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【 ローグ、ニケ その4・血の味 】
〜Diablo Story No3〜



 翌日、3人は修道院の入口にやってきていた。
「本当にいいんだな、お嬢ちゃん?」
先頭を行くアルバートがニケを振り返る。
「だから、そのお嬢ちゃんは止めて下さいって言ったでしょ?」
「あ!おチビちゃんもね!」
アルバートがその呼び名を口にしそうだったのを、寸前に遮る。
「おチビちゃんはおチビちゃんだろ?それ以外に何だってんだ?」
「あたしは、ニケです!」
「・・俺にとっちゃ、ニケはあいつだけだ。お前はただのおチビちゃんさ。」
「あ!そういえば昨日あれから聞くの忘れてた。それで、姉は今どこに?」
「さあな・・。」
「おいおい、何か知らんが、一度聞かなきゃいかんような話だな?」
好奇心の固まりとなったキリーが目をランランと輝かせ、アルバートの顔を覗き見る。
「どうでもいいさ、そんな事ぁ。今はここから無事帰れる事さえ考えてりゃいいのさ。他の事に気を取られてると、死んじまうぞ。」
普段より一層ぶっきらぼうに言い、まるでその話題を避けるかのように、さっさと建物の中に入るアルバートに、ニケはそれ以上聞くことも、呼び名を正してもらう事も諦める事にした。アルバートのその態度が、何か特別な事情がある、と語っていた。
キリーもそれを感じ、ニケと目を合わせると、黙って中に入る。

 そして、いよいよモンスターの住処となった修道院の中。腕には自信があるが、山で狩りはしたことはあっても、モンスターなど見たことも相手にしたこともないニケは、もうドキドキ。だが、そんな事がアルバートに分かったら大変だ。言わんこっちゃない!と呆れられるに違いない。
(シーッ!静かに!)
ニケは、周囲にまで聞こえるかのように大きく鼓動する自分の心臓に言い聞かせながら、地下への階段を下りていった。

 「な・・何よ、これ?・・・どういうことなのよ?」
ニケは唖然として突っ立っていた。
それもそうである。階段から下りたニケを待っていたのは、モンスターの集団ではなく、累々たる彼らの死骸の山だった。
そして、呆気にとられてまだ一歩も進まないうちに、アルバートの声が響く。
「下へ行くぜ。」
「え?え?下って?階段はどこ?」
慌てて階段を探して周囲を見渡す。
「こっち、こっち!」
曲がり角でキリーが手招きをしている。
「さすがアルのだんなだぜ。これくらいの敵じゃ、俺たちの手などちっとも必要としちゃーいねぇ。」
ニケがキリーのところまで行くと、小声で囁く。
「でも、こんなに短時間で?」
「ははは。居合斬りとでも言うのかな?ただ剣で斬るだけじゃなく、剣を振る時の風圧で、ものすごい疾風を起こし、それで敵をなぎ倒していくんだ。なかなか見物だったぜ。」
「ふ、ふーん・・」
その光景を想像し、ニケは一人感心する。
「急ごう、ニケちゃん。遅くなるとだんなに何言われるか分かんねぇぜ。」
「うん!」
キリーの言葉に頷くと、階段に向かって走りはじめた。
呆気に取られたことにより、ニケの緊張は完全にほぐれていた。ついさっきまでぎこちなかった動きも、いつもの素早さを取り戻していた。


 「えーーーっ?!この泉の水を飲めって言うのぉ?」
ここは、地下8階。激しさを増してきた戦闘の後、ゴートマンの弓矢隊による傷を癒やすべく、ニケたちは回復の泉のある部屋に来ていた。
ニケは疲れと傷でへとへと・・そう叫ぶ声も元気がない。
「そうだ。それを飲めばたちどころに傷は治る。体力も回復するぞ。」
アルバートが早くしろ、とでもいうようにぶっきらぼうに言った。
「でも・・こ、これって・・・まさか、血?」
臭いこそないものの、真っ赤なその泉にニケは思わず躊躇する。
「そんな事言ってる場合じゃないだろ?回復のポーションは、もう手元にないん
だ。街に戻るにしてもある程度体力は必要だぞ。」
「う・・うん・・・・。」
「悪い、ニケちゃん・・俺、回復の呪文書切らしちゃってて・・・早いとこその
魔法書を見つけないとな・・下へ行くに連れ、苦しい戦いになるだろうからな。」
キリーは攻撃魔法専門で、回復呪文は身につけていなかった。そのことを知った時の拍子抜けしたようなアルバートの顔は、一見の価値ある顔だった。
「うんそうね。見つかるといいね。」
ニケはじっと泉を見つめながら、2人の言葉を遠くに聞いていた。
眩暈がする・・でも、かと言って真っ赤なこのどろっとした泉の水を飲む気にもなれない・・・・。
ペピン司祭から買うポーションも確かに赤い水だ。が、あれは薄くてイチゴジュース感覚で飲めた。最も味はまるっきりないのだが。これは、まさに血、匂いのない血といった感じだ。
「これでも使え!」
手ですくって飲むのは無理かと感じたアルバートが、空になったポーションの瓶の蓋を投げてよこす。
「・・と・・・お客さんだぜ。」
アルバートの声で入り口を見ると、遠くからスケルトンの一団が近づいて来るのが見える。
言うが早いか、アルバートはその一団を迎え討つため、泉を離れ、キリーは、ニケを庇うかのように泉を背にして、杖を構える。
「早くしろよ!」
短く言い捨て、スケルトンに突進していくアルバート。
足手まといになっては!とニケは、目を瞑ると蓋に満たした泉の水を口に含んだ。
「う・・・」
その味はまさに血の味、舌触りは血糊・・・口に含んだ途端、血の匂いが再生され、激しい吐き気を感じる。が、吐き出す訳にはいかない。
−ゴックン!−
気持ちが悪いのを我慢して無理矢理奥へと流し込む。その途端、確かに疲労感と傷の痛みはなくなった。が、その血糊が自分の体内から塗り込められるように身体全体に広がっていくような感覚に襲われ、一層吐き気を催す。本当に傷が癒えたかどうか確認する余裕などあるはずもない。
「ぐぅっ・・・・・」
胃がその中の物全て排出しようとするのを必死で押さえつつ、が、血の感覚に耐えきれずニケはその場で失神した。

 



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【DIABLO】