◆第十二話・神父はかく語りき・・・・◆
  

 「懺悔にいらしたのですね?人はみな、悲しみを背負って生きているものです。 悔い改めれば、新しい道も開けるでしょう。」
 クラーケンを倒して鍵を手に入れ、頑丈な扉を開けてその先に続いていた険しい坂を上り、城壁の警備兵を蹴散らし、アレスは順調に城下町に入っていた。
が、ここにきてドーラと同じようにアレスは足止めをくらっていた。
城下町の隅から隅まで調べても、城への道はどこにもないのである。勿論城壁にも抜け道はどこにもない。
そこは、神の道を説くという教会だった。無信仰のアレスには神も仏もない。だた信じるのは己の腕のみ。いや、己の腕でさえ信じていないのかもしれない。目の前の敵を倒して突き進む、アレスにとってそれが全てなのである。なぜ?と聞かれると困るが、とにかくそうなのである。そして、今は、城へ入る事。プラネットバスターを取り返す事なのである。
そして、また、おまけ?として、ドーラの消息も気になっていたかもしれない・・・口うるさいが、どこそこ憎めない気もするようなのである。しかもあのおっちょこちょいさは・・・心配でもあった。
気が進まず後回しにしていたその教会へと、アレスは手がかりを求め入っていた。
広々とした礼拝堂だったその建物は奥に部屋があるわけでもなかった。そしてその部屋の奥に一人の温厚そうな神父が立っていた。
閑散とした礼拝堂。人っ子一人いない。
礼拝堂だということも全く気にとめず、ずんずんとその真ん中を進み目の前に立ったアレスに、神父はやさしく言葉をかけた。にっこりと微笑んで。
が、何も答えないアレスに神父は今一度微笑んで話しかけようとしたその時・・・・
「賞金首アレスだな。国王バドラーの名において、お前を抹殺する。覚悟ーっ!!」
「むっ?!」
背後に迫った殺気と共に耳に飛び込んだその言葉に、アレスはすばやく振り返った。
そのアレスの視野に忍者と呼ばれる少し変わった装束に身を包んだ男が入ったその瞬間、大爆発が起きた。
その爆発は、その男とともにアレスをも巻き込んだ。いや、男の叫んだ言葉によれば、巻き込むというより、それが目的だったのである。いわゆる自爆というものだった。

一瞬の出来事だった。
自爆した忍者は跡形もなく飛び散り、アレスは瀕死の重体だった。
が、そんな状態もこれが初めてではない。カールにとらえられた時、正確に言えば、砂漠の暑さと乾きに負けたその時と、そして、ビトールの地下迷宮に落ちたとき、そのときもそうだった。
あと一撃・・・何か少しでも衝撃があれば、昇天するような状態なのである。
「おお・・・これはなんとしたこと・・・・」
人の良さそうな神父は慌ててアレスに駆け寄った。
「 何も言わなくてもかまいません。 自分の信じるものに、祈ればよいのです。私も心の安らぎが、貴方にあらんことをお祈りしましょう。」
瀕死状態のまま、アレスは心が満たされる感じを受けていた。
そう・・・・神父の祈りで、精神力は満タン。フルチャージされたのである。
魔法ならいくらでも放つことができるぞ!の状態なのである。

が・・・・・・・
その肉体は、ずたぼろのまま。痛みも遠くに感じるほどの瀕死状態。死と直面状態のままだった。

(神父・・・・精神力を回復してくれるのはいいが・・・回復魔法は知らないオレには意味がない・・・・・できたら・・普通の回復魔法を唱えてくれないか・・・肉体の回復を・・・いや・・その魔法を知らないのなら・・手当だけでもいい・・・。)
・・それともこのまま昇天してしまえば楽になるか?アレスの脳裏にはそんな考えも浮かんだ。が・・・ふと、まだできることがあると思い出す。
(因果な性格だな・・・諦めるということをしないんだからな・・オレは・・・)
力の入らない手をなんとか動かし、アレスは腰ベルトに仕込んで?ある回復ポーションが入っている壺へ手を伸ばす。
(も、もう少しだ・・・・・)
爆風によりぼろぼろになったその身体はもはや動かない。その中でもなんとか動く右手を必至になって動かし、ベルトから壺を取り出して、口に含む。
−ゴクン−
一口飲むのがやっとだった。
そして、その一口で、ある程度回復するのを見計らって再び口にする。
二口目には、上体を起こすことができた。
そして、三口目には起きあがることができた。

「 祈りなさい。自分の信じるものに、心から祈るのです。私の心の安らぎが、貴方にもあらんことをお祈りしましょう。」
起きあがったアレスに神父はにっこりとして言った。
(そうだな・・・おかげで傷も癒えたと言えるだろうな?)
この際思いっきり皮肉を言いたくなったアレスだが、それはやめておいた。
結果として回復したのなら、何も言うまい・・・・。

(どこか狂ってるな・・・やはり狂王の膝元だからか?)
礼拝堂にも、そして神父も城への手がかりもなさそうだと判断したアレスは、心の中でそう呟きながら教会を後にした。
その手には、自爆した忍者が落としていったと思われたカギがあった。
町の路地裏で見つけた扉。その先に道があると思われた怪しげな扉。その扉のカギだろう、とアレスはそこへ急いだ。その道が城の内部への道であることを祈って。

(しかし・・・自爆するのになぜカギなど持ってるんだ?)
カギの強度も大したものだった。普通あの爆風ならバラバラにはならないとしても、どこそこ曲がってもいいものである。まっすぐに形を保っていたそのカギで、アレスは気になった扉を開けた。
(これでは、まるで来てくれと、招待状を置いていったようなものじゃないか?・・・いや、奴はオレも一緒に死ぬ事を期待してたというか、死ぬと踏んでいたんだろう・・・)
ふっと思わずアレスは軽く笑った。
(・・ツメが甘いというか・・・・・忍者とはもっと非情で冷徹な殺し屋だと聞いたが・・・ドジな奴もいたんだな?)


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