◆第七話・盾は偉大なり?◆
  

 (聞く耳はもたんというところか・・・・)
そのエリアの奥まったところ、下への階段があるだろうと思われたところに、アドニスの眠る祠を守る妖神だと名乗った魔物がいた。
侵入者は全て害をなすものだと思いこんでいるらしく、できるなら穏便に済ませて先に進みたかったアレスに激しい雷を浴びせてきた。
彼女の言葉からこの下にアドニスとかいう名の神かなにか、ともかく神聖な祠があるらしいことがわかった。勿論アレスはそこを荒そうと思っているわけではない。が・・・弁解しようとして、はた!とアレスは気付く。己の進む道の先にそれがあり、必要ならば荒らすことも何とも思わなかったことにである。アレスにとって神聖なる場所などという特別なものはない。必要なら何でもとことん調べる。それが聖者の死体であろうとなんであろうと。それが「荒し」と言わずして何と言おう。
「待て!ここを通させるわけにはいかぬ!」
いとも簡単に妖神の攻撃をかわし、無視して先に進もうとするアレスに、彼女の怒りは一段と燃え立ち、全身から放たれる雷もまた激しい様相をしめしてきていた。
(・・・・まるで女のヒステリーそのものだな。)
怒り露わに怒鳴り散らしそして雷撃を放ってくる彼女に、アレスはうんざりしながら剣を・・と思ったが相手の攻撃が雷なので攻防共に使える盾にした。(少し前の魔物との戦いでアレスはしっかり味をしめていた。)
−ばん!ドバン!−
「な、な・・・・なんという・・・」
てっきり剣を構え向かってくるだろうと予想していた妖神は、盾攻撃を顔面に受け、真っ赤になった彼女自慢の形のいい鼻を押さえて叫ぶ。
「お、お前は剣士なのであろう?・・け、剣士がこんなことしていいと思うてか
?こ・・こんなのは邪道の他のなにものでもありえないぞ?」
−バシッ!−
が、一旦攻撃モードに入ったアレスにそんな言葉は届かない。
それに、勝てば官軍、生き伸びてなんぼ(笑)のアレスにはどうでもいいことでもある。攻撃は続けざま彼女にヒットしていた。
両手に持った盾は雷撃を周囲に散らすと同時に、確実に彼女を打ちのめしていった。

「こ・・こんな・・・バカにされた負け方を・・・この私がするとは・・・・・」
肉体に受けた攻撃より、屈辱感で倒れたのかもしれなかった。彼女と会えば、一目散に逃げるか、はたまた、それなりに腕に自身がある者なら、意を決して全力で向かってくるはずである。そういった戦士との戦いは、彼女の好むところだった。確かに手を抜いているわけではない、がその戦闘方法が彼女の常識を逸していた。
その結果、盾で叩かれるという負け方に脱力感と情けなさを感じながら彼女は地に伏した。
(おい、もう終わりか?・・・最初の勢いじゃ、もっと強いと思ったんだが・・・)
倒れた妖神を見下ろしアレスは心の中で呟いた。
(あの罵声の勢いはあいつといい勝負だと思ったが・・・)
ふ〜っとアレスは苦笑いしながらため息をつく。勿論あいつとはドーラのことである。
(そうだな・・・彼女の怒りには・・神でさえ負けるかもしれんな・・・。あの強さ(?)は半端じゃないからな。比べる方が間違いだったみだいだな・・・。あれにはオレも手を出そうとは思わん。)
マシンガンよろしく、いや、それよりも激しく飛び出すドーラの罵声を思い出し、今一度苦笑いしてアレスはそこを後にした。


そして・・・
「おっと・・・」
珍しくアレスの口から声が出た。敵に攻撃されたからでも、攻撃を防ぎきれなかったわけでもない。それは・・・床が滑るのである。というより、そのエリア一体の床を構成している岩の中の1種類のせいである。その岩に足が乗ってしまうと、どんなに全身に、そして足先に力を込めて立とうが、アッという間に一定方向に滑ってしまう。その方向は岩によって様々だった。
特別突きだしているわけでもないその岩は、他の岩と同じに見える。ただ、注意深く見れば、多少表面に滑りやすそうな光沢があるのは判断できる。
が、判断できたからといってどうなるものでもなかった。それを避けて進んでいるだけでは、次のエリアへの道にはたどり着けそうもなかった。

滑った先が普通の床なら別にどうってことはない。が、今回アレスが足を滑らせた先は・・・丁度人一人すっぽりと落ちるくらいの穴が口を開けて待っていた。勿論、方向転換などできない。その時間もない。
(危ない・・危ない)
穴に身体が吸い込まれていく直前、アレスは咄嗟に盾でそれを防いでいた。
(ふ〜・・・・)
ちょうど手にしていた大型の盾で穴をふさぎ、その上に腹這いになった格好のアレスだが、一息ついている暇はなさそうだった。
そう、周りには魔物が群れているのである。うつ伏せの状態のアレスは格好の獲物である。
(この格好で攻撃されたらひとたまりもないな。)
と思っている間にもアレスを見つけたスケルトン兵士が嬉しそうに近づいてくる。

−ザシュッ!−
が、スケルトン兵士の意に反し、その剣をアレスの上に振り下ろす直前、アレスは盾を話さっと起きあがって身構える。
−グサッ!−
スケルトンの剣は、アレスが下敷きにしていた盾に垂直に突き刺さり、彼は必死に抜こうとする。
(ぷぷっ・・・)
その滑稽な姿に思わず吹き出しそうになったのを押さえ、アレスはトン!と軽くそのスケルトンを押し、穴の中へと落とした。そう、骨だけのスケルトンであるし、剣を抜こうと必死になってるので隙があるなんてものではない。
そして、次ぎに襲いかかってきた大コウモリを倒し、アレスはそれまで行けなかった方向へと進んでいった。


(しかし・・・なぜこうも剣が落ちているんだ?ホーリーソードにホーリーアックス?アンデッド用か?)
それを使えば、倒しても倒しても復活してくるアンデッドの息の根を完全に止めることができた。が、剣や斧の全身から放っているその聖なる輝きと色鮮やかな(アレスの趣味ではないが)刀身に、おそらく高値で売れるだとうと判断し、アレスは安価とみられるものと異次元箱の中身を入れ替えた。

が・・・崩れかかった壁を見つけたとき、なぜ普通の斧を持っていなかったのだろうと、思わずけちくさいことを考えてしまったアレスは自分ながらも呆れ、苦笑した。
(所帯持ちでもないのに、生活感ありすぎか?いや、所詮サバイバル生活とはそういうものだろう。いつどこで必要になるかわからない。そして、金はどれだけあっても邪魔にはならない。・・・装備に吹っ飛んでしまうしな。)

などと探索とは全く関係のないことを呑気に考えながら、予想通り、そこまで来る途中にあった開かなかった扉の鍵をその先で見つけ、アレスは順調に次ぎのエリアへの道を進んでいく。


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