◆第十一話・漁師町の懐かしい?面々◆
  

 アレスの期待(?)に反し、急な上り坂を登り切った先にドーラの姿はなく、ひなびた漁師町の風景と波の音そして潮風が迎えてくれた。

(静かだな・・。)
静まり返った小さなその集落は、少し歩くとすぐ人家がとぎれてしまった。

(あれこれ手に入れて手一杯なんだが・・・換金できるところはあるのだろうか?)
入り組んだ小道の中へとアレスは足を踏み入れ、店屋らしき家屋を探す。

「おおっ!あんたはアレス!アレスじゃないか?!」
その店のドアを開けて中に入った途端、男の声がアレスの耳に飛び込んだ。
(誰だ?)
店主と思われるその人物をアレスはカウンター越しに見つめ、そして、それがバノウルドの地下迷宮で出会った戦士ガディだと気づく。

−ガチャ、ガチャ・・コトン、コトン・・−
「ははは・・相変わらず無口だな。」
その雰囲気から自分がビトールの塔で会った男だと気づいていると判断したガディは、それでも一言も言わず、異次元箱から迷宮で手に入れたと思われる武器や防具などをカウンターの台の上に乗せているアレスに笑う。
「今度はあんたが追いかける番か?」
にやっと笑って言ったガディーの言葉に、確かにアレスは一瞬反応していた。そう、一瞬だがびくっとその視線をガディに向けたのである。
(やはりと言おうか・・・どうやらドーラは無事ここへ着いたらしいな。)
再び入手したアイテムに視線を向けるとアレスは心の中で呟いていた。
「オレはあんたが教えてくれた道を確認してから塔の1階で武器屋をしていたゲイラを迎えにいってな・・・あそこから出てから一緒になったんだ。ここはゲイラの故郷なんだ。」
返事はないだろうと思いつつ、それでもアレスが聞いていてくれるということは承知していた。ガディーは上機嫌で一人話を続ける。
「いらっしゃい。」
奥からゲイラが出てきてアレスににこやかに話しかける。
「また会えるなんて思ってもみなかったよ。ドーラさんに会った時はもしかしてと思ったけどね。」
それでも一言も返事をしないアレスに、2人は顔を見合わせて苦笑いをした。
「いつもあんたの事を話していたんだ。ホントにみんなあんたのおかげだよ。」
換金用のものを全部カウンターに出し終え、2人の方を向いたアレスは勿論何も言わなかったが、「よかったな。」と言ったように2人には聞こえていた。
「おお〜♪なかなかいいモン手に入れてきたんだな。ひょっとすると忘れられた島から海底洞窟抜けてきたってんじゃ?」
信じられないような顔をして言いかけたガディは、相手があのアレスだったことを思い出し、納得する。それにドーラがしばらくの間だが、待っていたこともある。彼女は決してアレスを待っているとは言わなかったが、海岸で海を見つめじっと佇んでいたのをゲイラが目撃している。
その事や、その辺りでは入手できないような武器であることから、そう考えることが当然だろうと判断していた。
「だけどさすがだね。あの海底洞窟は迷路になってる上に魔物がわんさといるって聞いたんだけど。」
ゲイラが腕に抱いている赤ん坊をあやしながらアレスに微笑む。
「後は、城に向かったドーラさんに早く追いついてあげることだね。」
「城?」
一言呟いたアレスに、2人は顔を見合わせていた。聞けるとは思わなかった初めて聞いたアレスの声。
「そう。東に行ったところにある入り江から行けるんだけどね・・・引き潮の時に下まで下りて対岸まで行かなくっちゃいけないんだけど。クラーケンがいるんだよね。」
(クラーケン?ドーラを襲ったあの化けタコか?)
「ま、どのみちあんたにゃ軽いだろ?で、対岸に城へ続く道への入口があってだな・・・ドアにはカギがかかってる。そのドアのカギは村長がドーラに開けたらこっち側に投げ返してくれと頼んだからな、その辺りにあるとは思うんだが。」
ゲイラの言葉を受けガディが説明を始めた。
「やっこさん光りものが好きだからな。飲み込んじまったかもしれん。」
どうやら巨大タコを倒さなければここから先へは行けそうもないな、とアレスは判断する。
「でもさ、もう日が暮れちまったし、どうだい?今晩泊まってさ、ゆっくりしてったら?」
「ああ、それがいい。今までずっと迷宮だったんだろ?あんただって人間なんだ。時にはゆっくりと身体を休ませないとなー。」
がっはっはっ!とガディは高らかに笑う。
「運悪くと言うのかな?今は満潮なんだ。早くても下へ下りられるのは明日の朝だからそうするしかないといえばないんだ。」
「よ〜し、そうと決まったら今日はごちそうだよ!あ!ワインきらしてたんだった!ちょっと買ってくるよ!」
勝手に決めつけ、ばたばたばたと小走りし、ゲイラは奥へ赤ん坊を寝かせると、ガディに頼んで出ていった。
「ははは・・・こうと決めたら即行動だからな、あいつは。」
そして、無言のまま立っているアレスに頭をかきながら遠慮がちに言った。
「いいだろ?・・あいつをがっかりさせたくないんだ・・・」


そして、その夜、ガディの家は賑やかだった。
といってもほとんどゲイラが一人ではしゃいでいた。それでも同じテーブルにつき、ワインを口に運んでいるアレスに2人は満足していた。
そのアレスを肴に、2人は塔での思い出に話を咲かせていた。

(悪くない光景だな。)
目の前の楽しそうなガディーとゲイラを見てアレスはそう思っていた。


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