外伝(7) 再び任務地へ

 


 

 「アル、元気だった?」
私はアルゴのブリッジに入ると、パイロットのアルに声をかけた。
「アア、サオリ。オカエリナサイ。」
アルは私の方を振り向くと嬉しそうに言った。
(と思うんだけど、、なにしろアンドロイドだから。)
「サオリガ カエッテキテクレテ ワタシハ トテモ ウレシイデス。」
(ほらー、やっぱり。)
私はアルの横のシートに腰掛けると話し続けた。
「キャプテン達はまだ来てないの?」
「ハイ。モウソロソロ クルト オモウノデスガ、サキホド レンラクガ アリマシタノデ。」
「じゃ、もうすぐ会えるのね。なんだか何年も会ってないような気がするわ。」
「トコロデ サオリ、 ダグト イッショジャ ナカッタンデスカ?」
私の顔をじっと見てアルは聞いた。
「えっ?、ええ、OSS本部まではいっしょだったんだけど、おじさま、いえ、コンラッド理事がダグに何か話があるとかで、私だけ先に来たの。でもアル、どうして私がダグといっしょに来ること知ってたの?」
私は少し赤くなりながら聞いた。
「ミンナ シッテマスヨ、 サオリ ト ダグノ コトハ。」
「えー?本当?」
意外なことを聞いて私は驚いてしまった。
「キュウカマエカラ ネッ!」
親指をたてて言うアル。
(休暇前から、、だなんてまさかみんなポートでの事見てたのかしら。)
そう思ったらますます顔が火照ってきた。
考え込んでる私の肩を叩きアルはそっと(音声を低くして)言った。
「サオリ、ケッコンシキニハ ワタシモ ヨンデクダサイネ。」
まさかアルの口からそんな台詞が出てくるとは思ってもみなかったので私はびっくりしてしまった。
「え、ええ、もちろんよ。」
ふと私は気付き、アルにOSSのIDカードを見せた。
「ね、アル、これ見て。」
「サオリノ IDカードデスネ。コレガ?」
私はわざと返事をしないでいた。暫くしてアルが急に立ち上がりながら大きな声で叫んだ、
「サオリ・マッコーラム?!」
カードをじっと見ながら。
私はアルの耳元でそっと囁いた。
「ダグが任務につく前に籍だけ入れろって。だから式は今度の任務が完了してからね。」
「お蔭でコンラッド理事に散々言われたぜ。」
急に後ろでしたダグの声に私達は振り返った。いつの間に来たのかそこにはダグが立っていた。
「おじさま、いえ、理事の話って、、任務のことじゃなかったの?」
近づいてくるダグに聞く。
「ああ、そうだ。沈着冷静、鬼司令官理事も、さおりの事となるとそうもいかないらしい。まいったぜ。」
苦笑いをするダグ。
「鬼司令官理事?」
「さおりは知らなかったのか?コンラッド理事のあだ名だ。」
へー、私にはとってもやさしいおじさまなんだけど。
「ダグ、ヤリマシタネ。」
「あ?ああ。」
アルの方を向くと少し照れくさそうにしたダグだった。
「ダグ、理事は何を言ったの?」
「さおりは気にしなくてもいいんだ。たいしたことじゃない。」
私の頭をポンと軽く小突いた。
「、、、ずるいわよ、ダグ。私には何でも俺に話せって言っておいて、自分は教えてく
れないなんてっ!」
彼の手を払いながら私は怒ったふりをした。
「おいおいお二人さん、、こんな所で夫婦喧嘩はやめてくれ。」
急に後ろでキャプテンの声がした。ドアの所にキャプテン、リンダ、ゴードンがいる。どうやら、開いていたドアの横に3人ともいたらしい。
「い、いつからそこにいたの?」
もうこれ以上赤くならないほど赤くなっているのが自分でも分かった。
「そうだなあ、、結婚式にはってとこからかな。」
キャプテンがにやっとしながら言った。
「それで俺が来た時もドアが開いていたのか。」
ダグが納得したように言う。
「、、、全く趣味が悪いぜ。隠れてたんだな?!」
「ま、いいじゃないか。」
キャプテン、ゴードン、リンダがブリッジに入ってきた。
「おいダグ、なかなかやるじゃないか。見直したぜ。」
ゴードンがダグの脇腹を小突いた。ダグはふてくされた顔をしている。
「多分理事は娘を取られる父親の心境だと思うわ。あなたたちが勝手に決めたので文句
の一つも言いたくなったんじゃない?」
リンダが私の方を向いて笑っている。
「そうなの、ダグ?」私はダグの方を向き直した。
「まあ、そんなとこだ。」
ドカッと自分のシートに腰を下ろす。
「何か言われるだろうと覚悟はしてたけどな。」
「そりゃそうだぜ、なんといってもさおりは理事の親友、宮原博士の忘れ形見だ。責任ってのも感じてるだろうし、本当の娘のように思ってるからな。」
私が席を外すと(私が座っていたのはゴードンのシートだったの。)ゴードンがそこに座りながら言った。
私も自分のシートに座る。
「でも、理事は私達が行った時、もう私のOSSのIDカードまで用意してくれてたんです。だから、もう承知してくれてるとばかり思ったのだけど。」
「それはそれよ、さおり。」
リンダも自分のシートにつく。
「理性では分かってるんだが、感情がついてかないってやつだ。半分祝福、半分やきもち、だな。しかし、あの温厚な理事がねえ。まあ、父親ってのは、どこでも同じだろうがな。」
キャプテンがいやに分かったような事を言い出した。
「ソウソウ。 タシカ サオリガ キュウニ イナクナッタトカデ ダグガ リジニ チョウサヲ イライシテキタトキナンテ シバラクハ ゴキゲンガ スッゴク ワルクテ ダレモ チカヅケナカッタンデスヨ。 シゴトノトキハ トモカク フダンデハ トテモ オンコウナ ヒトナノニ デス。」
「そんな事があったのか、ダグ?」
ゴードンが、ダグを見ながら、からかうように言った。キャプテンもリンダもそして私も一斉にダグを見た。
(そんな事あったなんて知らなかった。)
ダグはシートをはねとばすように立ち上がるとアルに近づき、わざと静かに言った。
「どうやら一度その頭の中を入れ換えたほうがよさそうだ。特に言語中枢に関する所をな。お喋りロボット、アル。」
アルはギクッとして手を口に当てた。そして助けを求めるかのように私達を見回した。
「ワタシハ ナニモ イイマセン。 シリマセン。」
みんなどっと笑った。
「それで二度とさおりが何処かへ行かないように早速籍を入れた訳だな、ダグ。」
ゴードンがからかうように一段とにやにやして言った。
「OSS正規のメンバーにまでしてしまって。」
リンダもそれに乗る。
「ソレモ アルゴ センヨウノ、 ジャナクテ ダグ セン・・」
アルはそこまで言ってダグが睨んでいるのに気付き、また慌てて口を押さえた。
私は笑いをこらえきれなくなって吹き出してしまった。
「そうそう、かわいい子猫ちゃんが逃げ出さないようにってナ。」
ついにキャプテンまでからかいだした。ちょっとのりすぎのような気もしてきた私だった。
「勝手に言ってろ!」
そう言うとダグはまた乱暴にシートに座り、背を向けた。どうやら相当おかんむりのようだ。
「まあ、そう怒るな。ちょっと悪ふざけが過ぎただけだ。まさか俺とリンダより先に一緒になるとは思ってもみなかったからな。俺としてはあんまり面白くなくって、つい、な。」
キャプテンのその一言で急にみんなの視線がダグからキャプテンに向けられた。
「アラン!」
いつも冷静なリンダの顔が赤くなってきた。
「とと、余計なことしゃべっちまったな。」
慌てて口を噤むキャプテン。
「ハン、それで父親がどうのこうのと知ってるような事を言ってたわけか。大方OKしてもらえなかったんだろ?」
ダグが振り返ってここぞとばかり、からかわれたお返しをし始めた。キャプテンは憮然とした顔をしている。どうやら図星だったらしい。
「リンダ、、、?」
私はリンダを見た。
「え、ええ。一応認めてはくれたんだけど、、、。」
気丈なリンダが少し恥ずかしそう視線を逸らした。
「トイウコトハ、コンカイノ ニンムハ ナニガナンデモ ソウキカイケツシナクテハ ナリマセンネ。」
全員アルの意図するところが分からずアルを見つめた。みんなが理解していないとみる
と、アルはこう付け加えた、
「ニンム カンリョウゴ ダブル ケッコンシキ デスネ!」
   


---The End---

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