オリジナル絵本 
  -CGとショートショート-
 
 神人、降りる・・ 
  
 


 静まり返った夜半、月さえ闇のベールの中に姿を隠し、きらめく星々も眠る時、その闇のベールを裂いてゆっくりと光が滲み出、広がっていく。

そして、その光はゆっくりと地上へと向かう。


 「ここが地上・・・人の住むところ・・・。」
神の国の住人、地上にいる人間より神に近い者、神人と呼ばれる女性が一人、その光の中に立っていた。
もしも、人が見たのなら、女神が天界から降りてきたと思うに違いないその光景。

 「あの人は・・どこに?」
雲間から一度だけ垣間見た男性に心を奪われ、神人としての仕事を忘れた彼女。
今、神の御手により、地上へ降ろされる。

それが己の責を忘れたことに対する罰なのか、それともそれほどの想いに苦しむ彼女への慈悲なのか・・・真実は、彼女をそこへと降ろした神のみが知る。


再び周りは闇に覆われる。
「ありがとうございます、神様。」

彼女は、光が消えていった天を仰ぎ、小さく呟くと、ゆっくりと歩き始めた。
「痛・・・これが・・・地上・・大地・・・・。」
そこは、土の上。小さな小さな小石。雲の上しか歩いたことのない彼女の素足に、小さく痛みが走り、彼女は生まれて始めて痛みというものを知る。
それは、天界に居続ければ知ることはなかったもの。

それでも彼女は、その道を選び、そして、神はそれを許した。

「わたし・・・・・」
まだ人としての道を歩き始めたばかり、後悔などしない・・そう言い聞かせつつ、彼女は、それでも生まれた始めて知ったその痛みに、そこへ座り込む。

「もし、どうされました?このような夜半・・しかも女性一人で?」
「え?」
足の裏を見ていた彼女は、不意にかけられた声に顔をあげる。
「あ、あなた・・・?」
「私をご存じですか?」


そこは、聖なる地。人の祖、最初の男女が降り立ったと言われているところ。
聖なる地であり、いつしか人々から忘れ去られた地でもあった。

思いもかけず早くも実現したその出会いを純粋に喜び、神に感謝する彼女。
その彼女を待つのは、茨の道か幸せの道か。それもまた神のみぞ知る。
 


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