-第一章・迷宮の孤独な探索者-
-その1・死と宝の迷宮-


 

 「リュフォンヌ、もう行くのか?怪我が治ったばかりだろ?」
「ええ、そうよ。」
「10Fまで降りたんだって?そんな命知らずな事するからだぞ?命からがら逃げてきたっていうじゃないか?そこまで行かなくったって、お宝は結構あんだからさ?どうだ、今日はオレらと一緒に5F辺りまで?」
「ありがと、でも、私・・・」
「一緒に行った奴ら、みんなおだぶつなんだろ?」
「え、ええ・・・・。」
「仲間の弔いってんなら、無理する必要はないさ。死んじまった奴らだってそんな事ぁ望んじゃいねーよ。下へ行く者はみ〜〜んなそれ覚悟で行くんだからな?だからさー、1,2Fじゃろくな宝はなくても5Fまで行きゃー、かなりのものは手に入るんだ。1回潜りゃ1週間は遊んで暮らせるぜ?」
「悪いけど、私は遊んで暮らすお金欲しさに潜るんじゃないの。」
「そんな固いこと言ってるとそのうち誰も相手にしてくれなくなるぞ?だいたい、穴になんか潜らなくったって、あんたほどの美人なら、ちょいと笑いかけりゃ、貢いでくれる男などわんさといるぞ?」

魔火山と呼ばれる山の麓にある小さな町。そこの酒場での光景。
百戦錬磨と思えるほどの傷をあちこちに負った体躯のいい男が、一人の魔法使いらしい女を口説こうとしていた。
真っ黒なローブと対照的に色白のその女は、かなりの美人の部類に入ると思えた。その男だけでなく、酒場にいる男たち全員の視線が注がれているといっても間違いではなかった。
「そういうのは好きじゃないって言ったでしょ?私が欲してるのは、貢いでくれる男じゃなくて、下へ一緒に潜ってくれる仲間よ。腕のたつね?」
きっときつい視線放った彼女は、男に同行する気があるのかどうか、その視線で問う。
「あ、いや・・・・オ、オレは・・付き合っても・・・いいんだが、あ、相棒が・・・」
「そう。じゃ。」
落胆の表情を見せるわけでもなく、リュフォンヌは酒場を後にした。


「いつもの事ね・・・・」
地下20階とも30階とも、いや、無限に続いているとも、地獄の底まで続いていると言われているその地下迷宮。
尽きることがないような山のような宝目当てに、その小さな町には世界各地からありとあらゆる種族、そして、職種の探索者たちで賑わっていた。
その喧騒さで満ちている通りを足早に抜け、リュフォンヌは町の後ろにそびえ立つ火の山へと向かった。


魔の迷宮への入口はその山の中腹付近にあった。
ぼこぼこと沸き立つマグマの見えるそこには、いつの間にかできたのか、お助け小屋と呼ばれるよばれるようになったテントがあった。
そこで多少の食材や武器、薬類の調達ができた。そして、これがお助け小屋と呼ばれるようになった由来なのだが、そこには転移の魔法陣があった。
そう、最悪の場合、地下迷宮から瞬時にしてそこへ転移できるのである。

テントの持ち主は、いわゆる闇屋と呼ばれる職業を糧としている。その為、足下を見る。
強い者にはそれなりに対応するが、弱者と見ると、膨大な価格をふっかけてくることもあった。勿論、転移の魔法陣の利用代金もそうである。しかも先払い。いわゆる保険のようなものだった。しかも1回こっきりなのである。保険がほしければ、潜る度に支払わなくてはならない。

弱みをみせなければ、結構重宝する店であると言えた。
先回の探索で、仲間全滅という最悪の事態に陥りながらも、リュフォンヌが助かったのは、最後の頼みの綱であるその保険のおかげだった。
ただ・・・その魔法が発動し、転移するまでに、不運にも同行した仲間たち全員、魔物から致命的な攻撃を受けてしまっただけなのである。”だけ”と言うには厳しすぎる事実だが、それもまたありなのである。
女性であるリュフォンヌをかばってくれたことが幸いしていたのも事実だった。


「シド・・ゴーヤ・・・レイ・・・」
リュフォンヌは、その時のことを思い出しながら、地下への移動箱に乗っていた。
(今日は10Fまで直行できるかしら?)
自動移動箱のドア(ドアと呼べれるのなら)は一応鉄製の柵でできてはいるが、柵ゆえに、各階においてその傍にいる魔物や探索者は丸見えなのである。
そういうこともあり、10Fまで降りられるそれで、それまでに直通で行ったことはなかった。いつもその途中で助けを求める人の姿と出会い、途中下車してしまうのである。
先回の探索で10Fまでつきあってくれた探索者たちもそうだった。
力を貸したリュフォンヌに、そのお礼としてつきあってくれたのだが・・・結果は最悪だった。

(決して腕がなかったわけじゃないわ。3人とも、かなりの実力の持ち主だった。)
一端は断ったが、しばらく探索してみて彼らの腕ならもしかして行けるかもしれないと判断して、10Fまで降りたのだが・・・。


(今回は・・・・どこまでいけるかしら?・・ううん・・・生きて帰れるのかしら?)
ふとそんな弱気がリュフォンヌの心を過ぎった。

-Labyrinth-INDEX- -Next-