星々の軌跡


その24・パズル最後のピース




マイコン2、その基地の一角、ニーナの目の前には長い髪を振り乱し、ぼろぼろの格好をしてわけの分からない 事を呟いている男がいた。彼の片目は白く濁っている。
これが、帝国きっての勇士の姿なのかと思うとニーナは、いたたまれない気持ちだった。

「隊長、タルゴン隊長、しっかりして下さい!」
ニーナはNSBを注射するとその男の肩をつかんで、思いっきり揺すった。
しばらくして、注射が効いてきたのか男の表情が変化してきた。
時間が経つにつれ彼の顔つきはしっかりしてきた。
そして、男のみすぼらしい姿の下には、鋼のような意志が潜んでいたことが分かった。

「どうして私を助けたんだ?」
男のその確固たる意志を表すような目は、ニーナを捕らえて離さなかった。
「何か理由があるはずだ。」
「公妃様に頼まれたのです。あなたはタルゴン隊長ですね?」
「あなたが公妃に使わされた者なら、私のコードネームを知っているはずです。それを 言って下さい。」
「フェレットでしょ?」
ニーナのその答を聞いて、タルゴンは初めて警戒を解いた。
「そのとおりです。」
「教えて下さい、何があったんですか?」
タルゴンは、1つ1つ思い出すように話し始めた。
「初めはすべて順調だった。闇でサンレーサーを手に入れ、顔を変え、名前も変えた。そして、調査を開始した。ガットの一味 がマンチーの領域を襲撃するという情報を手に入れ、ブラザーフッドに潜入した。そこ で女司祭、ビラニーがマンチー退治に高額の賞金を出した事を知った。」
「なんで、ビラニーが賞金なんかかけなくちゃいけないんですか?」
「マンチーとの戦争を始めようとしていたんだ。だが、黒幕は他にいると思った私は、 調査を続行した。それがパズルの最後のピースだった。ビラニーを影で操り、実際の命 令を下している奴。・・・そして俺はとうとう、そいつを突き止めた。『コス』だ! ヒアスラ皇帝は高齢過ぎて戦闘の指揮は取れない、とすると、当然、コスしかいない。 そして、マンチーを撃退すれば、待っているのは、喉から手が出るほど奴が欲しがって いる『王座』なのだ。たとえ、ファーアームを破壊し尽くしても、いや、奴はファーア ームなど破壊し尽くされればいいと思っているんだ。・・・ううっ!」
NSBの効き目が切れてきたのか、苦痛の表情がタルゴンの顔に現れてきた。
彼は、必死で 正気を保とうと、もがく。
「どうすればいいんですか?」
ニーナも必死だった。
「ガットだ!スカーレット・ブラザーフッドのリーダー・・・奴に会うんだ。襲撃を 止めさせろ!手・・・遅れ・・・に・・・なる・・前に・・・ううっ・・・。」
「隊長っ!!」
ニーナはタルゴンの手を取ると、必死になって呼びかけた。
「はーっ・・はーっ・・」
苦しそうに息をすると、絞り出すように続けた。
「ビラニーが・・やったんだ・・彼女は私の正体・・・をつきとめて・・ああ〜!」
必死の抵抗も虚しく、タルゴンはまたしても錯乱状態に戻ってしまった。
必死の思いで肩を揺するニーナの手を振りほどくと、のたくるように して逃げてしまった。
「隊長っ!」
追いついたニーナの前には、先ほどまでのタルゴンはもういなかった。いくら 呼びかけても揺すっても全く反応を示さない。
「やつらは見る・・」
ニーナが手を放すとタルゴンは、にたにたと笑い小さく呟いた。
「いつでも見ているんだ・・・・目・・・奴等は太陽の後ろに隠れて見てるんだ。 ハハハハハ・・・・」
その鋼の意志を表していた彼の目は、もはや視点が定まらず、ニーナ をも捕らえていなかった。
彼は、ふらふらと踊りながら去って行った。


 やりきれない気持ちを抑え、ニーナは、デネブプライムに来ていた。公妃に報告する 為だ。が、ここでも彼女を落胆させるような事件が起きていた。
公妃がブラックハンドの暗殺者にもう少しで暗殺されそうになり、その事件をきっかけ に公妃自信が判断して、本国に帰ったという事だった。

「とにかく、皇帝をブラックハンドの一味から守るには、同じようにテレパシーが使え る公妃様がそばにいて、精神バリアをはってないと危険なんだ。最も奴等のは陰の力、 公妃様のは陽の力だがな。」
たった1人公妃の住居に残っていたベンガーは、ニーナの 姿を見つけるや否や、待ちかねていたように話しかけてきた。
「じゃ、じゃあもう公妃様はファーアームへはお帰りにならないんでしょうか?」
落胆を隠せないニーナは不安だった。
ベンガーは大きな手でニーナの手を握りしめた。
「ここを発たれる前に公妃様は、あなたに伝えてくれとおっしゃった。『あなたを信じている。あなたこそ、ファーアームの 英雄だ!』と。」
「そ・・そんな・・・・」
ニーナはベンガーの手を振りほどくと、呆然として歩き始めた。
「公妃様だけが、支えだったのに。最後の詰めまでくれば、きっと援助してもらえ ると思ったのに・・・。」


(またしても1人でやらなくてはならない・・)
そう思うと、どこかへ逃げ出したくなったニーナだった。




<<TO BE CONTINUED>>

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