◆第十三話・ゴロゴロ岩のメモリー◆
  

 自爆した忍者が残していったカギ、あの大爆発にもびくともしなかったカギを使い、アレスは街の片隅にある大扉を開けた。
−ギギギギギー・・・−
年代物だと思われるその扉は、鈍いきしみ音を立ててゆっくりと開く。
−ヒュォ〜〜−
扉の向こうに続いている薄暗い通路から、水気を拭くんだ風が吹き上がってきた。
(川か池でもあるのか?)
そう思いながらアレスはその通路へと足を踏み込む。
潮の匂いを含んでいないそれは、海岸へ続いているのではないことを語っていた。

自然の洞窟へと続いていたその道は、かなり急な勾配と変化に富んだ床を呈していた。
そして、その終着点、森の中の洞窟と繋がっていたらしいその道の先には、明らかに人工的だと判断できるあやしげな土造りの壁が立ち並んでいた。

壁の中に屋敷でもあるのか、とその壁に添って進んでいったアレスは、そうではなく、迷路のようなものだと分かった。
(何のためにこんなものが?・・・)
何もないのに、こんなところに迷路を作るわけはない。何かを隠すため、あるいは、守るために存在しているとしか考えられなかった。
(ともかく内部へ入ってみるか)
迷路の入口的な通路を見つけたアレスは足を踏み入れる。

(おっと・・・これは、ひょっとして)
し〜〜んと静まり返ったその細い通路を歩いていると、少し浮いたような感じのする地面に気づく。
(岩のトラップか?)
その手のビトールの地下洞窟で散々経験しているアレスは、即そうだと判断し、その場所を飛び越えて先へ進む。
(やはりな・・・)
その先に通路いっぱいの大きさの大岩を見つけて、にやりとするアレス。
そして、他に道がないことを確認したアレスは、その岩のある場所と反対側を調べる。勿論スイッチは避けて歩いていく。
(つまりこれは明らかに人工的なトラップというか・・・迷路の先に行きたければ、岩を転がしてこの壁を破壊しろということだな。)
崩れかかったその壁には、まるで向こうを見ろというように穴がぽっかりと空いていた。ちょうど目の高さであり、しかもまるで小窓といった感じである。
(しかし・・・持っている木槌でも崩せそうだが?)
その強度を調べ、アレスは判断する。が・・・
(使わずにすむならその方がいいだろう。なに、今回のトラップは単純なものだ。数歩交代して横に1歩退けばつぶされることはない。)
四方を確認しても、それと連動して動くような岩は見あたらず、アレスは木槌を使うより大岩を作動させることに決め、再び小窓の向こうを確認する。
(待て・・・窓から見えるあの剣は・・・大岩の下敷きになってしまうが・・・)
窓から見えた大岩がそこで止まるだろう壁の手前、そこには1本の剣が転がっていた。岩を動かせば、その下敷きになるのは目に見えていた。
(木槌を取るか、剣を取るか・・・その価値は明らかなんだが・・・)
だが、ひょっとして木槌は奥で必要になるかもしれない。いつも岩のトラップと崩れかかった壁が連動しているとは考えられないと思ったアレスは、剣より価値は低いが、その使い道で木槌の耐久性の方を選んだ。

−ガコン!−
地面に埋められたスイッチが、アレスのその一踏みで作動する。
−ゴロ・・・ゴロロロロ・・・・・−
「来たな。」
その予想したより遅いスピードに、アレスは余裕でそれを避ける。
−ズズン!・・・・ごろろろ・・ズン!−
予想通り崩れかかった壁を崩してその奥の壁でその大岩は止まる。
(剣はもったいないことをしたが・・・)
残念そうに岩に近づいたアレスは、大岩の下敷きになって取ることはできないと思っていたその剣が、まるで弾かれたように大岩と壁のほんの少しの隙間に転がっているのを見つける。
ラッキー♪と思ったか思わなかったか・・・アレスはにやっとして手を伸ばして、それを手にする。
(これでまた資金源が一つ増えたな。)
いつもよりなぜだか手にすることができて嬉しいと感じてしまったのは・・・
諦めた後なのだろうか?
ふとアレスは自嘲する。
(ゲームで大岩の下敷きになったアイテムが取れるのは事実です。)

−ガコン!・・ゴロロロロ・・・・、ガコン・・・ズズン・・・ゴロロ・・−
奥へと進むと、あちこちにその手のトラップがしかけてあった。
そして、自爆した忍者の仲間とおぼしき忍者たちが、アレスをその背後から襲った。
が、複雑に連動して作動する大岩のトラップも忍者の攻撃もアレスにとっては大したことではなかった。
そして、それを知ってか知らずか、彼らは決してアレスと正面から事を構えようとはしなかった。
アレスの視野に入ると、即座に逃げる忍者達。そして、姿を消しそっと背後へと忍びって斬りかかる。卑怯極まりない攻撃が続いたが、それでも、アレスを倒すまでには至らなかった。
そう、まるっきり無傷というわけではないが、姿や気配を消したつもりでも、アレスは本能で近づく忍者の気配を感じ、即対応していた。

(しかし・・・何か足りないと思っていたんだが・・・)
次のエリアでも続いていた岩のトラップ。ふと感じていた物足りなさの原因を考えながら進んでいたアレスはその答えに到達して苦笑いする。
そう、大岩に追いかけられるといえば、ドーラなのである。
落とし穴の次に彼女に似合う(笑)ものとして、彼女を思い出すと同時にその脳裏に浮かぶのは、大岩なのである。
(ドーラか・・・・そうだな、もし、今目の前に大岩に追いかけられた(?)ドーラが出てきても不思議だとは感じない・・・いや、出てこない事に物足りなさを感じていたのかもしれんな。)
いや、ひょっとしたら寂しさか?と思ったことは心の奥底に押し込んだが、それとも、これから大岩と彼女の出現があるのだろうか?など、ふとそんなことを考えアレスは自嘲のような笑みを浮かべた。

が、岩のトラップはもうないだろう、とアレスがその第六感で感じた迷路の奥の奥。渾身の力を込めて通路を塞いでいた大岩を退かして見つけたドアの前、どうやらドーラはここにはいないようだ、と心の底のどこかで残念がっている自分を感じながら、アレスはそのドアを開け中に入った。
黄金色の少し変わった彫像が2体。人の2倍ほどあるその彫像の間を通って、アレスは急な坂道を下っていった。


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