★ −[3]宇宙大学− ★
宇宙大学・・・それは、スターギルドが腕の立つスターパイロット養成の為に創立したスターパイロット訓練学校がベースとなり、現在では、ギルドに加えて宇宙連邦も出資しているパイロットのみでなく様々な部門のスペシャリスト養成機関となっていた。 その規模は、住居区域と大学から成り立ち、そこで知識を得、技術を学ぼうと、宇宙各地から志願者が集ってくる1つの惑星にまで膨れ上がっていた。 もちろん、そうなった今でも、彼らの多くは、ギルドメンバーとなることを夢みて集まってくるのである。が、そうでなくとも、宇宙大学へ入り、卒業できれば、エリート士官として宇宙連邦軍への就職の道は決まっているようなものだった。 が、簡単に入れるものでも、そして、卒業できるものでもない。特にスターパイロットコースは、創立当初の意義を持続し、優秀なギルドメンバー候補育成の為のものであった。 そのコースを受講できるということでさえ、スターパイロットを目指す者たちの憧れであり、また、羨望の的でもあった。少数精鋭、1クラス10名編成の3年コース。が、入るのもまた出るのも、他のコースより一段と厳しく困難であった。 もっとも、最低1年でも受けていれば、民間のみならず軍からの声はかかる。それほどのものなのである。が・・・卒業できたからといってギルドメンバーになれるかというと、必ずしも保証はされていない。『スターホーク』の名を与えられる真のギルドメンバーには。 「CC(宇宙大学)、4時方向にレーダーにて確認。」 「よし。周回軌道に入ったら、ギルド本部からの連絡を待て。本部から指定されたポートナンバーへ入港する。」 「はい。」 ユイは16才になっていた。 無我夢中で覚えた仕事、そして、時間を見てはライブラリーで知識をつけ、ギルドメンバーとしてのJJの任務を曲がりなりにも経験してきたユイは、年齢以上の知識と腕をもつようになっていた。 生まれ持って出た才能もあるだろうが、ユイはどこからどう見ても一人前のパイロットとして通用すると思われた。 つまりそれまでの自主的勉学と経験で、ギルドメンバーに推しても大丈夫と言えるほどの腕をつけていた。 が、ここへきてJJは、考えていた。パイロットとしては十分だが、人間としてはどうなのだ。スターシップでの生活は、普通の生活とはほど遠いものである。命をかけた戦闘や救助(時にはそれほどのこともないが、)、そして、何事もなければ、単調な航海。JJは、任務先の惑星などに下り、結構楽しんでいるのだが、ユイは全く下船しなかった。 人としての経験が必要だと感じたJJは、学校へ行くことを薦めたのである。もちろんユイはその必要はないと反論したのだが、独り立ちするためにギルドのスターパイロット養成学校へ、といわれてようやく頷いたのである。 といっても、何も養成学校を卒業しなくとも、実際に腕と知識があり、ギルドメンバー2人からの推薦と共に審議会へ申請すれば、ほぼ確実にメンバーにはなれるのだが・・・ユイの場合、若すぎることと、そして、笑うことも、いや、全ての感情を忘れさってしまったようなユイに、人間としての心を取り戻させてやりたい、そう思ったからだった。 とはいっても、ギルドメンバー養成所は特別すぎることも確かである。JJの考えている事には当てはまらないとも思われれるが、普通の学校ではユイが承知するはずはなかった。 考えに考えたあげくJJは、決断したのである。 そして、JJの予想したとおり入試は余裕で合格した。あとの面接は、JJの顔がある。通常学校関係者の面接を受けるのだが、JJの推薦があり、ギルドメンバーになることを前提としていることから、ギルド本部の長老のそれを受けることとなっていた。 「我々、スターギルド長老議会は、ユイ・スタンバーンを仮ギルドメンバーとして認めよう。」 「仮?・・・い、いや、推薦者2人という条件を確保してきていないんだ。そこまで認めてくれなくとも?」 「いや・・・ユイが地上に降りるためには、それが必要なはずだ。絶対不可侵であるギルドメンバーという身分保障がな。」 『仮』ではあっても、ギルドメンバーということはそうなのだった。 どの国家にも惑星にも、そして、現在3つの宇宙連邦が肩をならべているここで、例えなにがあろうと、中立という立場は完璧なまでに保証される。例えどこかで犯罪者であろうとも、ギルドの意に添う人物として認められ、メンバーというIDを手にすることによって、それは保証された。 もちろん、その身分を悪用、あるいは、ギルドの名を貶める行為を働いた場合は、メンバー総力による制裁が科されることになる。つまりは、死である。 「それは?」 「詳しい事は、お主にさえ話しておらぬだろうな?」 「ああ・・・聞く必要もないしな。よほどの事情があるとは思ってるが。」 「ふむ。・・・ともかくそういうわけだ。ユイ・スタンバーンは、本日仮ギルドメンバーとして登録された。メンバーとしての心得は本人自ら了承し、誓約もたてた。」 「グッサビナ長老・・・・」 顔見知りのその長老の顔を、JJは、唖然として見つめていた。徹底的すぎる処置と、その手続きが早すぎるような感じを受けていた。 「ま、いいか。オレにはそこまで関係ないしな。」 このけろっとしたところがJJのJJたる所以でもあった。戦闘の腕とそして、豪快な性格と・・・女好きという噂と共に全宇宙で有名なのである。 もちろん、ユイが少女だということには気づいていなかった。それは出会ったときの印象がそうさせていたとも言えた。どこからみても少年に見えたユイから、JJは一度も疑ったことはなかった。 とはいえ、一応、服装とネックリングに見せかけたボイスチェンジャーでごまかしていた。もちろんそれはユイが作ったものである。 何があっても隠し通そうと思っていたが、スターギルドメンバーとしての審査の前には、さすがにそれは通らなかった。 メンバー情報は長老クラス以外にさえ知らされることも、調べられることもないこともあり、ユイは、自分のこと、そして、これまでのことを正直に話していた。 「じゃーな、頑張れよ!卒業すれば、一人前のスターパイロットだ。しかもギルドメンバーだからな。オレと対等っていうやつだ。」 宙港のゲートで、ポン!とユイの頭の上にその大きな手を乗せ、JJは笑った。 「が、その前に少しは楽しむことも覚えるんだな。オレ・・・とまでは言わんが・・・まー、なんといってもパイロット候補生はもてるからなー・・・女の方が放っておかないだろ?・・・・といっても・・お前はもう少し身体を作るべきか?」 わっはっは!と陽気に笑い、JJは続ける。 「いくらパイロット候補生でも、もう少し男らしくないとやっぱり相手にされんだろうな。」 「オ、オレは・・・」 「いいってことよ!お前はこれからが成長期だ!心配いらねーって!」 バン!と痛いほど勢いよくユイの背中を叩くと、JJは、ゲートに向かって歩き始めた。 「卒業祝いは、とっておきの穴場に連れてってやるからな。楽しみにしとけ。」 「そういえば、あの噂、聞いたか?」 「噂って?」 「今度の新入生にギルドからの推薦生がいるってことだよ?」 「あ・・ああ、そのことか。」 スターパイロット養成所、上級生であるローマンとガナンが大学内のカフェテリアで休憩しながら話していた。 「ギルドからの推薦生だなんて、学校始まって以来だろ?」 「ああ、・・・らしいな。」 「そこまで腕があるんなら、今更ここへ入れなくっても、さっさとギルドに入れちゃえばいいのにな?」 「ああ。」 ローマン・マッコーウェル、上級生であり、成績も人望もトップ。間違いなく彼ならギルドメンバーになれるという噂があるほどの人物だった。 養成所であるにもかかわらず、ギルドメンバーになった卒業生は創立以来ほんのひとにぎり。実際に宇宙で経験を積んだパイロットがメンバーの推薦を受けて加わる方が多いのである。 そして、ここ10年、一人もそこからメンバーは出ていなかった。 そのことからも、ローマンには、内外から期待がかかっていた。 が、そんなときに、ギルドからの推薦生・・・それは寝耳に水、青天の霹靂、よもやそんなことがあるとは、誰も思っていなかったことなのである。 当然、興味はその推薦生とやらに集中する。入学が決まっている同期生だけでなく、在籍生、そして指導員でさえも色めき立っていた。 「紹介しよう。今日からここの一員となった10名だ。」 一般の大学のように入学式があるわけでもなかった。全寮制のそこでは、あるとすれば先輩後輩が一同に顔を合わせる寮の食堂での食事後のミーティングタイムである。 舎監であり指導員であるライ・イルジカにより、新入生は在校生に紹介された。 「そして、君たちの上級生だ。君たちが受けるレッスンはそれぞれ各人の能力に合わせたカリキュラムに添って受けてもらう。同期生といえども一緒とは限らない。また、上級生と一緒の授業もある。が、同じパイロットを目指すんだ。分からないことがあれば、遠慮なく先輩やオレたち指導員に聞け。そして、情報を得ろ!3ヶ月に一度は、進級テストがある。昨日まで上級生だった奴が今日からは同級生ということも、そして、その逆もありうる。努力した分は必ず報われる。がんばってくれ!」 「はいっ!」 「その気になれば、3年を1年に縮めることも可能だ。・・・未だかつていないが、2年に縮めた奴なら1人いるからな。」 新入生にとっての第一日目。荷物を持ったままの状態である。 そこで自分の部屋はどこか、そして、学校内の事を知っていくのである。聞かない限り誰も何も教えてくれない。大学生活の第一歩はそこから始まる。 その日は、一日フリータイム。同期生、そして、先輩や指導員たちとのコミュニケーションを図る日である。 「おい、どいつがギルド推薦生なんだ?」 「さあ?」 が、その日は例年より新入生の溶けこみは遅かった。 そう、上級生たちもそして、新入生も、それが気がかりだった。彼らの中で、そして、自分たちの中でいったい誰がその該当者なのか? ここで必至になって学んでも手に入れられるかどうかわからないギルドへの道の絶対といえる保証をすでに手にしている人物とは? 「あいつじゃないことは確かだよな?」 「ああ。どっちかというとここに入れたこと事態、間違いのような気がするな。」 「だけどわからないぞ?外見じゃ判断できないからな?」 「そうは言っても・・・みえないって、ぜんぜん!」 平均年齢20才の新入生の中でユイはまだ16才。その上小柄な彼女がそうだと思う生徒は一人もいなかった。もちろん指導員も今はまだ教えられていない。 誰しもユイはまっさきに該当者から外して考えていた。 「ここから私の道は始まる。 生と死・・・ようやく得ることのできた私の場所。」 そこだけがユイにとって生の場所、そう、生と死の場所である。 ユイは自分自身に今一度そう言い聞かせていた。どこまで続いているのかわからない道(命)だが、ともかく進んでいこうと。真っ直ぐ前を見つめ行けるところまで。 |