--会話だけの謎なおはなしたち・その20--

『三つ子が行く?フィーとフィアとそしてミルフィー・その2』
  

フィー
(ミルフィー兄・18才)

フィア
(ミルフィア・18才)

ミルフィー(少女)
(金銀ミルフィー・19才)
    

 
【02/05/23】

「ちぇっ・・・・・」
仲良さそうに肩を並べて前を歩くフィアとミルフィーの後ろ姿を見ながらフィーは呟いていた。
「どうせオレは男だもんなー。」
女同士ならではの会話、いくら双子とは言え、心の結びつきが異常なくらい強い(笑)と感じられるフィーとフィアでも、その会話まで入っていくことはできない。
そして、ミルフィーは、フィーでもあるがフィアでもある。彼女の気持ちは分かりすぎるくらい分かっているのである。(フィアほど天然的な考えはしないものの)
話もそして気もあうのは当然中の当然。

「私・・・思わず叩いてしまったんだけど・・・男の人を叩いたのなんて・・ううん、人を叩いてしまったのなんてはじめてだから・・・・・」
「いいんじゃない、きっといい薬になったわよ。」
それはゴーガナスの王城でフィアがカルロスを叩いてしまったことである。
「そ、そうかしら?」
「そう。誰でも自分になびくと思ってるんだから。」
「そうなの?」
「そうなの。剣の腕は認めるけどねー・・・・それがなければ・・」
「なければ?」
「あ・・ううん、なんでも。あ!人家だわ!」

前方に集落らしきものが見えてきていた。
「ね?なければって?」
「なんでもないわよ。」
「なんでもないことないでしょ?」
「ホントに何でもないのっ!」
純粋に疑問を投げかけるフィアに、ミルフィーは多少頬を染めながら焦っていた。別にカルロスが好きというわけでもないが、それがなければ、もう少し気楽につきあってもいいとは感じていたかもしれない、とミルフィーは笑顔でごまかしながら思っていた。


その集落らしいところに、人家が数軒。が人気がまったくない。3人は用心しながら集落を歩き回っていた。
「おや、新顔じゃな?」
不意に1つの建物の影から真っ白な長いひげの老人が現れ、フィーは、フィアとミルフィーを自分の後ろへ下がらせる。
「あ、ああ・・・・気が付いたら森にいたんだ。ここはどこなんだ?」
警戒しながら一応訊ねたフィーに、老人はふぉっふぉっふぉっ!と笑って答える。
「ここがどこか・・・・さ〜て、言ってしまってよいものかどうか?」
「なんだよ、じーさん、それ?」
不服そうにフィーが睨む。
「おお・・・恐い恐い・・・・・短気は損気。わしは怪しいものじゃないぞ?」
そして、フィーの影から後ろにいるフィアとミルフィーに気付く。
「なんと、3つ子とは珍しいもんじゃのぉ〜。」
それぞれの顔を見比べ、老人は目を丸くする。
「で、あんたが筆頭の兄さんかの?」
それがどうした?とフィーは相変わらず警戒したまま老人を睨み続ける。


「船がでるぞ〜〜〜」
不意に響いたその声に、老人もそして3人も声がした方に視線を向ける。
「船?川か・・・海でもあるのか?」
「ああ、川があるんじゃが・・・・・」
「が?」
「ほれ、この横道を真っ直ぐに行ったところじゃよ。」
「この道?」
老人の指す道をじっと見つめる。その道の先は霧がかかって見えない。
「川が見えるかの?」
「い、いや・・・・この霧じゃ、見えないだろ?」
フィーのその答えに頷きながら、老人は付け加えた。
「やはりの〜。それじゃ、どの家の扉でもよいから開けて入りなされ。」
「どの家でも?・・・だってさっき2,3軒開けてみたけど、中は真っ暗だったぜ?」
「中へ入ってドアを閉めなくてはダメなんじゃよ。」
「どういう意味だよ、それ?」
「それぞれの家は、いろんな所と繋がっておる。心残りがあっては、道は見えぬし、この先へは行けぬ。川は渡れぬ。」
「ちょっと待って、もう少し分かるように話してくれない?」
フィーの横からずいっとミルフィーが出て老人に話しかける。その表情はフィーと同じく気を許してはいない。
「ふぉっふぉっふぉ、そう恐い顔して睨みなさんな、べっぴんさんが台無しじゃぞ?」

一癖も二癖もありそうなその不思議な老人は、それ以上何も話そうとせず、3人の前から立ち去っていった。

「どうする?」
「どうするって・・・・・他に道はないみたいだし・・・。」
その集落から出ようとし、森への道を歩いてみたが、どうしても集落の中央に戻ってしまう。
霧で包まれた川への道も同じだった。

「バラバラにならない方がいいよな?」
「そうね。」
3人は思い切って集落の中の1つの家のドアを開けて中へ入った。


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「どうだ、レイム?」
龍神の地、そこにミルフィアをかばうように抱きしめているミルフィーとその腕に包まれたミルフィアがレイミアスとレオンの目の前に横たわっていた。
いつも穏やかなレイミアスの表情に、めずらしくその穏やかさも爽やかさもなく、悲痛で青ざめ、重い緊張感が漂っていた。
それはレイミアスにそう聞いたレオンも同じだった。
「怪我は治したんだろ?」
「はい・・でも・・・・目覚めないんです・・・ミルフィーもミルフィアも・・いくら呼びかけても・・。」
傷は全て治した。そして普通なら目覚めるはずのその2人に、覚醒の薬も術も効かなかった。
「そんな・・じゃ、ミルフィーは?フィアは?」
じっとレイミアスが治療する様子を見ていたミリアが真っ青になって叫ぶ。
2人の身体はまだ温かかった。が、そこに意識はなく、心臓もその鼓動を停止していた。
「ミルフィー!!なにちんたらしてんだよっ?!さっさと目を覚ましやがれっ!」
ぐいっとミルフィーの胸ぐらをつかんで叫んだレオンのその手を、レイミアスはそっと押さえ、悲しげに首を振る。
「だけど・・・」
力の抜けたレオンの手から、ミルフィーの身体を受け取り、ミリアが今一度そっとミルフィアの傍に横たわらせる。
「・・・・どうすりゃいいんだよ?!・・どうすりゃ・・・・・」
レオンの声が悲しみに沈む。

例えようもないほどの悲しみとやりきれなさに包まれ、3人は目覚めようとしないミルフィーとミルフィアを見つめていた。


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「ミルフィー!おい!こんなときに冗談よせよな?!」
銀龍の地、シゼリア公国の隣国カッサノヴァの山中。ラードは倒れたミルフィーを抱き上げて叫び続けていた。
「傷はセイタが治してくれたぞ?いい加減に目を開けろよっ!いつまで死んだ振りしてんだよっ?!」
「ラード・・・・」
僧魔法を使い切り、その傍に座り込んでいるセイタが力のない声を出す。彼女もまたミルフィーのその様子に青ざめていた。

ひっきりなしに襲いかかってくる火精との戦いが終わったところだった。最後にミルフィーが放った風術、その勢いよく逆巻く竜巻がその働きを終え、消えさったそこに見つけたミルフィーの息はすでになかった。
慌てて全身の傷は治したものの、呼びかけに応えはない。
「襲っちまうぞ?!」
が、その叫びにも反応はなにもない。勿論その言葉はラードの冗談である。不安をぬぐい去りたいという心が叫ばせた冗談。

「金騎士が死ぬわけないだろ?いや、死んでいいわけないだろ?いくらオレがからかわれ慣れしてるからって、いい加減にしろよな!・・・・金騎士がいなくなったら、この世界はどうなるんだよっ?!」
それはあってはならない事だった。眠れる神龍を目覚めさせ、この世界を救う為に。
「・・・ミルフィーーーーー!」
ぐったりしたミルフィーを抱きかかえたラードの悲鳴とも言える必死の叫びが、山中にこだましていた。



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出会うはずのない3人が出会ったところ、そこはあの世とこの世を繋ぐ空間、亡者が一度は通るという世界。川を渡れば死者の国。
果たして無事元の世界へ戻れるのか・・それとも、川を渡ってしまうのか・・・。

     [参:青空に乾杯♪]

 
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