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【 ローグ、ニケ エンディング1 】
〜Diablo Story No3〜



 ラザルスを倒したニケたちは、巨大な魔方陣の前に立っていた。
「さーて、いよいよ魔王、ディアブロのいる最深層だ。攻撃も今まで以上だろう。
覚悟はいいか、ニケ?」
魔方陣の中央を睨み、今一度剣を握りなおしてアルバートが言った。
「勿論よ!」
ここまで来て引き返す馬鹿はいない。ニケは緊張した面持ちで自分自身に言い聞かせるように答えた。
−ポン!−
そんなニケの緊張が少しでも和らぐように、キリーはニケの肩を軽く叩き、笑みを投げかけた。ニケも微笑みを返し、キリーと並んでアルバートに続き魔方陣の中央へと歩みを進める。
−ブゥゥゥゥーーーン−
以前は作動しなかった魔方陣が、ニケたちの気を感じ取ると同時に淡い光を放ち始める。ほのかに赤みを帯びたその光は、まるで生気を吸い取る生き物であるかのごとく、ニケたちの全身にまとわりつく。
ふっと一瞬目の前が真っ暗になり、軽い眩暈と全身を駆け抜ける寒けを覚えた後、目の前にそれまでと異なった空間が広がった。
最深層、16階である。この階のどこかで魔王、ディアブロが刻一刻と再生されつつあるのだ。魔の瘴気は一掃濃く周囲に漂い、それだけでも倒れそうなほどだ。
「いくぞ!」
再び号令をかけるとアルバートは、先頭に立ち探索に移る。
−ガチャガチャガチャ−
鎧を軋ませながら闇騎士の集団が近づいてきていた。その後方には、闇魔導士の一団が控えている。
ディアブロの側近との最後の戦いが始まる。
死を、消滅を、全く意に介しない戦闘集団との戦いが。
ニケたちに、もはや退路はなく、前進あるのみ。
何が何でも死ねない!死ぬわけにはいかない!ディアブロを倒すまでは!
3人はその決意と共に、想像を絶する激しさの戦いの中に身を投げていった。

 「ニケ、この先だ!この先の洞窟にディアブロがいる!」
息つく間もないほどの戦いの中に身をおいて、どのくらいたっていただろう・・恐怖で凍り付くかのような闇の気を感じ、襲いかかってくる闇騎士と剣を交えながらアルバートが叫ぶ。
アルバートの視線の先には、薄暗い細い通路が奥へと続いていた。
「ここは俺達に任せて奥へ!・・ディアブロを倒すんだ、ニケちゃん!」
やはりディアブロの気を感じていたキリーも闇魔導士と戦いながら叫ぶ。
「で・・でも・・・」
彼らより少し後方から弓矢による援護をしていたニケは躊躇する。通路へ行くまでは、敵のど真ん中を走り抜けなければならない。それに、この激しい戦いの中に彼らだけを置いていく気にもなれない。
「いいから!ここは俺達にまかせておけ!」
「そうだぜ、ニケちゃん!大丈夫、俺達もこいつらをやっつけてから、すぐ駆けつけるから!」
「う・・うん・・・」
ごくん!と唾を飲み込み、ニケは剣を構えると覚悟を決めて駆け出す。
二人の援護があるといっても、多勢に無勢、まるっきり攻撃を受けずにというわけにはいかない。ニケは必死に応戦しながら、敵の放つ業火の中、ひたすら通路へと走った。

 「行ったか?」
ニケがなんとか通路の奥へ進んだのを確信し、アルバートは呟いた。
(もう少しだな・・・)
あれほどいた闇騎士も後残りわずか、だが、アルバート自身ももはや戦える状態ではなかった。
「キリーは・・・?」
闇魔導士を通路と反対方向に誘導していったキリーの姿も、周囲には見られない。
(あいつの事だ・・大丈夫だろう・・。)
そう思うと、最後の気力を、生命力を振り絞り、アルバートは闇騎士に向かっていく。すでに倒れていても不思議ではない状態だった。
―ガキン!ギン!―
最後の敵を倒す。と同時にアルバートもそこへ崩れ落ちる。
「・・ニケ・・倒すんだぞ・・魔王を・・・」
瞼が閉じられる寸前、振り絞るような声で言う。
ゆっくりと、死の闇がアルバートを包み込んでいく。
(・・・・これで、やっとお前に逢える・・・ニケ・・)
アルバートの脳裏には、愛するニケの姿が映っていた。
(ニケ・・後は、お前が守ってやってくれ!かわいい妹が、無事魔王を倒せるように・・・。)

 その頃、キリーも地に伏していた。呪文と呪文のぶつかり合い。魔導士同士の激しい戦いの果て。
 そして、ニケは、通路に立ちはだかる敵を倒し、ようやくのことで、魔王ディアブロのいる洞窟へと来ていた。

 魔王、ディアブロ・・洞窟の奥まった広い空間、その闇の中に静かに息づく巨大な悪魔の姿があった。
 「よかった!まだ完全に復活してないっ!」
押しつぶされそうなほどの闇の気を全身で受けながら、それでも、まだ動く気配のないディアブロにニケは少なからず安堵した。完全体になってしまえば、ニケなど手も足も出ない。
 「よーーーし!」
弱気になりそうな自分を、ともすればここから逃げ出したくなりそうな自分を奮いたたせるかのように、下腹に力を入れ、心の中で叫ぶ。
と、ニケの気を感じたのか、ディアブロの瞳がゆっくりと開き始めた。
ゆっくりと開いていくその瞳・・邪気を帯びた真っ赤な瞳が少しずつあらわになってくる。
「あ・・・あ・・・・・・・」
その射るような視線に捕らわれ、ニケはまるで呪縛にかかったかのように動けない。
「ぐぅおおおおおおおおお・・・・・・」
地の底から絞り出すかのようなの声と共に、ディアブロはゆっくりと動き始める。
その声と全身から発せられる闇の気、そして、紅く血色に妖しく輝くその瞳に捕らえられ、押しつぶされそうなほどの恐怖感がニケに襲いかかる。
(だ・・だめ・・ここで負けちゃ・・・キリーたちが来るまで持ちこたえなきゃ・・ううん・・・倒さなくっちゃ!!)
自分を叱咤し、必死に手を動かそうとする。
(動いて・・お願い!!)
ニケは祈るような思いで、必死に恐怖と、全身の硬直と戦っていた。
「ニケ、頑張れ!倒すんだっ!!」
「え?」
アルバートとキリーの必死の声がニケの耳に飛び込む。
慌てて後ろを振り返る。が、そこには暗い空間があるのみ。
(空耳?)
もしかして?と最悪の予感がニケの脳裏を遮る。が、次の瞬間、自分の身体が、呪縛から解き放たれている事を確信し、咄嗟に弓を構え、ディアブロに的を絞る。
−ズシリ・・ズシリ・・−
ニケを敵と認めたディアブロが地響きをたてゆっくりと、だが、すさまじい形相で向かってくる。
(ま・・負けるもんか!)
恐怖で足がすくみそうになるのを必死で堪え、ニケは次々と矢を放つ。
−ヒュン!ヒュン!ヒュン!−
「ぐおぉぉぉぉ・・・・」
ぞっとするような声をあげ、ディアブロも地獄の火炎を放ってくる。
−バシュッ!−
−シュン!−
その火炎を瞬間移動の術で上手く避けながら、矢を射続ける。
まだ完全に復活していないためか、ディアブロの動作は鈍い。それと正反対に、ニケの身体は、その攻防の繰り返しに慣れてきていた。
「いけるかもしれない?!」
どれほどそれが繰り返されただろう・・手足が、いや、全身が疲労で棒のように感じた。が、不思議にも身体は軽く動いている。

 そして・・ついにその終局を迎える。
「ぐあぁぁぁぁぁぉぉぉぉーーーー・・・・」
ディアブロは、ぞっとするような断末魔の叫び声を上げ、その場に倒れた。
「や・・やった!・・た、倒せれたんだ・・」
ニケは肩で息をし、じっとディアブロを見つめる。
しばらくそうしていた後、ニケはまるで何かに憑かれたかのように、腰の短剣を抜くと、その額のソウルストーンをくり抜いた。それはディアブロを封じた石。
それこそがディアブロ。
と、瞬く間にその巨大な身体が枯れ始める。そして、数秒後、そこにあったのは、まぎれもない、あの行方不明となった王子アルブレヒト、その人の身体であった。

 王子アルブレヒトは、やはりディアブロの犠牲になっていた。
大きく見開かれた王子の瞳から、一筋の涙が頬を伝う。例え、このまま死を迎えようとも、己の魂が自由になった喜びで。
そして、ゆっくりと閉じる。それは、二度と開かれることはない。

(な・・何?・・・)
そんな王子の様子を視界の隅にとらえながら、ニケは恐怖に打ち震えていた。
ソウルストーンを持つ自分の手の動きがおかしい。
(う・・動かない・・・手が、手が操られてる!)
まるでスロービデオを見ているようだった。ソウルストーンを持つニケの手は、明らかにその切っ先をニケの額に埋め込もうとしていた。ゆっくりと近づいてくるソウルストーンの鋭い先端・・・。
「きゃあああああーーー!」
真っ暗な洞窟にニケの叫び声が響く。鮮血がほとばしり、ニケの額に埋まったソウルストーンは、新たなる宿主を手に入れ、喜びで輝く。

 「いや・・・いやよぉ・・・・・」
額を貫かれてもニケには死は訪れない。狂おしいまでの恐怖の中、ゆっくりと闇に支配されていく自分を感じ、ニケはより一層深い恐怖におののく。
「いや・・・いやぁ・・・・・・」
自分が闇に染まっていくのが手に取るように分かる。

完全なる絶望感の中、ディアブロに意識を取り込まれる瞬間、自分が自分でなくなる直前、ニケはあらん限りの力を振り絞り、声のない声で叫んだ。
「・・誰か・・・誰か、あたしを殺してぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!」



<<THE END>>

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  どうも、長い間(?)おつきあい下さり、本当にありがとうございました。
  m(_ _)m


 心より御礼申し上げます。
 といったところなのですが、ここで終わっても一つのエンディング。
 そして、実は、もう一つのエンディングもあるんです。 /^^;
 それも読んでやって下さい。
 うーーん、すっかり純愛小説になってしまった。 /^‐^;


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【DIABLO】