その七 それでも恋しい乙女心


 −コンコン−
「はい。」
「やあ、アンジェリーク、調子はどうだい?」
その翌日は、風の守護聖、ランディーがアンジェリークの部屋を訪れていた。歳も近いランディーは、風の守護聖だけあって、さわやかな風を思い出させる笑顔の少年だった。
「おはよう、アンジェ、パンジーの鉢植え持ってきたんだけど・・・」
続いて入ってきたのは、緑の守護聖、マルセル。ランディーよりも少し年下のマルセルは、森の小動物と共通するような純真さを持っていた。
「あ、ありがとうございます、マルセル様。わー、かわいい♪」
その鉢植えをマルセルから受け取り、花のかわいらしさに感嘆するアンジェリーク。
そっとその鉢植えをサイドテーブルの上に置く。
「ねー、アンジェリーク、よかったら天使の広場へでも行かないかい?天気もいいし、それに、ティーラウンジもあるんだ。一緒にどお?」
さわやかな健康的な笑顔でランディーはアンジェリークを誘う。
「え、ええ、そうですね。」
マルセルもいるのにランディーの誘いのみに受けては、と思ったアンジェリークはちらっとマルセルを見る。
「あ、マルセルも一緒に行くんだ。」
ランディーは誤解させてしまったと、慌てて付け加える。
「そうなの?」
「うん。ぼくたち2人で誘いにきたんだよ。」
マルセルは森の緑を思い起こさせる笑顔でアンジェリークを誘う。
「ホントはゼフェルも来る予定だったんだけど・・・今朝になって急に『やっぱ行かねー』なんて言ってさ。」
少し口を膨らませてマルセルが言う。
「マルセル!」
ランディーは小声でマルセルを叱る。
「余計なことは言わなくていいんだって!」
「あ・・ご、ごめんなさい、ぼく・・・つい・・・。」
慌てて口を抑えるマルセル。
ゼフェルは鋼の守護聖。器用さを司る守護聖の彼もまた、ランディーたちと同じく若手の守護聖だった。が、いまいち天邪鬼的なところがあるというか、反抗期というか、ともすると素直でないところがあった。が、決して悪い性格ではない。その身に持つサクリア『鋼』の名の通り、器用で機械いじりが大好きなシャイボーイなのである。思っていることと裏腹な、そして、ぶっきらぼうな言葉がぽんぽん出てしまうピュアハートの持ち主。
「くすくす・・・」
アンジェリークは2人の様子に軽く笑う。
「あ・・・」
ほらみろ、笑われちゃったじゃないか、とランディーはマルセルを軽く睨む。
だって〜・・・と言いたそうなマルセル。
「そうよね、お部屋で一人で考えているより、みなさんとお茶でものみながら相談してみるのもいいわよね。」
「うん!そうだよ、アンジェリーク!その調子だよ!」
「手伝えることがあったら何でも言ってよ。ぼく、相談だってじゃんじゃんのるよ!」
「ありがとうございます、ランディー様、マルセル様。」

そして、3人仲良く広場のティーラウンジであれこれ雑談をしていた。中央にある天使の噴水を囲むようにして露天商も出ているそこは、結構賑やかである。
「夜来ると、噴水のところに照明がついてね、すっごく綺麗らしいよ。」
「そうなんですか。」
アンジェリークも久しぶりに活気ある人々の賑わいを味わっていた。
「あ、あれ?」
「どうしたんですか、マルセル様?」
「あ、うん・・・今そこのお店の角にゼフェルがいたような・・・」
「ゼフェル様が?」
「うん・・・確かにゼフェルだったと思うんだけど・・・」
ついと立ち上がって店の向こうを見に行こうとするマルセル.。それと同時に人影がそこから現れる。
「ゼフェル!」
「やっぱりゼフェル!」
「こんにちは、ゼフェル様。」
「よ、よう・・・・」
少し顔を赤くし、それでもわざとぶっきらぼうにゼフェルは口を開く。
「あ・・ご、誤解すんじゃねーぜ。ち、ちょっと部品の買出しに来てだなー・・でもってちょっと休憩していこうとしたら、おめーたちがいたんだ。べ、別におめーたちが気になって来たわけじゃ・・・」
「ぷっ・・・ゼフェルったら、嘘が下手なんだから・・・」
「な♪」
マルセルとランディーが笑いをかみこらえながら顔を見合わせる。
「買出しって、チャーリーさんのところの大龍商店?」
「ああ、そうさ。どこに隠してたんだか知らねーが、結構いろいろそろってやがるぜ。・・・商船(スターシップ)ごと霧に巻かれて連れてこられたってわけでもないだろうに?」
「そうだよな、スターシップがあれば、ここからの脱出の可能性が高くなるんだけど、そんなことも言ってないしな。」
ランディーも首を傾げる。
「んとに不思議な大陸だよなー。まるでオレらの為にあつらえたように屋敷や施設があるし・・。」
「ですよねー。まるでぼくたちを知っていてそのために準備されたような感じで。」
「う〜〜ん・・・・」
つい全員考え込み、しばらく沈黙が4人を包む。

「謎・・を解かなくちゃね。」
沈黙を破ったのは、アンジェリークの微笑みだった。
その言葉にランディーは元気付けるつもりだったのが反対になってしまった、と後悔しながらマルセルやゼフェルと目配せする。
「そ、そうだよな、ここはどんなことをしても謎を解かなきゃな。」
「ゼ、ゼフェル・・・フォローになってないって!」
「あ・・・・」
小声でランディーに指摘され、余計落ち込んでしまったか?とゼフェルは青くなってアンジェリークを見る。
「ふふっ・・大丈夫。みなさんもついていて下さるし。」
「あ、そ、そうだぜ。オレたちがついてるんだ。大丈夫さ!な!ランディ!マルセル!」
「あ、ああ、勿論だとも!」
「うん!そうだよ、大丈夫だよ!」
これじゃ最初の計画とは反対だろ?と3人は焦りながら、アンジェリークの笑顔に照れ笑いを返していた。

そしてその日も暮れ、再び自室のアンジェリーク。
「ランディー様、マルセル様、ゼフェル様。」
楽しくおしゃべりした昼間を思い出しながら、翌日の予定をたてていた。
「明日は一日育成に充てなくちゃ。ずいぶん日が経ってしまったから。」
記入し終えた予定表をテーブルに置くと、アンジェリークは窓辺に立って外を見る。
「・・・もう3日もヴィクトール様にお逢いしていない・・・・。」
そしてそっと目を閉じる。そこにはたくましくおおらかな笑顔のヴィクトールの姿があった。
「今ごろお酒でも召し上がってらっしゃるのかしら?それとももうおやすみに?」
今一度外の景色を、ヴィクトールの館の方に視線を飛ばしてじっと見入る。
「・・・おやすみなさい、・・ヴィクトール様・・・・。」
少し悲しげに微笑むと、アンジェリークはそっとカーテンを閉め、ベッドに入った。



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