◆第三十一話・再会と思いきや?◆
  

 (これはまたきれいに真っ白にしてくれたものだな・・。)
荷物を整理して再びそのエリアに戻ったアレスは、エレベーターから出ると同時に思わず呟いていた。
そう、そこはきれいさっぱり何もない空間のようになっていた。
ただし、勿論それは目に写る景色のみである。
別名(大嘘ですが・・・/^^;)カメレオン光線と呼ばれる一つ目の魔神がその両目から放つ光線は、何もかも透明にしてしまうのである。透明にしても実体はそこにあるので、壁などがあった場合、向こうが見えていても通れない。
しかし、そこはワープの魔法があった。
エリア全体真っ白・・つまり、どこまでも見渡せるようになっているということは、とりもなおさず魔神がどこにいるか一目瞭然なのである。もちろん、そこへ行こうと突進しても、遮っている透明な壁によって簡単には辿り着くことはできない。壁伝いに回っていくうちに、常時移動している魔神は、別のところへ行ってしまうのである。そして、不利なことに、魔神は壁を通り抜けられる。
その不利はもちろんあるが、ワープの魔法なら道伝いに回り回って行くということはなくなる。そして、見晴らしは最高にいいのである。魔神の近くのポイントに精神を集中してワープの呪文を唱えれば移動完了になるのである。それを活用しない者はいない。が、気をつけないと、透明なため、ワープしようとした地点が壁ということもあり得る。時としてテレポートした場合、運が悪いと壁と融合するという最悪な事がある。・・・勿論それは死を意味する。

慎重にそれまで通った道を思い出しながらアレスは呪文を唱える。・・・が、数回試みて分かって事は、アレスが手にしたワープの呪文は壁の中へ転移するようなことは起きないということだった。つまり、そこが壁など移動可能な空間でない場合は、術は単に発動に失敗するだけなのである。
(これなら気楽に唱えられるな。)
アレスはそう判断すると、それまで以上に頻繁にワープの呪文で、魔神の近くに移動するようになった。もちろん、ワープの呪文を使うには、最大精神力が必要となる。続けて唱えることは困難だったが、それまでの魔法発動の修行のたまもの、精神力の回復スピードは、最初の頃とは雲泥の差があった。


(ふ〜〜・・・手間をとらせてくれたな。)
数十分後、アレスはようやく次のエリアへと進んだ。

そして床一面に矢が飛び出るトラップや、金塊を指定された宝箱に1枚ずつ入れなければ次のドアが開かないという、一見難しそうだが、陳腐なトラップをクリアし、アレスは今、ドーラを目の前にして立っていた。

「た、助けて・・・・・」
そう、奥まった狭い通路の奥で、ドーラが・・あのドーラ・ドロンが倒れていたのである。
「ドーラ?」
さすがのアレスも声をかける。思えば、移動魔法陣のトラップで、目を回して気絶したドーラ以来の出会いである。
そのエリアは氷の魔法を放つ龍の首や火炎を吐くイソギンチャクのような魔物がいた。イソギンチャクのようなものは移動できないし、直線上の敵しか攻撃できないからいいが、龍の首は、自由自在にあちこち浮遊している。そして、その数がまた半端ではないのである。凍らせられてそのするどい歯でかみ砕かれては、たまらない。攻撃力は頭だけとはいえ、龍は龍だ、とアレスは感じた。
(龍にでもやられたか?)
うつぶせになっているドーラをそっと抱き起こそうとしたアレスの耳に、弱々しい声が響いた。
「お、お願い・・プラネット・バスターを渡して・・・」
(ん?)
と同時に抱き起こそうとするアレスの手をドーラは拒絶する。
(プラネット・バスターか・・・)
執拗に助け賃だと要求していたドーラを思い出した。が、アレスは考える。いくら魔物にやられ倒れているとはいえ、ドーラがこんな殊勝な言葉を口にするわけがない。
そう、どんなに自分が不利であろうが、ドーラならお願いなどせず、命令するはずだ、とアレスは思った。
(特に相手がオレの場合は・・・)
『触んないでよ!あんたになんて手を貸してもらいたくないわよっ!いいから、自分で起きるから返しなさいよ、プラネット・バスター!・・まったく、何ぐずぐずしてたのよ・・・おかげで苦労し続けよ!・・見なさい!こんな・・・こんな深手を負っちゃったでしょ?・・あんたにこんな姿見せるのもいまいましいけど・・しょうがない・・だから、この埋め合わせはとってもらいますからね!覚えてなさい!・・ほら、何ぼさ〜っと突っ立ってんのよ!早くよこしなさいよ!プラネット・バスター?・・ちょっと聞いてんの、アレス!?』
たとえ息絶え絶えだったとしても、ドーラならこうくるだろう、とアレス思った。
しかもまるでその罵声が聞こえてくるようだった。
(これは・・ひょっとしたら、ひょっとするな?)

「お願い・・プラネット・バスターを・・・・」
その奥が行き止まりだったこともあり、くるっと向きを変えて来た道を戻ろうとしたアレスを、再び弱々しいドーラの声が追いかける。
が、ドーラではないと判断したアレスは振り返りもせず先を進んだ。

そして、数分後・・・
(ひょっとしたら、こいつが先に進む扉のカギでも持っているんだろうか?)
先を進んだはいいものの、鍵のかかったドアに行く手を塞がれ、アレスは再びそこへ戻ってきた。相変わらずドーラを装ったそれは、同じセリフを繰り返している。アレスがドーラではないだろう、と挑発してもまったくそれには乗ってこない。
(仕方ない、いつまでも同じ格好をさせていても悪いしな・・・相手をしてやるとするか。)
執拗にプランネット・バスターを欲している相手である。武器を取り上げてそのあとじっくりと料理するという方法なのだろう、と判断したアレスは、用心のため、他の武器を用意しておこうと、異次元箱を空けてみつくろう。
(・・・プラネット・バスターに変わる剣は・・・しまったな・・摩耗しない剣が1本も
ない・・・ホーリーアックスならあるが、こいつは攻撃力はさほどないし、両手持ちだ。盾は装備していた方が良さそうだからな・・。)
アレスは前のエリアで手に入れた剣を腰に下げると、用心しつつプラネット・バスターを倒れているドーラに差し出した。
「くっくっく・・・これさえ取り上げておけばこっちのもの・・・」
剣を握ると同時にすっと起きあがったドーラの瞳が赤く光った。
−シュルシュルシュル!−
と同時に、アレスが予期したとおり、ドーラに変身していたそれは、その変身を解き巨大な蜘蛛の姿になり、糸をアレスに吹き付けた。
(なんだ、こいつだったのか。)
−ザシュ!シュン!ザシュッ!−
粘着性のあるその強力な糸がアレスをぐるぐる巻きにするのと、アレスが繰り出す剣技の方が速いか・・・勝負はそこにかかっていた。
「なんだとぉっ?!」
糸を出した瞬間、ぐるぐる巻きになったように見えたアレスは、次の瞬間にはその糸をずたずたに切り刻んで自由の身に返っていた。
そのアレスに驚く巨大蜘蛛。
(残念だったな。プラネット・バスターであろうが、なかろうが、お前相手には関係ない。)
慌てて今一度糸を吹きつけようと口を大きく開けた巨大蜘蛛に、アレスは余裕の笑みを浮かべ斬りかかっていった。
−ザシュッ!−
「シャアア!」
受けた傷の痛みに、巨大蜘蛛は狂ったようにその鋭い口でアレスをかみ砕こうと、ところかまわず攻撃を始める。
が、アレスはいつものごとく、冷静にその攻撃を見切り、確実に傷を負わせていく。

−ズシャ・・−
(やはりカギを持っていたか。)
倒れた巨大蜘蛛の下に、プラネット・バスターと金色に輝くカギを見つけ、アレスはそれらを手にして先へと進んだ。


(あいつがドーラに化けていたということは・・・ドーラはどうしたんだ?まさか、あいつに殺られた・・のではないよな?)
殺した相手を頭から食し、それに化けるということを聞いたことがあったアレスの脳裏に一抹の不安が過ぎる。
(いや・・・あいつのことだ。次のエリアくらいでひょっこりオレの前に姿を現すのかもしれん。遅かっただの、ぐずだの、のろまだの、またいきなり文句山盛りで・・・)
その不安を振り切り、『最重要中枢区』と書かれたプレートがかかっているその分厚いドアを開け、アレスは次のエリアに続いているだろう横穴に足を入れた。
ふとドーラの事を心配した自分を嘲笑しながら。

-29〜31の時のドーラバージョン-

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