◆第二十四話・亡霊(ガドビスタル)との再戦◆
  

 (ミニチュアはやはりミニチュアだったか・・・・)
ビトールの小型版、プチビスタルは、確かにその両の手から放たれる火炎系攻撃弾は強力なものだったが、小型は小型、軽くそれを交わし、すきを見て斬りかかったアレスの相手ではなかった。とはいえ、そこまでに出会ったモンスターよりは、手応えがあったといえば、あったような気もしたが。

そこはどうやら、プチビスタルのエリアらしく、扉を開けるつど、それが現れた。そして、イリュージョンの壁から入ったその奥で、何か特別なスイッチを見つける。
『遠隔装置・C2F→C3F 階段の扉、及びガーデアンの排出停止。このレバーにより制御される。』
『B培養室制御装置・ビトールより発掘した『ガド』に関する全ての研究施設及び培養装置の緊急停止レバー。』
2つ並んであったスイッチそれぞれその横には、そう書かれたプレートがあった。 
「C」はまぎれもなく城・chastleを示すのだろう、と判断したアレスは、少しの躊躇もなくそのレバーを引く。そして、隣のB培養室制御装置は、そこに来るまでに見つけた開かなかった扉でも開くのだろうと、やはりレバーを引いた。
−ガチャン、ガチャン−
左側にあったB培養室制御装置のレバーを引くと同時に、どこからともなく邪悪な壮年が急激にふくれあがったのをアレスは感じた。
(・・・これは・・・・・)
そう、その邪悪な想念にアレスは思い当たっていた。そこに来るまでにもそれとよくにた想念・・とまでいわないが邪念を、やはりプチビスタルは醸していた
。が・・・それはそれまでと比べものにならないほどの深く大きな邪念をもった気だった。
(今度こそご本尊か?・・いや、まさか・・・あれはオレがあの洞窟で確かに倒した・・・。しかし・・・この周囲にいるものを全てその邪なる想念で覆いつくさんとするような強力な念は・・奴の・・・・?)
そう思いながら、アレスはその先に進んだ。が・・・・通路の先にあった扉は固く閉ざされていた。
(戻れということか?)
アレスは来た道を戻り、開かなかった扉へと向かった。

『B』
以前そこを通ったときには、確かに開かなかったその扉は開いていた。
そして、その奥、簡単に1文字、そう書かれたプレートがかかったその部屋から、邪悪な想念はにじみ出ていた。


(やはり・・・・ガドビスタル?)
ぐるっと鏡に囲まれたその広い部屋、その奥の中央に、巨大な水槽のようなものが置かれてあった。
そして、その中に、見るからに毒々しい液体の中には、おぞましい姿をした物体・・・・プラネットバスターを手に入れた地底で倒したはずの、そのプラネットバスターで確かに息の根を止めた呪われた王。

−ギロリ!−
水槽に漂っていながら、ガドビスタルも確かにアレスがその時の人間だと認めたように、にたりとその瞳に笑みを浮かべる。
(つまり・・・こいつを倒さないと、スイッチのあった先にあった扉は開かないとうことか?)
それまでの経過を考えて、アレスはそう判断した。
行けるところはすれば回っていた。他にスイッチと言えるものは何もなかった。
ただ、今アレスが立っている目の前、水槽のすぐ前の床の上には、確かにスイッチがあるのだが・・・・おそらくそれを踏めばガドビスタルも自由になるだろうと判断できた。

(必要ならそうせざるを得ないな。)
いくら培養されたものだとはいえ、プチビストルのように簡単には倒せないだろうと思ったアレスは、そこに来るまでに宝箱で見つけたダブルの魔法の書を取り出す。ガドビスタルとの対峙には、万全の準備が必要だと思われたからである。その邪念から、ビトールの地下で戦ったときと変わらぬ力を持っているだろうと思われたからだった。
その上、あの時のように、今のアレスは、プラネットバスターを持っていても使えない。そして、ヒールの魔法書は手に入れてない。ただ、守りの指輪は手に入れてはあったが・・・あの時と比べれば確かに状況はアレスの方が不利だった。
もっとも、それでも負ける気はしないアレスではあったが、万全の体勢で対処すべきなのである。こうして、部屋に入ると同時にいきなり襲ってくるというわkでもなく、スイッチを踏んでからという一呼吸おけるということが、そうすべきなのだ、とまるで教えてくれているようでもあった。


(よし!)
守りの指輪を填め、ダブルの呪文を唱え、アレスは床のスイッチを踏んだ。
−ゴゴゴゴゴ−
踏むと同時に床が大きく揺れる。そして、その激しい振動でヒビが入った水槽が、中のガドビスタルの動きで破壊されていく。
−ズズズズズ−
それまでもエリア全体を覆っていた邪悪の想念が、一層強まり、ガドビスタルは、その動きを封じられていた水槽から自由になった。
(来るか?!)
身構えたアレスは、地下洞窟での戦いを思い出しながら、真正面からの光線を警戒して横に身を寄せた。

(ん?)
−バシューッバシューッ!ビビビビビ!=
確かに強力な攻撃力を持つ火炎砲と光線。が・・・・
(な、なんだ、こいつ・・・相変わらずだな?)
あの時もそうだった。カニの横這い・・・そう、ガドビスタルは横にしか移動しなかった。もっとも以前はバリアをその周囲にはり、真正面からしかガドビスタルに近づくことはできなかった為、カニの横這いでもよかったのだが・・・。
今回は、そのバリアがないのである。ということは、横へも背後へも回れることである。
−ガチッ!−
が、そこは敵も然る者だったのか・・・・アレスの剣が全く通用しないのである。背後と横からでは、その分厚くまるで特殊金属かと思える鱗で跳ね返されてしまうのである。確かに思いっきり斬りつけたそこには切り傷さえない。

(つまり、今回も真正面からでしかダメージは与えられないということか。)
咄嗟に判断したアレスは、両の手からの火炎を避け、そして中央から勢い良く
放たれている光線を避け、正面に入り込もうとする。
が・・・・
(な、なんだ?・・・培養されて少しは頭も良くなったのか?)
それともバリアの代わりか?と思えたが・・・ガドビスタルは、前進したのである。
(おおっ!方向転換もするぞ?!)
これは、前の時よりも戦い甲斐があるぞ?と少なからず心の奥底で満足感を感じたアレスだったが、今少し様子をみていて落胆する。
そう、ガドビスタルは、そこに敵がいようがいまいが一定なリズムで攻撃を続けているだけなのである。もっともカニの横這いの時と違い、前進もそして方向転換もするが・・・アレスの姿を見つけ、襲ってくるというわけでもないのである。
(頭が良くなったのか、悪くなったのか・・・)
気の毒さをも感じたアレスだが・・・しかし、それでも強力な魔弾使いの敵であることには違いなかった。
その火炎と光線を避け、間合いをとって真正面に潜り込み、大きくジャンプしてその顔面を斬りつけなければならない。そこしかガドビスタルの欠点は、攻撃を受け付けてくれるところはなかったからである。


(くそっ!・・・あれでは攻撃する「間」がないぞ)
たとえ間を見計らって正面に潜り込むことができても、攻撃する時にはすでに、顔面から光線が勢い良く飛び出してくるのである。真正面、しかも近距離でそれを浴びることは、いかに守りの結界を張っていても、大きなダメージがあった。
(仕方ない・・・虎穴に入らずんば虎児を得ずだ。)
アレスはベルトの周りにヒールポーションの瓶をすぐ取れるようにくくりつけるとガドビスタルの正面へと向かっていった。
−ビビビビビ!−
身を芯まで焼き焦がし、引き裂いてしまうかのような光線の中、アレスは酔拳よろしく、ヒール拳・・い、いや、拳でもなく剣だが・・・ヒールポーションを飲み続けながら、ガドビスタルへの決死の攻撃を開始した。


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