◆第八話・アレス風ダンシング?◆
  

 (おっと・・・)
とある部屋の中へ入ると、不意に正面に位置している床が浮き上がり、その途端アレスを襲ってきた。紙一重の差でそれを避けたアレスは再び床と同一化し、判断できなくなってしまった背後の床をじっと見つめていた。
(つまり・・・動くものに反応して襲いかかってくるというわけか?)
そういえば、どこかのダンジョンにこんなものがあったとアレスは思い起こしていた。しかもそれは1つのみではなく、そして、動かずとも、侵入者には間髪入れず襲って来た。
(あれで剣を振る(Aボタン連打)速さが一段と増したというか・・・・いや、あれは夢だったな・・・はっきりとは覚えてないが、子供に戻ってどこかを探検していたようだったな。草むらを探すと宝石や爆弾が出てきたおかしな夢だったが・・・・。)

しばらくそのおかしな夢を思い出していたアレスだったが、そんなことをしていても何も始まらない、と奥へと進んだ。

そして、行き止まりだったその奥から再び動く床のあるその部屋に来る。
(斜めでは向かってこないわけか。とすると・・・)
すっとアレスは動くであろう床の平行線上に立つ。
その途端、床はふわっと浮き、アレスめがけて飛ぶ。
そのスピードは普通人には目に止まらないほどだと思えた。が、アレスにとっては・・ゆっくりとは言えないが、それなりに見える。
−ひょい!−
鋭利な刃のように尖った床板がアレスの身体に触れる直前、軽くジャンプしてアレスはなんとその上に飛び乗った。
(とと・・・バランスが取りにくいな。)
不意に目標物を無くしたその床板は、不思議に思いながらもすうっと床に着地し、同化する。
(うーーん・・・上手くいけば使えそうなんだが・・・・。)
そこから次のエリアに行くにには、再び滑る岩の上を通らなければならなかった。当然・・・岩の向こうは落とし穴である。落とし穴への落下を覚悟しなければ次のエリアへ続いていると思われる場所に出ることはできなかった。(実際のゲームではそんなことはありません。)
アレスは動く床に注意しながら、その部屋の出口の扉を開ける。
(真っ直ぐにしか飛べないからな・・・軌道を考えて・・だな・・・)
そして、アレスと動く床板とのダンスが始まった。

平行線上に立つアレスに向かっていく床板。それにリズム感良く飛び乗ったり、蹴ったり盾で方向を変えたりする。
(・・なかなか思うようなところに着地してくれないな。)
そんな事を考えながらアレスは、床板とジャンプダンスを続けていた。
乗っている時も30cm四方しかないその床板の上は、手すりがあるわけでもなく、非情にバランスが取りにくかった。あまり勢いよく乗ったり蹴ってしまっては、壊れてしまわないかとの懸念もあったが、小さくても硬度は確かだった。それもそのはず、まともに身体にその攻撃を受ければ、胴体であろうと鎧共々寸断されてしまうに違いないと思われるほどのものだった。

ともかく・・・もし見学者がいたのならば、アレスの溢れる(?)その躍動感とリズム感に、BGMがないのがつくづく物足りないと思ったかもしれなかった。共に踊るには危険すぎるし、難しすぎるが・・・ともかく見事なダンスだった。(笑)
俊速で部屋の片隅から片隅に飛ぶ床板。その動きに合わせて乗り降りの繰り返し。一見簡単に見えるが実は命を賭けたダンス。一瞬でも気を抜くと胴体を寸断されてしまう。それはアレスだからこそできるものであるに違いなかった。

そして、ようやく出口と平行線上の床に着地させたアレスは、最初の思惑通り、床板に乗って、落とし穴に落ちることなく、そして、滑る床を歩くことなく無事そのエリアを脱出した。

(いい運動だったな。)
意思通じができ、そして気が合えば次ぎのエリアでも使えるんだが・・・、と思いつつ、アレスはそこを後にした。もっとも直線しか飛べないのでは、狭い洞窟内や部屋では使えないといえばそうであり、あまり役立ちそうもなかった。

平行線上に動く者の気配が消え失せ、動く床板は、最後にアレスを乗せて下りたその場所に黙って留まっていたが、もしかしたら、床板も同じ思いでアレスを見送っていたかもしれない。
それほど、最後には息のあったダンス(?)に見えていた。


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