◆第十五話・忍者屋敷はしょぼかった?◆
  

 アレスにとって忍者屋敷は初体験!そこは様々なトラップが、しかも危険極まりなく、またトラップと見破る事など到底できそうもないほど巧妙にしかけられている、とアレスは聞いていた。

が・・・・・・
(あれは・・・明らかに落とし穴だ・・・よな?)
廊下の先に色の変わった箇所があった。アレスの第六感が判断する。
(いや、油断は大敵だ。わざとあそこに目をひき、避けようと上を跳んで通過しようものなら、横や天井から槍などが出てくるような仕掛けなのかもしれん。)
珍しくアレスは足を止めて数秒、その色の変わった床を見つめていたほんの少しだが、確かに周りの床より色がくすんでいた。しかも廊下の幅いっぱいなのである。二重三重に仕掛けられているのか、と懸念したアレスだが、
奥へ進みたければ飛び越えるしか方法はない。両横の壁に隠し扉やイリュージョンの壁もない。
(邪が出るか矢が出るか?)
冗談ぽく?そんな言葉を心の中で呟きながら、アレスはジャンプする。
たとえ一瞬のジャンプであっても、空中というのは一番やっかいだ。そのつもりでのジャンプならまだしも、この場合、そうではないし、いつどこから作動したトラップによって攻撃されるかわからないのである。

が・・・・
何かあったらおそらく避けきれないだろうと思いつつ緊張して(一応?)ジャンプしたアレスは、無事トラップの向こう側に着地したことで拍子抜けする。
(なんだ・・・単純なものだったのか?)
がっかりしたわけではないが、少し期待しすぎか?と思いつつ、アレスは先を進んだ。

(これは?)
少し進むと右側に続いていた壁がとぎれ、左側、つまり外側と同様、障子が続いていた。そして、その中の一つの障子が、あきらかに怪しいのである。
木の桟にノリで張り付けてあると聞いたその紙は、周囲のモノより少しくすんで見える。
(誘っているのか?)
近づくとそれはふっと消えた。
(イリュージョンか・・・で、この中は?)
せまい部屋だった。その部屋の壁にぶらさがっていた紐を少しも躊躇わずに引っ張ると、アレスは廊下の先をすすんだ。


(ん?・・・・何もなしか?そんなことはないだろう?・・・)
屋敷はそこで行き止まりだった。奥まったところにあったその部屋には掛け軸とその前の床には、不思議な模様がある。
(ひょっとして東洋の魔法陣か?)
先に小部屋で紐を引いたからそこにあったのだが、でなければ、その模様は出ていないはずだったということは、アレスにはどうでもいいことである。
−シュン!−
果たして、アレスの予想は的中した。瞬時に別の部屋に立っている自分に気づいて、アレスはその判断に満足する。

(で、お次のこれは?)
そして、小部屋と同様、ひっぱってくれ、と言ってるかのように壁にぶら下がっている紐。
(つまり、今度こそ考えなしにこの紐を引くと、何か致命的なダメージを受けるトラップが作動する?・・・・出入り口のないこの部屋のことだ・・・・両壁がオレを挟もうと動きはじめるのか、はたまた、天井が下がってくるのか?)
周囲を見渡し、アレスは考えていた。その前にちゃっかり部屋の隅に置いてあった日本刀を手にして。

が、考えていただけでは何も始まらない。結果は出ない。結果がでなければ、アレスの考えが正解なのかどうかもわからない。そして、展開もない。
−グイッ!−
アレスは勢い良くその紐を引く。
−ガコン!−
(ん?)
小部屋で紐を引いたときと同じ音がした。そして・・・・
(なんだ、帰りの魔法陣か?)
パタンとひっくり返り、裏表逆になった床。そこにあの東洋の魔法陣の模様があった。
(とすると、ここへ来るための魔法陣は、あの小部屋の紐がスイッチか?)
他には何もなさそうだと判断したアレスは、そんなことを考えながら、魔法陣の上に乗った。

(入手した情報が大げさだったのか?さほどでもないな。)
別棟へ入ったアレスは、そこも同じ手のトラップしかないことに、少し気落ちしていた。
(それに、向こう岸に見える屋敷に渡るには、浮き岩のトラップ・・・・せまい通路で方向転換する床・・・・)
結局、西洋、東洋問わず、同じようなことしか考えないのだろうか?などと思いながら、アレスは進んでいく。オレならもっと幾重にも仕掛けておくものを、とも思いながら。

とはいえ、死を恐れない殺人集団という情報は正しかった、とアレスは思っていた。
教会でもそうだったが、己の命などまるっきり問題外で自爆する忍者。そして、うるさく攻撃すれば殺られるのがわかりきっていると思えても、次から次へと出現してくる女忍者。
(くの一とか言ったか?)
余裕でアレスは、彼女たちが絶え間なく放ってくる手裏剣を避け、時にははじき返していた。

そして、浮き石のトラップをクリアし、池に浮かぶ小島にあった屋敷から地下へと潜入したアレスは、多少はきつくなったトラップをかいくぐって、その中心へと到着する。

「わたしがこの屋敷の頭目だ。たった一人で、この屋敷に潜入するとは・・・・。貴様、何者だ?お前を差し向けたのは誰だ?」
そこにいたのは、鋭い視線を放つ忍者。
が、当然、アレスが返事をするわけはない。
忍者屋敷の探索はその部屋が最後だった。その探索を終えようとアレスは、頭目の睨みも言葉も無視して奥へと行こうとする。
「何も話さぬつもりか。ならば、それもよかろう。今ここで、その口を永遠にふさぐまでのことだ。」
−キーーン!−
瞬時にしてその距離を縮め、忍者はアレスに襲いかかってきた。
が、これまた当然のごとく、アレスはその攻撃を受け止める。
「き、きさま・・・・・」
話しかけたときは、攻撃するようなそぶりはみせていない。それどころか、笑顔で話しかけたつもりである。普通ならその一撃で、相手を一刀両断しているはずだった。俊足を、目にも留まらぬ俊敏さを誇る忍者の、それがもっとも効果的な攻撃なのである。
それをいとも簡単に受け止められてしまっていた。
−シュッ!−
が、仮にも暗殺集団、忍者の頭目である。そこで驚いて動きを止めるようなことはしない。意外性に驚いたものの次の瞬間には、アレスから遠ざかっていた。そして、次の攻撃のタイミングを計る。

が・・・・彼の全身からにじみ出ていた殺気から、敵以外の何者でもないと判断された彼は・・・攻撃態勢を取る前にその胸を貫かれていた。
「ぐっ・・・そ、そうか・・・・お前が、あの男か・・・・?賞金首、アレス。剣を・・・・探しているのだな・・・・。」
障子を開けて入ってきたアレスは、すきだらけだった。が、見事なまでの変わり身。必要と判断すれば即決で息の根を止める。そこに躊躇はない。
「さすがだ・・・見事だ、アレス・・・・だが・・・・」
ぐいっと自分の身を貫いている剣を抜き、血塗れになりながらも彼はアレスとの間を数歩開けると仁王立ちした。
「ふっふっふっ・・・・。生憎だったようだ・・・・。無益よな・・・。お前が、何も話さぬように・・・私も何もしゃべりはせん。忍びの掟に従い・・・消え去るのみだ。さらば!」
(いかんっ!)
危機を察知したアレスが、その部屋から飛び出すと同時だった。
−ズズ〜〜ンっ!−
爆音とものすごい爆風が部屋を破壊し、周囲を襲った。

−ガラガラガラ・・−
爆風が収まると、ばらばらになった部屋の残骸から出てくるアレスの姿があった。
(ふ〜・・・・最後の自爆か・・・・・・・しかし、何もしゃべりはせんといいながら、結構おしゃべりだったな?)
瓦礫と貸した頭目の部屋、その奥にあった床の間とよばれる立派な造りの飾り棚の中に、四次元箱を見つけてアレスはにまっとする。
(良かった。これで帰りに武器を回収していける。)
手元の四次元箱は、すでにいっぱいだった。ここまで来る道すがら、宝や日本刀などあちこちで見つけたが、そのまま無視してきたところだったのである。
(一度街へ帰ってから、また回収に来ようと思ったんだが・・・これで二度手間踏まなくてもよくなるな?)

が・・・忍者屋敷からの脱出行程・・・、頭目を殺されたことにより、一層自滅的に殺気だった忍者たちの猛攻撃により、その結果として、2つの四次元箱に入りきらないほどの日本刀やアイテムが手にはいることになったアレスは、それほどあっても仕方ない、と全て回収するつもりはなかったのだが、街の武器屋に頼まれ、それから2度足を運んだ。
武器として切れ味もさることながら、珍しさに高値で売れるとかで、武器屋に頼み込まれてしまったのである。
そんなことはする必要はないと感じながら、アレスの足は、忍者屋敷に向かっていた。


何を考えて進んでいるのか、本当に分からない御仁である。
ひょっとして、本人でも分かっていない?
本来なら目的である城への潜入方法を見つけるのに必至になると思うのだが・・・いや、とことん探索するというのは、それが目的でもあるのだろうが・・・そこにせっぱ詰まった様子はみじんもない。
のんびりと、そう、まるでぼ〜っとしているかのように、アレスは歩いている。
剣を腰に、防具で身を包んではいるが、隙だらけ。
が・・・ご用心!その進行を妨げる者は容赦しない。
え?ああ、大丈夫、敵でなければ、アレスが攻撃することはない。
街の人がアレスの前方を塞いでも、そんな物騒なことはしない。ぴょん!と頭の上をジャンプして飛び越えるだけである。
助走なし・・。剣の腕もさることながら、跳躍力もなかなかたいしたものなのである。アレス=トラーノス・・・その能力は計り知れない。


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