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【 ローグ、ニケ その5・ニケの形見 】
〜Diablo Story No3〜



 「大丈夫か、ニケちゃん?」
ニケが目を覚ましたのは、宿の一室だった。キリーが心配そうに覗き込んでいる。
「あ!ご、ごめんなさい!」
慌てて起きあがろうとするニケをキリーはそっと止め、横にさせる。
「気にしてないさ。もう少し横になってな。」
「で・・でも・・・」
「あんな水、平気で飲める女の子の方がどうかしてるのさ。」
微笑みながらキリーは言う。
「・・・・でも・・」
「ま、それでも必要な時は飲まなきゃなんねーけどな。」
「うん・・・。」
「じゃ、もうしばらく休んでな。俺、ちょっと潜ってくる。」
「あ、じゃあ、あたしも!」
「いいって、いいって!そう下まで行くつもりはないんだ。回復の魔法書でも探してこようかと思ってさ。」
「で、でも・・・」
「ゆっくりしてな。アルのだんなもなんか知らねぇけど、街ん中あちこち行ってるみたいだぜ。」
「・・アルバートさん、呆れてたでしょ?」
「ははは!まあ・・・そうだけど。気にすんなって!俺が回復呪文知らなかった事の方がずっと呆れたらしいぜ。」
「そ、そう?」
「ははは!じゃ、行って来る。」
「うん。気をつけてね。」
「ああ!あったらニケちゃんにも持ってきてやるぜ、魔法書。」
「うん!あったらよろしく!」
―バタン―
返事の代わりに、キリーはニケににっこり笑いかけると部屋を後にした。


 「こんにちは、おじさん!なんかいい物なぁい?」
暫く宿で休み、元来の元気さを取り戻したニケは、街中を駆けめぐっていた。
何かいい掘り出し物でもないかと、店という店を片っ端から見て歩いた。
街で過ごすこと3日。この元気一杯で明るいニケに、どこの店の主人も親しみを感じていた。
「なんかって言ってもなぁ、そうそう、いいモンが見つかるわけないだろ?」
腕利きの武器屋、グリズウォルドもその一人。
「いつものモンならあるけどな。」
頑固そうなその厳つい顔を崩して笑いならが応える。
「エヘヘ・・」
ぺろっと舌を出して照れ笑いするニケ。その屈託のない笑顔に誰しもついつい心を許してしまう。街を覆う暗さなど吹き飛ばしてしまうかのような笑顔。
山育ちで、人の世の汚れも、疑う事もしらない純粋な魂を持つニケだからこそできる笑顔に。

 「できてるか、おやじ?」
ニケは一番苦手なその声に一瞬ビクッとする。地下で失神してから、まだアルバートとは逢っていなかった。
「おう、アルバート!できてるぜ。ちょっと待っててくれ。」
グリズウォルドは、何かを取りに店の奥へ入っていく。
「あ・・あの・・このあいだは、ごめんなさい!」
先に謝ってしまった方が無難だろうと思ったニケは、勢いよく謝ると、ペコッと頭を下げる。
「ん?・・なんだおチビちゃん来てたのか。」
どうやらニケなど眼中になかったようである。
「ま、仕方ねぇか・・まだまだガキだからな。」
散々罵られ、からかわれることを覚悟していたニケは、多少蔑視しているような感はあるが、意外なその言葉に拍子抜けした。
「ん?どうした?鳩が豆鉄砲くらったような顔をして?」
「べ・・別に。」
「ははは!俺が文句を言わねーのが、そんなに変か?」
思ってることを見透かされ、ニケの顔は真っ赤になる。
「そ・・そんなこと・・」
「ないってか?」
「・・・・。」
「あはははは!正直な奴だな、おチビちゃんは!顔に全部出てるぜ。」
恥ずかしくて、かぁーっと顔が燃え上がるように熱くなるのが自分でも分かり、思わず下を向く。
そんなニケを見て、アルバートは続けた。
「まだまだガキだが、一度一緒に戦ってみりゃー分かる。」
何が言いたいのか?とニケは顔を上げ、アルバートを見つめる。
「な、何がですか?」
「まだ十分とは言えねぇが、おチビちゃんの戦闘センスはたいしたもんだ。
まぁ、慣れの問題だろう。もう少し経験を重ねりゃ、そこらの戦士よりゃ、よっぽど使いもんになるさ。伊達にあのニケの妹じゃなかったってとこかな?」
にやりとしてニケを見ながら言うアルバート。
「そ、それって、あたしを認めてくれるんですか?」
ニケにしても、アルバートと一緒に潜ってその戦い振りは身に染みて分かっている。彼がいかに優れた戦士だということが。だから、ニケは素直に喜んだ。出会った時のいさかいなど、もはやどうでもいい事だった。
「まだまだ、だがな。」
「ほいよ、新品同様になったぜ。」
グリズウォルドが奥から大きな箱を持ち出してきた。
「何なの、それ?」
「はっはっ!開けてみるかい?」
グリズウォルドは、いいな?とでも言うようにアルバートを見、ニケに言った。
ニケはそんなグリズウォルドとアルバートを交互に見ると、蓋を開けにかかる。
−カタン−
「うわー、すごい!」
中には銀色に輝く鎧、兜、そして弓があった。一見してそれらが、普通の物ではない事が分かる。
「お前のだ、おチビちゃん。」
「え?あ、あたしの?・・あたしのって、どういう事?」
訳が分からず、ニケはきょとんとしてアルバートを見る。
「苦労したぞぉ。なにしろ炎に焼かれて酷いありさまだったからなぁ。」
イスに座りながらグリズウォルドが嬉しそうに、そして、満足げに目を細める。
「だが、手がかかりゃ、かかるほど、仕上がった時ゃー嬉しいもんさ。どうだ?でき具合は?」
「ああ、さすがだぜ、おやじさん。」
アルバートも一つ一つ確認するかのように手に取ってみる。
「サイズも丁度いいようだな。着けてみな、おチビちゃん。」
「あ、あたし?」
「そうだ。他に誰が着るっていうんだ?こんな小さな鎧?」
ちょうどニケが着るのにピッタリのサイズ。アルバートが着れるわけはない。
「目測でもわしの目に狂いはないはずだからな。ぴったりなはずだ。」
グリズウォルドが胸を張って言う。
「あ、あたしの為に修理してくれたんですか?」
ニケは薄緑色の目を大きく開き、アルバートを見る。
「ああ・・まぁな。ろくなモンなかっただろ?下へ行くにゃ、それなりの装備して行かんとやばいからな。やめろと言っても聞くようなおチビちゃんじゃないし。それと・・だ・・。」
アルバートは、何やら上着のポケットから取り出す。
「これ。」
差し出したニケの手に乗せたのは、リングとアミュレット。
「これは?」
「魔法のアイテムだ。それを身につけていると、身体全体にバリアを張ってくれる。魔法攻撃によるダメージを減らしてくれるっていうやつだ。」
「いいんですか?こんなのもらっちゃっても?アルバートさんは?」
「俺は他のがあるからいいさ。」
「でも・・・」
「ま、それで少しは足手まといにならずに済むんじゃないか?」
躊躇しているニケに、アルバートはいつもの皮肉った口調で言う。
「それだけの装備をして倒れるようなら、潜る資格はない。まぁ、おチビちゃんが自信がないって言うなら、仕方ねぇ、おやじさんに引き取ってもらうさ。」
「そ、そんなこと!・・あ、あたし、着てみます!」
にやっとするアルバートを後ろ目に、ニケは鎧兜を身につける。

 「やや・・これは、これは!」
ちょうどピッタリ!鎧兜を身につけたニケに、グリズウォルドは満足げに微笑む。
「さすが、おやじさんだな。ニケとおチビちゃんじゃ、えらい差があったんだが、まるで最初からこの大きさだったみたいだ。」
「当たり前だ!このわしの腕を甘くみちゃいかんぞ!」
「ははは!誰も甘く見る奴ゃいねーよ。」
「ははは!そうだろうとも!」
「あ、あの・・・そ、そのニケって・・もしかして、あたしのねえさんの?」
二人の会話にどきっとし、割って入るニケ。
「そうだ。それは、ニケの・・おチビちゃんのねえさんの装備だ。」
アルバートが吐くように言った。その目は何かを思い出しているかのように、懐かしそうに、だが、悲しみを帯びた瞳でニケを見ている。
「ね、ねえさんは?」
それまでのアルバートの様子とその言葉でニケは確信した。姉の死を。
「大事に使うんだな。ニケの形見だ。」
短く言うとアルバートは足早に店を出る。
「ま、待って!アルバート!」
追いかけようとするニケをグリズウォルドが引き止め、悲しげに首を振る。
「おじさん・・・」
ニケの肩をぽん!と軽く叩くと、グリズウォルドは、それ以上何も言わず、店の奥へと姿を消した。
「ねえさん・・・アルバート・・・。」
ニケは、金の淵飾りがほどこしてある銀の弓をぐっと握ると、いつまでも
一人立ち尽くしていた。

 



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