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【 ローグ、ニケ その6・業火の中 】
〜Diablo Story No3〜



 ニケたちは、地下15階に降り立っていた。
「15階か・・なんとかここまで来れたな。」
アルバートが周囲を見渡しながら呟く。
「ああ・・手ごわい奴ばっかだったが、これからはもっとだろ?」
「そうだ、キリー。ここにはあの大司教ラザルスがいる。魔王ディアブロの下僕となり果て、王子を、そして、軍隊、さらには、一般民までもこの地獄へ引き込んだ悪の司祭がな。当然、お付きの魔物も尋常じゃない。」
「知ったような事を言うんだな?」
「・・まぁな。一度来てるからな。」
「そりゃー初耳だな。」
「ふん!話す必要もないだろ?」
「ま、そりゃそうだ。」
キリーは肩をすくめる。
「アルのだんなが一度来て引き上げた所か・・それ相応の覚悟が必要だな。」
そして、独り言のように言い、後ろのニケを振り返る。
「あたしなら大丈夫です!」
ニケは力強く断言する。覚悟はもうとっくの昔にできている。聞かれるまでもない。
「勝利の女神がそう言ってくれると、心強いな。」
キリーが微笑む。
「ふん!他力本願じゃ、奴をやっつけられねぇぞ。」
「はいはい。全く・・カチカチなんだからな、だんなは。もう少し心に余裕がなけりゃいけねぇぜ?余裕が!」
「言うだけなら誰でもできるんだぜ。ほら、そんな事言ってるうちに、おいでなすったぞ。」
闇魔導士のものらしい移動魔法の音が、少しずつ近づいてきている。そして、同じように近づいてきているサッキュバスの羽音。
「いくぜ!」
目の前にその第一団が現れると、アルバートはいつにも増して、素早く攻撃をしかけた。
「こっちも負けちゃいられねぇな。」
キリーも競うように火炎を放って敵を倒しながら、ニケの為に石化の呪文で敵の動きを封じる。そして、ニケもそれに応えるかのように、次々と矢を射続ける。
「おっと、だんな、張り切りすぎだぜ。」
自分の傷など少しも省みず、ひたすら攻撃し続けるアルバートに、キリーは多少呆れながらも回復の術をかける。アルバート自信も回復の呪文は身につけているはずなのに唱える気配もない。
「ちょっとやりすぎじゃねぇの?まるで死にに行くみてぇだぜ?」
キリーの皮肉にも応えず、猪突猛進、まるで何かに憑かれているかのように、鬼神のごとく勢いでアルバートは進む。
「慌てる乞食は貰いが少ないっての知ってるか?」
が、何を言ってもアルバートの耳には入らない様子だ。
「ふう・・」
半ば呆れながらも一人で進ませるわけにはいかない。キリーとニケは、遅れまいと必死で付いていった。

 「何だ、こりゃー?」
少し広い空間に、地面一杯に真っ赤な魔方陣が描かれていた。どこかに移動するのか、とその中央に歩み寄ってみたが、変化はない。
「おそらく、ここからディアブロのところへ行けるんだろう。とすれば、ラザルスに方法を吐かせるか、でなきゃ、奴を倒すか、すりゃいいんじゃないか?」
「そうだな。俺もそうだと思うぜ。」
忌まいまし気に土を蹴るアルバートは少なからず焦っているようにも思えた。
いつもの冷静さが欠けているようにも思え、同意しながらも一抹の不安を覚えたキリーだった。

と、決して気を許していたわけではないが、中央に立つニケたちに、突如、火炎弾の集中砲火が始まった。
「く・・・ついさっきまで、一匹もいなかったのに!」
アルバートが叫ぶ。
「罠だったってわけか?」
火炎弾を避けながら、キリーが吐く。
「うぉぉぉぉー!」
「おい、ちょっとだんな!」
炎に包まれるのも構わず、アルバートは攻撃に出る。
「ちっ!ここに来てから、どうかしてるぜ、だんなは!」
「うん、少しおかしいみたい。」
ニケもキリーも応戦しながら、そんなアルバートを心配する。
「おい、だんな、奥へ行っちまったぜ!」
すぐ追いかけたくてもそうはいかない。キリーとニケは、必死の思いで敵を倒し続けた。

 群がる敵をどうにか倒し、一人奥へ走っていたアルバートを追っていくと、そこでも大量の敵が待ちかまえたいたらしく、飛び交う火炎弾の中、アルバートが戦っていた。
ニケとキリーが、慌てて加勢する為に駆け寄ろうとした時だった。
洞窟の奥からそれまで見たこともないような巨大な火球がアルバート目掛けて飛んでくるのが目に入る。
その火球に背を向けて戦っているアルバートは、背後、近づいてくるその明るさに気づかないのか、それとも気づいてはいても、目の前の魔導士との戦いに集中しているのか、とにかく、避ける気配はない。
が、その巨大な火球をまともに受ければ、ただではすまないことは、確かだ。
「アルバート!」
咄嗟に二人は駆け出す。
が、闇魔導士に行く手を塞がれ、キリーが応戦して道を切り開き、ニケがアルバートに突進する。
−ドン!−
通常、小さなニケの身体がぶつかっても倒れることなど決してないが、丁度バランスが崩れていたところだった。アルバートは横につんのめる。
と同時に、火球がニケを包み込む。
「きゃあっ!」
たとえ、耐性のある特殊アイテムを身につけていても、物が物だった。瞬時にしてニケの全身は火傷をおっていく。きれいに束ねられていた髪はチリチリに焦げ、火に包まれた全身はまるで燃えさかる炭のよう。
「バ、バカやろーっ!俺を助けようなんて百万年早いぜ!」
振り向いたアルバートが、顔色を変えて叫び、ニケを覆い尽くしている火の中に飛び込む。
「ニケちゃん!」
キリーはその火を消そうと、ニケに向けて水球を放つ。が、一発では、火の勢いは衰えそうもない。キリーは必死で次々と呪文を唱えた。
燃えさかる炎の中、自分の身体が火傷をおっていくのも、物ともせず、ニケを庇うようにしっかと抱いたアルバートの瞼に、数週間前の悪夢が蘇る。決して忘れうることのない悪夢、屈強な戦士である彼を、自責の念と慟哭のどん底に突き落とした悪夢が。


 その時も、ここ地下15階だった。闇魔導士と戦っていたアルバートは、不意に巨大な火球に包まれた。ここに来るまでに仲間は次々と倒れ、残っていたのはアルバートとニケのみ。一旦引き返した方がいいと判断し、戻ろうとしていた矢先の事。
街への移動ゲートを目の前にし、その燃えさかる炎の勢いで身動きが取れない!
「アルっ!」
やはり敵と戦っていたニケが、その炎の中に飛び込んでくる。
「来るな、ニケっ!」
そう叫んだ時だった。アルバートの全身は硬直した。
「な?」
考えられる事はただ一つ。ニケが石化の呪文をアルバートにかけた事。
そして、ニケは石化したアルバートに体当たりをし、倒れ込むかのようにゲートに入った。

 街へ空間移動し、石化の魔法が融けて身体の自由が戻った時、アルバートがそこに見たのは、激しい炎で燃え尽き、炭化したニケの姿だった。
「ニ・・ニケ・・・?」
自分の全身に負った火傷など問題ではなかった。アルバートは、目の前の変わり果てたニケの姿に驚愕し、その前にがくっと膝をつく。
炭化してどこがどこだか区別が全くつかない。ただ、炎で変色し変形しているとは言え、装備だけはあるべきところにある。アルバートはニケの顔であろう部分を震える手でそっと触る。
−ズズズ・・・−
−カラン−
その途端、それは簡単に崩れ落ち、兜が転がり落ちる。
「!」
「そんな・・・こんな事が・・・・こんな事があっていいのか?」
アルバートは、思いの丈を込め、その兜を胸に抱く。
「ニケーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 死んでも身体が無事でありさえすれば、復活の呪文書で生き返らす事ができる。しかし、その身体がなければ、どうしようもない。
ニケとアルバート、戦いにおいては、これ以上ない良きパートナーであり、そして、また、心から愛し合った恋人同士だった。
その日以降、偶然荒野で愛しい女を小さくしたかのようなニケに逢うまで、アルバートは酒に溺れ続けていた。自分を、この世の物全てを呪って。


 「うん?」
目を覚ましたアルバートは、がばっと勢い良く上体を起こす。
そこは、宿の一室。
(俺は・・・気絶したのか?)
周囲を見渡し、宿の部屋だというのを確認する。
(そうだ!ニケ・・ニケは?)
勢いよくベッドから飛び出るとニケの部屋へ向かう。

 「あはは!焦ったぜ!もうダメかと思っちまった。だけど、ここで諦めた
ら俺様の名が泣くからな。もう必死で火を消して、街まで連れて来たんだぜ。」
「ありがとう、キリー。」
「ニケちゃんはどおってことなかったんだけどな。アルのだんなにゃ、参ったぜ。」
「何が?」
「分かるだろ?あの巨体!重いのなんのって・・俺様、か弱い魔導士だからな。」
「あはは!か弱いの?キリー?」
ニケの部屋から明るい笑い声が聞こえ、その声に安堵したアルバートは、そっとその場を後にする。

 「ニケ・・今日は、酔うまで呑んでもいいだろ?」
一人酒場で静かに杯を重ねるアルバート。その傍らに愛しい女、ニケの存在を感じながら。

 



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【DIABLO】