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【 小さな大魔導師リッツ その3・Jack-In-The-Box 】
〜Diablo Story No13〜



 「おい、リッツ!何してるんだ?」
地下10階、サッキュバスとガーゴイルそしてホーンドデーモンの大群と応戦しながらロイドが叫んだ。
後方に控え、石化の魔法で援護してくれる手筈のリッツは全くその気配をみせない。
「リッーーーッツ!」
多少いらつきながら、ちらっと振り返って確認したロイドは、一瞬身体が固まった。
と言ってもリッツに魔法をかけられたわけではなく、自分たちが苦労して戦っているのと相反したリッツの行動に対して驚きのあまり、の結果だった。
「リ・・・・」
声も失ったロイドは、それでも群がる魔物とは戦わなくてはならない。一瞬後その理性を取り戻したロイドは、再び仲間と一緒に攻防を開始する。
で、当のリッツはというと・・・・

 「きゃはははは!面白いなのぉ・・・!」
この上なく上機嫌なリッツは、苦戦中のロイドたちなど眼中になく、一人安全な後方で・・あろうことか、樽割りの真っ最中。
−バキッ!グシャン!バキッ!−
その軽快な音と今度は何が飛び出てくるだろうか?という好奇心に心を奪われたリッツの姿があった。
「わーい!スケルトンさんなのぉ。ホントにびっくり箱なのぉ・・・。」
−グシャッ−
樽から出るが早いか、頭からハンマーで殴られ、その場でバラバラになって崩れるスケルトン。
「樽の壊れる音とちょっと違うけど、これもなかなかいい感じなのぉ・・。」
「ハンマー、ハンマー!グシャン、グシャン!なのぉ〜・・」
リッツは、自分の身体ほどもあろうかと思われる特製『ピコピコハンマ−』
を大きく振り回し、フロアというフロアの樽を壊して回っていた。
そのハンマーは、鍛冶屋のグリスワルドが特別に作ってくれたものだ。リッツの希望は、音の出るハンマ−だったのだが、玩具でなく実戦で効力を発揮するとなるとそのような付属はつけれない、と判断した彼が、リッツに入れ
知恵したのだった。
『とってもいい音の出るびっくり箱』が地下にはあるぞ、と。
リッツは上機嫌だが、ロイドたち仲間はいい迷惑。

地下10階、そこは、魔物も尋常でなく、苦戦するのは目に見えていた。だからこそ、リッツにも武器らしい武器をもたせ、そして、石化の魔法での援護をするよう口がすっぱくなるほど、言い聞かせたのだが。
が、いざ潜り、樽を見つけた瞬間、そんな事はリッツの頭から吹き飛んだ。
「ははは!気まぐれ天使様じゃー、しかたないね?」
スカヤがやはり攻防を続けながら、苦笑いをロイドに向ける。
「しかたないって・・・スカヤ、お前ぇ・・・」
ボルガも戦闘の中、大きくため息をつく。
「ったく・・・グリスの親父さんも罪な事を言ってくれたもんだぜ。」
樽は後方にまだまだたくさんあった。
(こりゃー相当の覚悟がいるな・・。)
が、覚悟だけで魔物を一掃できるわけでもない。際限ないと思われるほど、魔物は奥からわき出てくる。
それでもなんとかその包囲から抜け出たロイドが、今一度リッツに叫ぶ。力のかぎり声を振り絞って。
「リーーーーーーッツゥ!」
「ん?」
その切羽詰まった声のせいか、はたまた偶然にも目がいったのか、とにかくリッツはロイドを見た。
「どうしたのぉ?ロイドォ?」
が、リッツは無邪気に聞き返す。
「ど、どうした?じゃねー!魔法援護はどうした?男と男の約束だろ?」
「あ!そうだったのぉ・・ごめんなさいなのぉ・・」
すっとハンマーを下ろし、大きく息を吸い込むと、リッツは呪文を唱えた。
「ファイアーボォォォォルぅ!!」
−グオぉぉぉぉーーー!−−
真っ赤な球体が、再びロイドを取り囲もうとするガーゴイルの群に向かって一直線に進む。
い、いや・・ロイドに向かって・・なのか?
「お・・おい!」
自分に向かって直進してくるファイアーボールに、ロイドは驚愕。咄嗟にその場にしゃがみこむ。
−シュオン!・・バボォォーーン!−
その球はロイドの頭をかすめて、ガーゴイルの群に命中する。
「ギィィィィ!!・・・」
その瞬間で、彼らは燃え尽き、塵と化す。
「・・・・リ、リッツ・・・・。」
そのガーゴイルたちを見たロイドは、恐怖の目でリッツを見つめた。
そして、勢い良く立ち上がりリッツに叫ぶ。気のせいか彼の全身は震えているように見えた。その顔からは血の気が失せていた。
「お、オレまで焼き殺す気かぁ?」
「なーに?なんなのぉ、ロイドぉ・・。」
ロイドの背後、スカヤやボルガたちの方にまだまだいる魔物たちに向かってリッツは2発3発とファイアーボールを繰り出した。
−シュオン・・・バボォォォーーン!−−
−シュオン・・・バボォォォーーン!−−
またしても慌ててしゃがみこんだロイド、そして、スカヤとボルガも火球の直撃を避けるべく転がるようにして、魔物が群れるその場を離れる。
「ち、ちょっと待てーっ!!」
まだまだ次から次へと呪文を放とうとするリッツを大声で制するロイド。
「なんなのぉ?ロイドぉ?」
「も、もういいから・・・あ、遊んでろ!」
(戦闘にも何もなりはしない!)
ロイドは、自分の頭上をかすめていった特大火球にぞっとしながら思った。
「いいのぉ?リッツ、ホントに樽で遊んでていいのぉ?」
「ああ、いいから、いいから!」
魔物と一緒にお焦げになるよりまし、と判断したロイドたちだった。
「はぁぁぁぁい!リッツ、遊んでるのぉ・・。必要になったら呼んでなのぉ。」
「ああ、分かった、分かった。」
ため息まじりに叫ぶロイドにリッツはその純真極まる微笑みを投げかけると、再び後ろに控えている樽のところへと跳んだ。

そして、しばしロイドたち3人は魔物との戦闘、リッツは樽遊びに没頭していた。

「ああ!ロイド、危ないのぉ!」
と突然、リッツが火球を放つ。
−シュオン・・・バボォォォーーン!−−
条件反射が身についたのか、ロイドは、軽くとはいかないまでも、咄嗟にしゃがみこみ、巻き添えにあうのを避けた。
が、その恐怖感は何度受けても同じ。慣れるはずはない。
猛スピードで駆け抜けていく火球の熱風とは真反対に、身体の芯まで恐怖で凍えてくる。
一つ間違えれば、何が起こったか、全く理解していないリッツのにこにこ顔にため息をつきながらも、ロイドはそのままの姿勢で近づいてくるリッツを待った。
「オ、オレまで焼け死ぬとこだっただろ?」
恐怖と脱力感で、一度は立ち上がってリッツの肩に手をかけたロイドは、再びそこへ座り込む。
「そうなのぉ?でもロイド、確か炎の耐性のある鎧着てるって言ってたのぉ。」
きょとんとした顔のリッツ。
「耐性ってったってなぁ・・あ、あんな球受けたら、この程度の鎧じゃカットできるわけないぞ。命がいつくあっても足りないって・・。それに、石化の魔法って言っただろ?」
「そういえばそうだったのぉ・・でも、リッツ、囲まれそうなロイド見たら、ファイアーボールの方がいいかなぁ?と思ったのぉ。」
「ははは!確かに効き目特大だね!」
戦闘から自由になったスカヤが微笑みながら二人に歩み寄る。
「はは!焦げ臭いと思ったら・・・・」
スカヤの指は、ロイドの頭、ちりちりになった髪を指していた。
「う・・・」
慌ててその髪を手で抑えて確認するロイド。
「ど、どうりで、頭が温かいと思った・・・。」
「ご、ごめんなさいなのぉ・・・。」
そして、ようやく自分のしたことがどんな事だったのか悟ったリッツが謝った。
「ま、まーいいさ・・悪気があってやったわけじゃなし・・。」
苦笑いして立ち上がるロイド。
「だが、今度からはきちんと石化の魔法頼むぞ。」
「はいなのぉ。」
ぽん!と自分の頭に手を乗せたロイドに、リッツは少し照れ笑いする。
「じゃ、奥へ進むか?」
「あ!」
「なんだ、リッツ?」
「あのね、まだ樽があるのぉ・・・リッツ、それ壊したいのぉ・・。」
少しもじもじして言うリッツに、3人は呆れ顔。
「ははははは!ああ、いいよ。気が済むまで壊しといで。あたしたちは、ここで待ってるからさ。」
奥へ行くにはどうあっても魔導師の援助が必要に思えた。
3人は、呆れながらも、リッツの気まぐれに付き合う事にした。
「ま、仕方ないさ!我等が魔導師様は、びっくり箱が気に入ったみたいだからね。もっとも・・中にいるあいつらには気の毒な話だけどさ。」
スカヤが笑いながら2人に目配せをした。

 



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