◆第二十九話・回る魔法陣・踊る罵声◆
  

 −シュン!−
(ん?)
ハーピーと式神のいた次のエリア、そのハーピーの武装バージョン?いや、人工機械型?とも思えたヒットマンというモンスターが浮遊した形で徘徊していたそのエリアを抜け、アレスは次のエリアで、魔法陣による移動を続けていた。
そこは狭く区切られた通路の先々に転移の魔法陣がある。そして、その都度どこかへ飛ばされるわけだが、当然のごとく今自分がどこにいるのかも分からない。
その幾つ目かの転移したその瞬間、細い通路の3歩ほど先の行き止まりにあった魔法陣の上に、消えかかる人影をアレスは目にした。
そう、アレスがその通路へ転移した瞬間、その人影はそこから次の場所へ転移したということである。
(今の後ろ姿は・・)
その姿をアレスは確かに知っていた。
ほとんど消えかけていたその後ろ姿・・が、青いマントと見事な金髪。それはとりもなおさずドーラ・ドロン、彼女である。
『女の魔法使いが辺りをうろうろしていた。』
アレスは前のエリアで出会った自称情報屋のゴブリンが言っていた言葉を思い出していた。
見ず知らずの所では情報は貴重である。が、大した事でもないだろうと思いつつ、それでも1000G払って聞いた情報は、そのことと、軍隊がこの先の道を通っていったということのみ。
(途中で追い抜かされたのか?)
ここへの道を開くため、数十体並んでいたガーゴイルの彫像の中から1つを探し出し、それを破壊しなくてはならなかった。頭に飾りを持つその彫像をアレスが壊した時、離れたところで道が開く音がした。その時、調度タイミング良くドーラがその近くにいたわけか、とアレスは考える。
そして、そろそろ再会の場面に出会すか?とふとにまりとする。


−シュッン!−
予想通り、転移した先の少し広い空間に、ドーラはいた。
「遅かったわね、アレス!」
まるでそこで待ちかまえていたように、中央に腕組みをしてドーラは立っていた。アレスがドーラの気配を敏感に?感じるように、ドーラもまたあの瞬間的なすれ違いで背後にアレスの気配を感じたのだろうか。
「待ちくたびれて迷子になったわよ!」
きつい視線と口調がアレスに浴びせられる。
そして、少し間をおいてから、思い出したようにドーラは続けた。
「ちょっと、あんた・・・?あたしがソウルマスターに乗っ取られている間に、まさか変なことしなかったでしょうね?」
(おっっと、ドーラにしては珍しいことを言うんだな?)
そんなことを思ったが、当然アレスは返事はしない。
「まぁ・・それはあとでゆっくり話すとして。。見つけたんでしょ?プラネットバスター。渡してもらいましょうか?」
ゆっくり話すような事なのか?と思いつつアレスは相変わらずドーラを見つめていた。そして、その態度からドーラは返すつもりはなさそうだと判断する。
「そう・・・。渡すつもりはないって訳ね?だったら悪いけど、力ずくで頂くしかないみたいね。覚悟なさい、アレス!」
キッと今一度睨み、スタッフをアレスに向けてドーラは叫ぶ。
(また、このパターンか・・・どうせまたトラップが作動して穴にでも落ちるんだろうな?)
思わずアレスからこぼれる笑み、それを見てドーラの怒りはますます燃える。
「あたしが本気出せば、流れ者の剣士ぐらい、目じゃないって事を教えてあげるわ。」
そして、アレスに向かって1歩前進する。
−カチッ!−
「あ・・・しまった!」
(やはりな・・・・)

が、今回いつもと少し違った。そう、落とし穴でなく、そのエリアにいかにもふさわしく、魔法陣のトラップなのである。
ドーラが床に仕掛けてあったそのスイッチを踏んだ瞬間、彼女の周囲に5つの
魔法陣が出現し、彼女はその5つの魔法陣を次々と転移する羽目なった。
転移してでればまた転移、ぐるぐると5つの魔法陣を移動しずつけるドーラ。それはまるで魔法陣によって遊ばれているお手玉。
「ちょっと!何ぼけっとしてるのよ?!そこいらに停止スイッチがあるはずでしょ!」
1つの魔法陣から次へと転移した瞬間、ドーラの叫びが飛ぶ。
−シュン!−
「早く止めなさいってば!」
移動時の間をおいて、姿が現れると同時にドーラの叫びが飛ぶ。
「うわっ!きゃっ!目が回るじゃないの!早くとめなさいってば!」
こんな時でも、お願いではなく命令口調である。
(ったく・・・しょうがない奴だな。)
止めればまた文句を山盛り言われ、そして、ひょっとしるとそのまま対峙しなくてはならなくなることを考え、アレスはそのまま放置しておこうかとも思った。
が、いくらタフなドーラでも、このまま一生魔法陣のお手玉状態では気の毒だと思い、ふと目がいった壁にあったスイッチらしきものをアレスは押す。
「きゃあっ!」
ガコンとスイッチの音がしたと同時に、一際大きくドーラの悲鳴が辺りに響いた。
ーシュン!シュン!シュン!シュン!−
(うおっ・・・こ、これは・・・)
さすがのアレスも、目の前の光景にはちょっと驚いた。
止まっているはずのドーラが、つい先ほどより一層高速に魔法陣間を移動していた。
「ドジ!おたんこなす!」
そして、それこそ瞬間的に姿が見えるだけのドーラの叫びがアレスを襲う。
「あんたの押したのは加速装置じゃないのっ!」
(そんなのありか?)
思わずアレスも思う。今回この手のトラップは初めてだった為、その意外性に表情こそ変えないが、ぎょっとしていた。
「早く止めなさいってば!この・・おたんこなす!アレスのばかーー!責任とりなさいよ!!」
(ふ〜〜〜・・・・・)
しばらく呆れ返ったように見ていたアレスだが、のろのろと歩くと、別のスイッチを探して止める。
−ガコン!−
−シュン!−
そして、最期の転移を終えたドーラは、稼働しなくなった魔法陣の上ですでに気を失っていた。

(やれやれ・・・まー、ちょうどいいか。静かだし。)
目が回って気絶したくらいでは命には別状無いはずだ、と判断したアレスは、奥にみえる別の魔法陣に向かって歩き始める。
ぐずぐずしていてドーラが気づけばまた面倒だからである。従って、介護などもってのほか。
が、ドーラが転移していた時に気づいたことだが、時折、彼女の胸元にキラッと金属らしい光があったことを思い出し、一応調べてみることにする。それは勿論、彼女のペンダントの光ではない。位置からいって膨らみの間。
ちらっと衣服隙間から顔を出していたその金属を、アレスは抜き取る。

(カギか・・・ひょっとしたらあのドアか、あるいは、この先にあるドアのものなのか・・・)
それは次のエリアへの道に必要なカギではなく、そこに来るまでアレスが見つけたドアのものだったが・・それでも、転移の魔法陣によっては、そのカギが必要となった。
(抜き取っておいて正解か。しかし、相変わらず抜け目ないというか・・)

そんなことを考えながら、転移を繰り返したアレスは、ようやく次のエリアへの横穴を見つけた。


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