浜辺の見張り小屋から、一人の少年が走り出てくるのと、ほぼ同時に、そのわき上がった海から真っ白な生物が姿を現した。
「こんばんは。元気だった?」
少年の問いに、白い生物はやさしく微笑んだ瞳で答える。
「ねー、今日もお話してよ。ここがずっとずっと昔、陸地で、それも山に囲まれた奥地だったった頃のお話。」
にっこりと今一度瞳で答え、白獣は、周囲に森の光景を浮かび上がらせる。
その昔、仲間と共に駆け回ったなつかしい光景を。
そして、しばし、少年は太古の世界に紛れ込む。それは不思議な感覚。体験しているようでしていない臨場感。そして、頭にやさしく響く白獣の言葉。
その昔、少年がもっとずっと幼かった頃、嵐の翌日、浜辺に打ち上げられていた白い小さな魚を助けて海へ帰したことが、この不思議な交流の始まりだった。
白獣は、語る。目で、そして、心で、少年の目に、そして、心に。
そこには、確かな心の結びつきがあった。
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