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【 ローグ、ニケ その2・出会い 】
〜Diablo Story No3〜



 山育ちで、足には自信があったニケだった。が、トリストラムに近づくにつれ、その足取りは少しずつ重くなっていった。
なぜだか気が重くなり、身体さえも重くなってくる。それは、彼女の直感がトリストラム周辺を取り巻く魔の瘴気を感じ取っているせいだったが、彼女自身にはその自覚が全くなく、ただ、自分が怖じ気づいているのでは、と思い、そんな自分を叱咤しながら歩き続けていた。

 夕方までには、裕に着くはずだったが、そんな事もあり、半分程進んだ所で、日が暮れてしまった。
「仕方ない、夜、荒野を進むのは危険すぎるから、ここらで野宿かな?」
彼女は、一夜を過ごすのにちょうどいいと思われる岩影を探すと、火を起こし、持参した毛布にくるまり火のそばに座った。
−パチパチパチ・・・−
その真っ赤な炎を見ながら、彼女の思いは里へと飛んでいた。
いつもなら、家族で夕食を取っている時間・・・掟とはいえ、初めての一人旅。心細さも手伝って、早くも望郷の念にかられていたのは、無理なかった。

 −ガサッ!−
岩影で、何か音がする。
浅い眠りについていたニケだが、その音に素早く反応し、すっくと立ち上がって弓を構える。
「グルルルル・・・・」
半分枯れた草むらで、獣の唸り声がする。
「狼?」
少し前の望郷の念も眠気も一瞬にして吹っ飛び、ニケは、いつ獣が襲いかかってきても応戦できるよう、弓を引き絞る。
伊達に山育ちではない。そして、たとえ16歳といえども、幼いころからローグ一族の一人として、腕は鍛えている。並の少女とは違っていた。その鋭い眼光と弓の腕は、確かにローグ一族のもの。弓を構えたその姿は、まごうことなく戦士のそれだった。
「ガオッ!」
確かに狼には違いがなかった、が、普通の狼の2倍はあろうかと思われた。
その巨大な狼が草むらから躍り出、彼女目掛けて飛びかかる。
−ヒュン!−
それを待っていたかのように、矢が放たれ、それは、確実に狼の眉間に突き刺さる。
「ギャン!」
急所を射られた狼は、空を舞いその場に落ちる。
が、飛び出てきたのは1匹ではなかった。次から次へと新手が躍り出て来る。それに対して、間合いを取りながら彼女も矢を次々に放つ。
−ヒュン、ヒュン、ヒュン!−
が、その数の多さで少しずつ間が狭まってくる。
「いけない!もうこれ以上下がれない!」
いつの間にか岩肌にくっつくほど追い詰められてきていた。
「もう!いったい何匹いるのよぉ!?」
いくらなんでも数が多すぎる。焦りを感じてきたその時、迫り来る獣たちの背後に、大きな人影らしきものが見えた。
「え?まさかモンスタ−?」
トリストラムの近くでは、動物の巨大化、狂暴化、又は、モンスタ−が徘徊するという噂を思い出した彼女は、暗闇の中のその影に思わずぞくっとする。
が、その影は敵ではなく、どうやら味方だったらしい。
「大丈夫か?」
その低く太い声は、確かに人間であると判断でき、ほっとする。
−ザシュッ!ズバッ!−
一刀両断、群れとなって襲いかかる狼を瞬く間に斬り倒していく。彼女はその見事な剣さばきに、矢を射る事も忘れて見とれていた。

 「ふー、よくもまぁ、後から後から湧き出て来やがって!」
辺りは狼の死骸の山。獣独特の臭いと血の臭いが混ざってむせかえる。
もう来ないと判断した男は、大剣の血のりを持っていた布で拭くと、背中の鞘に納め、ゆっくりとニケに近づく。月明かりに照らされ、男の顔が見える。
身の丈2メートルほどあろうか、筋肉質のがっしりとした身体は、巨人を思い起こさせる。
「よ!ぼうず、大変だったな。ここいらにいる奴は、普通じゃねぇからな。」
短めの黒髪、人を見透かすようなきつい視線。日に焼けたそのいかつい顔を少し緩め、ニケを見る。
「あ・・あの・・・」
咄嗟のことで、言葉が出ず口ごもる。
「おっと、もしかしたらお嬢ちゃんだったか?」
ニケの結わえられた髪に気づき、男はにやっとして訂正する。
一歩、また一歩と近づく男に、彼女は思わず後ずさりする。
「ははは!心配いらねぇぜ。俺はお子様には興味はない。」
「お・・お子様じゃありません!」
男のその一言で、元来の勝気さを取り戻した彼女は、勢いよく言い返す。
「はん?・・それじゃ、赤ん坊か?」
ニケの頭の先から爪先へと視線を移すと、男は少し小馬鹿にしたように言い放つ。
確かに彼女はどちらかというと、少年にみえる身体つきだ。
「し、失礼な!」
冷静な男とは反対に彼女は完全に頭にきていた。煮えたぎる怒りで、その顔は真っ赤になっていた。
「おおーーーっと、赤ん坊でもなけりゃ、赤鬼か?」
「あ・・あのですねぇ!いくら助けてくれたからって、それは酷いんじゃないですか?」
「そうだぜ、いくらなんでも女の子に言う言葉じゃないぜ。」
大男とは真反対から、少し優しげな男の声がした。
「え?」
振り返った彼女の目に、ローブを着た少し細めの男の姿が写る。魔法使いらしく手にはスタッフを持っている。
男はゆっくりとフードを脱ぎながら彼女に近づいてくる。優しげな青い瞳と背中で一つに結った柔らかそうな金髪。
「何やら騒がしかったんで、慌てて駆けつけたんだが、遅れをとっちまったみたいだな。」
「は・・はぁ・・・。」
「俺、キリーってんだ。」
「あ・・あたし、ニケ。」
「ニケか・・・ニケっていやぁ、俺様の故郷じゃ、勝利の女神の名前だぜ。」
「そうなんですか?あたしの里では、狩猟の女神様だったけど。」
「まあ、地方によっていろいろなんだろ?俺ん国じゃ、確か愛の女神だ。」
ニケとキリーの話に割って入るように、大男が口を挟む。
「・・愛の・・・だんなの口にゃ、そんなセリフ似合ねぇぜ。」
キリーが男をちらっと見て言う。
「はん!言ってろ。」
男はそんなキリーなど無視し、消えかかっていた火を吹き消す。
「どのみちこんな死骸だらけのど真ん中じゃ、休む気にゃならねーだろ?」
ニケの荷物を彼女の足下にひょいと投げつける。
「で、何でこんなところにいたんだ、嬢ちゃん?」
「嬢ちゃんは、止めて下さい!あたしにはニケっていう名前があるんですから!」
「で、そのニケちゃんは、何するつもりなんだ?」
明らかにバカにしている男に、ニケの怒りは頂点に達していた。
「何するって・・決まってるでしょ?トリストラムに行くのよ!」
「おいおい、そこがどんな所か知ってるのか?」
わざとらしく目を丸くして男はニケを見る。
「知ってます。だから、行くんです!」
「嬢ちゃん、気は確かか?あんたのようなネンネの行く所じゃないんだぜ。」
「だ・か・ら・・ネンネじゃ、ありませんってば!」
「ほー・・・」
小馬鹿にしたように目を細め、まるで威圧するかのように、ニケの目の前に壁のように立ちはだかる。
男を睨むニケの首が痛くなりそうな身長の差だ。
「そう言うことを言うってこと事態、まだネンネなんだがな・・。」
ハハハと笑い、にやっとニケを見る。
「安全な所まで送っていってやろうじゃないか、まぁ、悪いことは言わん。里に帰るんだな。」
「いやです。だいたいあなたにそんなこと言われる筋合いはないわ!あたしの事はあたしが決めます!」
「そうそう、だんなの指図は受けないってさ。だいたい関係ないんだろ?」
ニケを庇うかのようにキリーが二人の間に割って入る。
「あ?そういうお前だって関係ないだろ?」
「いや、俺様はニケちゃんと一緒に行くんだ。」
「はあ?」
なぜそうなる?ニケは呆れていた。もっとも同じ呼び方でもキリーの言い方からは小馬鹿にした感じは受けない。親しみを込めた感じだ。
「あれ?俺様とじゃいやか?」
「べ、別にそんな事は・・・」
思ってもみなかった展開にニケは戸惑いを覚えていた。
「まあ、とにかくだ。よほど腕に自信がない限り、トリストラムにゃ行かない事だな。キリーとか言ったな、お前ならまだしも、この嬢ちゃんにゃ荷が重すぎるってもんだ。帰っておままごとでもしてた方がいい。」
一見優男に見えるが、キリーにその内なる力を感じ、男は言う。
「俺様は他人に指図されるのが、大っ嫌いなんだ。それに、行ってどうなろうが、だんなにゃこれっぽっちも関係ないだろ?」
(お・ま・ま・ご・と!)
ニケはもうプッツン寸前!こんなに馬鹿にされた事はない!
「そ、そうよ!どうして、あたしがあなたにそんなこと言われなきゃいけないのよ?」
キリーの勢いも借り、怒りをあらわにして叫ぶニケ。
「なんだ、お前、ロリコンか?」
そんなニケなど素知らぬ顔。男はキリーににやっとする。
「な・・なんだとぉ?!」
「お!やるか?」
キリーの右手に燃えさかる火球を認めると、男は嬉しそうに目を細め、ゆっくりと背中の大剣を抜く。
「ち、ちょっと待って!なんでそうなるのよ?!」
慌てて二人の間に入るニケ。
「どいてな、ニケちゃん。さっきからむかついてしょうがねぇんだ。」
男を睨みながら、ニケを横にどける。
「まだまだ青いな、あんちゃん。」
「うるせぇ!その剣ごと俺様のファイアーボールで溶かしてやる!」
「だから、なんでそうなるのよぉー!」
今にも決闘を始めそうな二人の間で、ニケは気をもんでいた。
「どいてな、嬢ちゃん。」
「いやです!」
きっぱりと言い放ち、何があっても動くもんか、と決めて男を睨む。
「キリーさんもいい加減にして下さい!」
キリーには背中で抗議する。

「はは・・少しは骨があるかな?」
しばらくニケと見つめ合っていた男は、そう言うと、剣を背中の鞘に納めた。
「なんだ、怖じ気づいたのか?」
「何とでも思っておけ。今はこの嬢ちゃんに免じて見逃してやる。だが、次はこうはいかんからな。」
「は!それは、俺様のセリフだぜ!」
キリーも手の火球を消しながら言う。
にやっと笑うと、男は、さっさとトリストラムの方角に歩き始める。
「ふーーーーー」
小さくなっていく男の後ろ姿を見ながら、ほっとして大きくため息をつくニケ。
「ま、仕方ないか。どのみち行き先は一緒なんだ。あっちで今日の決着はつけてやるさ。」
「もう!キリーさんったら!」
「キリーで、いいよ、ニケちゃん。」
そう言ってニケに笑いかける。
「じゃ、あたしもニケでいい。」
「いいや、ニケちゃんの方が可愛らしくて合ってるよ。」
ち、ちょっと、こっちの方が危ないかも?と思いつつ、かと言って目的地が同じのため、キリーと別れる理由もなく、ニケは、黙って歩き始めた。
「休まなくても大丈夫なのか、ニケちゃん?」
横に並ぶようにして歩き始めたキリーが聞く。
「うん。少しは寝たし、それに、さっきので目が完全に醒めちゃったみたい。」
「そっか、それならいいんだけどな。じゃ、街についたら宿で休むってことで。」
「そうね。それがいいですね。」
月明かりの下、ニケは思いもしなかった同行者と、トリストラムに向かっていた。

 



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