を通り抜け、エリア内ならどこでも移動できてしまう。こっちは、奴らを倒すためには道なりに急いで先回りしなくてはならん。)
そう、それは一つ目の魔人。彼らがエリアを徘徊している間はワープもままならない。そして、彼らを倒さない限り、次のエリアへの扉は開かない。

(くそ〜〜!今度は向こうか?い、いや、後ろから別の奴が?)
空間を切ってしまう一つ目の魔人。彼らの通ったあとは、次元の狭間が広がっている。間違ってそこへワープしようものならどうなるかわからない。
アレスは慎重に敵の移動位置を計算しつつ、ワープを駆使し、彼らを追いかける。

(くそっ!今目の前にいたのに、壁の向こうへ逃がした!)
一つ目の魔人とアレスの鬼ごっこはいつまで続くのか。

(ん?なんだ、追いかけているうちにエレベーターの前に戻っていたじゃないか?)
鉄製のドアの前でしばし考えるアレス。もちろんその間も一つ目の魔人は暴れ回っている。
(そうだな・・3つある異次元箱も全て一杯だしな・・・・調度いいか。闇屋にでもいって換金してスペースを空けてくるとするか。・・そういえば、腹も減ったしな。)

−カチャリ−
一度通った時には見向きもしなかったその扉をカギで開けると、アレスは上へと戻っていった。
監獄エリアにいる闇屋の元へ。

(ここへ帰って来るまでにこのエリアは切り刻まれてるかもしれんが・・・ちょうどいいかもしれないからな。切り刻まれてエリアが一つになっていれば、奴らを倒すのも簡単だ。)

もちろん、切り刻んだその空間が、アレスという現実に触れると元の空間を形作るということも分かってはいたが、一応彼らも魔物である。広い空間にぽつんと立つアレスは目立つはずである。その姿を見れば、獲物発見!と嬉々としてよってくるに違いないのである。アレスはそれにかけることにした。いちいち必至になって追いかけるのがバカらしくなったのである。

(急がば回れ。追いかければ逃げるなら、向こうに追いかけさせればいいさ。)

そんな事を考えながら、アレスはエレベータに乗り、スイッチを押した。
(せっかくワープの魔法も手に入れたんだ。持ちきれず置いてきた物も集めて換金してくるとするか?・・・・とすると・・回収しながら城下町で食事は取るとするか?この先を進めば恐らく最終決戦となるだろう。その前に町でゆっくり垢を落とし食事をして・・・・)
そこまでの迷宮内の魔物に少しばかり手を焼いたせいだろうか?そんなのんきな事を考えているアレスがいた。
手遅れになるようなことは決してない。不思議とアレスにはその確信があった。

 

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