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【 ローグ、ニケ その1・旅立ち 】
〜Diablo Story No3〜


 

 「じょうちゃん、もうじき分かれ道じゃよ。」
道と言えばそうとも言えるかもしれないくらい荒れきった荒野の道をロバに引かれた一台の荷馬車が、ゆっくりと進んでいた。
その荷馬車のロバの手綱を引く老人が、後ろの荷台に乗っている少女に声をかける。
「う・・ううーーーーん・・もう?」
荷袋にもたれかかって寝ていたらしいその少女は、目をこすりながら身体を起こす。
「はっはっは!寝ておったのか・・よく眠れるもんじゃのぉ・・このがたがた道で。」
後ろを振り向き、老人は、高笑いする。
「えへへ・・だって、眠かったんだもん・・」
少女はぺろっと舌をみせる。
「それに、大抵の所はOKだよ。どこででも眠れるって事も必要なんだから。小さいうちから慣れてるよ。」
「そんなもんかの。」
ほっほっほ!と今一度笑うと、老人は再び前を向く。
少女の名前はニケ。山奥の小さな村から出てきたのである。
「しかしじゃ・・本当にトリストラムに行くのかの?」
「うん!」
「世の中は広いんじゃ。何も魔物の住処となりはてた所に行かんでもいいじゃろうに・・。」
「だって、おじいさん、誰かが魔王を倒さなきゃ、何処にいても一緒だよ。それに、満16歳になったら自分の弓を探しに旅立つってのがあたしの村の掟だし。見つけれて、初めて一人前のローグって認めら
れるんだから。」
「そんなもんかのぉ・・・」
「そうなの!それに、直感なんだけど、きっとそこであたしの弓が見つかると思うんだ!」
まだあどけなさが残る顔を少し紅揚させ、少女の目は遠く、トリストラムのある方向を見つめる。
木々の新芽を思わせるキラキラと輝くうす緑色の瞳、赤茶色の髪を後ろで一つに束ねた少女は、肩に矢筒、腰には短剣を携え、その傍らには朱色の弓が置いてあった。

 「ほら・・分かれ道じゃ・・」
ーギギギ・・・ー
車輪をきしませ、荷馬車は、道しるべの手前で止まる。
「西へ行けば、あんたの行こうとしているトリストラム、そして、北がわしの村への道じゃ。」
ちょうど少女と同じくらいの年の孫がいるこの老人は、魔物の住処となり果てたトリストラムにどうあっても行こうとする、荒野で出会ったこの少女をなんとかして、思いとどめさせようとしていた。
が、少女の決心は固く、それは、不可能だった。
「ありがとう、おじいさん!お世話になりました。」
自分の荷をまとめ、ひょい、と荷台から飛び降りると、少女は老人に微笑んだ。
「トリストラムまでは、まだ5キロ近くもあるんじゃが・・・」
「大丈夫!山育ちなんだから!毎日何十キロも森や岩山や谷を駆け回ってたんだからね!」
「・・本当に行くんかの?」
「うん!」
老人は悲しげに、暗雲に包まれたトリストラムの方向を見つめ、大きくため息をつくと、ロバに鞭を入れた。
「たっしゃでな・・・気が変わったらいつでも訪ねて来ていいんじゃよ。」
「はーい!ありがとー、おじいさん!さよーなら!」
無邪気に手を振る少女に、老人は後ろ髪を引かれる思いで、ゆっくり荷馬車を進める。
「大丈夫よ、ニケ!あんたは、伝説のローグ一族と言われ、世界に名を馳せたイゾルデ一族の血を確かにひいているんだから!・・・大丈夫!そして、あんたの弓は必ず見つかるわ!そして、村に帰るの!絶対に!」
老人の荷馬車が見えなくなるまで見送った少女は、大きく深呼吸をし、自分に言い聞かせるようにそうつぶやくと、進むべき道へと歩を進めた。



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